なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』

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EMERSON LAKE & PALMERの『Brain Salad Surgery(邦題:恐怖の頭脳改革)』(73年)の
ジャケットを手掛けたことで注目を集め、
映画『エイリアン』(79年)の造形でアカデミー賞視覚効果賞を受賞した、
スイスの画家/デザイナーであるH・R・ギーガーの2014年のドキュメンタリー映画。

これは傑作だ。

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もちろん本人もたっぷり登場して話しているが、
監督によればギーガーはあまり語りたがってなかったらしく、
関係者のインタヴューでギーガーを炙り出していくところも多い。
とある人がギーガーを「人間の魂の最も深い領域を描く」と評しているように、
生と死、命、魂、そして性がモチーフとも言える。
子どものころの様々な体験、恐怖の緻密な作風やユニークな発想の源泉、絵に対する取り組み方など、
刺激になる話の連続だ。
お手軽なコラージュの類いでは辿り着けない域の生々しく彫りの深い冷厳な絵が織り込まれ、
やはり身を削って描いていたからこその深遠な表現だと思わされる。

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そういった話と懐かしの映像や写真、自身の作品を絡めながらギーガーの人生をたどりつつ、
撮影時期のギーガーを追っていく。

陽光が射し込まぬ地下室を核とするギーガーの家の中や鬱蒼とした広い庭での撮影が大半だから、
制作などの“work”を含むギーガーの“日常”をたっぷり見られること自体が貴重だ。
中にも外にも様々な造形物(オブジェ)が置かれ、
室内では絵もあちこちで見られる。
アトリエと思しき部屋にも目が釘付けだ。
いちおう整理されてはいるとはいえ断捨離と対極の書物をはじめとする物だらけの家で、
こういう部屋から一連の作品が生まれたと思うと個人的に勇気づけられた。

ギーガーの生活も映し出しているところがポイントである。
両親も登場するほど何気にアットホームなテイストの加味も心憎い。
歴代の恋人/パートナーが登場するのも興味深く、
登場しない一人の女性の秘話には胸が締めつけられる。

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言うまでもなく映画『エイリアン』のことにも触れ、
性器をイメージさせるギーガー特有の造形のエピソードを笑いながら語る。
もちろんDEAD KENNEDYSの『Frankenchrist』(85年)のLPに限定で封入されていた、
数体の交尾局部アップが上下左右に並ぶポスターにも言及される。

ギーガーはEMERSON LAKE & PALMERやMAGMA、BLONDIEのデボラ・ハリー、
DANZIG、CARCASSなどのミュージシャンのアルバムのアートワークも手がけたが、
そういう人たちをいちいち出演させて絶賛の言葉で埋め尽くさないストイックな作りも好きだ。

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その中の代表としてギーガーと同じスイスのトーマス・ガブリエル・フィッシャーが選ばれた。
80年代初頭からHELLHAMMER~CELTIC FROST~TRIPTYKONで、
世界中のエクストリーム・メタルに絶大な影響を及ぼし続けてきているミュージシャンである。

撮影当時ギーガーの秘書も務めていて、
トム・G・ウォリアーと名乗っていた頃の恐持てはどこへやらのギーガーの前での低頭ぶりが微笑ましく、
“馴れ初め”を語るところでは僕も身を乗り出して観てしまった。
重要人物の一人と解釈したのであろう監督はトムをあちこちで登場させ、
CELTIC FROSTとTRIPTYKONのジャケットを手掛けたギーガーが、
トムの世界観にかなり近いともあらためて思った。
トムがHELLHAMMERからCELTIC FROSTという深遠な世界へと移行するのに、
ギーガーからの触発が大きかったと勝手に想像もした。
風貌からして明らかにトムのバンドのファンが、
ギーガーの展覧会やサイン会に多数駆けつけているシーンも映し出されている。
ほんとCELTIC FROSTやTRIPTYKONのファンの方も観て後悔することはない。

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談話で進める映画ながらドキュメンタリー映画が陥る説明的な作りとは一線を画しているところも重要。
ギーガーの作品のように、
緑と黒の薄いブレンドのような適度に色あせても見える映像そのものの力も大きい。
終始落ち着いた流れで、
クールに見えて感情が静かに横溢しているギーガーの作品そのものの映画だ。
とある人がギーガーの作品を評した“人間と機械の融合の奇怪な造形”という言葉にならえば、
血と肉と金属がブレンドした匂いが漂ってきて身が引き締まる空気感に覆われている。
映画も音楽もカタチだけじゃなく匂いと空気感が大切だとあらためて思わされる。
映像にピッタリのブラック・メタル系のアンビエント・ミュージックが適宜挿入され、
適度な緊張感を保ちながらリラックスさせるのに一役買っている。

残念ながらギーガーは、
撮影が終わって映画のポスト・プロダクションの最中の2014年5月12日に74才で亡くなっている。
ほんと死期を悟っていたかのような形相で映し出されており、
だからこそ凄みを感じさせる。
と同時に歩くのに脚もおぼつかずトークも“ドゥーム・メタルのテンポ”ながら、
たいへんオチャメでもある。

99分の時間があっというま。
観るべし。

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★映画『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』
2014年/99分/スイス/カラー/デジタル/5.1ch
9/2(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷|9/9(土)より東京都写真美術館ホールほか全国順次公開
© 2015 T&C Film © 2015 FRENETIC FILMS.
http://gigerdarkstar.com/


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コメント

上から2枚目と7枚目の写真に猫が写ってますが、猫にまつわる話などもありますか?

Re: タイトルなし

余分三兄弟+さん、書き込みありがとうございます。
猫にまつわる話はないですが、オススメです。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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