なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

hell-guchi『LIFE. LOVE. REGRET』

hell-guchi.jpg


1975年に近畿地方で生まれた男性のhell-guchiが父親に捧げるべく綴った自身の半生記。
帯に書かれた“「成り上がり」より「裸一貫」”という言葉が心に響いたし、
個人的にツボを突く音楽関係の固有名詞も頻発するから一気に読んでしまった。


3日で一気に書き上げたというだけに四十男の初期衝動でもって駆け足で描かれ、
エモい“泣き”の要素はなく飄々とした“足取り”の文章ゆえの感傷が削ぎ落とされた筆致ではある。
でも南カリフォルニアのサンディエゴのニュースクール激情ハードコア・バンド、
UNBROKENの94年のセカンド・アルバムのタイトル『Life. Love. Regret.』と書名がほぼ同じなのは、
偶然ではない。
そのフレーズがピッタリの本だし、
他にもhell-guchiが吸収してきた音楽が言葉の中で息をしている本なのだ。
本書とは直接関係ないが、
最近だとLongLegsLongArms[3LA]レーベル周辺のバンドのライヴにも足を運んでいるようで、
SWARRRMの『20 year chaos』を愛聴しているのもうなずけるカオティック・ライフが静かに走っている。

僕より12歳年下の方だけに同時代感覚とは違うが、
たどってきた音楽遍歴にはうなずきまくりだ。
hell-guchiは大学入学後の90年代の半ばからしばらくは東京に住んでいたらしく、
しかも高円寺のライヴ・ハウスの20000V(R.I.P.)やショーボートに入り浸っていたというから、
僕も絶対どこかで場を共有していたはず。
その頃hell-guchiが愛用していたというANAL CUNTのTシャツを当時ライヴで着ていた人のことを
思い返したりもしてみた。
それはさておきhell-guchiは自身のノイズ・ユニットに加えて自主ライヴ企画を95年に始め、
非常階段のメンバーでもあるT.美川がその準メンバーだったF.コサカイとやっているINCAPACITANTSと、
メロディック・パンク・バンドのLOVEMENを含む組み合わせで決行することもあった。
その頃に現REDSHEERのメンバーが中核だったバンドのATOMIC FIREBALLとも
交流を持っていたようである。

どんなアーティストでもいいってわけじゃないだろが、
ヒップホップやトランス・ミュージックに入り込んだりもしているフットワークの軽さは、
いい意味で文体に表れている。


話を戻すとhell-guchiが“主演”の物語ではあるが、
hell-guchiにとってかなりでかい存在の“親父”のことにかなりの字数を割いている。
“貧乏でも、子供達への愛情は惜しげなく注いでくれた親父。
連帯保証人として背負った1億円の借金を、20年かけて返済した親父。”
という帯の文句に本書の肝が凝縮されている。

子どもの頃からかなり生活が困窮していたようだが、
本当にそういう人間が表現するものは貧乏自慢や不幸自慢にはならない。
可笑しいほど、ある意味突き抜けているからである。
そしてhell-guchiのようにエクストリームな生活状態で子供の頃から暮らしていると
パンクに向かうモチーフは反体制だの反資本主義だのを超えてもっとプリミティヴな“飢えた心”になる。
それにしてもhell-guchiが長男の3人兄弟と“親父”と“オカン”の家族5人は、
貧しいながらも子どもたちの将来を考えた御両親の気だての良さと他人を思いやる気持ちの強さでしあわせそうだ。
お互いに敬意を表わし合っている家族に映る。

特にやはり“親父”の努力は計り知れないと想像できる。
家族内の状況はかなり違うが、
父親に関してはhell-guchiと近い点が多いがゆえにも読んでいて僕も心に染み入ってきた。
大型車の運転手の仕事でやはり「人に使われるのは御免だ」みたいな性格だった
(ただしhell-guchiの親父のメインの職業がトラックの運転手で他にも色々やったのに対し、
僕の父親はダンプの運転手で(有)行川建材興業という会社まで作るもやがて必然的に一匹狼に)。
仕事ばかりしていたようで原始的DIY精神に基づき完成品を買うより自分で作る“趣味”もそっくりだ。
僕も少なからずリスペクトしているから“親父”についての部分は読んでいてちょっと目が潤んできたし、
自分もこういうことを書きたいと思った。


hell-guchiは冒頭に書いたバンドの名前の“UNBROKEN”そのものだ。
父親譲りの精神性であることは言うまでもない。
“UNBROKEN”と言えばアンジェリーナ・ジョリー監督の2014年の問題作映画の原題も思い出すし、
本書のイメージとちょっと違うしカッコ良すぎのフレーズながらその邦題を引用すれば、
さりげなく“不屈の男”である。
そして本のタイトルの最後の“REGRET”だけ“.(ピリオド)”を打ってないところも重要なのだ。

ちょっぴりしょっぱくて苦辛い味の日本映画の佳作を観た気分になった自伝エッセイである。


★hell-guchi『LIFE. LOVE. REGRET』
税込:1080円
単行本(ソフトカバー): 113ページ
出版社: 文芸社
商品パッケージの寸法: 19 x 12.6 x 0.8 cm


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阿武誠二(SEIJI/GUITAR WOLF)『昭和UFO』

昭和UFO


87年に東京でパンク/ロックンロール・バンドのギターウルフを始めた、
セイジ(vo、g)こと阿武(あんの)誠二の“エッセイ”集。

ブログの“フジヤマシャウト”に2007年の6月から今年4月にかけて書いた文章の中から89篇を抜粋し、
加筆および一部改題のうえに再構成した本である。
幼少時や学生時代をはじめとする過去の述懐が過半数ながら当然ギターウルフ結成以降の話も多いが、
書いた順番ではなくセイジの人生を追うような感じで文章が並べ替えられ、
おおおまかなテーマごと固めながら一つの流れができているところがポイントだ。
実直ながら天然の頓智が隠し味になったゴツゴツしたセイジの文体が骨まで味わいやすいように、
ぎゅうぎゅう詰め込まずに字が大きめの風通しのいい縦書きで読みやすい作りになっている。


ひとつひとつの文章のタイトルのほとんどがギターウルフの曲名そのもののセンスで、
どこを切ってもブレのない“セイジ節”全開である。
個人的には同い年(1963年生まれ)ならではの同時代感覚で切なくクスッと可笑しく楽しめたし、
ギターウルフに思い入れのない方もセイジの“まっすぐな人間ぶり”にヤられること間違い無しだ

ビシッ!と曲名が決まればそこから音と歌詞のイメージがふくらんでできあがっていく
ギターウルフのソングライティングそのままの“ドラマ”が描かれている。
ロマンあふれる人間臭い美意識に貫かれている。
シンプル&ドラマチック!なライヴや歌詞や音の世界観そのままの本だが、
底無しの妄想力と夢想力と想像力と観察力に舌を巻くしかない。

ネタは、昆虫、天体、飲食物、特撮もの、現場仕事、バイクなどなど尽きることはなく、
音楽をはじめとするセイジのルーツもさりげなく伝わってくる。
ツアーや映画撮影などで赴いたアメリカやヨーロッパなどの海外“紀行文”もリアルな一方、
日本の情趣があちこちから滲み出ているところもセイジらしい。

“地方出身者コンプレックス”を隠すことなく逆バネにし、
“しでかしてやるぜ!”ってなアティテュードはパンクそのもの。
伝統的なロックンローラーとは一線を画してストイックに自分を追い込んでいく姿勢はハードコアだ。
やせ我慢と根性は体育会系直系でオリンピックに対する愛も非常に納得できる。

ギターウルフがエクストリームな形で体現し続けている“ロック・ロマン”に対する思いも本書の肝である。
ジョーン・ジェットや忌野清志郎らに対しての一ファンとしての態度に象徴されるように、
セイジは純情で正直である。
だからこそピュアだが必ずしもナイーヴではない。
潔癖と言えるほど表裏がないのだ。
ロマンチシズムとリアリズムの間を全力で加速するセイジの意識は、
“M78星雲”というタイトルの回のウルトラセブンと沖縄の話にもよく表れている。


セイジが成人になってから話では文章の中に必ずといっていいほどビールが登場する。
特にビールがメイン・アクトの“生ビール IN タイ”というタイトルの回は爆笑必至だ。

1995年のアルバム『ミサイルミー』のリリース時に
ミュージック・マガジン誌で行なったインタヴューを僕は思い出す。
以降取材するたびに「あのインタヴューは楽しかったなー」と言ってくれて、
ギターウルフのオフィシャル・サイトにも長年転載されていたほどセイジも気に入ってくれた。
そのインタヴューの場所は2年前に閉店した東京・下北沢の名物店ぶーふーうー。
基本的には喫茶飲食店ながらビールをジョッキで出していたお店で、
メンバー3人はビールをガンガンおかわりしてゴキゲンで特にセイジはジョッキ片手に話しまくり、
30年以上ライターをやってきた中で最も噛み合った絶好調インタヴューの一つだ。

僕はギターウルフのインタヴュー記事や書き原稿を本人や事務所等に読んでもらってチェックされたことはない。
どうしても書き間違い等は有り得るから“原稿チェック”を否定はしないが、
その手直しのやり方などで相手の底意地が見えたりもする。
だからこそ光るそんなセイジの潔さに本書はビシッ!と貫かれている。
宇宙を超える人間セイジの器のでかさに圧倒される本だ。


★阿武誠二(SEIJI / GUITAR WOLF)『昭和UFO』
定価:1,944 円(本体1,800円+税)
仕様:四六判/352ページ
リットーミュージック刊


書籍『ザ・ストーン・ローゼズ 自ら激動なバンド人生を選んだ異才ロック・バンドの全軌跡』

ストーン・ローゼズ本


英国マンチェスター出身のロック・バンドで80年代後半から90年代初頭にかけて一世を風靡し、
今も根強い人気のSTONE ROSESのドキュメンタリー本。
『THE STONE ROSES War and Peace』という原題どおりの内容だ。
過去の記事等からの引用も含みつつ、
歴代メンバーはもちろんのこと重要関係者のほぼすべてに取材した膨大な話を基に編み上げた力作である。

個人的にSTONE ROSESは70年代後半から愛読していたロッキングオン誌からの影響で買った最後のバンドで、
シングルもけっこう持っていて89年のファースト・アルバム『The Stone Roses』はそれなりに愛聴したが、
みんなが大騒ぎするほどのバンドとは思わなかったし大して思い入れもない。
けどそんな僕でもぐいぐいぐいぐい本の中に引き込み、
恐ろしいほど一気に読ませた面白すぎる痛々しすぎる話の連続のグレイトな本だ。


分岐点になった90年のとあるシーンがプロローグの本だが、
あとは復活までを時系列どおりに進めている。
メンバーの子供の頃の話がほとんどないのはあくまでもSTONE ROSESの本だからで、
イアン・ブラウン(vo)とジョン・スクワイア(g)が高校一年生の時に結成したバンドが起点だ。

二人がその最初のバンドを始めたのは78年のようでパンク・ムーヴメントが一段落した頃だが、
当然パンク・ロックのネタが序盤は多い。
SEX PISTOLSやCLASHを好んでいたのはもちろんのこと、
STONE ROSESの最初のデモは
地元の先輩のSLAUGHTER and The DOGSをサウンドの指標にしていたそうだし、
ANGELIC UPSTARTSCOCKNEY REJECTSとの接点があまりにも興味深い。
80年代初頭はOi!周辺との交流も持っていてスキンヘッズとやりあったりもしていて、
イアンを筆頭にけっこうやんちゃだったのである。

マンチェスターの労働者階級スピリットやカルチャーみたいなものも伝わってきて、
ブレイクした頃だけでなくSTONE ROSES結成前からファッションの話も盛り込んでいるのも特筆すべきだ。
単なるバンド・ストーリーで終わってないのは彼らが様々な“シーン”に絡んでいたからだが、
地元をはじめとしてあちこちの音楽シーンには意外と絡んでなく我が道を行っていたこともわかる。
ビッグになっていた頃のThe SMITHSでさえオーナーなどに挨拶周りをしなきゃいけなかったほど
マンチェスター・シーンのマフィアみたいになっていたという、
FACTORY Recordsへの“アンチ”のアティテュードが象徴的。
上下関係の伝統なんか知ったこっちゃない。
権威なんかクソくらえ!の不遜のパワーに突き動かされていた。
かといって“仲良し倶楽部”みたいに慣れ合って“仲間”と妙につるむこともしなかった。


87年にイアンが放った以下の言葉に当時の姿勢がよく表われている。
「今のインディ・シーンが良好な状態だと感じている奴らが多いようだが、俺はそうは思わない。
みんな気取っていて、同じことばかりやってるように見えるね。
シーンにいるバンドの多くは商業的な成功には興味がないって言うけど、そんなのはゴミだね。
音楽ビジネスに関わっている人間は、誰もが金を稼ぐために存在しているんだ」
「『STONE ROSESには思い上がったエゴがある』って思われていた。
実際、俺らにはそういったエゴはあったけどね。
でも、それはいいグループであるための重要な要素なんだ。
<中略>嫌われるのは、俺たちには何らかの価値があるってことの証明でもあるのさ」


80年代終盤から90年代初頭にかけてSTONE ROSESは
日本でも音楽誌のニュース欄を毎月賑わせていて僕ですら目にしていたが、
今ならインターネット上を毎日賑わせていたことは間違えないほど絶えなかったトラブルの全貌も
“よくぞここまで!”と驚嘆するほど詳細に綴られている。
したたかで理想実現のために現実的に立ち回ってSTONE ROSESは89~90年にピークを迎えたが、
そういった上昇過程を描いた前半部分ですらトラブルの連続だ。
全盛期のマネージャーが仕掛けたことも大きいし、
業界がSTONE ROSESを理不尽に扱い続けてきたことも大きい。
メンバーの中で最も政治的で
色んな人に突っかかっていって波紋を投げかけたがるビッグ・マウスのイアン・ブラウンが、
納得がいかないことに黙っちゃいられない性格というのもさらに大きい。

個人的に、
クラシック・メンバーのうちレニ(ds)以外の3人は僕と同じ学年で、
音楽趣味などの彼らの話が時代的にえらく納得できたというのも本に入り込めた一因だ。
特にイアンは生年月日が8日しか違わない魚座という共通項で色々と“星の影響”の面で同じと思われ、
色々な面でとても他人とは思えない。
メンバー全員好き勝手なバンドだが、
STONE ROSESの“ファック・ユー!”アティテュードのイメージの大半は、
フロントマンでバンドの顔のイアンの行動や意識によるところが大きいとあらためて思った。


それはともかく上昇中のトラブルはバンドにとってエネルギーにもなりえるが、
下降中のトラブルに次ぐトラブルは“病気”にもなりえる。
特にメンバー間の確執でバンドが崩壊していくトラブルの連続の後半は読んでいてこっちの胃や頭も痛くなるほどだ。
ストレートな書き方だけに彼らの精神状態や意識の流れがストレートにモヤモヤと伝わってきて、
何しろ読者を当事者の一人に巻き込んで気持ちを共有させるぐらいのパワーに満ちた本である。

著者のサイモン・スペンスの力量に感服もした。
緻密な取材で集めた発言の数々もインタヴュー相手にすれば過去の記憶を掘り起こして引っ張り出す作業であり、
思い違いもありえるだろうが、
そのへんは多数に話を訊くなどとして事実を絞っていったと思われる。
メンバーをはじめとす膨大な数の人間の話を“現在進行形”のリアル・タイムの発言のようにして文字化し、
ほとんど秒単位で時間が流れる臨場感あふれるバンド・ヒストリーに仕上げた手腕に舌を巻く。
リリース数が少ないだけに個々のレコーディングの様子の記述も詳しく、
マーティン・ハネットやジョン・レッキーなどのプロデューサーとのやり取りも緻密に綴っている。
色々と細かいネタも少なくないが、
彼らの曲名などをよく知らない人でも興味深く読める書き方になっておりし、
もしわからない部分があっても1ページでもめくって先に進めればまた加速して読める。

スピード感のある仕上がりになっているのは故・佐藤一道の読みやすい翻訳があってこそだ。
“同業者”ながら活動フィールドが違っていて面識がなかったとはいえ、
発言部分における生々しい口調の和訳をはじめとして
STONE ROSESを深く理解している人間ならではの丁寧な仕事ぶりに敬意を表したい。
あとがきを書いてまもなく今年1月に他界されたのがあまりにも残念だが、
STONE ROSESの<サード・カミング>を願う“遺作”にもなった。


STONE ROSESに一度でも入れ込んだ方は全員必読なのはもちろんのこと、
彼らに対して特別な思い入れがなくてもバンド内や音楽業界のゴタゴタに目がない方、
エキサイティングなドキュメンタリーに酔いたい方も読んで損はない。
これはオススメ。


★『ザ・ストーン・ローゼズ 自ら激動なバンド人生を選んだ異才ロック・バンドの全軌跡』
サイモン・スペンス著
佐藤一道 翻訳
2,700円(税込)
DU BOOKS
A5版 / 416ページ(うち貴重な写真コーナーが32ページで本文は二段組み)
http://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK046


書籍『VIVIENNE WESTWOOD ヴィヴィアン・ウエストウッド自伝』

ヴィヴィアン・ウエストウッド自伝


公私のパートナーだったマルコム・マクラーレンとSEX PISTOLSの“プロデュース”も行なった、
1941年英国生まれの“ファッション・デザイナー活動家”の伝記。
ヴィヴィアン中心にたくさんの発言をなるべく編集せずにたっぷり盛り込みながら、
伝記作家のイアン・ケリーがまとめて一昨年本国で発刊された624ページの大作である。

ヴォリュームたっぷりの作りになったのは外したくないネタばかりだからだろう。
それぐらい濃密な人生を送ってきている率直な女性である。
当然のことながらファッション関係のネタがメインだが、
同じく当然のことながらヴィヴィアンの肝のパンクの話にもページを割き、
活動家としてのヴィヴィアンの行動もしっかり綴られている。
2013年のパリ・コレクションの話から始めているということが象徴するように
“現在進行形”の視点で書かれているとはいえ、
基本的には時系列の構成だ。


僕が特に引き込まれたのは、
やはり服飾に関心を持ち始める子供の頃、ロックンロールとの出会い、マルコムとの関係、
してNEW YORK DOLLSやリチャード・ヘル、SEX PISTOLSとの関係が描かれる部分である。
正確に言えばマルコムのネタは彼が他界するまで随所に織り込まれているのだが、
このあたりの部分はとにかく読むのを止められないほど興味深すぎるエピソードの連発である。
たとえファッションなどにあまり興味がないとしてもその前半部分を一気に読ませるのは、
僕が関心を持っているからだけでなく、
ヴィヴィアン自身のエキサイティングな活動の加速ぶりが文章や発言に表れているからだ。

DIYをはじめとする彼女のパンク・スピリットはパンク・ムーヴメント勃発前の幼少期に育まれたものであり、
彼女の知名度を上げた一般的なファッションのデザインもパンク・スピリットは基本であり、
それは環境保護や人権派のリベラルな活動家としての今にも直結している事実が詰まっている本だ。
対極に見えるCRASSも含めてたくさんのパンク・バンドに影響を与えたことも想像できる。

「わたしは別に何かに反発していたわけではなかった。
でも、ティーンエイジャーは最高の時代だった。ファッションは大人に対抗心を燃やす若者の象徴だから」
という十代の頃の気持ちがヴィヴィアンの基本である。
今も変わらないパンクのパブリック・イメージを作り上げた自負の発言が随所から溢れてもいる。
一方で僕からすると彼女のパンク観やSEX PISTOLSの捉え方は無邪気で一面的だし、
巻末で彼女が書いた“資本主義をストップさせる”というコラム等の資本主義云々の考え方もナイーヴに映る。

本書によればジョニー・ロットン/ジョン・ライドン(SEX PISTOLS/PiL)は、
“本来は独自の発想で手づくりするもので、
アンチ資本主義であるはずのロック・スタイルを売り物にしている現状については彼女を厳しく非難している”という。
資本主義を糾弾しているアーティストがデザイナーによる高価なTシャツを売っている例も少なくない。
ただセレブが御用達にするほど事業拡大を続けていただけにヴィヴィアンも自分が詭弁を吐いていることを認め、
罪悪感も覚えているようである。
時間とエネルギーを注いで作っただけにそれに見合う対価が必要なのは理解できるが、
過激なデザイン以前にヴィヴィアンの服などは値段が庶民にとっては敷居が高い。
極端な話、一生懸命倹約してユニクロの服を買って楽しむ人にはちょっと遠い存在にも映るだろう。

そもそもヴィヴィアンの商品は庶民肌というより、
“芸術としてのファッション”であり“時代を反映したファッション”である。
スローガンやメッセージ含みの言葉を入れて絵柄が過激なデザインのTシャツをはじめとして、
革命的なファッションを作り続けてきた。
興味深いのは過去へのオマージュと歴史を参考にして革新的なものにする姿勢だ。
それってロックンロールやパンク・ロックそのものではないか。
活動家としてチャールズ皇太子との交流も深いようだが、
英国やイングランドへの愛も深い。
そのへんはSEX PISTOLSのDVD『勝手にやったぜ! ゼア・ウィル・オールウェイズ・ビー・アン・イングランド』での
ジョン・ライドンにも近い気がする。
「イギリスらしさはわたしの行動の基本」・・・ヴィヴィアンの言葉である。

ヴィヴィアンは伝統を尊重もする。
ファッション・デザイナーや活動家、“パンクス”としてのヴィヴィアンと同じぐらい、
一人の子供としての、
一人の母親としての、
一人のおばあちゃんとしての、
一人の妻としてのヴィヴィアンにあちこちでページを割いているところもこの本のポイントだ。
労働者階級の子として生れ、
マルコムと“決別”した直後しばらくは色々あって生活は困窮したが、
「家族意識がとても強くて、そういう感覚に浸れる時間がすごく好きなの」という孫の言葉そのままである。
幼少の頃から愛情いっぱいの家庭で育ったこともヴィヴィアンの不屈のポジティヴな姿勢に影響している。

この本はまとめ役のイアン・ケリーが“取材”して集めた発言のウエイトも高いのだが、
スティーヴ・ジョーンズ(SEX PISTOLS)やファッション関係者などの談話も豊富に盛り込みつつ、
ヴィヴィアンと彼女の“身内”の話がメインである。
彼女の弟、父親違いの2人の子供、夫たちなどの言葉で
ヴィヴィアンを炙り出しているところに、
彼女が行なってきている一般的な家庭人とはかけ離れた行動のすべて源が
家族であることを示してもいるのだ。


ひらがなが多めの和訳で読みやすく、
ヘヴィなページは漢字が多めで場面ごとに空気感が醸し出されている。
人名等の適度な脚注もページ内の下部で記されていてありがたい。
さらにヴィヴィアンらの人物やデザイン関係のカラー写真も1ページ使って適度に挿入され、
これが実にいいアクセントになっている。
総じて風通しのいい丁寧な作りだから分厚い本でもけっこう一気に読み通せるのであった。

ヴィヴィアン・ウエストウッドに少なからず興味を持っている方はもちろんのこと、
ロンドン・パンク・ムーヴメントの発火点や英国文化に強い関心を持っている方も読み応えありだ。
ハードカヴァーで厚さ5センチ近くの624ページの本だけに目方自体も重いのだが、
英国の伝統の重みも感じる本である。

若い頃のパンク姿ではなく“今”の写真を使った表紙にもヴィヴィアンの自信が満ち溢れている。


★書籍『VIVIENNE WESTWOOD ヴィヴィアン・ウエストウッド自伝』
ヴィヴィアン・ウエストウッド、イアン・ケリー[著]
定価 : 本体4,000円+税
B5変型/624頁、カラー写真多数/上製
発行元:DU BOOKS
発売元:株式会社ディスクユニオン


本『中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド~ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーの新しいグルーヴを探して』

中央ヨーロッパ音楽本


タイトルどおりの本。

僕もBEHEMOTHとEL BANDAのアルバムを1タイトルずつ書かせてもらったが、
他にヘヴィ・メタルやパンク・ロック/ハードコアはほとんどない。
とはいえジャズやポップスやプログレやヒップホップや
エレクトロニック・ミュージックなどのポピュラー音楽全般に加え、
クラシックをもフォローした360タイトル以上の作品を詰め込んだ構成が圧巻だ。

真に音楽ジャンル関係なく多数のアルバムを一冊の本に収めることの構成上の大変さも伺えるが、
半分以上ページは淡い色合いのカラー掲載のジャケット効果も相まって
特定の地域に焦点を絞った本ならではの統一感があり、
中欧の匂いが立ち込める。
政治体制的に第二次世界大戦後は長年東欧として扱われることも多い地域だが、
西欧と東欧の狭間で荒らされて息苦しく生き生きと生存してきた地ならではの
苦汁の中で泳ぎつつ苦渋の沼から解き放たれようとする気概の音楽である。

本の作りとしては、
原語表記だけでなく
アーティスト名や作品タイトルが現地語に近いカタカナ表記で併記されている点も特筆したい。
アマゾンなどの大手の通販サイトではフォローされていないものも多いらしいから、
この地域の音楽のCD等が買えるサイト等の紹介ページもありがたい。
現地の言葉の読み方などのガイドや諸々のコラムも実用的で辛味の効いたスパイスだ。

個人的には今年もライヴで、
映画宣伝のVALERIAの方の協力でポーランドのミュージシャンとの素敵な出会いがあった。
本書でも扱われているモヒカン女性フリーキー・ピアノ弾きのJoanna Duda(ヨアンナ・ドゥダ)や、
自由形ながらローファイに甘えず観客の度肝を抜いたグループの
MALE INSTRUMENTY(マウェ・インストゥルメンティ)もそうだ。
一部の人以外は日本だと未知の領域とはいえ、
毎年“ポーランド映画祭”で出会う映画と同じく“こういう見せ方があるのか・・・”とビックリする。
楽しく見せるライヴでも、
やはり日本や米国や英国などと違って地続きの国境の多い国の過酷な歴史が表現に染みているのだ。

英語表記ではないものも多いバンド名や作品タイトルからして取っつきやすいとは言いがたいが、
音楽そのものは必ずしもそうではない。
僕みたいにこの地域の音楽に馴染みが薄い人間にとって敷居が低くない本でもある。
けど敷居を乗り越えなければ次に進めないし世界観は広がらない。
そうするだけの価値のある辺境、
いや“秘境”の音楽を探る糸口や手ほどきになる一冊だ。


★『中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド~ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーの新しいグルーヴを探して』
監修:オラシオ
価格:2,500円+税
A5 / 200ページ / 並製
発行:DU BOOKS
http://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK084


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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