なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

INNOCENCE MISSION『Sun On The Square』

INNOCENCE MISSION『Sun On The Square』


ジャケットも担当の女性ヴォーカルを擁して
米国ペンシルヴィニア州拠点に30年近く活動している夫婦中心のアコースティック・バンド、
The INNOCENCE MISSIONによる『Hello I Feel The Same』以来の約3年ぶりの新作。
12作目に数えられそうなアルバムで、
英国では
元COCTEAU TWINSのサイモン・レイモンドのレーベルであるベラ・ユニオンからのリリースである。


女性のヴォイスと二人のミニマルなギターが中心で、
カレン・ペリスとドン・ペリスの夫婦は
各々ピアノ、バンプ・オルガン(≒ハーモニウム)、アコーディオン、そしてドラムも演奏。
曲によって、
結成前からの友人のマイク・ビッツがアップライト・ベース、
ペリス夫婦の二人の子どもがヴィオラとヴァイオリンで参加している。

いわゆるフォーク・スタイルの一種の歌ものの作りながら、
楽器もよく歌っていてヴォーカルとハーモニーを織りなしている。
録音やレコーディングの仕上げもたいへん繊細に行なわれ、
どの曲もシンプルだからこそ雄弁な楽器構成にもかかわらず
オーケストラに聞こえる音像と音空間に目が覚める。
素朴を超えて研ぎ澄まされ、
すべての響きがデリケイトこの上なく息を呑む。
ギターも弦の震えや動きが見えてくるほどだ。

浮世離れしているわけではないが、
浮き世を超えて普遍的である。
巷のポピュラー・ミュージックが流行り歌で世間の動きに一喜一憂して流されるのとは違って、
世の動きに惑わされない。
ポピュラリティの高いメロディ・ラインの楽曲であるにもかかわらず、
世の喧騒に煩わされず動揺することもない。
たいへんソフトなのに揺らぐことがない。
このグループに似合わない言葉をあえて使うと、
こわれもののようで強靭だ。

タイトルからもイメージがふらんでいくから“邦題”とともに本編の曲名を書き出してみる。

「Records From Your Room(きみの部屋からレコードが)」
「Green Bus(みどり色のバス)」
「Look Out From Your Window(窓から外を見て)」
「Shadow Of The Pines(松の木の影)」
「Buildings In Flower(花の中の建物」
「Sun On The Square(広場に日が射す」
「Light Of Winter(冬の光)」
「Star Of Land And Sea(陸と海の星)」
「An Idea Of Canoeing(もしもカヌーに)」
「Galvanic(電光)」

歌詞も木漏れ日がまぶしい。

ヴォーカルもまさに“生”の響きである。
“清涼感”とか“天使の声”とか書くと安っぽくなってしまうほどの生まれたての声。
しかも30年歌ってきてやはり研ぎ澄まされ、
心を静かにころがす歌声だ。

80年代のスザンヌ・ヴェガが甘くなったようなリズムでも歌われるが、
60年代のフォーク/ポップスを思い出す。
正反対の声質ながら歌手デビューの頃の60年代のニコや、
同じく60年代のマリアンヌ・フェイスフルのロック感も滲み出す。
無意識のうちにアシッド・フォークの気配を匂わせつつ、
アコースティック・ポップスとして空間に広がる。
アルバム・タイトル曲は
アストラッド・ジルベルトや60年代のボサノヴァにインスパイアされたとのことだが、
他の曲にもそういうニュアンスが感じられたりもする。
佇んで終わらずに躍動している。

いわゆる米国のインディ・ロックみたいな小ぢんまり感とは一線を画し、
おくゆくかしくダイナミック。
内向きの息苦しさから解放される。
グレイト。


★ジ・イノセンス・ミッション『サン・オン・ザ・スクエア』(Pヴァイン PCD-25742)CD
内側に歌詞が載った三つ折りのインサート/ジャケットがプラケースに封入された仕様。
日本盤は1曲「Mary Wilson」追加の36分12曲入りで、
毎度ていねいな仕事の喜多村純による歌詞の和訳(ボーナス・トラックは除く)と
メンバーの言葉も挟み込んだ無記名ライナ~が読みやすく載った
8ページのブックレットも封入。


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SpecialThanks『HEART LIGHT』

SpecialThanks『HEART LIGHT』


エレクトリック・ギターを弾く女性シンガーソングライターがフロントに立ち、
マイ・ペースでコンスタントに活動を続ける愛知県出身のバンドが出した5曲入り。
サード・フル・アルバム『Anthem』以来のニュー・レコーディングCDだ。

“KEMURI meets Hi-STANDARD”なメロディック・パンクに、
ギター・ポップとパワー・ポップとギター・ロックをブレンドしたようなサウンドに磨きをかけている。
ファンキーなフレーズで前のめりになったかと思えばソフト・ロックのまったり感でも進み、
飛ばすだけでなく一曲の中でも彩り豊かな表情を音楽で見せてくれる。
ほんと純なイイ曲ばかりで、
5曲に凝縮された濃密な作品に仕上がっている。

メジャーな“J-POPロック”ともニアミスするキャッチーな曲ながら、
やっぱりこのバンドはちょっと違う。
音がのっぺらぼうじゃないし無臭ではないし滅菌もされてないし、
ギターをはじめとして何気に音が骨っぽい。
何よりヴォーカルがふわふわしていて線が細いようでさりげなく生々しい。
新境地でラップ/トーキング・スタイルも絡めつつ適宜声の重ねも行ないながら、
たおやかにキュートで艶っぽい“生”の歌声が疾走しながら漂流する。

ソリッドなのに柔らかい楽器の音作りと共振し、
英語と日本語が混ざっている歌詞もそういう感触の“サウンド”にもなっている。
自己主張のエゴを削ぎ落して音と溶け合っているからいい意味で言葉が聞き取りやすくなく、
すべて英語で歌っていた頃のようにヴォーカルも一種の楽器のように響きつつ、
記憶のかけらのように日本語が聞こえてもくる。
もしかしたら歌のモチーフは日常のことかもしれないが、
気持ちは自分の半径30センチ以内に留まることはなく、
ある意味“宇宙レベル”の言葉を多用してスケール大きく包み込む。

ページごとに色が違うドリーミーなデザインの8ページのブックレットには
イラストを添えて手書き書体で歌詞が載っているが、
そういうところも大切な表現。
すべてがブレンドしている素敵な攻めの一枚だ。


★SpecialThanks『HEART LIGHT』(KOGA KOGA--208)CD


DIZZY MIZZ LIZZY『Livegasm!』

DIZZY MIZZ LIZZY『Livegasm!』


デンマークの国民的ベテラン・ロック・トリオの最新ライヴ盤。
デンマークでの2回とノルウェーでの1回という、
2016年夏の3回分のフェスのステージから15曲を抜粋編集して仕上げられている。

スタジオ録音盤でもそれほど凝ったことはしてないとはいえ、
やっぱりライヴだとストレートにバンドの肝が伝わってくる。
“BEATLES meets LED ZEPPELIN”とも言うべき曲とサウンドの中に、
ブログレやスラッシュ・メタルのスパイスも少々の“パワー・ポップ・ハード・ロックンロール”だ。

過半数の8曲が2016年の復活最新サード・アルバム『Forward in Reverse』の曲というところに、
懐メロ・バンドとは一線を画す現在進行形の心意気が表れている。
何しろ元気元気。
適度に洗練されていて、
適度に泥臭く、
ツボを突く曲を連発する。
ソングライターがティム・クリステンセン(vo、g)一人で曲がキャッチーだろうが、
メンバー全員のケミストリーがハンパなければロック・バンドとしてのダイナミズムも生まれ得るのだ。

歌詞は英語だからヴォーカルの響きにもクセはなく、
曲によっては合唱も自然発生の観客のリアクションも程良くで入って、
ステージの様子をイメージさせる。
ほとんどが母国でのライヴだから時おり入れるMCが英語じゃないところも面白い。

策を弄した底の浅い作品にウンザリすることが多い昨今、
真正面から生のコミュニケーションに挑むポップなストロング・スタイルに胸がすく一枚。


★ディジー・ミズ・リジー『ライヴガズム!』(ソニーミュージック SICP 5640)CD
日本先行発売の約78分15曲入り(海外では12月8日にLPとデジタル・データでリリースらしい)。
CDのフォーマットでのリリースは日本のみとのことで、
歌詞/和訳やライヴ写真などで彩った28ページの日本特製ブックレット封入。
初回限定の二つ折り紙ジャケット仕様だ。


Bob Dylan『Trouble No More The Bootleg Series VoL.13 / 1979-1981』

Bob Dylan


ボブ・ディランの1979~1981年のライヴをまとめた計153分30曲入りの2枚組CD。
“ブートレッグ”というタイトルながら、もちろん今回もオフィシャル・リリースである。
デラックス版(8CD+DVD)やアナログ版(4LP+2CD)も発売中だが、
ここでは“スタンダード・エディション”を紹介する。

様々なライヴからの曲を抜粋で録音日はほとんどバラバラながら、
緻密な編集でひとつの流れができあがっている。
音質調整もバッチリだ。

日本以外でも有名な『Bob Dylan At Budokan』(1978年)の録音/発売の翌年からという
時代的な流れも興味深いライヴ集である。
ただしグレイテスト・ヒッツな選曲だったそのライヴ盤とはまったく違い、
本作にはディランの有名曲がほとんど入ってない。
この3年の間にリリースした『Slow Train Coming』『Saved』『Shot Of Love』の曲が大半を占め、
特に『Slow Train Coming』からは全曲収録されている。
曲のダブりは3曲だけで、
「Ain't Gonna Go To Hell For Anybody」と「Ain't No Man Righteous, No Not One」という
未発表曲も含む。

R&B色の濃いグルーヴィなロックンロールが肝でソウルフルな女性コーラス陣が目立ち、
大半の曲で二人の演奏者を配したキーボードの比重が高い。
ディランの歌声もバンドの音もノリノリでけっこう軽快な佇まいだ。

「Solid Rock」という曲の“rock”を音楽の“ロック”とも解釈できるなど
歌詞は例によって幾重もの意味を匂わせる。
とはいえディランの“ゴスペル時代”と呼ばれるのも納得の色合いに染め上げられ、
政治性も絡んだ宗教色の濃い歌詞はなかなかヘヴィ。
それでも、さらっと歌いつづっている。
スピリチュアルとか神がかっているとかの風情ではなくソウルフルなとも違う、
クールな歌い口がディランならでは。
福音とまでは言わないが“伝道”するにはこれぐらいのヴォーカルの重さがいいのかなとも思った。
声からはそれほど深刻なニュアンスが感じられないから、
そういう歌詞を面白がりながらまずか瞬間瞬間のサウンド全体を楽しむのがライヴってもんである。

未発表のカラー写真多数と長文英文ライナー(一曲ごとの曲解説含む)とクレジットで彩った
68ページのオリジナル“小冊子”と、
歌詞・語り+それらの和訳や英文ライナーの和訳が載った76ページの日本版ブックレットが、
プラケースと一緒に紙ケースに収納されている丁寧な作りのリイシューだ。


★ボブ・ディラン『トラブル・ノー・モア(ブートレッグ・シリーズ第13集)1979 - 1981』[スタンダード・エディション](ソニー・ミュージックエンタテインメント SICP31099-100)
一般のCDプレイヤー等で再生可能なBlue-Spec CD 2の2枚組。
ジャケットの内側には当時のチケットの半券と思しき写真がズラリと並べられている。


長見順『在庭坂(ZAINIWASAKA)』

長見順『在庭坂(ZAINIWAZAKA)』


山形県に近い福島県福島市在庭坂が拠点のシンガーソングライターである、
長見順(うた、ギター、ほか)の新作。
80年代から活動を始めてから多彩な展開を続け、
98年にファースト・アルバムをリリースして以来ソロ作品も多数発表してきた。
セカンド・アルバム『OYAZI』(2003年)をリリースした際には忌野清志郎も賛辞を寄せていたが、
それも納得のおおらかな佇まいが本作では深化している。


彼女とともに近藤達郎がプロデュースし、
ワダマコト、土生"TICO"剛、浦朋恵、小森慶子、早川岳晴、芳垣安洋、かわいしのぶ、GRACE、西尾賢、
岡地曙裕、向島ゆり子、高橋香織、ジュジュ井上、会津マスクワイア、ブラウンノーズ1号、
タカノシンジ、ランブリン前田らも参加。
いわゆるロック・バンドの楽器構成を核にしつつ彩り豊かな仕上がりで、
曲によってスティールパン、バリトン/アルト・サックス、ウッド・ベース、ヴァイオリン、
ヴィオラ、バンジョーなどの楽器が入り、
さらにたくさんの人がユニークなコーラスをとっている。

まさに楽しみながらみんなでレコーディングしたような空気感を真空パック。
みんなが盛り立てて具がいっぱいのホーム・パーティみたいなアルバムだが、
渋く和らいだ長見のギターもさることながら、
近藤が弾くエレクトリック・ピアノ、ピアノ、オルガンを潤滑音にして上手くまとめている。

音楽的にはR&B・・・しかもけっこうモダンでメジャー感のあるR&Bが大半の曲のベースだが、
あくまでも音はやわらかく、
ジャズやレゲエなどもフリーギーかつキャッチーにブレンド。
曲ごとに凝っており、
長見が役者になってセリフのようなトーキング・ヴォーカルで演じるシアトリカルな曲もあり、
ゆったりと自由に曲が進む。

とにかく全編元気である。
“私”より“あたし”が似合う一人称の歌はユーモラスでオチャメ。
けど豪快なようで歌声はなかなかキュート&繊細で、
舞い踊った後にしっとり歌うヴォーカルが特にすっぴんだ。

こういう歌ものの人のCDにしては珍しく歌詞カードが付いてないところも特筆すべきだろう。
言葉尻をとらえて一喜一憂したり、称賛したり、ディスったりして喜ぶ世の中、
色々と人生をくぐってきて今があるような多幸感をアルバムの歌とサウンドの全体で味わいたい。


三味線や太鼓も入るボーナス・トラックはライヴの打ち上げか余興のプレイにも聞こえるが、
“御愛嬌”で済ませるにはもったいない生のレコーディングである。


★長見順『在庭坂(ZAINIWASAKA)』(Nyon NJ-006)CD
約65分13曲入り。
味のある紙質とデザインで曲ごとの参加者もクレジットされた四つ折りインナー封入の、
カードボード状の二つ折りペーパー・スリーヴ仕様。


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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