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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『シャルロット すさび』

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全身が痺れる新作映画を久々に体験した。

1945年の2月に東京で生まれて1988年からフランスに住んで60歳を過ぎてから映画製作に入った、
現役舞踏家・岩名雅記による監督/脚本の長編劇映画第4作。
前妻への鎮魂の想いで作ったらしいが、
単なる“私小説映画”をはるかに超えたスケールで迫る深遠な大作である。

断続的にフランスのパリとノルマンディや日本の東京と福島で計ほぼ7週間撮影。
出演者は実質的に主演で普段もパフォーマーの成田護を筆頭に日本、
イタリア、フランス、レバノン、スウェーデンなどから、
俳優、舞踏アーティスト、パフォーマーが参加し、
スタッフも日仏ほかの混合チームで作られている。

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現代のパリが“もともと”の舞台。
自身のアート活動に深くのめり込んで妻を失った日本人パフォーマ ーのカミムラは、
シンバルを使ったパフォーマンスが以前のようにはできなくなっていた。
そんなある日にカミムラは公演に使う板ガラスを買うためにガラス店を訪れ、
夫と子どもがいる日本人の店主の女性に出会う。
同じ日に突然の雨で地下鉄構内に入り込んだカミムラが目にしたのは、
大勢の人々の視線にさらされる下半身“欠損”のイタリア人女性のシャルロットだった。

以上はオフィシャル・サイトに載っている序盤のあらすじをアレンジして書いたものだが、
以降の物語を詳しく書くことはやめておく。
映画でしか成し得ない時空を超えた奇想天外のストーリーの表現で、
理路整然とした文章にしにくい話の流れだからでもある。
映画だけが持ち得るリアリズムとロマンが静かに息をしているのだ。

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カオティックな映画でパズルのような作りだが、
カミムラと人妻の一種の不倫関係を軸に話が進むから“ストーリーの路頭”に迷うことはない。
そこに亡くなったカミムラの妻の幻影が重なって物語はふくらむ。
人生を翻弄されたフリークスのシャルロットや、
東日本大震災以降の福島県で国からも村人からも見捨てられつつ
よろず屋を営業している怪しい主人と孫娘と共に共同生活。
まもなく「より遠く、より速く、逃げる」終盤に加速していく。

そんな調子で、
フランスで物語が始まるも
いつのまにか昭和30~40年代の日本と2011年以降の日本の邂逅の渦に突入する。

大疾走

岩名監督がよく観ていた60年代のATG作品や70年代の日本ヌーベルバーグの映画を思い出す。
若松孝二の初期作品などのあの時代のアンダーグラウンドの邦画の匂いがしてくる。

と同時にポーランドのイエジー・スコリモフスキ監督の一連の映画にも、
エロチック感覚やユーモア、さりげない政治のダシの刷り込みの点で通じる。
本作みたいな激しいセックス・シーン無しとはいえ、
特にスコリモフスキの60年代の映画を想起するアナーキーなコマ割りやリズムを彷彿とさせる。

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もちろんノスタルジックな作品とは一線を画し、
やはり日本でずっと生活している監督とは一味違う感覚に目が覚める。
邦画伝統のジメジメしたムードや最近のサブカル系邦画に目立つグダグダした雰囲気はなく、
彫りの深いモノクロ中心の映像をはじめとして
研ぎ澄まされて適度に乾いた質感でつまずきながらゆっくりと疾走する。

171分もある。
だがこの映画に無駄はない。
グレイトな映画のすべてがそうであるようにすべてのシーンが必然だ。
基本的には落ち着いた佇まいでどちらかというと寡黙な映画だが、
示唆に富む数々のセリフ、
映画の話の筋を補強するシンボリックな映像、
現代音楽風の曲や様々な軋みの音、
といったものの挿入もストイックで引き締まっている。
何しろ映像そのものに、
アイテム一つ一つを丁寧に映しこむことに“理由”があるディテールへのこだわりを感じる。

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純なプラトニック・ムードから混じりっけなしの交尾シーンに突入する落差がリアルで、
日本出身の監督の映画でこれほど“スケベ”なシーンに魅せられた作品は久々だ。
セックス場面に時間を割いている映画は内外問わずその生々しさで全体の出来が決まる。
ぼかさず性器露出せずのプリミティヴな絶妙の手法も織り交ぜ、
セックスというより性交という言葉がふさわしいナマの容赦なき描写にひたすら息を呑む。
しかも体位を変えて何度も重ねる廃屋における“まぐわい”は、
主人公の“トラウマこだわり”ゆえにすべてガラスの上で行なわれる。
二人を覗き見する男の“性行為”も含めて生きている証しとばかりにすべてがエネルギッシュだ。

そういった人間たちの性の営みのかたわらで
ヒトという種以外の牛や昆虫や魚などの生物の息遣いを絡めたところも特筆したい暗示である。

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フリークスのシャルロットは映画が始まってしばらくはアクセント的な脇役に見えるが、
映画のタイトルに名前が使われているようにも
終盤に向かうにつれて本作の象徴的なキーパーソンであることがわかる。
彼女の様々な“肉体”が放つ光は覚醒の調べ。
まさに“すさび”の肝だ。

映画に限らずグレイトな表現のすべてがそうであるように、
“これが正解!”といった調子で白黒つけて押しつけることのない作品である。
僕は試写会で一回観ただけだが、
観るたびに違った“表情”が見えてきそうなほどディープな示唆に富む。

結論なんか知ったこっちゃない。
意識が触発されることがいちばん大切だから。

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★映画『シャルロット すさび』
企画・製作:Solitary Body/2017年日仏映画/171分/白黒+パートカラー/16:9/デジタル撮影
10月6日(土)~19日(金) 東京新宿K’sシネマにて2週間上映で、
全国順次ロードショー予定。
なお、9月28日(金)には東京上映・記念イベントが
小田急線成城学園駅前のアトリエ第Q藝術で行なわれる。
http://www.iwanabutoh.com/film/susabi/indexJP.html


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映画『教誨師(きょうかいし)』

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大杉漣の最後の主演作で、
大杉が演じる教誨師と6人の死刑囚の対話を中心に描く“問題作”。
大杉がプロデュースした最初で最後の映画でもあり、
編集を終えて完成した作品を今年2月に急逝する前に見届けている。

オフィシャル・サイトから引用させてもらうと教誨師は、
“刑務所や少年院等の矯正施設において、被収容者の宗教上の希望に応じ、
所属する宗教・宗派の教義に基づいた宗教教誨活動(宗教行事、礼拝、面接、講話等)を行う
民間の篤志の宗教家”である。
2017年末の時点では仏教系が過半数を占めているらしいが、
大杉の役はキリスト教だ。

脚本と監督は、
『ランニング・オン・エンプティ』(2009年)で商業映画監督デビューした佐向大。
大杉のマネージャーの父親が教誨師をしているというのもあって話が進んだという。

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オフィシャル・サイトに載っている文章をアレンジして以下にあらすじを載せる。

大杉漣がプロテスタントの牧師の教誨師である佐伯として月に2回拘置所を訪れて面会する死刑囚は、
以下の6人だ。

うんともすんと言わない日々が続いた“自己箝口令”の鈴木(古舘寛治)。
おせっかいで立ち合いの警官に食ってかかるも実は小心者のヤクザの組長の吉田(光石研)。
関西出身のおしゃべりな中年女性の野口(烏丸せつこ)。
面会にも来ない我が子を思い続ける所帯持ちだった気弱な小川(小川登)。
学がなくていいように使われた成れの果てが老年ホームレスの進藤(五頭岳夫)。
ひたすら反抗的な若者の高宮(玉置玲央)。

いずれもクセモノながら教誨師の佐伯は対話を続ける。

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死刑囚が自らの罪をしっかりと見つめ、
悔い改めることで残り少ない“生”を充実したものにできるよう、
佐伯は親身になって死刑囚の話を聞いて聖書の言葉を伝える。

独房で孤独に過ごす死刑囚にとって佐伯は良き理解者であり、
とにもかくにも聖書云々以前に格好の話し相手だ。
一方で佐伯は死刑囚に寄り添いながらも自分の言葉が本当に届いているのか、
死刑囚が心安らかに死ねるよう導くのは正しいことなのか苦悩していた。
なかなか思い通りにはいかず、意図せずして相手を怒らせてしまったり、
いつまで経っても心を開いてもらえなかったりという苦難の日々が繰り返される。

それでも少しずつ死刑囚の心にも変化が見られる。
死刑囚たちと真剣に向き合って葛藤することで佐伯は、
自分が教誨師になったきっかけとも言える重い過去に思いを馳せ、
自分の人生と向き合うようにもなっていく。

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教誨師・佐伯の人生を変えた中学生時代の“事件”の再現シーンと、
仕事を離れて安穏とした大杉の日常の一コマを映し出す最後の最後のシーン以外は、
拘置所内の対話室のみでの撮影だ。
佐伯と死刑囚一人一人はテーブル越しにほぼ着席したままの対話シーンのみで、
極めて限定されたシチュエーションだから必然的に一人一人の動きも限られている。

その中でどう一人一人が表現していくかの映画でもあるが、
だからこそ役者としての腕の見せどころで、
役者としての力量が試される映画でもある。
果せるかな全員が彫りの深い演技でうならされるのであった。

しゃべりの比重の高い映画にはダレがちな僕だが、この映画は違った。
言葉を発する声のトーンやタイミング、
何より人生が刻み込まれた表情で魅せる。
大杉連をはじめとして、
出過ぎたことをしないバイプレイヤーの俳優が中核の映画ならではの妙味と渋味が効いている。
特にこの教誨師の役は大杉にしかできない落ち着いた名演だ。

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6人死刑囚が何をしでかしたのか詳しくは説明されない。
ヤられた人間たちに対する言及はほとんどない。
あえてぼかしたのだろうが、
教誨師・佐伯との対話から僕が想像できた3人に関して勝手に書かせてもらう。

一人はストーカーで“妨害”した相手の家族もろともヤったようだ。
一人は家業が廃れて困窮化した末に子どもを馬鹿にされてヤったようだ。
一人は一昨年の相模原障害者施設殺傷事件に通じることをヤったようだ。
特に大量殺人を犯した上記の三人目は、
シニカルかつシンプルな知的武装のトークで大杉を言い負かし続け、
冷笑を絶やさず大杉の矛盾を突いて偽善を暴こうとする。

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永久にシャバに出られず“どうせ殺される”という気持ちゆえか、
実際の死刑囚も反省が感じられない人が多いという話も聞く。

いつその日が訪れるかわからない日々の中で、
早かれ遅かれ早朝にお呼びがかかって首吊りで死ぬことがわかっているからか、
この映画のどの死刑囚からも開き直りと達観のユーモラスな揺れが感じられる。
そのへんは俳優たちの演技力の賜物で、
死の恐怖か追い詰められているからかそのうちの2人は幻覚や妄想にとらわれてもいる。

そんな中で教誨師の佐伯は会話・・・
いや死刑囚の内面としっかり向き合った対話を試みる。
死刑囚にとっては寂しい毎日の中で体のいい雑談相手でいくら突っ込みを入れられようが、
佐伯は真剣勝負の対話を誠実に続けていく。
もちろんそこに音楽を挿入する余地はない。

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オフィシャル・サイトに書かれているから明かすと、
教誨師の佐伯が一人の死刑囚の最期に立ち会うシーンが終盤に用意されている。
“愛のクライマックス”の中で真っ暗になる。

その緊迫のピークで唐突に幕を下ろすのもありだと思ったが、
“もう一山”用意されている。
最後の最後に佐伯に対しての“逆襲”みたいに聖書の一節が不意に叩きつけられるから、
油断しないで見届けていただきたい。
その言葉に監督がメッセージを託したようにも思え、
そのシーンをあえて入れたところに監督の意思が感じられた。

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★映画『教誨師』
2018年/日本/114分
10月6日(土)全国ロードショー。
http://kyoukaishi-movie.com/


映画『あのコの、トリコ。』

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幼いころから俳優を目指していた幼馴染の三人が織り成す青春ラブストーリー映画。

映画『BLEACH』にも出演した吉沢亮が主演を務め、
映画『悪と仮面のルール』やテレビドラマ『チア☆ダン』にも出演した新木優子がヒロインを務め、
昨年公開の映画『覆面系ノイズ』にも出演した杉野遥亮が三角関係の一角を務めている。
内田理央、高島礼子、岸谷五朗、古坂大魔王らが脇を固めた。

白石ユキの同名少女コミックが原作で、
浅野妙子が脚本を担当し、
テレビをメイン舞台に活動していた宮脇亮の初の映画監督作品だ。

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“イケメン/アイドル映画”と言ってあなどることなかれ、である。

まず普段の活動フィールドの芸能界が舞台だから俳優陣に違和感がない。
実のところ序盤はぐだぐだ中途半端で「やっぱこりゃだめかなぁ~・・・」と思いながら観ていた。
けど出来の悪いラブコメ映画から純愛映画に加速していく流れの緊張感の中で目が覚め、
クライマックスまで一気に持っていくまっすぐな映画である。
ベタな物語でも可能性は無限ということをあらためて思いながら、
“青春は永遠だ”というリアルな力をさりげなくもらえるから好きだ。

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引っ込み思案で自分に自信のないメガネの鈴木頼(吉沢亮)は転入した高校で、
幼馴染の立花雫(新木優子)と東條昴(杉野遥亮)と再会。
3人はかつて子役オーディションを一緒に受けた“仲間”でもある。
快活な雫は幼いころからの夢の女優を目指して高校に通いながらモデルの仕事をし、
色々な面で頼のライバルの昴も高校に通いながら人気若手俳優として活動していたが、
性格的な問題で夢をあきらめていた頼は引け目を感じずにはいられなかった。

でもひたむきな雫を見ているうちに恋心が芽生え始めたところで頼は、
ひょんなことから雫の芸能界での付き人をするハメになる。
子どものころから体を張って支えてきた雫にとっての使い勝手のいい男になって頼の運命は急転し、
ひょんなことから俳優をすることになる。
独特の存在感ゆえにプロデューサーに認められた結果だが、
子どもの頃から勝ち誇ってきたライバルの昴が頼の前にまたしても立ちはだかる。
付き人とモデル/女優の関係を超えつつあった頼と雫との関係にも入り込み、
持ち前の強引さで昴は共演相手の指名に留まらず公の場で雫との仲をアピールする。
昴と“同じ土俵”に立った頼は俳優同士ならではの“タイマン勝負”に出る。

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人が良すぎて疲れているからか子どもの頃からボソボソ口調で俳優として致命的だった頼、
子どもの頃から過剰なほどの自信家で傲慢な昴、
イケイケ快活に見えて強気の裏で弱気が顔を出す臆病な雫、
といったキャラ分けがはっきりしていてメリハリがある。
けど明快な映画とはいえ大味に陥ってない。
3人とも自分の役にしっかり入り込んで微妙な感情もまっすぐ表現して演じている。
頼りなげに見えて実は頼りがいのある頼の顔つきが“進化”していく流れも見どころだ。

新木優子もそこに居るだけで場の空気を変えるオーラを放っている。
『non-no』の専属モデルになる以前から女優をしていたからこの映画と同じではないが、
“モデル上がり”が本格的な女優を目指す苦闘を自身の経験も踏まえて演じた気合を感じる。
やや長身のモデル体型の強みを活かしてダイナミックにハジけた演技とファッション・センスも見ものだ。

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映画の大半のシーンを占める芸能界が舞台で、
その仕事の裏側みたいなものを見ることができるからやっぱり目が離せない。
現実はこれほど単純ではないのかもしれないが、
それでも実際の業界にもあり得るネタもたくさん盛り込んでいてリアルだ。

芸能界でやっていくことの葛藤、
運をつかむかどうか、
殻を破る挑戦、
撮影でどこまで脱げるかさらせるか、
恋愛を含む人間関係などなど、
芸能人である同時に一人の“個”としてどう向き合うかが上手く描いている。

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メインの3人をはじめとしてしっかり発声してセリフを言っているところも大いに特筆したい。
地声が大きくても“通らない声”があるように根本的な発声の問題だ。
実際3人は映画の中で“劇中劇”にも出演しているとはいえ、
小さな声でセリフを言うシーンでも舞台での演劇の発声で声を出している感じで、
これほどはっきりと言葉が聞こえる邦画は久しぶりだ。
3人それぞれのこの映画に対する思いと俳優活動に対する意思も感じた。

最近の邦画で目立つ無駄がなくてテンポがいい。
続編を期待させる余韻を残すラストもおせっかいじゃなくて好きだ。


★映画『あのコの、トリコ。』
99分
10月5日(金)全国ロードショー。
http://toriko-movie.jp/


映画『オーケストラ・クラス』

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音楽に触れる機会の少ない子どもたちに無料で楽器を贈呈して音楽の技術と素晴しさを教える、
フランスの情操教育プログラムのプロジェクトにインスピレーションを得た映画。
みんなで力を合わせてがんばろう!が基本のシンプルでベタな物語だが、
さりげなく社会問題などのスパイスを盛り込んで物語がふくらみ、
いかにもの感動ものとは一線を画すクールな描き方に貫かれているからこそリアルな佳作である。

『コーラス』など音楽映画の名作をプロデュースしてきたニコラ・モヴェルネが製作し、
パリ管弦楽団の本拠地として知られる大規模コンサートホールの
“フィルハーモニー・ド・パリ”の全面協力を得て創られている。
クラシックに対するアカデミックな見方をゆるやかにくつがえす力も持っている映画だ。

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移民の子どもたちが多く集まるパリ19区の小学校へ、
音楽教育プログラムの講師としてやってきたバイオリニストのシモン。
6年生の生徒たちにバイオリンを教えることになるが、
やんちゃで集中力に欠ける子どもたちに一から教えるのは難儀でまもなく挫折。
でも音楽に積極的でバイオリンの才能を持った内気な少年のアーノルドと出会い、
一年後に開かれるフィルハーモニー・ド・パリでの演奏会を目指すことをシモンは決意し、
生徒の悪ガキのイタズラや暴言と思いもよらぬトラブルもプラスに転化していく。

大ざっぱに序盤のあらすじを書いてみたが、
紆余曲折があるにしろわざとらしく盛り上げるところがまったくない。
もちろん楽器初心者ならかなり練習しないと演奏会で弾けるぐらいの腕にはならないだろうが、
必死なシーンを必要以上に見せはしない。
それよりも大切な感情の揺れと意識の流れを、
生徒たちの自主的な姿勢を通してていねいに描き込んでいる。

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講師のシモンをはじめとして大人たちの演技も自然体だが、
子どもたちの演技もみな地のキャラでやっているとしか思えないほどナチュラルである。
監督によれば、
この映画の前半の練習シーンみたいに30秒もじっとしていられない子どもが多かったらしい。
子どもたち同士のちょっとしたケンカも含めて、
撮影中の予期せぬ行動もそのまま撮って編集して本編で使ったと思える映像だからこそリアルだ。

そういった子どもたちのイタズラぶりを盛り込みつつハチャメチャに仕上げず、
映画のテーマを際立たせる落ち着いた編集も特筆したい。
邦画をはじめとして時間の無駄でしかないダラダラしたシーンが目立つ映画にはゲンナリする。
やっぱり映画の出来はeditで決まる。
この映画には甘えがない。

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講師のシモンが中心になって話が進んでいくが、
主役は内気な少年のアーノルドをはじめとする子供たちだ。
移民の子どもたちゆえに様々な人種で構成されているところもポイント。
白人、黒人だけでなくアジア系の子どもの顔も見える。

アフリカのアルジェリアなどの植民地を支配していた国だけに
フランスは昔から移民問題を抱えていて事件も起こる。
この映画に政治的な要素はほとんどないが、
バイオリンの音だけでなく老若男女多人種の“混血”のハーモニーが
いかに美しくエキサイティングであるかもスクリーンと劇場内に広がる。

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バイオリン演奏をみんなと一緒に覚えていく中で、
子どもたち同士の関係もいい意味で淡くクールだ。
言いたいことを言い合う友情や微笑ましいロマンスが溶け込み、
仲間意識がゆっくりと芽生えていく流れが素晴らしい。

とある事の後にファミレスみたいな所で“打ち上げ”みたいな会食が催された時、
親や講師らの大人と子供たちとでテーブルを分けて好き勝手にくっちゃべるシーンがある。
大人たちの話も面白いが、
やっぱり子供たちのが痛快だ。
ちょい下品でエッチネタも絡めてラヴ話もやりあう“ませガキ”ぶりが楽しい。
子どもたちの本音トークを台本無しで好き勝手にやらせていると思えるほど生き生きしている。
子どもが発音しようがフランス語の響きが妙にエロチックなのも効果的で、
みんな大人びて見える。

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いわゆるプロの音楽家として行きづまっていて自分の方向性に迷いも感じていた講師のシモンが、
子どもたちにインスパイアされて少しずつ音楽に対する意欲を取り戻し、
それまでとは違う気持ちで音楽に向き合うようにもなっていく過程も見どころだ。
お互いをゆっくりとリスペクトし合っていく流れとも共振している。
最初はお互いウンザリでもゆっくりと大人と子供たちがリスペクトし合っていく。
とりわけシモンが子どもたちに敬意を表してくことで物語がポジティヴに開かれていき、
さらに親が子どもに敬意を示すことで物語はゆっくりと加速する。

押しつけがましいメッセージを残して幕を締めることなく、
静かな余韻を残すシンプルなラスト・シーンも好きだ。

音楽が持ち得るちからをあらためて知る。

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★映画『オーケストラ・クラス』
2017年/フランス/フランス・アラビア語/102分
8月18日(土)より、
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。
http://www.orchestra-class.com/


映画『2重螺旋の恋人』

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一人の女と双子の男が織りなす“前代未聞の三角関係”を描くフランス映画。
フランスならではの官能美に覆われた心理ミステリー&サスペンス作品で、
どこもかしこもフランスの匂いがたまらない。

1967年パリ生まれのフランソワ・オゾン
[『8人の女たち』(2002年)、『スイミング・プール』(2003年)他]が監督・脚本。
オゾン監督の『17歳』の主役を務めたマリーヌ・ヴァクト(2013年)が主演を務め、
『最後のマイ・ウェイ』(2012年)で主役を務めたジェレミー・レニエが双子二役を演じている。

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クロエは原因不明の腹痛に悩む25歳の女性。
精神分析のカウンセリングを受けることで痛みから解放された彼女は、
お世話になった分析医のポールと恋に落ちて同居を始める。
そんなある日、クロエは街でポールそっくりの男を見かけ、
まもなくポールの双子の兄で同じく精神分析医のルイと判明。
ポールがルイの存在を隠していることに疑心暗鬼になったタイミングで、
クロエは“謎”を探るべく偽名を使ってルイのクリニックに通い始めるも、
優しく穏やかなポールとは反対に傲慢でサディスティックなルイに引きつけられていく。

オフィシャル・サイトに載っているあらすじを多少アレンジして転載させてもらったが、
ここから中盤に話が展開していくストーリーだ。

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やさしい男と付き合うも冷たい男に惹かれていくストーリーは“定番”ではあるし、
双子がキーワードになると物語もふくらむものだが、
じっくり練られたシナリオの妙味に最後まで持っていかれる。
静かな映画でありながらテンポがいい場面展開も特筆したい。

双子の二人とも“表”と“裏”、
そして“過去”がある。
二人とも精神分析医だけに
無意識そして意識的に“患者”であり“恋人”“愛人”のクロエを翻弄していく。
一時安定してきた精神が揺さぶられて肉体に溺れていく流れは、
切っても切れない“body and sou”の関係そのもの。
クロエの肉体に“秘密”が眠っていたことも明らかになっていく。

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ストーリーだけでなく映像も観ている者の肉体と精神に揺さぶりをかけてくる。

いきなり“とある部分”の拡大映像がスクリーンに映し出されて何事か!?と驚かせるが、
この映画が心理的なだけでなく肉体的な映画でもあることを示唆するかのようだ。
以降も要所要所で大胆な映像が観る者を引き込み、
R-18指定も納得のセックス・シーンも強烈だ。
それが淡泊な映像だとこの映画は締まらないほど大切だが、
もちろんダラダラ必要以上に長引かせず、
ある意味ストイックな見せ方でエロチック(not エロ)な動きを鮮やかに見せる。

フレームの切り取り方やカメラ・アングルも絶妙だ。
映画の大半の部分を占める“二人”の映し方も含めて、
要所にシンメトリーがスクリーンに広がり、
映画を観ている者が“目撃者”となる。
ひんやりしたクールな映像の色調も映画全体の緊張感をひそかに高めている。

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フランス語の響き自体もやっぱりエロチックだ。
フランス語は落ち着いたトーンにも聞こえるし、時に傲慢にも聞こえ、
そういった特徴が双子のポールとルイのキャラの違いに表れている。
さりげなく映像に溶け込んでいくアンビエントな音楽も心理描写に一役買っている。

映像、脚本、音声、演技などなど、
総合“アート”表現の映画の醍醐味が堪能できる佳作だ。

★『2螺旋(らせん)の恋人』
2017/フランス/1時間47/カラー/スコープ/5.1ch/原題:Lamant Double/ 日本語字幕:松浦美奈  
84()、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開。
配給:キノフィルムズ R-18
©2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU 
www.nijurasen-koibito.com

 

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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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