FC2ブログ

なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

★映画『アンナ』[デジタルリマスター版](アンナ・カリーナ主演の1966年のフランス映画)

_convert_20190908171800.jpg


『気狂いピエロ』(1965年)をはじめゴダール作品に多数出演したアンナ・カリーナが、
『いとこ同志』(1959年)で知られるジャン=クロード・ブリアリと繰り広げる1966年の作品。
役者としても存在感ありまくりのセルジュ・ゲンスブールによる作詞・作曲の曲も相まって、
目がくらむほど高濃度のフランス臭にひたすら圧倒される強烈ポップな“ミュージカル”だ。
歌い手としての出演ながら、
“女優”マリアンヌ・フェイスフルの初期作品としても知られている。

今回は4Kでリマスター作業された“デジタル・リマスター版”で、
21年ぶりの上映とのことだ。

_convert_20190908171439.jpg

アンナ(アンナ・カリーナ)は田舎からパリにやってきた“メガネっ娘”。
広告代理店の社長のセルジュ(ジャン=クロード・ブリアリ)は、
駅の構内で撮影したポスターに偶然映り込んでいた“彼女”に一目惚れする。
セルジュはあり余る資金と人を使ってパリ中を探しまわり、
そんな彼の思いに気づいたアンナだったが・・・・・。

オフィシャル・サイトの文章を多少アレンジしながら、
例によってかなりぼかして物語の大筋を書いてみた。

_convert_20190908171628.jpg

奇想天外なラヴコメとしても楽しめるが、
シンプルなストーリーの面白さもさることながら、
これぞ映画!と言うべき映像と音楽の極上ブレンドに酔いしれるばかりだ。

まず今回のデジタルリマスターでポップにハジけたカラフルな映像に魅せられる。
極彩色ながら鮮やかすぎず渋味も効いた粋な味わいのディープな映像色になっていて、
ファッションはもちろんのこと、
ダンスと言えるシーンだけでなく人物の普段のナチュラルな動きもバッチリ堪能できる。
やっぱり仕草ひとつとっても表現とあらためて思わされるのだ。

_convert_20190908170937.jpg

今回のデジタルリマスターによって生き生きと響く音楽の比重もたいへん高い映画である。
ほとんどの場面に曲が入っていて大半が歌もので連なっている作りがポイントで、
すべてのシーンがつながっているかのような作曲と編集がこの映画のテンポを決定づけている。

なにしろゲンスブールが鬼才ぶりを発揮した楽曲群が筆舌に尽くしがたい。
アルバムごとに作風が違っても同じ匂いの音楽家という才覚を発揮し、
フレンチ・ポップからR&Bまでポピュラー・ミュージックを“総ナメ”。
フランス語の響きも相まって全曲妖しくパワフルでとろける。
もちろん歌詞の和訳も字幕表示され、
ポリティカルなニュアンスの歌詞の曲もゲンスブール流の痛烈な言葉に痺れるのであった。

いわゆる渋谷系好きの方々が必見なのは言うまでもないが、
徹底した作りだから“ザ・フランス!”な映画が苦手な方も体験の価値あり。

_convert_20190908171154.jpg

★映画『アンナ デジタルリマスター版』
出演:アンナ・カリーナ/ジャン=クロード・ブリアリ/セルジュ・ゲンスブール/マリアンヌ・フェイスフル
製作:ミシェル・アルノー 作詞・作曲:セルジュ・ゲンスブール 
音楽監督:ミシェル・コロンビエ 撮影:ウィリー・クラント 衣裳:アニー・フランク 
美術:イザベル・ラピエール 監督:ピエール・コラルニック
1966年/フランス映画/86分/カラー/4Kデジタルリマスター版
配給:マーメイドフィルム / コピアポア・フィルム 宣伝:VALERIA 
© INA – 1966 / Images from the movie Anna directed by Pierre Koralnik

9/27(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。
HP: anna2019japan.com


スポンサーサイト



映画『お嬢ちゃん』

main_convert_20190904180429.jpg


『枝葉のこと』(2017年)を手掛けた二ノ宮隆太郎監督の大胆な作りで、
主演・萩原みのりが光る地味でユニークな“ひと夏の青春映画”。
監督自身が主演だった『枝葉のこと』もぶっきらぼうな作品だったが、
こちらもなかなか静かにぶっとんで徹底的に突き放している。

sub02_convert_20190904180754.jpg

神奈川県鎌倉市で暮らす21歳のみのり(萩原みのり)は、
ややワケありの家庭で父方の祖母と暮らしている。
常連だけでなく観光客も立ち寄る和風ラーメンが人気の小さな甘味処でアルバイトをしているが、
いつも所在なさげ。
そんなみのりを、
バイト先の店のただの客も含めて多少なりとも関わった人間を通して炙り出す。

目を引くルックスの21歳の女性ならではの出来事を多少含むとはいえ、
“事件”を期待させるネタもちりばめつつ“腰砕け”で次に転換していく。
あくまでも淡々と130分の時が流れる空漠の心象風景がこの映画の肝だ。

sub07_convert_20190904181202.jpg

主人公みのりに尽きる。
萩原みのりに尽きる。
彼女の映画は今後も絶対に観たいと思わせる力がある。

僕は知らず知らずのうちに萩原が出演した映画をけっこう観てきた。
2017年の『一礼して、キス』『心が叫びたがってるんだ。』では脇役だったが、
2018年の『えちてつ物語〜わたし、故郷に帰ってきました。〜』ではわりと目立ち、
ほのぼのストーリー中でやっぱりキツメの役柄だったから印象に残っていた。
それにしてもここまで強力な女優さんとは思わなかった。
色々な意味でクール極まりない。
萩原の魅力を120%引き出した監督も見事だ

sub03_convert_20190904180901.jpg

冷めている。
覚めている。
ニコリともしない。
媚びず驕らず裏表なく生意気にも見えるほどまっすぐである。
だからこそ情に厚く思いやりがあることもちょっとした行動に表れている。

2004年のテレビ・ドラマ『Deep Love〜アユの物語〜』における岩佐真悠子の演技も思い出したが、
萩原はキャリアを積んでいるだけに深い。
意志はあやふやでも意思が宿っていることはも
突き刺して相手の胸の奥を読み取る目力に表れている。

sub10_convert_20190904181731.jpg

試写会の時に関係者からいただいた資料で萩原はこう語っている。
「監督からこの映画の主演依頼をされた時、いろんな薄っぺらさに嫌気がさして、
周りのことも自分のことも大嫌いで、役者を辞めることばかり考えていました
この作品は私の、役者を続ける、役者で生きていく、という決意の作品でもあります」
“女優”ではなく“役者”という言葉を使うところに彼女の泥臭さが表れているが、
何より『お嬢ちゃん』のみのりが萩原そのものに見えてくる言葉である。

どこまで素のままでどこから“演じた”のかわからないほどリアルだ。
配役に憑依したかのように一体化している。
一瞬セリフを飲み込んでから言いたいことをストレートに吐くタイミングも
一瞬の気持ちの葛藤が生々しくて筆舌に尽くしがたい。

sub09_convert_20190904181346.jpg

この映画の登場人物のすべてではないが、
みのりと多少なりとも接した同年代~二十代と思しき人間のほぼすべてが、
くだらない。
うだうだうだうだ、目的もなく、虚無でもなく、“いわゆる友達”とつるんでやりすごす。
二組の男の集団は悲惨そのものだが、
みのりの女友達たちも根は五十歩百歩。
こういうのが一般的だとしてもこんな馴れ合いは死ぬほど退屈で、
あきれながらずっと見続けるのにもけっこうエネルギーが要る。
だがその合間合間で、
みのりが目と顔と体と言葉と声でぬるい空気を斬る。

sub01_convert_20190904180549.jpg

試写会でいただいた資料で監督は、
「上映時間、130分間の映画の大半はくだらないかもしれません」と言っている。
たしかに長い。
一種の耐久勝負である。
異様なほど無駄なシーンが多すぎると思いながら僕は観ていた。
でも観終わってみればこの映画だからこそすべて必要なシーンだとわかる。

極端な言い方をすればすべては、
みのりを輝かせるため。
素行に苦言も呈しつつみのりに謙虚に向き合って敬愛する祖母や叔母も、
みのりを輝かせる。

sub11_convert_20190904181831.jpg

サブカルが飛びつきそうなグダグダ感も漂っているが、
その中で、みのりは際立つ。
「どいつも、こいつも、くだらない」ってなニヒリズムの中から、
不義や不条理や不実を嫌う潔癖感があちこちから醸し出されているのもこの映画の好きなところだ。

ラスト・シーンで、みのりに惚れる。
確実に。


★映画『お嬢ちゃん』
2018年/130分
©ENBUゼミナール
新宿K’s cinemaにて9月28日(土)より公開。以降全国順次。
http://ojo-chan.com/


映画『青の帰り道』(Blu-ray/DVD)

ao_jk_sell_BD.jpg


大ヒット中の『新聞記者』も手掛けた藤井道人の監督で真野恵里菜主演の、
2018年12月公開の佳作『青の帰り道』が先週Blu-ray/DVD化されている。
発売日が2016年に起きた出演俳優の事件で撮影が中断した8月23日というところに、
お蔵入りになりかねなかった関係者の苦闘のこだわりが表れている。

この映画に対する思いは1万字でも2万字でも優に書けるが、
今夏のドリパス上映会場限定リーフレットで書かせてもらった文章などを元にネタバレ避けつつ、
このたび発売された“円盤”で観てあらためて思ったことも加えて簡潔にまとめてみた。

2_convert_20190829133142.jpg

群馬県前橋市と東京を舞台に高校三年生だった2008年から10年ほどの間の、
カナ(真野恵里菜)、キリ(清水くるみ)、リョウ(横浜流星)、タツオ(森永悠希)、
コウタ(戸塚純貴)、マリコ(秋月三佳)、ユウキ(冨田佳輔)の青春群像劇。
取って付けた陳腐な感動ものとは別種で何度観ても胸が“絞め”つけられる映画だ

真野が主演であることに間違いはないが、
7人全員が主役である。
びっくりするほどみんな演技が“すっぴん”だ。
日本の青春映画につきものの大仰で芝居がかった“発声”もまったくない。
一人一人方向性は違っても意志を感じさせるナチュラルな演技で、
一般的な二十歳前後の女性と男性に思えてくる。

ao_sub8_convert_20190829133410.jpg

青春映画につきものの仲間内のキワドイ恋愛ネタはほぼゼロ。
だからさりげなくストイックな空気に包まれている。
高校卒業後の7人の進路を追ったストーリーではあるが、
不器用な人間関係の裂け目から流れ出る“血と膿”がこの映画の核である。
自分が傷つくことには敏感でも、
とりわけ窮地に追い込まれた時に人間は他人を傷つける言動に鈍感になりがちだ。
特に友だちや家族に対しては一種の甘えもあって残酷な言動に出るもので、
この映画の中での清水くるみと森永悠希の熱演は“犠牲者”の負のエネルギーの昇華と言える。

主演を務めてきた人も含むとはいえ、
若手の“名バイプレイヤー”が集った映画ならではの瑞々しい渋味もポイントの映画だ。
実のところ『青の帰り道』の7人は数人ずつ他の作品で共演しており、
それも絡み合いにいい作用をしている。
人間関係の軋轢が見どころの中、
実年齢最年長の真野恵里菜と最年少の横浜流星の関係は配役を超えて特にスリリングだ。
まったく違う作風の同時期撮影のネット配信ドラマ『彼氏をローンで買いました』での二人を思うと、
腐れ縁のソウルメイトみたいで僕が本作の続編を観たくなる理由の一つである。
誤解を恐れずに言えば『青の帰り道』の中では“悪役”の二人だ。

ao_sub3.jpg

横浜流星にとっては大ブレイク直前の撮影の映画になったわけだが、
ルックスがいいだけに終わらないほど登場しただけで場の空気を変えるエネルギッシュな演技で、
半グレ街道まっしぐらながらリアルな俠気による終盤の一撃もクールだ。
彼が演じるリョウがいわゆる“反社”だけに、
この映画が正義や正論を説く品行方正な感動ものとは一線を画したリアリティを増す一因にもなっている。

真野恵里菜はテレビドラマ版『みんな!エスパーだよ!』に次いで、
“学級委員長キャラ”の殻を破った強気の演技で魅せる。
2000年代後半以降で希少なアイドル・ソロ歌手出身ならではの経験を活かした役柄で、
一人で大きなステージに立ってきた“パフォーマンス力”により一般の女優とは一味違う演技が光る。
『青の帰り道』のカナは真野しか出せない清楚感とポップ感と妖女感を内包し、
本物のアルコールを浴びるように飲んでいたように見えるほど真野が堕ちていく様も色っぽい。
“セックス、ドラッグ&ロックンロール”な役を演じる日も遠くない気がするほどだし、
中盤以降に加速していく“どS+自虐キャラ”にも痺れる。

ao_sub1.jpg

映画の中で真野恵里菜が着ているTシャツのデザインが暗示的なのも興味深い。
レコード会社の人と会う前で意気揚々とした気持ちの時に着ているのが、
“元気者”のハード・ロック・バンドのAC/DCのTシャツ。
“雲行き”が怪しくなった後半のとある場面で着ているのが、
ヤク中(ディー・ディー・ラモーン)とアル中(マーキー・ラモーン)のメンバーを擁した
RAMONESのTシャツ。
関係者の意思を感じる。

そして渋谷 Ruido K2でのライヴの際に着ているTシャツのNIRVANAが『青の帰り道』の肝だ。
地元でのカナ(真野)の音楽的パートナーだったタツオ(森永悠希)の部屋の中も
NIRVANAやカート・コバーンのアイテムがいっぱいなのである。
(目立つところに置かれたマーク・スチュワートのシングル「Consumed」をはじめ、
何度も映し出される室内がマニアックかつロックなブツ散見だから要注意)。
自転車に乗って7人が盛り上がっている『青の帰り道』のメイン・イメージ写真が、
NIRVANAの大ヒット・アルバム『Nevermind』のジャケットみたいに青みがかっているのも必然だ。
『青の帰り道』を覆う焦燥感、漂泊感、空漠感、フラストレイションが
NIRVANAと共振しているからである。

3_convert_20190829133911.jpg

71分の特典映像も充実している。

目玉は約6分の<未公開映像>。
完成までの過程でカットしたと思われるシーンがいくつかまとめられているのだが、
本編を観た方なら「えーっ・・・こんなシーン撮っていたの!?」と驚く秘蔵映像ばかりだ。
これらのシーンを入れていたら物語の流れが変わって映画全体の印象も違っていたほどで、
『青の帰り道』がいかに贅肉を削ぎ落す編集を重ねてシナリオを練ったかがわかり、
喉から手が出るほど他のアウトテイク/お蔵入り場面が観たくなる“チラ見せ”映像集である。

続いては<メイキング映像>が約35分。
シリアスな本編の流れをくむように笑ってお茶を濁すNGシーンはなく、
『青の帰り道』を象徴する序盤とラスト・シーンや、
『青の帰り道』の節目になった“とあるシーン”を特にクローズアップしている。
藤井道人監督が出演者の“事件”で撮影中止~再開後に撮り直した時のことにも言及し、
出演者一人一人に対する的を射たコメントの数々も素晴らしい。
別撮りによる7人一人一人のコメント映像も特筆すべきで、
その最後を締める真野恵里菜の場面でDVD/BDの特典映像を観て初めて涙が出てしまった。

さらに撮り下ろしと思しき<スペシャル・トーク>が約30分ほど収められ、
藤井監督、清水くるみ、秋月三佳、冨田佳輔が
登場人物一人一人やamazarashiによる主題歌「たられば」などについて語り合っていく。

もちろん予告編も収録だ。


★『青の帰り道』
2018年/日本/121分(本編)+71分(特典映像)/カラー/シネマスコープ/
●ブルーレイ =DTS-HD Master Audio 5.1chサラウンド
●DVD=ドルビーデジタル5.1chサラウンド
出演:真野恵里菜/清水くるみ/横浜流星/森永悠希/戸塚純貴/秋月三佳/冨田佳輔/山中崇/淵上泰史/嶋田久作/工藤夕貴/平田満
Ⓒ映画「青の帰り道」製作委員会

映画『シンクロ・ダンディーズ!』

_メイン_convert_20190820141038


オッサンだらけのシンクロナイズド・スイミング・チームの奮闘を描いた2018年の英国映画。
中年しかも男のシンクロ・チーム映画なんてキツいだろうな~ってな感じで見始めるも、
あれよあれよというまに引きこまれた“まさかの感動もの”の快作だ。

監督はオリヴァー・パーカー(『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』)である。

シンクロ・ダンディーズ!_サブ2_3939

有能な会計士として大手企業に勤務するエリック(ロブ・ブライドン)。
会社と自宅の往復で変わり映えのない日々のなか、
政治家の妻(ジェーン・ホロックス)との夫婦仲は険悪、
息子にもバカにされ、張り合いのない人生を感じていた。
ついには、妻から家を追い出され、ホテル暮らしをすることになる。

そんなある日、
日課で通う公営プールで中年男性ばかりが集まるシンクロナイズド・スイミングチームと出会う。
ひょんなことからチームメンバー入りすることになったエリックは、
彼らとともにイギリス代表チームとして世界選手権に出場することに。
時にケンカしつつメンバーと深い友情を築きながら女性コーチの指導のもと、
エリックは厳しいトレーニングに励む日々に生きがいと活力を見出し始めるが・・・。

_サブ9_2902_convert_20190820141143

この映画は
スウェーデンの男子シンクロチームが世界選手権で成功を収めるまでの実話が元になっている。

実のところ日本では一足先に公開された同じく中年揃いのフランス映画の
『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』も同様だ。
けど元ネタが同じだろうが解釈とアレンジとお国柄でこうも違うのか!?という点で興味深い。
同じ実話が素材だけ結果は似ていても、
作り手の意識や意思によってまったく別の趣きになるのもまた映画の面白さだ。

_サブ8_0600_convert_20190820141212

この『シンクロ・ダンディーズ!』の方は会計士エリックを軸にした作りで、
焦点が絞られていてストレートだからわかりやすい話の流れだが、
油断できないほと実は深い。
年齢も職業等もまったく違う他のメンバーも適度にクローズアップ。
程良くキャラの立った“アウトサイダー集団”ということを浮き彫りにし、
適度な距離感でお互いを尊重する団結心による“やるときゃやるぜ!”ってな仲間意識で、
馴れ合い嫌いな僕もインスパイアされた。

“物事すべてそんなに上手くいくわけないだろ”って突っ込む余地無しの作りも見事。
成功しすぎない現実性がリアリティを高め、
映画の締めはスカッ!とビシッ!とキメている。
ウジウジしたセンチメンタリズムを寄せつけないテンポの良さもポイントで、
ポップなシリアス・コメディーとしても楽しめる。
たとえ一滴だろうが僕みたいなヒガミ屋の目からも“フィニッシュ”で涙を湧かすほど、
感動への持っていき方がさりげないところがまた心憎い。

シンクロ・ダンディーズ!_サブ3_3405

爆笑というより失笑を禁じ得ない感じの
毒気混じりでも悪意無しのイギリスらしい辛口ユーモアがピリリと効いている。
情けないペーソスも滲み、
邦題どおりの中年ダンディズムもイギリス臭くてたまらない。
映画全体を貫くクールなエネルギーもまたイギリスっぽく、
みんな見た目よりも若々しく普段の生活に問題があろうが根は元気者だ。
ちょっと若い素行不良のメンバーをはじめとして、
いわば中年パンクスみたいなノリなんである。

シンクロではないにしろ僕も二千メートルずつ週2回泳いでいるが、
水中で浮き動くことに慣れるとポジティヴな意識になると断言する。
大地から足も離れて何事にも縛られずに普段のわずらわしい拘束から解き放たれるからだ。
気分が落ちていても泳いだ後は、がんばるぞ!って気持ちになる。
この映画のシンクロメンバーたちにもそんな親近感を覚えるほど
みんな実にイイ顔をしている。

_サブ5_5250_convert_20190820141306

大会が終わっても映画は終わらない。
エリックが逃げの人生と決別するクライマックスが訪れる。
とある人を支援すべく人が集まる場で決行した“地上シンクロ・パフォーマンス”、
それに続く“ヴァイオレントな一撃”、
そして抱擁。

僕は同年代だけにこういう言い方は奇妙だが、
<エリックおじさん、カッコよすぎる。>
嫉妬するわ。

_サブ4_0954_convert_20190820141407

★映画『シンクロ・ダンディーズ!』
2018年/イギリス/スコープサイズ/96分/カラー/英語/DCP/5.1ch/
英題『SWIMMING WITH MEN』
監督:オリヴァー・パーカー 脚本:アシュリン・ディッタ
出演:ロブ・ブライドン、ルパート・グレイヴス、ジム・カーター、シャーロット・ライリー他
配給:キノフィルムズ
コピーライト:©SWM FILM COMPANY LTD 2018
公開表記:9月20日(金)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
http://synchro-dandies.jp/

<注>
シンクロナイズド・スイミングは、
2017年から競技名が“アーティスティックスイミング”に変わっています。


映画『ラスト・ムービースター』

メイン


『脱出』(1972年)、『トランザム7000』(1977年)、『ブギ―ナイツ』(1997年)で知られ、
昨年82歳で亡くなった米国のバート・レイノルズの最後の主演作である2017年の映画。
一周忌の9月6日(金)に日本でも公開される。

『デトロイト・ロック・シティ』(1999年)を手掛けたアダム・リフキンが監督で、
“いい映画だなぁ”と観た後に思わず漏らしてしまうアメリカ映画らしいシンプルな快作だ。

実話の再現ではないが、
レイノルズ自身をモデルにした映画らしく、
本人のエピソードなどをアレンジして物語に活かしてもいるからリアルに迫ってくる。
過去の出演作の映像をユニークに活用した“仕掛け”も心憎い。
レイノルズのファンの方が細かいネタ込みでたっぷり楽しめることは言うまでもないが、
知らない方も
落ちぶれた映画スターの人間味とささやかなしあわせにジン!とくること間違いナシの映画だ。

Sequence.jpg

一世を風靡したハリウッド俳優のヴィック・エドワーズ(バート・レイノルズ)のもとに、
とある映画祭から功労賞受賞の招待状が届く。
歴代受賞者がロバート・デ・ニーロやクリント・イーストウッドだと聞いて、
しぶしぶ参加したものの、騙しに近い名もない映画祭だと知ると、エドワーズは憤慨。

だが、その映画祭の場所は、彼が生まれ育った街のテネシー州ノックスビルに近く、
過去の思い出がよみがえる。
映画祭開催中のエドワーズのアテンド&運転手になったリル(アリエル・ウィンター)に
命じて向かった先は、
育った家、大学のフットボールで活躍したスタジアム、最初の妻にプロポーズした岸辺。
自身の人生を振り返ったエドワーズは、ある行動を起こす。

以上があらすじだ。

サブ3

エドワーズが呼ばれた映画祭は招待状に“国際ナッシュビル映画祭”と書かれていたが、
映画オタクがDIYで催しているアットホームなイベントだった。
経済的に可能な限りのもてなしをしてくれて熱い歓待で迎えてくれたはいえ、
ビッグな映画祭と思って出向いたにもかかわらず移動の飛行機や車、宿泊先はイマイチ。
到着してビックリした小さなパブでの自主上映会+ファンとの交流会みたいな催しに、
自分の落ちぶれぶりを思い知らされて元スーパースターのプライドも許さなかった。

中盤までエドワーズは嫌なクソジジイにしか見えない。
偏屈なアティテュードは自虐加虐も込みのユーモア・・・と解釈できるうちはまだ笑えるが、
酒をあおって短時間のうちに次々と起こすトゥー・マッチな行動がエスカレートし、
映画祭のメンバーたちも愛想をつかしていく。
でも車で“帰宅”途中に故郷の道路標示がふと目に入ったことが運命の分かれ道で、、
思い出の場所を巡っていく中盤以降にエドワーズはゆっくりとおのれを顧みていく。
とぼけていて傍若無人な素行で前半を貫くからこそ
終盤のシリアスな展開は落差も相まってグッ!とくる。

The Last Movie Star

この映画の最初から最後までキーパーソンになっているのが、
映画祭の主催者の妹ということでエドワーズの運転手をするハメになったリル。
レイノルズ以外の俳優たちも若手中心ながらみな好演で、
映画の物語に沿った感じでレイノルズと共演できる喜びが伝わってくるのだが、
そのリルを演じたアリエル・ウィンターが特に素晴らしい。
まだ21歳で今後が楽しみな女優である。

リルはスマホを肌身離さないイマドキのギャルでビッチなファッションに身をまとっているが、
生意気クールなようで根は純情かつ真面目だからこそチャラ男の彼氏に何度も騙され、
ちょい太目の体型も相まって憎めない愛嬌を振りまく。
ジジイ相手にやる気ゼロの序盤と生き生きした終盤とで顔つきが変わっているところもポイントで、
後半になってもワガママなところは変わらないエドワーズをコントロールするところにもシビれる。

サブ5

臨時運転手のリルとの時間で知らず知らずのうちに自分を省みていく意識の流れが
とてもナチュラルに描かれている。
“全盛期”はモテまくって5回離婚し、
映画の序盤から“老いてなお盛ん”なことを隠さないジジイのエドワーズが、
ひょんなことから超豪華なスイート・ルームでリルと過ごす時間がクライマックスだと思った。
でも本当のクライマックスはその後だ。

リルと回った“自分巡りの道中”で、
もはや映画オタクしか自分のことを覚えてないと思っていた“過小自己評価”を改めていく。
ほんとうの“自信”が湧くと人間って器が大きくなるもので、
敬意や感謝も自然と表すようになる。
驕り高ぶった“自分ファースト”の思い上がりを改めて大切なことに気づく。
今からでも遅くはない・・・死ぬまでに一番やっておきたいことをやらねば。

そしてエドワーズは数十年ぶりに心からの謝罪をする。
とある事情で面と向かってもエドワーズのことを誰だかわかってない一番大切な人に対して。

サブ4

終盤のエドワーズの“スピーチ”は、
まるで人生の最期を悟ったバート・レイノルズが伝えたい最後の思いを込めたかのようだ。
それぐらい熱く、グッとくる。

プライドは謙虚さがあってこそ輝く。


★映画『ラスト・ムービースター』
2017年/アメリカ/英語/104分/原題:The Last Movie Star
監督・脚本:アダム・リフキン
出演:バート・レイノルズ、アリエル・ウィンター、クラーク・デューク、エラー・
コルトレーン、ニッキー・ブロンスキー、チェヴィー・チェイス
(C)2018 DOG YEARS PRODUCTIONS, LLC
9月6日(金)に新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開
https://lastmoviestar2019.net-broadway.com/


 | HOME |  古い日記に行く »

文字サイズの変更

プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (11)
HEAVY ROCK (269)
JOB/WORK (344)
映画 (318)
PUNK ROCK/HARDCORE (0)
METAL (49)
METAL/HARDCORE (52)
PUNK/HARDCORE (458)
EXTREME METAL (142)
UNDERGROUND? (130)
ALTERNATIVE ROCK/NEW WAVE (144)
FEMALE SINGER (48)
POPULAR MUSIC (35)
ROCK (91)
本 (12)

FC2カウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

Template by たけやん