なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『PARKS パークス』

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東京・吉祥寺の井の頭公園100周年の年に公開される“音楽青春映画”。
現在と過去と未来をつなげる幻のラヴソングを完成させるべく、
橋本愛と永野芽郁と染谷将太が
井の頭公園を中心にして吉祥寺を舞台に繰り広げる物語だ。
『嘘つきみーくん~』『5windows』で知られる瀬田なつきが監督・脚本・編集を担当し、
トクマルシューゴが音楽を監修している。

サブ1*トリミングやアップで使う際は事前にご連絡下さい_convert_20170313105303

花見の名所としても知られる井の頭公園だけにオープニングは桜。
窓から井の頭公園が見下ろせるアパートの2階で一人暮らしをする純(橋本愛)は、
やることなすこと中途半端で逃げてばかりで卒業も危うい大学生。
そんな純のもとに突然、小説を書こうとしている高校生のハル(永野芽郁)が現れ、
二人はハルの父親の昔の恋人を探すうちに音楽スタジオで働くトキオ(染谷将太)の家を訪れる。
まもなくその恋人が残したプライヴェイト録音のオープンリールのテープを発見し、
それを再生してみると50年前の二人のデュエットが聞こえてきた。

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以上が序盤のストーリーだが、
純とハルとトキオの現在がメインながら、
ハルの父親の青春時代だった過去を“回想”しつつ、
純とハルとトキオの未来を見据える映画だ。

父親を題材にハルが書く小説も“もうひとつの脚本”みたいになっていて、
“ネタ”でふくらんだ想像でハルが50年前の父親を描く“再現フィルム”の過去が現在と交錯し、
時代を行き来する作りである。

昔の吉祥寺駅周辺の写真も適宜挿入。
井の頭公園の中はマイナー・チェンジはしても基本的なところは変わってない。
大切な思いは変わることはない・・そんなこともほのめかされているかのようだ。

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メイン出演者の3人の素朴で愉快な奮闘ぶりが見どころ。
言葉をキャッチボールしながらアドリブ多用でセリフを進めたように見えるほど息が合っている。
橋本愛(『告白』『あまちゃん』『古都』)がしっかり者のようでダメダメな女性を、
永野芽郁(『俺物語!』『こえ恋』『真田丸』)が一生懸命な謎の女の子を演じ、
染谷将太(『寄生獣』『ソレダケ/that’s it』『バクマン』)は
『みんな!エスパーだよ!』シリーズを思い出すメガネ姿でノリのいい男を演じている。
橋本はアコースティック・ギターで弾き語り、
染谷はラップも披露するが、
純とハルとトキオの三者三様のキャラや行動そのままに、
最後まで、つまずき、つまずき、ずっこける。
一致団結に成り切れないところにもリアリティを感じた。

石橋静河、森岡龍、佐野史郎、柾木玲弥、長尾寧音、麻田浩らが脇を固め、
吉祥寺バウスシアターの閉館時のスタッフでもあった井手健介をはじめとして、
高田漣などの吉祥寺に馴染みのミュージシャンらがミュージシャン役も務めてもいる。

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個人的には、
吉祥寺に32年暮らしてきて今住んでいるのが井の頭公園まで歩いて5分弱の所だけに、
後にも先にもこれほど自分が知っている場所ばかりの映画はないと思われる。
どこで撮ったか全部わかる。
家のすぐそばだから屋上で井の頭公園の全景を撮ったと思しきマンションまでわかってしまった。
かゆいところに手が届いたロケ地が現れるたびに顔がほころんだ。
吉祥寺進出が新しめで本作にふさわしい雰囲気のレコード店のCOCONUTS DISK、
レコーディングも行なうリピーターが多く本作を引き締める吉祥寺の老舗音楽スタジオのGok Sound、
多数営業する吉祥寺のライヴ・ハウスの中でも本作のムードに近いSTAR PINE'S CAFÉ、
さらにサンロード、ハモニカ横丁、井の頭自然文化園(動物園)、成蹊大学などなど
吉祥寺周辺の名所が続々で、
ちょっとした吉祥寺観光気分である。

日常からかけ離れた感覚を味わうのが映画の醍醐味の一つだが、
撮影場所があまりに日常すぎる映画を観るのもオツなもんだと思った。

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もちろん季節関係なく楽しめるが、
やっぱり春にピッタリだし、
映像もちょい寒色混じりの暖色の映画だ。
トクマルシューゴが監修した劇中音楽や相対性理論によるエンディング・テーマも相まって、
ポスト・ロックな趣の作品に仕上がっている。
と同時に『PARKS パークス』の鍵を握っている曲が象徴するように、
1970年前後のまったりした日本のフォーク・ソングを思わせる甘酸っぱい匂いも鼻をくすぐる。

ほんのりと淡いしあわせ感に包まれている。
まさに、井の頭公園の空気そのものの。
観ていると目的もなく井の頭公園の中を一人で歩いている時みたいに切なくもなった。


★映画『PARKS パークス』
2017年/日本/カラー/118分/シネマスコープ/5.1ch
4月22日(土)よりテアトル新宿、
そして4月29日(土)より吉祥寺駅から徒歩1分の老舗映画館・吉祥寺オデヲンでも公開!
ほか全国順次公開。
©2017本田プロモーションBAUS
http://parks100.jp


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映画“イタリア ネオ+クラッシコ 映画祭2017”

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東京・YEBISU GARDEN CINEMAで<イタリア ネオ+クラッシコ 映画祭2017>が開催中。
いわゆる古典と“新たなる古典”のイタリア映画18作品の上映で、
旧作のほとんどがデジタル・リマスター版だ。

ヴィットリオ・デ・シーカ監督の『自転車泥棒』(1948年)や
フェデリコ・フェリーニ監督の『青春群像』(1953年)などの、
1970年以前の映画が大半を占める。
『フェリーニの道化師』と『汚れなき抱擁』以外の14本はデジタル・リマスター版による上映で、
大半がモノクロ映像だが、
モノクロでもデジタル・リマスター版はいい意味で人物や事物を現物に近い感じではっきりと見せる。

一方で2000年代の映画は、
パオロ・ソレンティーノ監督の『もうひとりの男』(2001年)と『愛の果てへの旅』(2004年)、
マッテオ・ガッローネ監督の『ゴモラ』(2008年)である。

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(『無防備都市』の一シーン)

その中から『無防備都市』をデジタル・リマスター版の試写で観た。
ロベルト・ロッセリーニ監督による1945年の映画で、
<イタリア ネオ+クラッシコ 映画祭2017>上映作で一番古い映画でもある。
1943年~1944年の史実を基にし、
ドイツ軍に占領されたイタリア・ローマで反ナチ闘争に従事するレジスタンスの闘士たちに加え、
民衆やナチも描く。
計103分の二部構成で、
共産主義者とカトリックの聖職者が組んだレジスタンスの面々が中心。
制作時期を思うとまさにリアルな作品だ。
第一部にはユーモアもちりばめられているが、
第二部では余裕がなくなって深刻に。
プリミティヴな道具が使われているだけに残虐性が際立つ拷問シーンや公開銃殺シーンも含めて
見せ方が絶妙で、
心理ドラマ的な展開も行なわれて人物たちの感情表現の彫りの深さにも痺れた。
今回5回上映される。


★映画“イタリア ネオ+クラッシコ 映画祭2017”
http://mermaidfilms.co.jp/neoclassicoitalia2017/


映画『娘よ』

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アジアを“舞台”にしたグレイトな映画が続く。
今回紹介する日本初公開のパキスタン映画もその一つだ。
この作品が長編デビュー作となる、
1974年パキスタン生まれの女性アフィア・ナサニエルが監督・脚本・プロデュースを行なっている。

パキスタンの村で起こった実話を基に作られた映画だ。
いわゆるテロとは直接関係ない映画だが、
イスラム過激派組織のパキスタン・タリバーン運動に“暗殺”されかけて
2014年に17歳でノーベル平和賞を受賞したマララもパキスタン出身で、
彼女が狙われた背景をイメージすると一層わかりやすい映画とも思う。

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パキスタンとインド、中国の国境にそびえ立つ山脈の麓が映画の舞台。
多くの部族がひしめき合う地で、
そのうちの一つの部族に属する10歳の娘と母と父の家庭から物語は始まるが、
まもなく血で血を洗う部族間のトラブル解決のために娘が“取引のブツ”にされそうになる。
だが、
結婚をはじめとして女性ゆえに自由や自己選択がなかった自分の経験を活かして母は娘を連れ出し、
掟に縛られた部族を脱出して文字どおりの命がけの逃亡を決行。
名誉丸つぶれで体面が汚された両部族の男たちが執拗に捜索する中、
道中の序盤で出会ったトラック運転手の男を巻き込んで母と娘は逃避行を続ける。


山あり谷ありながらストレートでわかりやすいストーリー展開だが、
やはりある程度決まった音楽スタイルながら無数のヴァリエーションがある“ロックンロール”と同じく、
物語としては普遍的な定盤のシンプルな逃避行劇でも監督らの手腕とセンスによって無限にふくらむ。
本物に古いも新しいもない。
政治性を露わにしてないとはいえ、
ジェンダーの問題や家族関係などの社会的な問題で肉付けされ、
映像力と音楽力も相まって深い人間ドラマに仕上がっている。

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明るい素材の映画ではないが、
山岳地帯メインの大自然の景色をはじめとして土の匂いが漂う秋色の映像に魅せられる。
かと思えばドギツイ配色センスのトラックなどの鮮烈な色使いのアイテムの数々に驚かされ、
淡い色合いの民族衣装も映画に彩りを添えている。
さらに村人たちの生活もしっかりと映し込んでいるからこそ、
これが必ずしも特例ではなく彼の地の一般の人の間で起こっている出来事であることをさりげなく示す。
やはりセリフで理屈をこねるより、
ガツン!とアピールする映像は正直だしダイレクトに伝わってくるとあらためて思う。
景色だけでなく人物の意識を掘り起こす遠近のカメラ・アングルも見事だ。

民謡も含めて情趣に富んだ民俗音楽がいい感じで挿入され、
映画全体のゆっくりとした躍動感に一役買ってテンポも良くしている。
もちろん“生”と“命”の肝の作品だから、
音楽が聞こえてこない場面でも心のビートがずっと振動している映画だ。

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アジアやアフリカなどの地域によっては今も
いわゆる民族間というより部族間の争いが元で内戦が始まるケースも絶えないわけだが、
部族に限らず掟が支配する様々な集団が“犠牲者”を作り出す怖さもあらためて知る。

映画の中では“イスラム”が強調されていないとはいえ、
パキスタンがイスラム国家だけに否応なく“そういうイメージ”で薄っすらと覆われてもいる。
“やられたらやり返す”という考え方もその一つだが、
部族間の憎悪復讐の連鎖を断ち切るために娘が“生贄”になりかかる。

少なくても『娘よ』の地では女性に人権はない。
死ぬまで続きかねない母と娘の逃走は彼の地の伝統と言えそうな女性の受難を象徴している。
女性に対する迷信と呼ぶべき奇妙な言い伝えは子どもたちの間にも広まっていて、
風習というより因襲と呼ぶべきしきたりを初潮が始まる前後には思い知らされる。
“娘を自分みたいな目に遭わせたくない”“娘にはしあわせになってほしい”という気持ちに駆られ、
「15才で結婚させられて私は終わり。自分の母親にも会えなくなった」この母親は部族からの脱出を決意。
この映画は必ずしも親が子どものしあわせを願っているとは限らないことも見せるが、
この母親は命がけで娘がしあわせになることを願って命がけで実践している。
さらに娘を救うことが逃亡のメインの動機ながら、
娘の母親は何年も何年も会うことが半ば許されなかった自分の母親との再会も目指していた。
とにかく母と娘の強靭なつながりがこの映画の肝である。

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家族の問題も炙り出している。
一般的には“家族の絆”とかそういう単細胞な観点で家族ってものが語られがちだが、
基本的にはあまり選べない人間関係だけに“家族が地獄”という人は世界中にいくらでいる。
助け合い協力し合うことがどの家族でも行なわれているわけではないし、
外ヅラは良くても家族内の人間を利用することに罪の意識がない無神経な自己愛人間もいる。
計算高い人間は自分のエゴを満たしながら利益や体裁のために、
親だろうが子だろうがきょうだいだろうが関係なく利用する。
家族内は血のつながり云々の拘束性が高いからこそ陰惨なのは日本の家庭内殺人事件でもよくわかる。。
『娘よ』を観てそんなことをあらためて思いもする。

部族と家族は抑圧的な拘束力という点で共通するものがあると読むことも可能な映画だろう。
『娘よ』では娘の父親の兄弟間で嫉妬の感情も元々あり、
娘の父親の弟が娘の母親(父親の妻)を探すのは部族のためというより彼女を自分のモノにするためで、
そのへんの絡みでもまたストーリーがふくらんでいく。

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ただ『娘よ』が心を揺さぶるのは、
そういったネガティヴな面を突き抜けるポジティヴな人間の交流がていねいに描かれているからだ。
大半の映画と同じように『娘よ』も人間のつながりが肝で、
男性優位社会批判にも受け取れる映画ながら母娘の味方になる男もいる。

母と娘の逃走劇のキーパーソンになっているのは、
途中からずっと二人に関わり続けるトラックの運転手の男だ。
イスラムのムジャヒディンの戦士を経験して修羅場をくぐってきて訳ありの人生を送ってきただけに、
トラックの運転手は母娘に出会って状況を察知した当初は“もう面倒事は御免!”の態度だったが、
部族の有力者の力で包囲網が張られて二人が“指名手配”までされている状況の中、
命がけで母娘を手助けしていく。
三人が親密になっていく様子が見どころで、
母親と運転手の交感にロマンスを感じるのは僕だけではないだろう。
部族の男たちも同じように感じて母親の行為を駆け落ちと解釈し、
女性の不貞か絶対に許されない地ゆえに一層激昂して執拗に母と娘を追い求める。

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トラックの運転手は暗黒の中に火を灯す人物だが、
もう一人、映画の灯になっているのが娘である。
無邪気な中にドキッとした色気も香らせ、
“輝ける道”につながる存在感を放っている。

とにかくどの俳優も熱演で感情表現が素晴らしく、
特にメインの三人である母親、娘、運転手の感情のワイルドでデリケイトな震えを
映画としてしっかり描写した監督の手腕も特筆したい。
治安が不安定な地でイスラム法的にも自由が利かない撮影も反映したかのような息を呑む緊迫感と、
まったりした叙情の調べが背中合わせであることもほのめかしている。
三人が交わす会話の一つ一つも味があるし、
さりげなく示唆に富んで希望のロマンが滲む言葉も多い。

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観た人ひとりひとりの想像の中でその後の展開を作らせる締めもいい。
余計なお世話の過剰な説明や付け足しは興ざめなだけだから。
ラストは、
視野が狭く高圧的で自己保身の人間たちが支配する現実社会では思うように進まない不条理に対して、
奇跡を祈るかのような救いの光である。


★映画『娘よ』
2014年/パキスタン・米国・ノルウェー/デジタル/93分
3月25日(土)〜東京・岩波ホールにてロードショー。以降、順次全国公開。
© 2014-2016 Dukhtar Productions, LLC
http://www.musumeyo.com/


映画『逆行』

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ドナルド・サザーランドとフランシーヌ・ラセットの息子のロッシフ・サザーランドが主演を務め、
東南アジアのラオスをメイン舞台にした初の北米産の映画になる2015年の作品。
異国の地で“事件に巻き込まれた男”が逃走する話だが、
カー・チェイスや血が炸裂するアクションものとは完全に一線を画す目が離せない佳作である。

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ラオス北部でNGOの医療活動に従事して救える命はあきらめずに救おうと試みるアメリカ人のジョンは、
激務で疲れきった心身を癒すためにラオス南部のリゾート地を訪れる。
そこで“犯罪現場”に出くわして人助けをするも、
やりすぎた“正当防衛”と“誤解”で懸賞金付の指名手配をされてしまう。
無政府状態ではないとはいえ独裁政権下だけにラオスの司法はアメリカと違うし、
捕まったとしてもしっかりした裁判が行なわれるのか素朴な不安も抱いたのか、
包囲網の中であるにもかかわらずジョンは逃げる。
おのれの脚、自転車、舟、盗難車、バス、友達が運転する車などを使って逃げる、
母国への“帰還”を目指して。


とてもわかりやすい物語だ。
シンプルなストーリーをいかにふくらませるかに注いだ情熱が加速している。
表現に対するそういう取り組みは、
シンプルな構成の曲をいかにふくらませるかという音楽ジャンルのロックンロールにも似ている。

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二転三転どころか四転も五転もしていくつもの山あり谷あり川ありの展開をする脚本がまず見事だ。
場面の流れに無理がないし関係する国の情勢などを考慮しながらリアリティを高めている。

ドイツの実験的な音楽プロジェクトTROUMが大胆に挿入するアンビエント/ドローン・チューンも、
シーンにふさわしい磁場を作り上げている。

本作が初の長編映画監督作になるジェイミー・M・ダグは、
カナダのBROKEN SOCIAL SCENEやBEDOUIN SOUNDCLASH、
アメリカのBLACK REBEL MOTORCYCLE CLUBなどの
ミュージック・ヴィデオを撮ってきた映像作家である。
そういう経験を活かしてリズミカルな音楽が持ち得るダイナミズムそのものの映画に仕上がっており、
まったりと佇みつつも映画全体がエモーショナルに疾走もしている。

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映画を音楽にたとえて曲が脚本だとしたら音に当たる映像力も素晴らしい。
基本的に映像は鮮明ながらクリアーすぎずクリーンすぎない映像は、
土臭く、泥臭く、濁水臭いからこそ、人間の匂いがとろけるように鼻を突く。

監督によれば撮影中には「独裁主義政府の妨害に直面」したとのことだが、
そういったトラブルも“味方”につけて醸し出された緊張感の中で、
ラオスやタイの自然の風景や生活の場の情景をしっかり映し込んで空気感が漂っているところもポイント。
ほとんどが地方都市や田舎での撮影と思われ、
木や水のある自然はもちろんのこと自動車や舟などの一つ一つが見どころになっていて、
なんとも言えないアジアの情趣に包まれ続ける。
そういうのんびりしたシーンと緊迫シーンの落差でも持っていく映画だ。

クローズアップや陰影を有効に使った撮影も特筆すべきで、
いい意味での粗削りの作りゆえに人物描写が実に生々しい。
適度なブレもスピード感を高めることに一役買っている。

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主人公のジョン以外に目立つ役回りの人はほとんど出てこない映画だが、
人と人とのつながりも見どころで、
ハードな状況下でのリアルな友情も見て取れる。
とにかく味のある演技力でも引き込んでいくのだ。

政治家の息子である“送り狼”オーストラリア人観光客、
ラオスのバーの若い女性客、
ラオスのバーテンダー、
ラオスの宿の“女将”、
ラオスの警官、
ラオスとタイに在住のアメリカ大使館員、
ラオスのヤクザみたいな男たち、
顔なじみのラオス人の運転手、
タイの“国境警備隊員”、
などなどの人物がいくつもの節目で登場。
そういった脇役やチョイ役の人たちのさりげないキャラが場面ごとにドラマを盛り立てている。

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主人公のジョンが熱演であることは言うまでもない。
ストレートな正義感に貫かれた人物だが、
押しつけがましい熱血漢とは一味違う臆病な面も全身から噴き出している。
“聖人”ではないからこその人間味が滲み出ている。
必死だから逃走に際して“犯罪”に手を着けざるを得なくもなるが、
そんな中で心の奥底から湧き上がってくる恐怖や焦燥や葛藤といった感情をしっかり描き込んでいる。
そういった一種のネガティヴな思いを逆にエナジーとして燃え上がらせ、
まさに“Run for my life”し続けていたのだ。

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昨年終盤に大ヒットしたテレビ・ドラマのタイトルの『逃げるは恥だが役に立つ』は、
ハンガリーのことわざの引用だという。
確かに現実はそのフレーズが意味するとおりだし、
人間に限らず時に生き物は逃げなければ生き延びられない。
そのためにはなんだってやることもこの映画は示してもいる。

しかし、だ。

あと一歩で“解放”されるというのに見て見ぬふりをできない男がいる。
“義”のためであり、
おのれに“落とし前”をつけるために男は“逆行”する。
太宰治の『走れメロス』も思い出すこの“逆行”に静かなる感動を禁じ得ない。

正直者は馬鹿をみるのか?
結論を決めつけないラストも心地良い余韻を残す。


★映画『逆行』
2015年/カナダ・ラオス/英語・フランス語・ラオ語・タイ語/カラー/DCP/シネスコ/88分
監督:ジェイミー・M・ダグ
出演:ロッシフ・サザーランド(『ハイエナ・ロード』)、
ヴィタヤ・パンスリンガム(『オンリー・ゴッド』)、サラ・ボッツフォード他
3月11日(土)、ユーロスペース他にて全国順次公開。
配給:エスパース・サロウ
レイティング:G ©2015 APOCALYPSE LAOS PRODUCTIONS LTD.
公式HP:gyakko.espace-sarou.com


映画『ミス・サイゴン:25周年記念公演 in ロンドン』

『ミス・サイゴン 25th』メインビジュアル(横)


ミュージカル『ミス・サイゴン』25周年記念公演の“映画化”作品。

『ミス・サイゴン』はもともと1989年9月20日初演の舞台だ。
今回の映画はその上演25周年を記念して
2014年9月にロンドンで1回のみ敢行されたアップデート・ヴァージョンのステージを基に、
映画のために後日観客を入れずに行なわれた追加撮影分を合わせて仕上げられている。
2回の休憩タイムをはさむ“3部構成”で3時間を越える大作だが、
いっときたりとも目が離せないダイナミック&デリケイトな快作だ。


ベトナム戦争末期のサイゴンのナイトクラブで働く少女とアメリカ大使館軍属の運転手の悲恋が描かれる。
ロマンスや親子関係/夫婦関係といった人間のつながりをテーマにしつつ、
ベトナム戦争で負ったアメリカンの精神的な後遺症(いわゆるPTSD)も含む
政治的な側面もさりげなく絡められている。
わかりやすいストーリー展開で結末はショッキングだが、
ポジティヴなエナジーがすべてにみなぎる作品だ。

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本作のエナジーの源は役者たちの猛烈な熱演である。
主演の二人は言わずもがな、
数えきれないほど多数のすべての出演者がこの瞬間に賭ける圧倒的な熱量で演じている。
やはり撮り直しができる一般的な映画とは違う舞台演劇ならではのライヴ感が凄まじい。

ミュージカルだからセリフのほとんどは“歌”になっていてテンポが抜群に良く、
鍛えられた発声に舌を巻くと同時に表現力に痺れる。
大声だけで終わらず感情の機微が表われた声を自然体でエモーショナルに震わせ、
言葉数は多いがシンプルな言葉ばかりで説明的でなくストレートでありながら機知とユーモアに富む。
もちろん“セリフ/歌詞”は字幕付で作詞家/翻訳家として知られる岩谷時子担当の日本語ヴァージョンだ。
役者たちの動きも大きいから、
パンチの効いた声と身振り手振りでおのれを解き放つ“全身表現”のパワーを思い知らされるばかりである。

ベトナムのサイゴンがメインでタイのバンコクがサブのロケーションゆえに
ナイトクラブ関係の女性から軍の兵士までアジア系の人が多数出演しており、
黒人も鍵を握る人物の一人として好演し、
人種が混じっているところも特筆したい。

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ミュージカルだから音楽もチャーミングだ。
音はロック・ミュージックと違うかもしれないが、
ドラマチックな曲自体は、
70年代前半のアリス・クーパーデイヴィッド・ボウイからQUEENやMUSEまでも思い浮かぶ。

追加撮影の映像を組み込んだ効果も大きいのだろうが、
圧倒的な映像力にも打ちのめされる。
いきなりナイトクラブの豪華絢爛なムードに引き込まれ、
かなりエロチックな絡みがステージのあちこちで繰り広げられる様はドキドキ圧巻である。
もちろんラインダンスなどの“ショータイム”も見どころで、
軍服含めて衣装も目を引く。
“表と裏”といった感じで、
ベトナム戦争の終結と言える“サイゴン陥落”の混乱の中でヘリコプターがアメリカ兵を救出するシーンなど、
映像技術を駆使した作りに息を呑む。

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舞台本編の“第一部”と“第二部”はズームアップ等を多用してステージ上のみを映し、
ポイントを押さえたカメラと編集で一般の劇映画のように俳優のみの映像で魅せてくれるが、
“第三部”の<25周年記念スペシャル・フィナーレ>は音楽のライヴ映像に近い。
いわばコンサートのアンコールのような感じで、
いわゆる芝居のシーンはなく歌と踊りとトークが構成されるステージに加え、
盛り上がっている観客の姿も多少盛り込まれている。

89年初演時のオリジナル・キャストの面々やプロデューサーたちも集い、
『ミス・サイゴン』の予備知識があまりない僕でさえ観ていてワクワクして胸に迫るものがあった。
引きつがれることの大切さや、
みんなで一致団結して力を合わせて創作して物事を成し遂げることの良さも考えさせられて、
個人的にもたくさんインスパイアされた。


オススメ。


★映画『ミス・サイゴン:25周年記念公演 in ロンドン』
<出演>ジョン・ジョン・ブリオネス、エバ・ノブルザダ、アリスター・ブラマー、タムシン・キャロル、ヒュー・メイナード、ホン・グァンホ、レイシェル・アン・ゴー、ほか多数。
<25周年記念スペシャル・フィナーレ>
ゲスト出演:ジョナサン・プライス、レア・サロンガ、サイモン・ボウマン
製作:キャメロン・マッキントッシュ、脚本:アラン・ブーブリル/クロード=ミッシェル・シェーンベルク、
歌詞:アラン・ブーブリル/リチャード・モルトビー・ジュニア、追加歌詞:マイケル・マーラー
音楽:クロード=ミッシェル・シェーンベルク、監督:ブレット・サリヴァン
© 2016 CML
http://miss-saigon-movie-25.jp/
2017年3月10日(金)より、TOHOシネマズ 日劇をはじめ各地で順次ロードショー。


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プロフィール

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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