なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

長見順『在庭坂(ZAINIWASAKA)』

長見順『在庭坂(ZAINIWAZAKA)』


山形県に近い福島県福島市在庭坂が拠点のシンガーソングライターである、
長見順(うた、ギター、ほか)の新作。
80年代から活動を始めてから多彩な展開を続け、
98年にファースト・アルバムをリリースして以来ソロ作品も多数発表してきた。
セカンド・アルバム『OYAZI』(2003年)をリリースした際には忌野清志郎も賛辞を寄せていたが、
それも納得のおおらかな佇まいが本作では深化している。


彼女とともに近藤達郎がプロデュースし、
ワダマコト、土生"TICO"剛、浦朋恵、小森慶子、早川岳晴、芳垣安洋、かわいしのぶ、GRACE、西尾賢、
岡地曙裕、向島ゆり子、高橋香織、ジュジュ井上、会津マスクワイア、ブラウンノーズ1号、
タカノシンジ、ランブリン前田らも参加。
いわゆるロック・バンドの楽器構成を核にしつつ彩り豊かな仕上がりで、
曲によってスティールパン、バリトン/アルト・サックス、ウッド・ベース、ヴァイオリン、
ヴィオラ、バンジョーなどの楽器が入り、
さらにたくさんの人がユニークなコーラスをとっている。

まさに楽しみながらみんなでレコーディングしたような空気感を真空パック。
みんなが盛り立てて具がいっぱいのホーム・パーティみたいなアルバムだが、
渋く和らいだ長見のギターもさることながら、
近藤が弾くエレクトリック・ピアノ、ピアノ、オルガンを潤滑音にして上手くまとめている。

音楽的にはR&B・・・しかもけっこうモダンでメジャー感のあるR&Bが大半の曲のベースだが、
あくまでも音はやわらかく、
ジャズやレゲエなどもフリーギーかつキャッチーにブレンド。
曲ごとに凝っており、
長見が役者になってセリフのようなトーキング・ヴォーカルで演じるシアトリカルな曲もあり、
ゆったりと自由に曲が進む。

とにかく全編元気である。
“私”より“あたし”が似合う一人称の歌はユーモラスでオチャメ。
けど豪快なようで歌声はなかなかキュート&繊細で、
舞い踊った後にしっとり歌うヴォーカルが特にすっぴんだ。

こういう歌ものの人のCDにしては珍しく歌詞カードが付いてないところも特筆すべきだろう。
言葉尻をとらえて一喜一憂したり、称賛したり、ディスったりして喜ぶ世の中、
色々と人生をくぐってきて今があるような多幸感をアルバムの歌とサウンドの全体で味わいたい。


三味線や太鼓も入るボーナス・トラックはライヴの打ち上げか余興のプレイにも聞こえるが、
“御愛嬌”で済ませるにはもったいない生のレコーディングである。


★長見順『在庭坂(ZAINIWASAKA)』(Nyon NJ-006)CD
約65分13曲入り。
味のある紙質とデザインで曲ごとの参加者もクレジットされた四つ折りインナー封入の、
カードボード状の二つ折りペーパー・スリーヴ仕様。


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NUDGE'EM ALL『GO』

ナッヂエムオール


94年に東京で結成された“ポップン・ロール・バンド”の
NUDGE'EM ALL(ナッヂエムオール)が6年ぶりに出した新作。
約19分7曲入りのヴォリュームながら聴き応えありありだ・


歌詞が全曲日本語になり、
いい意味で濃くなった。
甘いヴォーカルで歌われる日本語がはっきり聞き取れるだけに、
音とのケミストリーが五割り増しなのだ。
寅さんとは関係ない曲と思われるが、
「オトコはつらいよ」ってタイトルの曲まで堂々と歌い抜くなんて
スカしたパワー・ポップ・バンドにはできない芸当である。
ここまでベタなラヴソングの連発も最近のバンドは意外とあまりないような気がするし、
てらいなく堂々と歌い倒しているところも好きだ。

ドラマーが作詞でヴォーカル/ギターが作曲というソングライティング・チームは、
たとえは乱暴でホメすぎだが、
レノン/マッカートニーやジャガー/リチャーズもイメージするほど相性バッチリである。
ところによってはシティ・ポップスの旨みもハジけているし、
シュガー・ベイブ周辺が好きなポップス・ファンも楽しめそう。
モータウンや初期のBEATLESのビート感やエッジも感じる。
2010年代に加入したキーボードとベースのメンバーも目立っていて、
特にキーボードはかつてのNUDGE'EM ALLとは別のリズミカルな新しい疾走感を生み出している。

ドラマーのビートがパワフルだから曲によってはパンクっぽく聞こえるが、
パンク・ロックと呼ぶのは抵抗がある。
パワー・ポップとも微妙に違う気もするしで、
“パワー・ポップス”と強引に言ってしまいたくもなる。

いや、ここはひとつ、
敬意をこめてクールなポップス!と言い切りたい一枚だ。


★NUDGE'EM ALL『GO』(KOGA KOCA-95)CD
ジャケットも兼ねた三つ折りの歌詞カード封入。


SpecialThanks『Anthem』

SpecialThanks『Anthem』


ギターを弾きながら歌う女性がフロントに立ち、
2000年代半ばに愛知県でスタートした“メロディック・ギター・ロック・バンド”の新作。

コンスタントにリリースを続けてきたバンドで、
これは作品としては『heavenly』以来の1年ぶり、
オリジナル・フル・アルバムとしては約2年ぶりで3作目にあたる。
ギタリストとドラマーが新メンバーの4人編成でのレコーディングだ。

Joan Jett & The BLACKHEARTSで知られる「I love Rock n`roll」を思い出す曲で始まるが、
アルバム全編いい感じでJ-POPっぽい切ないメロディ・ラインに覆われている。
もちろんメジャーなJ-POP特有の押しつけがましさはない。
洗いざらしのシャツみたいな佇まいの歌とサウンドなのだ。

メロディック・パンク風あり、
グランジ・ロックとメロディック・パンクとUSインディ・ロックのブレンドみたいな曲あり、
まったりしたポップスあり、
メロディック・パンク/インディ・ロック以降のAORといった風情のシティ・ポップスあり、
クリスマス・ソングっぽい旋律のレゲエからメロディック・パンクで走る曲あり、
フォーク・ロックありで、
彩り豊かだ。
ときおりメタリックなギターが飛び出すのは、
パワー・ポップやガール・ポップへの造詣が深くメタルへの愛も深い本作リリース元のオーナーである
古閑のエグゼクティヴ・プロデュースの影響かもしれないが、
歯切れのいい音が胸をすく。

英語のフレーズを入れつつも遂に全曲日本語メインの歌詞で勝負を挑んでいる。
母音の響きが支配する日本語の語感とリズムが曲をリードする形になったわけだが、
日本語の言葉がちゃんと聞こえてくるにもかかわらず、
ヴォーカルと楽器がブレンドしたSpecialThanksならではのサウンド全体のやわらかい質感は変わってない。

全曲作詞作曲している唯一のオリジナル・メンバーのMisaki(vo、g)のヴォーカルもますます冴えている。
甘酸っぱい歌声ながら
たおやかなで裏声が微妙に色っぽく、
息を吐くように解き放つナチュラルな肯定性の歌が木漏れ日のように光っているのだ。

SpecialThanksのゆっくりした進化と深化の歩みをずっと追ってこられて僕は幸運だとあらためて思ったし、
あらためて大器晩成だと思った。
オススメ。


PS
テレビ東京の土曜日の『おしゃべりオジサンと怒れる女』の5月度EDテーマで「happy』が使われ。
HTB北海道テレビ放送は、
『NO MATTER BOARD』で「white lover」をOPテーマ、
『おにぎりあたためますか』の2017年1月度EDテーマに「snow town~雪の降る街に~」を使っている。


★SpecialThanks『Anthem』(KOGA KOGA-205)CD
プラケースに収まった微妙に変形の特殊ジャケットに、
手書き書体の四つ折り歌詞カードが封入されている。
約35分12曲入り。


鈴木恵TRIO『恋は水色』

鈴木恵TRIO『恋は水色』


パワー・ポップ・バンドのEXTENSION58のフロントマンで
最近はRYUTistに楽曲提供もしている新潟拠点の男性シンガーソングライターの鈴木恵による、
2007年スタートのプロジェクト・バンドが約4年ぶりに出した2枚目のCDの5曲入り。

鈴木恵(ヴォーカル、ギター、サックス、フルート、オルガン、パーカッション)、
おおのただし(ヴォーカル、ベース)、
青木宏美(ヴォーカル、ドラムス、グロッケンシュピール、メロディカ、パーカッション)がメンバーだ。

基本的にロック・バンド編成で演奏しているが
シンプルな作りながら彩り豊かなアレンジも相まって一曲一曲が短編映画みたいなCDである。
ブラジル音楽、ソフト・ロック、R&B、AOR、ネオアコなどなどのスペシャル・ブレンドで、
パワー・ポップ通過後のメロウなポップスが生き生きと息をしているサウンドだ。
女性ドラマーならではと言えるやわらかいビート感と適度にゆるいリズムも甘酸っぱい旋律の楽曲にピッタリで、
パンチの効いたパワフルなポップスが空間に広がっていく。
曲によってゲストが
ペダル・スティール・ギター、エレクトリック・ピアノ、トランペット、トロンボーンを加えているのも効果的だ。
奥行きと広がりのあるレコーディングの仕上がりも申し分無し。
みずみずしい響きに“耳が奪われる”のだ。

借りてきた猫みたいに上品な歌い方ではなく多少英語混じりの日本語で歌うヴォーカルもナチュラルで、
“ポーズ”を付けてないから滑らか。
CDタイトルやジャケット画のイメージのドラマが歌詞でも繰り広げられ、
タイプは違えどSHE & HIMあたりとも接点を持ち得る“地方都市のシティ・ポップス”と言いたい。

収録曲は5曲ながらトータル約19分でなかなか濃く聴き応えありありの作品だ。
誠実な音楽にジャンルは関係ないのです。


★鈴木恵TRIO『恋は水色』(SONG CYCLE KOSC-002)CD


スクリーントーンズ『昼のセント酒 オリジナル・サウンドトラック』

スクリーントーンズ 昼のセント酒


ドラマ『孤独のグルメ』シリーズでもお馴染みの久住昌之が率いるスクリーントーンズのCD。
同じく久住が“原作者”であるテレビ東京系列のドラマ『昼のセント酒』のサントラ盤だ。
スクリーントーンズ自体はバンドだが、
ほとんどの曲をメンバーやゲストが一人で作曲し、
ほとんどの曲がメンバーやゲストの独演か2~3人の編成で入れ替わり立ち代わりレコーディングしている。

久住昌之、Shake、フクムラサトシ、栗木健、河野文彦といったメンバーが、
アコースティック・ギター、ハーモニカ、ウクレレ、鼻笛、ヴォイス、シンセサイザー、アコーディオン、
エレクトリック・ギター、プログラミング、ソプラノ&テナー・サックス、ホウィッスル、
ソプラノ&テナー・リコーダー、パーカッション、バンジョー、マンドリンを担当。
えりんぬ(アコーステイック・ピアノ、作曲)、田島朗子(ヴォイオリン、作曲)、
直場友紀恵(クラリネット)らのゲストも参加している。

民俗音楽、ジャズ、ニューウェイヴ、AOR、ブルース、カントリー、レゲエなどなど
“音楽食材”は無数ながら、
やっている人間が同じだけに音楽の“持ち駒”は『孤独のグルメ』と基本的に同じだが、
こちらはもっとほのぼのしている。
銭湯にピッタリの親しみやすい雑種のポピュラー・ミュージックで、
ほとんどがパンク・ロックっ気のないインスト・ナンバーだが、
それこそOLEDICKFOGGYに近い“昭和大衆”の匂いを感じたりもする。
和食に洋食や中華やエスニックをちょこちょこ混ぜたよう風味の音楽で、
曲によってはSF映画みたいな神秘の光を放っているところも侮れない。

ドラマのサントラ盤という性格上やはり小曲がほとんどだが、
開かれたイメージがゆっくりとゆっくりとふくらんでゆく。
デリケイトな音の仕上がりもたいへん特筆したいところだし、
その中にさりげなく頓智が効いている。
ユーモアは曲名ひとつひとつにも表れているが、
音そのものに“微笑みのダシ”が効いていてるから日本語タイトルの意味がわからない外国の方の頬がゆるむ。
血のめぐりと頭のめぐりが良くなり、
音楽のちょこっとした力をあらためて思う。

“明るいうちに銭湯に行って、湯上がりにビール!”といったことがテーマの音楽のようで、
お湯につかりながら一杯(もちろんビア推奨)やって料理をつつくみたいな庶民贅沢モードののんびりムード。
もちろん呑まない方も、
なんとなく呑んだみたいに炭酸がハジけて苦味バッチリしあわせになれる。
今回も間違い無し!の一枚。


★The ScreenTones『昼のセント酒 オリジナル・サウンドトラック』(地底 B69F)CD
“第十二湯”までのドラマに登場したものと思しき銭湯と食事の写真が内部に載ったジャケットの
約51分38曲入り。


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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