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なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

まちゅこけ『怒涛の唄』

まちゅこけ『怒涛の唄』


大阪の西成を拠点に90年代から活動している女性シンガーソングライター、
まちゅこけの約3年半ぶりの4作目。

PALMの稲田が録音とミックスとマスタリングを担当。
ライヴ音声もブレンドし、
命の息遣いが肌に伝わってくる“生”の仕上がりだ。
ほんとうに唄いたいから唄っている唄を14曲収め、
アルバム・タイトルに偽り無しで65分弱繰り広げる人間ドラマの力作である。


久々に彼女の唄を体感して心の底から打ちのめされた。
ミュージック・マガジン誌でインディ・コーナーを担当していたがゆえに出会った、
10年前のデビュー・アルバム『世界をチャーム』を聴いた時の衝撃を思い出す。


まちゅこけは特別なことをしてない。
穏やかなギター弾き語りのみの曲がほとんどだ。
それでも、いや、だからこそ、まちゅこけの唄とギターは、
潔く、力強く、破格だ。

誰から影響を受けたのか、
どんな音楽を聴いてきたのか、
まったく見えてこない。
英国トラッドっぽいメロディも聞こえてくる。
70年代初頭の女性ヴォーカルのポップな日本のフォークみたいな曲も聴こえてくる。
ブルースの精も漏れてくる。
ところによってヨーデルを思い出す伸びやかな歌い方で、
ところによっては昭和時代の歌謡曲全般が頭の中で呼び戻される。

でもまっすぐなストロング・スタイルの歌唱でもってすべてを突破する。

武者震いがする。
ますます強靭で、
ますます潤い、
ますますさりげなく艶っぽい。
命のヴァイブレイションが躍り震える。
一発でKOするパンチの効いた唄声なのに、
諭すような唄い口で背筋が伸びる。

歌詞は曲によって人称名詞が違う。
“おまえ”という言葉が上から目線で見下してエラソーに聴こえる僕だが、
まちゅこけの“おまえ”は同じ目の高さで向き合って敬意を込めた“御前”だ。
ていねいな言葉遣いで聖歌にすら聴こえる。
意識が内向きじゃなく、
ふだん生活している街の匂いと臭いを吸い込んで研ぎ澄まし、
すべてを包容する無限にでかい唄だ。

「ハングリー」「深海」「W.W.W」「小さな声」「流れ星」「嘘つきはもういない」「真実」「夢を」
「春告げ鳥が鳴く頃に」「僕はふたりいる」「罪の詩」「短い夏」「海になりたい」「どとうのうた」
といったタイトルの曲が真空パックされている。
まちゅこけの唄の世界がイメージできる曲名だ。

いわゆるポジティヴな鼓舞激励の歌が続くが、
まちゅこけの唄には嘘がない。
やさしい言葉で綴られているからこそ、
まちゅこけの唄は底無し沼のように深い。

たとえ日本語わからない人が聴いても、
まちゅこけの蠱惑的な唄声は胸を打つ。
いつも書くように声の響きは正直だ。

もちろんドライに乾いてなんかいない。
じめじめもしてない。
情念なんか突き抜けている。
CD盤面などに彼女自身が描いたイラストにも表れている、
まちゅこけのポップな佇まいが大好きだ。


デリケイトで張りのあるまちゅこけのギターも凛としている。
BIRUSHANAHのISO(尺八)、
殺悪愚やGOOD MORNINGのHIDE(ドラム)、
アカリトパリの戸張岳陽(アコーディオン)とアカリ(三味線と唄)、
橋本洋佑(ウッドベース)、
釜ヶ崎三角公園のみなさん(街のガヤ)、
が数曲に参加してさりげなくアクセントを付けている。


ほんとうに心に響く唄が飢えたまま静かな怒涛になって押し寄せる。
全14曲が終わったあとの余韻がまたとてもすがすがしい。

大スイセン。


★まちゅこけ『怒涛の唄』(クロネコ KURONEKO-002)CD
歌詞が読みやすく載った12ページのブックレット封入。
http://sound.jp/machewqo/menu.htm


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優河『魔法』

優河『魔法』


1992年2月2日東京生まれの女性シンガーソングライターのセカンド・アルバム。
一度触れたら一生忘れない音楽である。
1秒で場の空気を塗り替える作品だ。

2011年からシンガーソングライターとしての活動を始め、
2015年11月にファースト・オリジナル・アルバム『Tabiji』をリリース。
2016年10月よりNHK Eテレ『シャキーン!』に提供した曲「朝にはじまる」がオンエアされ、
UNIQLOやPOLAなどTVCMナレーションを行なうなど、
耳にしたら目が覚める彼女の声はゆっくりと広がっている。
そんな中で満を持したアルバムである。


優河とともにプロデュースしているのは、
ベースをはじめとして様々な楽器を演奏している千葉広樹(Kinetic、サンガツ、rabbitoo)。
優河はエレクトリック/アコースティック・ギターで弾き語り、
曲によって彼女はギターを弾かずにヴォーカルのみでラストは歌とピアノの“二重奏”だ。
バンドっぽい編成でレコーディングされている曲が多いが、
岡田拓郎(元・森は生きている)など曲によって異なるミュージシャンが参加。
過半数の曲に入るドラムの他、シンセサイザー、リン・ドラム、エレクトリック・ベース、
ダブル・ベース、ピアノ、キーボード、オルガン、ヴァイオリンなど多彩な楽器が使われている。

似ている人が思いつかない。

無理やり引き合いに出すと、
米国のDAMON & NAOMIのニュアンスに近いサイケデリックの味わいも感じる。
誤解恐れずに言えばエイミー・ワインハウスのようなソウルも感じる。
歌声や曲調はまったく違うが、
アコースティックな曲からハーモニウムの曲までのNICOの60~70年代作品みたいな
研ぎ澄まされた空気を感じる。
一方で、
70年代の日本のポップなフォーク・ソングやシティ・ポップスのような親しみやすさもいっぱいだ。

奥行きがあって目の前でパフォーマンスしているような生々しいレコーディングの仕上がりも奏功し、
ゆっくり、間合いを取って、気持ちの“行間”も聞こえてくる歌が響き広がる。
たおやか、おおらか。
さりげなく包みこむ力と、
さりげなく押す力がひとつになって、
静謐なダイナミズムが生まれている。
ポーズのない歌い方だから心の息遣いが“素顔”のまま伝わってくる。

「さざ波よ」「空想夜歌」「魔法」「愛を」「夜になる」「手紙」「さよならの声」「岸辺にて」
「瞬く星の夜に」といった曲のタイトルだけでも世界がふくらむ。
とってもシンプルな歌詞に、
“あなた”が大半の二人称ながら曲によっては“お前”“君”も立ち現れ、
おっきな意味でのラヴ・ソングにも聞こえる。

彼女の名前の由来を僕は知らない。
“優雅な河”にも聞こえるし、
“優美な河”にも聞こえるし、
“優しい河”にも聞こえる歌だ。

グレイト。


★優河『魔法』(Pヴァイン PCD-25248)CD
厚手の二つ折り紙ジャケット(実際の色は↑よりも明るめ)や九つ折りの歌詞インナーシートも含めて、
愛のこもったたいへん丁寧な作りだ。
約45分9曲入り。


黒岩あすか『晩安』

黒岩あすか


1996年2月大阪生まれのシンガーソングライターによるファースト・アルバム。
ガット・ギター弾き語りで歌をじっくりと刻んでいく独演である。

息を吐くように歌っている。
工藤礼子や朝生愛を思い出すところもあるが、
もっと、ずっと、“生”の呼吸に近い。
でも言葉は聞き取れ、
一度耳にしたら一生忘れない声の響きだ。
中国語で“おやすみ”を意味するアルバム・タイトルにふさわしい。
ゆっくり、ゆっくりの、ミニマルな展開ながら、
ネオアコのようにフックのある曲がほとんど。
影を帯びた優美な佇まいにゆっくりと覚醒されていく。

PORTISHEADのベス・ギボンズやスザンヌ・ヴェガがもっとずっと華奢になって
ローレン・マザケイン・コナーズや樋口寿人と出会ったかのようでもある。
でもギターはなかなか大胆で、
弦の音が大きく響いているサウンドのバランスも的確なレコーディングの仕上がり。
心のビートのリズムを間合いを保ちながら確かに刻む。
時にかなり力強いリフも叩き出す。
なぜなら二度と同じ音が出ないギター演奏の鳴りも彼女の“歌”なのだから。

「電車」「鳥」「雨」「台所」「水道」「道路」というタイトルの
フィールド・レコーディングっぽい“小曲”を偶数トラック・ナンバーに収め、
アルバム全体の流れに潤いをもたらしている。
穏やかなだけで終わらずラスト・ナンバーはかなりヘヴィだ。

内向きの表現のようで、
日本以外の地にも確実に響く一枚。
日本語がわからなくても確実に響くCDだから。
声の“ちから”をあらためて思う


★黒岩あすか『晩安』(Gyuune Cassette CD95-71)CD
手書き書体で歌詞が綴られている8ページのブックレット封入の約37分13トラック入り。


長野友美『時のたてがみをつかんで』

長野友美


長崎県の佐世保市出身で2004年の秋から作曲を始め、
2007年の春から活動拠点を京都に移したシンガーソングライターの新作。
『何もない日々』(2008年)と『春への落下』(2011年)に続くサード・アルバムだ。

コントラバスでも参加している船戸博史(ふちがみとふなと)をプロデューサーに迎えて制作。
東京のライヴ・ハウスだったら吉祥寺のマンダラⅡが似合いそうだが、
大阪のCAFE流流と京都の磔磔でレコーディングされている。
曲によって他のミュージシャンが、
クラリネット、ドラム、エレクトリック・ギター、フルート、スティールパン、ピアノで
彩りを添えているが、
ほとんどの曲はいわゆるバンド編成での録音ではない。
あくまでも彼女のギター弾き語りを基本としていくつかの楽器が+αといった感じで、
静かな躍動感がゆっくりと走るシンプルなアルバムだ。


ほぼアカペラの曲、
70年代の日本のポップなフォーク・ソングっぽい曲、
“ジャズ・ポップス”と呼びたいスキップ&スウィングする曲、
聖歌や唱歌の雰囲気が漂う曲、
日本の情趣が英国のトラッドとブレンドしたトーンの曲、
70年代のジョニ・ミッチェルを思い出すスケールの大きい曲、
ブラジル音楽のテイストも感じさせる曲など、
さまざまなタッチでドラマが描かれていく。
適宜重ねたヴォーカル・ハーモニーも含めて、
濃くて淡い色の絵の具や色鉛筆のようにサウンドが聞こえてくる。

「うたの途中」「春」「なのに愛は」「めばるつり」「夕暮れに湖面を歩く」「時のたてがみをつかんで」
「ほうき星のうた」「こもかぶりの歌」「滑走路」「羽根がはえるよ」「片想哀歌」
といった曲名からイメージが湧く情景や光景が綴られる。
季節でいえば特にちょうど今の時期、
春から初夏の空気感だ。
海や湖でも浜辺というよりは入り江の風景が思い浮かび、
木漏れ日の佇まいでアルバムが進む。

CDに耳を傾けているうちに同じ語が何度か出てくることに気がついた。
他の人が書いた2曲も含むとはいえ、
比較的よく使う語の“空”“風”“夜”“夕暮れ”“陽”などを背景に人物が描かれた風景画のような歌と曲だ。

それにしても堂々たる歌唱である。
エキセントリックな歌い方をしているわけではないにもかかわらず、
いやだからこそ一度聴いたら忘れない天然の節回しの歌声だ。
まっすぐで誤解を恐れずに言えば骨っぽい。
けど実直一筋というわけではない。
ちょいコミカルな歌い口や飄々としたヴォーカルも曲によって炸裂し
実にいい味を出している。

アレンジを変えたらカントリー・ロックンロールになりそうな曲で、
1950年代の歌謡曲みたいな垢ぬけなさが光る俗っぽいラヴソングの「片想哀歌」が特に好きだ。
彼女の中では異色曲なのかもしれないが、
優等生ムードのアルバムをくだけた曲で締めるところがまた心憎い。


★長野友美『時のたてがみをつかんで』(MIDI Creative CXCA-1303)CD
丁寧な作りの12ページのブックレットが封入された51分11曲入り。


ESKA『Eska』

ESKA2.jpg


ロンドン南東部のルイシャムで生まれ育ったジンバブエ移民の子であるシンガーソングライターの
エスカのファースト・アルバム。
本国イギリスでは昨春リリースされているが、
このたび2曲追加で日本盤化された。

90年代後半から外に向けた音楽活動を進めていたが、
ソロ・デビューEPを出したのは2013年のこと。
これがまた今まで溜めこんでいた思いがクールに発酵したかのような素晴らしい作品だ。

エスカは共同プロデュースもしている
(一緒に仕事をしたのはマシュー・ハーバート、デイヴ・オクム、ルイス・ハケット)。
彼らを含む多数の演奏者が曲によって参加していて摩訶不思議な“ポップ・ミュージック”を作り上げているが、
彼女自身もピアノをはじめとする各種鍵盤楽器、ハーモニカ、クラリネット、タンバリン、
グロッケンシュピール、ストリングス、プログラミングなどを手掛けている。
というわけで総合音楽家なわけだが、
やはりシンガーソングライターとしての魅力が特に光る。

エスカにとってもヒロインというケイト・ブッシュとジョニ・ミッチェルがブレンドされたかのようで、
ジョアンナ・ニューサム湯川潮音に通じるモダンなセンスも醸し出されている。
ただそこにアフリカ・ルーツと言うべきであろう濃密で“濃蜜”なR&Bの旨みが宿り、
いかにものソウルフル歌唱スタイルではないにもかかわらず、
艶っぽいソウルがたっぷりと震えている。
そこが現在進行形の“ソウル・ミュージック”ってやつで、
クールな音の連なりと確かに共振している。
音同様に彼女の歌声にもビートが鳴っているからこそ、
とってもキュートにもかかわらず、
とってもストロングなのである。

甘いラヴソングも含めてしっかりと人間に向き合った歌詞もシンプルでほんとうに深い。
「Rock Of Ages」という曲もやっていて、
基本的にはラヴソングの歌詞ながらタイトルをはじめとして色々な意味に解釈できるが、
僕には一種の“ロック・マニフェスト”にも聞こえるのであった。


オススメ。


★エスカ『エスカ』(Pヴァイン PCD-24477)CD
日本盤は、
歌詞とその和訳と平易な英文ライナーの和訳と曲ごとの詳細なクレジットが載った
丁寧な作りの20ページのブックレット封入。
ボーナス・トラック「Red」「Dear Evelyn(song version)」追加の計12曲入りのデジパック仕様だ。


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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