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なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

JURASSIC JADE『Nyx filia』

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メタルを超えた東京拠点の“リアル・エクストリーム・バンド”が、
『id -イド-』から2年4ヶ月ぶりにリリースする最新作。
正確には“Nýx filia”と表記する言葉で“ニュクス・フィリア”と読めるタイトルの、
約42分10曲入りのフル・アルバムである。

“アンケート形式のインタヴュー”を行なったうえで、
ライナーを担当させてもらいました。
というわけで例によってここでは内容があまりダブらないように書くが、
ライナーで使わなかった“インタヴュー発言のアウトテイク”も引用しながら紹介する。


前作リリース前のインタヴューの際にNOB(g)は、
「一つ心に決めていたことは、
これが我々(少なくともHIZUMIとNOBにとって)の最後のアルバムだろうということです」
と言っていた。
でも、それは当時のNOBの“勇み足”と“フライング”の“独り言”であったことをまず記しておく。
それぐらい『id -イド-』は精魂尽くしたアルバムだったわけだが、
『Nyx filia』はさらに精と魂が込められている。

「メンバーチェンジを経ずにフルアルバムを2作連続でリリースしたのは
(ベスト盤等を除くと)今回が初めてではないかと思います」というWATANABE(b)の言葉どおりに、
バンドの活動が加速している。
リリースのインターヴァルの短さに驚くほかない。
メンバーの半数が自分より年上で守りに入らずに進化と深化を絶やさず、
コンスタントに創作とライヴを続けていることに僕もインスパイアされるばかりだ。
むろん今回も濃厚極まりない。

ライナーを読む人はCDで曲を聴けるからライナーではあまり音楽ついては書かなかったが、
JURASSIC JADE以外の何ものでもない“デリケイト”なサウンドに磨きを掛けている。
SLAYER meets KORN with KING CRIMSON”と言ったら安直だが、
そこに日本のDOOMのグルーヴが入り込んだみたいでもある。
昔NOBに「えっ…!?」と思うほど伝説的な70年代のプログレのライヴを観に行った話を聞いたし、
HIZUMIがNOBを「昔からいわゆる“プログレ”大好きな人だったよネ」と言っているのも
納得の楽曲だ。
もちろんスラッシーなパートも含むが、
ツー・ビートに拘束されない異形のリズムで畳みかけながら“ドライヴ”していく。
激烈パートでは身震いし、
覚醒するほどしめやかなパートの“戦慄感”には身が凍る。

メンバーみなさん人間味あふれて基本的には特別禁欲的な生活をしているわけではないと思われるし、
清廉とは言わないが、
修行僧をイメージするほどやはりストイックな音だ。
贅肉を削ぎ落し殺ぎ落し、
骨と魂だけが激しく静かに息をしているような研ぎ澄まされたサウンド。
全パートのバランスも鬼気迫る。

ヘッドフォンで聴くとアンビエントな音も含めて細かいところが聞こえてくるし、
スピーカーから聴くと中低音の迫力に驚かされる。
ベースがうねるうねるうねる。
特にスピーカーで聴くと弾力感がたまらない。
スネア、キック、シンバルも、ドラムの音は必要最小限だ。
ギターは特に身を切り命を削っておのれの奥底から音を紡ぎ出している。
耳を傾けるたびに発見がある。
聴く人の心情によってその時々で聞こえ方が違う、まさに生きている音楽だ。


ライナーでは、一筋縄ではいかない綴り方だから歌詞等に関して字数を割かせてもらった。
「できるだけ聴き手に委ねたいです。多様性、重層性、時空を超えて想像して頂けたら幸いなんです♡」
というHIZUMIの発言を踏まえたうえで、
歌詞に出てくるキーワードを基に、
インタヴューの質問に対する彼女の回答を引用しながら僕なりのヒントを書かせてもらった。
とはいえ、自分自身の解釈をしていただきたい。

HIZUMIならぬ“泉”の表現にも思えた前作からさらに深く掘り下げられ、
音と共振して意識の流れを編んでいる。
もちろん“不都合な真実”を“出刃包丁で刺す”ような“超ポリティカル”な内容でもある。
これまでの歌詞からさらに一歩も二歩も三歩も踏み込んだ日本や中国からのモチーフ、
言うまでもなく現在進行形の世界情勢、
さらにHIZUMIのある種の“ライフワーク”のアダルトチルドレンのこと、
すべてがつながっている。
様々な状況下での子供の受難、今も昔も地域問わず、普遍的にリンクすることばかりだ。
ヒガミ屋なもんで僕が普段鼻白んでしまう“NO WAR”というフレーズも、
様々な“深手”の表現を続けてきたJURASSIC JADEと“その曲”だからこそ生で響いてくる。

オフィシャル・サイト
http://www2.odn.ne.jp/jurassic-jade/
の“WORKS”の部分をクリックしてそこの本作のジャケットをさらにクリックすると
歌詞とその英訳を見ることができるから、触れてみていただきたい
(ちなみに他のアルバム等の歌詞もそこでチェックできる)。

今回ますます胸元に迫り喉元を突かんとする言葉が綴られ、
まさにハードコアな表現だが、
音やヴォーカルと共振してエクストリームにエモーショナル…いやソウルフルな表現である。

フジタタカシ(DOOM)が今回も歌録りの際にアドバイスを行なっている。
「彼の存在が、自分たちが生み出した音楽に、自信や信頼感を与えてくれます。
彼がアドバイスしてくれることがは喜びと安心なのです。」とNOBが言うフジタは、
HAYA(ds)曰く「(HIZUMIの)安定剤」でもある。

HIZUMIの声があってこそさらに生きる言葉の連射。
NOBとHAYAとWATANABEの音や、
彼らと“仲間たち”の気合ほとばしるコーラスがあってこそ生きる言葉の放射。
ヴォーカルは言わずもがな、
楽器の音のひとつひとつにも意思や歌心が宿り得ることをあらためて知る。


媚びも驕りも甘えもない。

心からグレイト。


★JURASSIC JADE『Nyx filia』(B.T.H. BHT-081)CD
歌詞も載った12ページのブックレット封入の約42分10曲入り。
3月22日(水)発売。


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FERRET NOISE『I looked down, there was a town(見下ろすと、街)』

Ferret Noise


つしまみれのベーシストとして知られる奇才、
やよいのプロジェクトによる3年ぶりのセカンド・アルバム。
彼女の一昨日の誕生日にリリースされ、邦題は『見下ろすと、街』である。
BUTTHOLE SURFERSのベーシストを2000年前後に務めたネイサン・カルフォーンが、
前作『I Looked Up, There Was a Moon』に続き2曲でギターを弾いた他は、
ヴォーカルも含めてすべてのパートを自分で“プレイ”。
もちろん作詞作曲もやよいで、録音もやよい。
ミックスとマスタリングは中村宗一郎が手掛けている。


彼女が生まれた頃のニュー・ウェイヴをアップデートさせたかようなアルバムだ。
でもKILL ROCK STARSあたりの作品と違っていい意味でロック感が薄く、
オルタナティヴ・ロック以降の米国のいわゆるインディ・ロックと違っていい感じで内向的、
でも開かれている音楽。
“インディ・トレンド”みたいなものとも関係なく我流である。

80年前後のROUGH TRADE周辺のシングルやアルバムを思い出すニュアンスだ。
RAINCOATSやGIRLS AT OUR BESTも想起するが、
完全に後追いならではの自由な作りで、
バンド形態ではないからこそと言える音と声の重ねの面白さがいっぱい。
クールかつハードボイルド、
なのに感情たくさんである。

何の楽器等を使っているのかわからないシンプルなサウンド。
打ち込みっぽいビートやシンセサイザーみたいな音も聞こえてくる。
“ベッドルーム・ポップ”と書くとお手軽なモノと思われてしまうかもしれないが、
ローファイのスタイルに陥らず、
ひとつひとつの音を、ていねいに、ていねいに愛でた、手作り感覚にあふれている。
まさにDIYミュージック、
だからたいへん生々しい。
どの曲からも“やよい自身”が聞こえてくる。
シリアスなムードでダークなユーモアも滲む。

ほぼすべて歌ものと言ってもいいが、
反復基調で意外とゴス・テイストが漂う一方でディスコちっくな曲もチラホラ。
まさに“あの時代のニュー・ウェイヴ”だ。
どの曲のソングライティングもアレンジも素敵だが、
3月生まれの魚座の自分自身の切実な思いを綴っているような「りんごは落ちる」が特に名曲。
少年ナイフの暗い曲も想起した。

高い声域が中心のヴォーカルは“様々なカラーを見せてくれる映画”みたいだ。
やさしく凛々しく艶っぽく、トーキング・スタイルもありで多彩だが、
今回もポスト・パンク直系の突き放したような感覚がたまらない。
完成度を目指すというよりはあくまでも自分らしく、
だからとてもリアルに響く。

不可思議なジャケットもピッタリだ。
またまたオススメ盤。


★FERRET NOISE『I looked down, there was a town』(MOJOR FN-002)CD
二つ折り紙ジャケット仕様の約34分9曲入り。
英訳も併載してホチキスで綴じたハンドメイド20ページ歌詞本も付いている。
https://ferretnoise.thebase.in/


AD(山崎昭典 × drowsiness)feat. 鈴木昭男、安田敦美『たゆたい(Ta Yu Ta I)』

たゆたい


京都府丹後半島在住の山崎昭典と東京のdrowsinessという
二人のギタリスト・作曲家のユニットのADがリリースしたばかり新作CD。
2001~2003年に山崎がアシスタントをしていた“サウンド・アーティスト”鈴木昭男と、
シンガーの安田敦美をフィーチャーした、
計37分弱の6曲入りである。


二人のギタリストの音はたいへんシンプルで静謐。
二人で弾いているとは思えないほどである。
いわゆるトラッドもイメージされるが、
特に後半のプレイは僕にとってミニマルな“ロック”で、
木漏れ日も目に浮かぶポジティヴな風景が広がっていく流れだ。

“Stone Flute”“Analapos”“Glass Harmonica”で全曲に参加したその鈴木の演奏は、
クレジットを確認しなければヴォーカルと錯覚するほど“歌”に聞こえる。
時に官能的なほど生々しく、
今まで耳にしたことのない音に身が引き締まる。

2曲で放つ安田の“ヴォイス”はやっぱり肉声ならではの確かな歌だ。
言葉を発しているのかどうかはわからないが、
歌詞の意味性を超えた響きで覚醒され、
ラスト・ナンバーにおける声は蠱惑的で特に魅せられる。

「祝吹 Shukusui」「潺 Seseragi」「時乃器械 Time Machine」「芽吹 Mebuki」「庭楽 Teiraku」
「紡奏士 Bōsōshi」といった曲名からもイメージが広がる。
ある意味、俗世間から離れているのかもしれないが、
自然の音・・・・いや音楽である。

マスタリングを担当したのは宇都宮泰。
多方面で活躍されている鬼才だが、
山崎のフェイスブックによれば宇都宮には“音処理やミックス指導”もしていただいたとのこと。
あたたかくも透徹した音像に目が覚めるばかりだ。
静かなプレイの時の灰野敬二に通じる研ぎ澄まされたサイケデリック・フィーリングを感じるのも、
僕だけではないだろう。

全編、まさに『たゆたい』というアルバム・タイトルそのものの空気感ながら、
揺るぎなき佳作である。


★AD(山崎昭典 × drowsiness)feat. 鈴木昭男、安田敦美『たゆたい(Ta Yu Ta I)』(HOREN MIMI-030)CD
中山晃子のアートワーク、
SWARRRMの諸作でも知られる大野雅彦(SOLMANIA)のデザインの二つ折り紙ジャケット仕様。
鈴木昭男、山崎昭典、drowsiness、中山晃子、デヴィッド・トゥープ、山田唯雄、内橋和久、畠中実、
伊東篤宏のライナーとその英訳が載った三つ折りインサートも丁寧な作りである。
帯付き。


ミュージック・マガジン 2023年4月号

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3月20日(月)発売


【特集】 傑作音楽ドキュメンタリー100
参加させてもらいました。
編集部が選んだ中から5作品を書いたのですが、
ドキュメンタリーとは言い難い映画も含まれていてスイマセン。。。


●映画評
『GOLDFISH』


●ゴッドスマック『LIGHTING UP THE SKY』に関する原稿


●アルバム・ピックアップ
The Who『With Orchestra Live At Wembley』
★Unknown Mortal Orchestra『Ⅴ』


●輸入盤紹介
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●The Cult『Under The Midnight Sun』(Black Hill BHR011CD)CD


レコード・コレクターズ 2023年4月号

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●リイシュー・アルバム・ガイド
★ザ・ウェイク『ハーモニー+シングルズ』
★ディー・クルップス
・『全速前進』
・『死亡遊戯』

AUNT HELEN
★AUNT HELEN『Hey Aunt Helen!』(Vicious Kitten VKR 012)CD

MOTORTHEAD Lemmy
MOTORHEADLEMMY『Live To Win』(CLEOPATRA CLO2185)CD


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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