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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

HIDEO『HIDEO SINGS EVERLY』

福岡秀朗


東京拠点のシンガーソングライターの福岡英朗によるEVERLY BROTHERSのカヴァーCD。
1998年にCDデビューしてコンスタントにライヴを行なっている人だが、
今回は“HIDEO”名義でのリリースで、
パッケージも含めてたいへん丁寧な作りの約15分4曲入りだ。

取り上げた曲は
「Cathy's Clown(キャシーズ・クラウン)」
「All I Have To Do Is Dream(夢を見るだけ)」
「Let It Be Me(レット・イット・ビー・ミー)」
「Bye Bye Love(バイ・バイ・ラブ)」
である。


EVERLY BROTHERSは本国アメリカをはじめとして、
様々な系統のアーティストに愛されているポピュラー・ミュージック・デュオだ。
たとえばビリー・ジョー・アームストロング(GREEN DAY)とノラ・ジョーンズは、
彼らの『Songs Our Daddy Taught Us』(1958年)を
曲順を変えながら『Foreverly』(2013年)で丸ごとカヴァーした。
福岡がセルフ・ライナーで書いているように日本でのEVERLY BROTHERSの知名度は、
欧米と比べると一般層だけでなくミュージシャンの間でも格段に低い気がする。
親しみやすい楽曲にもかかわらず、
大瀧詠一や山下達郎(注:福岡は二人がカヴァーしているのを80年代にラジオで聴いたという)
のような“ポップス・マニア”に愛されるディープな音楽性だからかもしれない。

福岡は
エレクトリック/アコースティック・ギター、ベース、キーボードなどを演奏し、
リード・ヴォーカル担当に留まらずコーラスもオーヴァーダビング。
ドラムはプロデューサーがプレイし、
一部の曲ではリズム・ボックスが使われている。

歌詞は英語のままだが、
やわらかい歌声と、やさしい歌い口で、ところによって軽妙な歌唱が、まず美味しい。
原曲のテクスチャーとメロディ・ラインを尊重しながら、
旨味たっぷりで時にスリリングなアレンジ・ワークにも舌を巻く。
音を重ねてはいてもシンプルに聞こえるし、
さりげない音の入り方も絶妙だ。
何しろサウンドの一粒一粒が心に響く。

カントリー・ロックとソフト・ロックの間をポップスが行き来している。
「Let It Be Me(レット・イット・ビー・ミー)」に関しては
EVERLY BROTHERSがオリジナルとは言えないのかもしれないが、
知れわたったのは彼らがシングル・ヒットさせてからだ。
竹内まりや&山下達郎のヴァージョンが日本では知られているその曲、
福岡のヴァージョンはピアノがポイントのナイスな仕上がりである。

立体的な音像の仕上がりも特筆したい。
ヘッドホンで楽しむのもいいが、
スピーカーで聴くとヴォリューム低めにしても音の広がり方が格別である。
ポップスの“魔法”を満喫できるオススメ盤だ。


★HIDEO『HIDEO SINGS EVERLY』(オールデイズ ODSC754)CD
EVERLY BROTHERSへの思いや今回のレコーディング・エピソードを綴ったセルフ・ライナー、
詳細な楽曲解説のセルフ・ライナー、
六つ折りのポスター
(裏面はEVERLY BROTHERSをはじめ福岡が愛聴するオールデイズ・レコードのCD紹介)、
その他のインサートも数点封入の、
一般的な7”レコード用の大きさの紙ジャケット仕様。
↑の画像は二つ折りになっている表ジャケットと裏ジャケットを開いたものです。


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DANZIG『DANZIG sings ELVIS』

DANZIG.jpg


MISFITSのリーダーだったグレン・ダンジグ(vo、g他)によるバンド/プロジェクトの、
エルヴィス・プレスリーのカヴァー・アルバム。
最近こればっかだ。

PRONGのフロントマンで以前からDANZIGの一員でもあるトミー・ヴィクター(g)が参加し、
DANZIGの元メンバーでQUEENS OF THE STONE AGEでも演奏していた
ジョーイ・カスティロが1曲でドラムを叩いているが、
グレン・ダンジグがほとんどをプレイしている。


もともとDANZIGは1987年頃にバンドとしてスタートしているが、
ここ10年の間のアルバムは固定メンバーのバンド形態でのレコーディングではない。
はっきりとはクレジットはされてないが、
今回もグレンがドラムも叩いていると思われる。

2015年のDANZIGのカヴァー・アルバム『Skeletons』でも
プレスリーの「Let Yourself Go」をやっていたが、
もちろん今回その曲は未収録。
以下のように渋めの曲が多い。
「Is It So Strange」「One Night」「Lonely Blue Boy」「First In Line」
「Baby Let’s Play House」「Love Me」「Pocket Full Of Rainbows」「Fever」
「When It Rains It Really Pours」「Always On My Mind」「Loving Arms」
「Like A Baby」「Girl Of My Best Friend」「Young And Beautiful」

ドゥーワップ調あり、
ジャジーなアレンジあり、
ドラムが入ってない曲あり、
エレクトリック・ギター弾き語りと思しき曲あり、
ピアノ弾き語りの曲あり。
ロカビリー風もやっているが、
グレン自身のプロデュースによるシンプルな音の仕上がりでヴォーカルと楽曲の魅力が際立っている。

パンクのシンガーは目の前の観客に歌いかけるようなヴォーカルが多い。
それはそれでいいが、
伝統的なシンガーはできるだけ遠くに声を飛ばそうとするような歌い方が多い。
言ってしまえばハイ・トーンのヴォーカルもその一環である。

たとえパンク畑出身であろうとグレンは、
MISFITS時代も他のパンク・ロック・シンガーと一線を画すしっかりした発声で勝負し、
SAMHAINやDANZIGでも一般的なメタル・シンガーと一線を画すナマの歌唱で勝負してきた。
MISFITS時代から変わらぬグレンのつやっぽいヴォーカルの源はここにある。

とはいえMISFITS時代ともSAMHAIN時代とも以前のDANZIGとも違う佇まいの歌声だ。
歌詞がDANZIG時代から一貫して歌ってきたevilなネタとは真逆の心持だから、
こういうまろやかな歌唱になるのも自然ってわけである。

最近はヴォーカルに“底”が見えると聴いているうちに“ウソ”も見えてきてしまうが、
肉体と同じく鍛え上げられたグレン・ダンジグの声はまさに本物だ。
DANZIGの『 Danzig 5: Blackacidevil』(1996年)などのインダストリアルな方向性は、
似合わなかったし僕にとってはこの声を殺しているだけでしかなかった。
余計なものはいらない。
シンプルにやるからこそこの声は生きる。

まったりして穏やかな表情をたたえていようが、
声が持ち得る力をあらためて思い知らされるストロング・スタイルのヴォーカル・アルバム。
聴き惚れる絶品だ。


★DANZIG『DANZIG sings ELVIS』(Cleopatra, Evilive CLO1718)CD
約40分14曲入り。
ムスクっぽい香りがする一風変わった紙質の二つ折りペーパー・スリーヴ仕様で、
その内側にはセルフ・ライナーが載り、
無地の黒いインナー・スリーヴにCDが収納されている


スクリーントーンズ『孤独のグルメ season8』(オリジナル・サウンドトラック)

スクリーントーンズ『孤独のグルメ season8』


テレビ東京系列で放映の人気ドラマのサントラ第8弾。
原作者の久住昌之率いるスクリーントーンズ(The ScreenTones)が、
今回もバッチリとキメている。

スクリーントーンズは基本的に5人編成のインスト・バンドだが、
曲によって作曲者も演奏者も異なり全員が演奏した曲はほとんどない。
それでも色々な料理を扱うお店がひとつのカラーで彩られているようにバラけてなく、
スクリーントーンズの美味しい音楽の匂いが心地よく鼻を突く。

曲ごとに、エレクトリック/アコースティック・ギター、ウクレレ、木魚、プログラミング、
ドラム、パーカッション、シンセサイザー、アコーディオン、マンドリン、
ソプラノ/テナー・サックス、リコーダーなどを使用。
数曲で披露されるバキバキのファンク・ビートが今回の肝だが、
例によってちょい贅沢な庶民の外食メニューみたいに種々雑多な30曲が連なり、
ひとつの物語を編んでいく。

英国のトラッド風、中華風、AOR、リンガラ風、ジャズ、ブラジル音楽、カントリー、民謡、
レゲエ、キャバレー・ミュージック、チャルメラ、サーフ・ロックンロール、
ファンカラティーナ、スピード・メタルなどなどの“料理”が繰り出されてきてワクワク。
ずーっと躍動しつつ、
CDの帯のコメントに書かれた“思索の新境地”というニュアンスが漂うところもポイントである。。

ほのぼのした貴重な歌ものナンバーがCD全体の流れの中でいアクセントになっているが、
インスト音楽のパワーもあらためて認識させられるアルバムだ。
サントラだから小曲も含むとはいえ全曲クオリティ高くてキャッチー。
オリジナリティや“フェイク”云々を超えて
色んな音楽のハイブリッドがポピュラー・ミュージックってもんであり、
色んな栄養が混ざっているから理屈抜きの力たんまりになるのだ。

もちろんただわかりやすいだけでなくミュージシャンシップをさりげなく発揮。
和の情趣あふれる旋律と70年代のKING CRIMSONちっくな抒情性も滲む。
無数のジャンルに対する応用力がまたまた冴えわたるアルバムで、
ラスト・ナンバーは
ジョン・ゾーンのNAKED CITYやマイク・パットンのFANTOMASばりの転換なのだ。

テレビドラマでは松重豊が演じる主人公の“井之頭五郎”って名前、
あらためていいよなーって思う。
僕もその地域と40年近く付き合いがあるからわかるが、
原作者の久住昌之ゆかりの地の東京・三鷹~吉祥寺の匂いが今回もほんのり。
庶民的なちょいオシャレで程良く洗練された地方色も香る。

音の鳴り具合も実にいい。
晴れる響きの一枚だ。


★スクリーントーンズ『孤独のグルメ season8』(地底 B92F)CD
メンバー5人の近況が各ページを彩る8ページのブックレット封入で、
原作漫画を描いた故・谷口ジローの絵が使われているジャケットの約58分30曲入り。
CDのバックカヴァーのアー写の背景に、
今回のコロナ騒動で知れわたった客船ダイヤモンド・プリンセスが写り込んでいるのも興味深い。


SpecialThanks『SUNCTUARY』

SUNCTUARY.jpg


4月17日スタートの安達祐実主演ドラマ『捨ててよ、安達さん。』(テレビ東京系列)の
エンディングテーマになっている「明日も明後日も」も収録した、
女性がフロントの愛知県出身のバンドSpecialThanksの新作。

シンガーソングライターでギタリストでもあるMisakiを中心に、
メンバー・チェンジを繰り返しながら
2008年のデビューCD以来コンスタントに作品リリースとライヴ活動を続けているバンドだ。
色々な尺の作品を発表してきたSpecialThanksの、
新録CDとしては5曲入りの『HEART LIGHT』以来の約2年ぶりで、
フル・アルバムとしては約3年ぶりの4作目である。


90年代のメロディック・ポップ・パンクの流れをくみつつ、
スポーティなメロコアとはまったく違い、
いい意味でパンク・ロックから外れた親しみやすい曲と音にほんのりと磨きをかけている。
GREEN DAYとHi-STANDARDを混ぜてWEEZERで割ったみたいなCDなのだ。

スッキリした音作りでさらりと聴けるが、
多彩なアレンジが奏功して彩り豊かなアルバムに仕上がっていて、
あちこちにポイントを設けている。
シャッフルのようでシャッフルでないリズムの曲あり、
ブラスト・ビート寸前のドラムを挿入する曲あり、
ちょいR&Bっぽい曲あり。
ヴォーカルの重ねやコーラスも工夫し、
Misakiが男性ヴォーカルとデュエットしている曲も新鮮だ。

彼女のヴォーカルも多彩で、
程良く鼻にかかったような声にも聞こえる歌い方あり、
ふわふわした歌い方あり、
パンチの効いた歌い方あり。
まっすぐの発声ながら二十代半ばになっても天然キュートな持ち味健在だ。

歌詞は英語のみの曲が過半数ながら、
英語と日本語がナチュラルに混ざっている3曲と、
日本語のみの2曲を含む。
母音と子音の使い方によるのだろうか、
日本語で歌っているパートもいい意味であまり日本語に聴こえず音にブレンドしているのも
SpecialThanks流だ。
“歌 with 演奏”みたいに、
歌い手のエゴが強くて演奏が歌の伴奏でしかない“歌バン”の日本語ロックのバンドとは一線を画す。

そんな彼女たちの個性がよく表れているのが冒頭で書いた「明日も明後日も」である。
まったり、ほっこりと、言葉数の少ない日本語のみで歌い綴る曲で、
J-POPとニアミスしつつJ-POPと呼ぶにはデリケイトな仕上がりだ。
しっかりと言葉が聞き取れるにもかかわらずこれまた歌と音が溶け合っていて、
SpecialThanksの新境地と言えるし可能性をまた広がった曲である。

やっぱりエレクトリック・ギターを弾きながら歌うことへのこだわりを感じさせる曲ばかり。
バンドへのこだわりも滲む。

もちろん楽曲ポピュラリティも高く、
それこそ多少アレンジを変えれば乃木坂46が歌っても違和感のない肯定的な歌もポイント。
アルバム・タイトルは“sanctuary”の誤植ではない。
『SUNCTUARY』である。
そんな光が射し込む一枚。


★SpecialThanks『SUNCTUARY』(KOGA KOGA-220)CD
歌詞とメンバー写真が載った16ページのブックレット封入の31分11曲入り。
昨年9月のライヴを収めた9曲入りDVD付の別ジャケットの限定盤もあり。


福岡英朗『ひ』

福岡英朗


バンド時代も含めれば20年以上マイペースで東京拠点に音楽活動を続けている、
“シンガーソングライター音楽家”の新作CD。

4曲で他のミュージシャンがドラムを叩き、
1曲の作詞でゲスト参加も仰ぎつつ、
ほぼ自作独演盤。
でもいい意味で職人肌には聞こえないライヴ映えする曲ばかりだ。
ギミック無し、妙な演出も無しの生音楽で、
収録曲が7曲でも聴きごたえありありの濃厚な“ポピュラー・ロック”の佳作である。


CD全体だけでなく一曲の中でもヴァラエティに富んでいる。
どういう音楽から影響されているのかあまり聞こえてこないブレンド具合がたまらない。
ソフト・ロックやブラジル音楽から、
PRIMAL SCREAMとかCreation Records周辺のロック・バンドまでイメージする
現在進行形のシティ・ポップだ。
ニック・ロウやデイヴ・エドモンズあたりのパワー・ポップ感覚に
“2019年のAORテイスト”のスパイスをピリリと利かせたような、
アレンジの妙味がこそばゆい。
音や声の重ねも適度でシンプルなサウンドだから、
都会の中の静かな公園や田園の香りがしてくる。

ヴォーカルが軸とはいえ歌ものと言い切れないのは、
耳にやさしい音作りの柔らかい響きの楽器も大きいバランスで仕上げられているからである。
バンド演奏に聞こえる作りで、
ギターはもちろんのこと曲によってはキーボードや管楽器っぽい音も聞こえてくるが、
ほとんどの曲をベースがぐいぐい引っ張っている足腰のしっかりしたポップスだ。

メジャー感バリバリ!とは言わないが、
いわゆるインディ・ロックによくある内向き感はなく、
ダイナミックな外向き志向の意識がサウンドから滲み出ている。
PAVEMENTの後期やスティーヴ・マルクマスの感覚とニアミスしつつ、
いい意味でもっとしっかりしている。
本人曰くラスト・ナンバーは、
ポール・マッカトニーが東京ドームでWINGSのナンバーを演奏しているのを観て、
「WINGSのダイナミクスを表現したい」ということで今回のアレンジにしたらしいが、
なんとなく伝わってくるニュアンスの仕上がり。
もしやエンディングの音声はそのライヴの生録りだろうか。

やさしげだが決して涼しげではない淡いヴォーカルである
多少ぐだぐだした静かな歌い口、
でもポップにゆっくり躍動している。
肉食音楽ではなくてむしろ草食イメージのCDだが、
ラスト・ナンバーとオープニング・ナンバーが“肉”でつながっている。
けど、確かに、意外と、こってりしている。
人称名詞をほとんど使わず、
日常的な光景の物語のようで意味深な内容の歌詞も飄々と深い。

表ジャケットにも帯にもプラケースの背中部分にも自分の名前を記してない。
パッケージ裏のクレジット部分で初めて“Hideo Fukuoka”のCDだとわかる。
そんなところにも密かに自信を感じさせるオススメ盤。


★福岡英朗『ひ』(BeatBet BBR-005)CD
しっかりした作りの30分強の7曲入りにもかかわらず、
購入してみたくなる税抜き1000円という販売価格の心意気も買いたい一枚だ。
“ひ”の文字がニコちゃんマークの口みたいなジャケットも渋い。


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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