なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

優河『魔法』

優河『魔法』


1992年2月2日東京生まれの女性シンガーソングライターのセカンド・アルバム。
一度触れたら一生忘れない音楽である。
1秒で場の空気を塗り替える作品だ。

2011年からシンガーソングライターとしての活動を始め、
2015年11月にファースト・オリジナル・アルバム『Tabiji』をリリース。
2016年10月よりNHK Eテレ『シャキーン!』に提供した曲「朝にはじまる」がオンエアされ、
UNIQLOやPOLAなどTVCMナレーションを行なうなど、
耳にしたら目が覚める彼女の声はゆっくりと広がっている。
そんな中で満を持したアルバムである。


優河とともにプロデュースしているのは、
ベースをはじめとして様々な楽器を演奏している千葉広樹(Kinetic、サンガツ、rabbitoo)。
優河はエレクトリック/アコースティック・ギターで弾き語り、
曲によって彼女はギターを弾かずにヴォーカルのみでラストは歌とピアノの“二重奏”だ。
バンドっぽい編成でレコーディングされている曲が多いが、
岡田拓郎(元・森は生きている)など曲によって異なるミュージシャンが参加。
過半数の曲に入るドラムの他、シンセサイザー、リン・ドラム、エレクトリック・ベース、
ダブル・ベース、ピアノ、キーボード、オルガン、ヴァイオリンなど多彩な楽器が使われている。

似ている人が思いつかない。

無理やり引き合いに出すと、
米国のDAMON & NAOMIのニュアンスに近いサイケデリックの味わいも感じる。
誤解恐れずに言えばエイミー・ワインハウスのようなソウルも感じる。
歌声や曲調はまったく違うが、
アコースティックな曲からハーモニウムの曲までのNICOの60~70年代作品みたいな
研ぎ澄まされた空気を感じる。
一方で、
70年代の日本のポップなフォーク・ソングやシティ・ポップスのような親しみやすさもいっぱいだ。

奥行きがあって目の前でパフォーマンスしているような生々しいレコーディングの仕上がりも奏功し、
ゆっくり、間合いを取って、気持ちの“行間”も聞こえてくる歌が響き広がる。
たおやか、おおらか。
さりげなく包みこむ力と、
さりげなく押す力がひとつになって、
静謐なダイナミズムが生まれている。
ポーズのない歌い方だから心の息遣いが“素顔”のまま伝わってくる。

「さざ波よ」「空想夜歌」「魔法」「愛を」「夜になる」「手紙」「さよならの声」「岸辺にて」
「瞬く星の夜に」といった曲のタイトルだけでも世界がふくらむ。
とってもシンプルな歌詞に、
“あなた”が大半の二人称ながら曲によっては“お前”“君”も立ち現れ、
おっきな意味でのラヴ・ソングにも聞こえる。

彼女の名前の由来を僕は知らない。
“優雅な河”にも聞こえるし、
“優美な河”にも聞こえるし、
“優しい河”にも聞こえる歌だ。

グレイト。


★優河『魔法』(Pヴァイン PCD-25248)CD
厚手の二つ折り紙ジャケット(実際の色は↑よりも明るめ)や九つ折りの歌詞インナーシートも含めて、
愛のこもったたいへん丁寧な作りだ。
約45分9曲入り。


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黒岩あすか『晩安』

黒岩あすか


1996年2月大阪生まれのシンガーソングライターによるファースト・アルバム。
ガット・ギター弾き語りで歌をじっくりと刻んでいく独演である。

息を吐くように歌っている。
工藤礼子や朝生愛を思い出すところもあるが、
もっと、ずっと、“生”の呼吸に近い。
でも言葉は聞き取れ、
一度耳にしたら一生忘れない声の響きだ。
中国語で“おやすみ”を意味するアルバム・タイトルにふさわしい。
ゆっくり、ゆっくりの、ミニマルな展開ながら、
ネオアコのようにフックのある曲がほとんど。
影を帯びた優美な佇まいにゆっくりと覚醒されていく。

PORTISHEADのベス・ギボンズやスザンヌ・ヴェガがもっとずっと華奢になって
ローレン・マザケイン・コナーズや樋口寿人と出会ったかのようでもある。
でもギターはなかなか大胆で、
弦の音が大きく響いているサウンドのバランスも的確なレコーディングの仕上がり。
心のビートのリズムを間合いを保ちながら確かに刻む。
時にかなり力強いリフも叩き出す。
なぜなら二度と同じ音が出ないギター演奏の鳴りも彼女の“歌”なのだから。

「電車」「鳥」「雨」「台所」「水道」「道路」というタイトルの
フィールド・レコーディングっぽい“小曲”を偶数トラック・ナンバーに収め、
アルバム全体の流れに潤いをもたらしている。
穏やかなだけで終わらずラスト・ナンバーはかなりヘヴィだ。

内向きの表現のようで、
日本以外の地にも確実に響く一枚。
日本語がわからなくても確実に響くCDだから。
声の“ちから”をあらためて思う


★黒岩あすか『晩安』(Gyuune Cassette CD95-71)CD
手書き書体で歌詞が綴られている8ページのブックレット封入の約37分13トラック入り。


長野友美『時のたてがみをつかんで』

長野友美


長崎県の佐世保市出身で2004年の秋から作曲を始め、
2007年の春から活動拠点を京都に移したシンガーソングライターの新作。
『何もない日々』(2008年)と『春への落下』(2011年)に続くサード・アルバムだ。

コントラバスでも参加している船戸博史(ふちがみとふなと)をプロデューサーに迎えて制作。
東京のライヴ・ハウスだったら吉祥寺のマンダラⅡが似合いそうだが、
大阪のCAFE流流と京都の磔磔でレコーディングされている。
曲によって他のミュージシャンが、
クラリネット、ドラム、エレクトリック・ギター、フルート、スティールパン、ピアノで
彩りを添えているが、
ほとんどの曲はいわゆるバンド編成での録音ではない。
あくまでも彼女のギター弾き語りを基本としていくつかの楽器が+αといった感じで、
静かな躍動感がゆっくりと走るシンプルなアルバムだ。


ほぼアカペラの曲、
70年代の日本のポップなフォーク・ソングっぽい曲、
“ジャズ・ポップス”と呼びたいスキップ&スウィングする曲、
聖歌や唱歌の雰囲気が漂う曲、
日本の情趣が英国のトラッドとブレンドしたトーンの曲、
70年代のジョニ・ミッチェルを思い出すスケールの大きい曲、
ブラジル音楽のテイストも感じさせる曲など、
さまざまなタッチでドラマが描かれていく。
適宜重ねたヴォーカル・ハーモニーも含めて、
濃くて淡い色の絵の具や色鉛筆のようにサウンドが聞こえてくる。

「うたの途中」「春」「なのに愛は」「めばるつり」「夕暮れに湖面を歩く」「時のたてがみをつかんで」
「ほうき星のうた」「こもかぶりの歌」「滑走路」「羽根がはえるよ」「片想哀歌」
といった曲名からイメージが湧く情景や光景が綴られる。
季節でいえば特にちょうど今の時期、
春から初夏の空気感だ。
海や湖でも浜辺というよりは入り江の風景が思い浮かび、
木漏れ日の佇まいでアルバムが進む。

CDに耳を傾けているうちに同じ語が何度か出てくることに気がついた。
他の人が書いた2曲も含むとはいえ、
比較的よく使う語の“空”“風”“夜”“夕暮れ”“陽”などを背景に人物が描かれた風景画のような歌と曲だ。

それにしても堂々たる歌唱である。
エキセントリックな歌い方をしているわけではないにもかかわらず、
いやだからこそ一度聴いたら忘れない天然の節回しの歌声だ。
まっすぐで誤解を恐れずに言えば骨っぽい。
けど実直一筋というわけではない。
ちょいコミカルな歌い口や飄々としたヴォーカルも曲によって炸裂し
実にいい味を出している。

アレンジを変えたらカントリー・ロックンロールになりそうな曲で、
1950年代の歌謡曲みたいな垢ぬけなさが光る俗っぽいラヴソングの「片想哀歌」が特に好きだ。
彼女の中では異色曲なのかもしれないが、
優等生ムードのアルバムをくだけた曲で締めるところがまた心憎い。


★長野友美『時のたてがみをつかんで』(MIDI Creative CXCA-1303)CD
丁寧な作りの12ページのブックレットが封入された51分11曲入り。


ESKA『Eska』

ESKA2.jpg


ロンドン南東部のルイシャムで生まれ育ったジンバブエ移民の子であるシンガーソングライターの
エスカのファースト・アルバム。
本国イギリスでは昨春リリースされているが、
このたび2曲追加で日本盤化された。

90年代後半から外に向けた音楽活動を進めていたが、
ソロ・デビューEPを出したのは2013年のこと。
これがまた今まで溜めこんでいた思いがクールに発酵したかのような素晴らしい作品だ。

エスカは共同プロデュースもしている
(一緒に仕事をしたのはマシュー・ハーバート、デイヴ・オクム、ルイス・ハケット)。
彼らを含む多数の演奏者が曲によって参加していて摩訶不思議な“ポップ・ミュージック”を作り上げているが、
彼女自身もピアノをはじめとする各種鍵盤楽器、ハーモニカ、クラリネット、タンバリン、
グロッケンシュピール、ストリングス、プログラミングなどを手掛けている。
というわけで総合音楽家なわけだが、
やはりシンガーソングライターとしての魅力が特に光る。

エスカにとってもヒロインというケイト・ブッシュとジョニ・ミッチェルがブレンドされたかのようで、
ジョアンナ・ニューサム湯川潮音に通じるモダンなセンスも醸し出されている。
ただそこにアフリカ・ルーツと言うべきであろう濃密で“濃蜜”なR&Bの旨みが宿り、
いかにものソウルフル歌唱スタイルではないにもかかわらず、
艶っぽいソウルがたっぷりと震えている。
そこが現在進行形の“ソウル・ミュージック”ってやつで、
クールな音の連なりと確かに共振している。
音同様に彼女の歌声にもビートが鳴っているからこそ、
とってもキュートにもかかわらず、
とってもストロングなのである。

甘いラヴソングも含めてしっかりと人間に向き合った歌詞もシンプルでほんとうに深い。
「Rock Of Ages」という曲もやっていて、
基本的にはラヴソングの歌詞ながらタイトルをはじめとして色々な意味に解釈できるが、
僕には一種の“ロック・マニフェスト”にも聞こえるのであった。


オススメ。


★エスカ『エスカ』(Pヴァイン PCD-24477)CD
日本盤は、
歌詞とその和訳と平易な英文ライナーの和訳と曲ごとの詳細なクレジットが載った
丁寧な作りの20ページのブックレット封入。
ボーナス・トラック「Red」「Dear Evelyn(song version)」追加の計12曲入りのデジパック仕様だ。


INNOCENCE MISSION『Hello I Feel The Same』

INNOCENCE MISSION『Hello I Feel The Same』


女性ヴォーカルを擁する米国東部ペンシルヴィニア州拠点のアコースティック・トリオ、
The INNOCENCE MISSIONが結成35年目にリリースした5年ぶりの新作。
11作目に数えられそうなアルバムである。


年齢不詳なほど若干舌足らずの愛らしいヴォーカルが綴るは、
“わたしとあなた”“わたしときみ”の情景。
初春、初夏、初秋、初冬の気温と日差しに包まれているような光景だ。
彼女が手掛けたジャケットどおりの淡い雰囲気だが、
彼女の歌声の響きそのものが鮮烈で目が覚める。

まったり加減はフォーク・ミュージックやカントリーの趣ながら、
ポップがころがっている。
60年代の“フォーク・ポップス”をアップデートしたみたいであり、
ところによってはソフト・ロックやフラジル音楽の色やリズムを応用したようにも聞こえる。
VELVET UNDERGROUNDのアコースティックなタッチの曲や
JOY DIVISIONの「Atmosphere」の雰囲気も漂い、
男性ヴォーカルが重なる曲ではDamon & Naomiも思い出す。

ほとんどの曲を一人で書いたシンガーの女性は
ギターやピアノ、フィールド・オルガン、ベース・ハーモニカ、タンバリンを演奏。
ときおりコーラスをとる男性はギターとドラム、
もう一人の男性はアップライト・ベースを演奏している。
そういう楽器群からイメージできる音だが、
ドラムはあまり入れてない。
弦楽器の“三重奏”でスウィングする曲がほとんどで、
曲によって鍵盤楽器がいいアクセントになったアルバムである。

何しろ3人の楽器もよく歌っている。
インスト・ナンバーをやっているほどで、
鮮やかな響きの音を織り成して淡い絵画を編み上げていくかのように、
ヴォーカルとハーモニーをとっている。

ミニマルな音の会話みたいなリズム・アレンジとブレンド具合で、
音を鳴らすタイミングや音を入れるタイミングの絶妙の呼吸感、
そして音の重なり方は息を呑むほどだ。
デリケイトながら音がしっかり立っている。
おくゆかしく、つつましやかな佇まいにもかかわらず、
ぐいぐい押していく様はグルーヴィとすら言える。
ゆっくりと疾走するほどひとつひとつの音が躍動している。

弦の動きまで見えてくるデリケイトな音質も奏功し、
一瞬にして場の空気を変える。
ポーズがなく音が生きているからだ。

30年活動していても産まれたばかりみたいに瑞々しい。
ソフト・サイケデリックの“舌触り”もたまらない魔法の一枚。


★ジ・イノセンス・ミッション『ハロー・アイ・フィール・ザ・セイム』(Pヴァイン PCD-24455)CD
日本盤は、
ポップすぎて本編と合わずに外したかのような1曲(歌詞和訳無しだが捨て曲ではない)追加の約37分12曲入りで、
同じ英単語でも日本語を使い分けて歌声のニュアンスを日本語に表した喜多村純による歌詞の和訳が載った、
丁寧な作りの四つ折りインナー・シート封入。


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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