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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

橋本孝之『ASIA』

橋本孝之 ASIA_jacket


2009年に大阪で結成されたデュオ・ユニットの.es(ドットエス)のメンバーである、
鬼才・橋本孝之(Takayuki Hashimoto)の新作。


2015年にあぶらだこ長谷川静男のメンバーによるkito-mizukumi rouberの正式メンバーとなり、
昨年GUNJOGACRAYONが出した『Gunjogacrayon』では
ほとんどメンバーのようにサックスを吹きまくるなど、
他のアーティストとのコラボレーションにも積極的な音楽家である。

これはハーモニカ独演盤の『SIGNAL』以来の約1年ぶりのソロ4作目だが、
今回は2014年のソロ・デビュー作『COLOURFUL』でも聴かせた橋本のメイン楽器といえる
アルト・サックス独演盤だ。
昨年10月の東京・新宿のART SPACE BAR BUENAにおけるライヴで、
26分42秒“一曲”勝負である。


能書き無し。
言い訳無し。
甘え無し。
間延びしたところもまったく無し。
一度聴いたら一生忘れない泣く子も黙るハードコアなブロウだ。

一瞬一瞬にケリをつけるかの如きストイックなほど強靭なサックスである。
すばしっこく、
時に飄々と、
泣き、鳴き、咆哮する。

ハードボイルドな橋本のヴィジュアルと共振したかのように、
クールに洗練されているようで骨太だ。
陰影に富む音色は艶っぽく、
デリケイトな歌心が豪胆に震える。

すっくとまっすぐに立って真正面を向いてサックスを吹く橋本の演奏姿が目に浮かび、
こっちの姿勢も正される切っ先鋭い響きだ。
吹くほどに研ぎ澄まされ情緒を削ぎ落しているがゆえに生まれた加速が連なり、
無音に聞こえる澱み無き静寂の時間にまた気持ちが引き締まる。

kito-mizukumi rouberのメンバーになっているだけに橋本もくだけることはある。

だが冷厳なほど“弧”を感じさせるアルバムだ。
孤独でもなく孤高でもなく孤立でもない。
“個”として向き合うことを迫られ、
“弧”を実感させる無心の真剣勝負。
おのれと対峙しているからこそ恐ろしく音が屹立している。


美術作家・韮澤アスカの作品を使ったジャケットも鮮烈だ。
今回も自身のポートレート写真を元にしたアルバム・カヴァーにするアイデアもあっただろうが、
.esの“フランチャイズ”でもあるギャラリーノマルで今春開催した彼女の展覧会リリースを見て、
橋本自身がピン!ときて決めたようである。
「(韮澤は)生と死をテーマに持った作家ですので、いろんな意味で、今回の新譜にぴったり」という、
とある関係者の発言に僕も同意する。
異色のようでジャケットを見ながら耳を傾けると、
アジアっぽい旋律を吹いているわけではないにもかかわらず『ASIA』というタイトルもしっくりくるし、
作品トータルでこれまで以上に橋本のイメージがヴィヴィッドに広がっていく。


そしてこのCDは、
レコード店のモダ~ンミュージックの店長でインディ・レーベルのPSF Recordsの主宰者だった、
生悦住英夫を追悼する作品でもある。
個人的にも生悦住が2013年に.esのCD『void』をリリースしなかったら
.esや橋本との出会いはずっと遅れていた。
身内だろうがめったにホメない生悦住が.esと橋本はいつも絶賛していた。

生悦住の他界前の録音だが。
僕には鎮魂歌に聞こえる。

と同時に橋本のサックスが、
普遍的に悼み、
普遍的に鼓舞する響きだとあらめて思わされた。


これぞグレイト。


★橋本孝之『ASIA』(Nomart Editions NOMART-113)CD


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コメント

残念ながら、まだまだです。

褒めすぎの評価は構いませんが
本当は行川さんよりずっとたくさんのライブに行かせて頂いておりましたが、仲よくしていたのに唯一引っかかるよくないライブがあり、そのことを素直にお伝えしましたところ疎遠になりました。

ほめてあげるのは良いですが
ほめてあげすぎで、少し辛口で
本音を言うとのけものにされます。

行川さんは、評論家ですから
行川さんから高い評価を受けたと
みんな喜び励まされます。

しかし、わたしのような名のない
いちファンが、辛口の感想を言っただけで、無視されたりしたから
やはり、なんでも来いみたいな開き直った強い姿勢が無いです。

褒められないといけない
優秀なアーティストはつまらない。

まだまだこれからかもしれません。

Re: 残念ながら、まだまだです。

尾崎伸行さん、書き込みありがとうございます。
そういうことがありましたか。
音楽に限らずプライベートな人間関係でもネガティヴなことを言うと大抵の場合思い切り引かれますね。それが原因で関係が絶たれるケースも少なくないです。僕もよくそういうことをしてきて、疎遠になった人がたくさんいます。
でも、とある曲の歌詞みたいに「言っちゃいな、言っちゃいな、言いたいことは言っちゃいな」でいいと思いますし、僕もその姿勢でこれからも生きていくつもりです。

ファンは褒めないといけないのか?

橋本さんの演奏は大好きで
二十回を超える回数見に行きました。
面白くない日や変な日も必ずあります。

こちらも1500円や2000円のチャージは払って真剣に一応見ていますし、打ち上げもギャラリーノマルでは毎回行ってました。

Saraさん林さんも仲良しで
大好きな方だったんですが、
そんなに、良くないライブを
話してはいけなかったのか
いまだに残念です。

Saraさんや林さんはあれからも
電話や食事でコンセンサスを図りましたが橋本さんだけは、二十回みにいこうが三十回みにいこうが、たった一回面白くなかった指摘をしただけで無視です。

アーティストとして悪い意見にも
素直に耳を傾ける、そんなアーティストであってほしかったです。

そんな身体性、姿勢のない方が
いいCDを出しても、多分ハートは
あまり良いアーティストではないんです。

橋本さんにはお若いですから
どうかそんなところを鑑みて
僕みたいな人もいると、話しをきく
姿勢を学んでいってほしいです。

何故あんなに仲良くなったのに
話しを聞いてもらえないのか?

多分、自信家なんだと思いますが
CDでわからない部分であまり良いアーティストでは残念ながら、まだ無い気持ちがしています。

営業マンみたいにCDを贈ったり
いろいろな有名アーティストと演奏していくのは凄いですが、心根、ハートの部分や、人に対する姿勢は大切にしてください。

僕以外の人も、橋本さんの姿勢をみていますよ。チカラのない人、ライターや、業界関係者や、有名アーティスト以外も、一個の魂だし、同じ感想を持つ人間です。大切にしてあげてください。

橋本さんの演奏が素晴らしいから20回以上見に行き真剣にみて仲も良かったのに、残念でなりません。

Re: ファンは褒めないといけないのか?

尾崎伸行さん、書き込みありがとうございます。
現場にいたわけではないので想像でしか言えませんが、誤解もあったのではないかと思います。自分の普段の人間関係でもそう思うことがありますので。
そんなふうにモヤモヤしたときは視野を広げるとまた新しい視点から物事が見られることが多いです。
映画も音楽もその手助けになりますね。音楽でしたらハードコア・パンクやデス・メタルもオススメです。普段馴染みがないものに触れると新しいスイッチが入るものですから。

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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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