なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『逆行』

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ドナルド・サザーランドとフランシーヌ・ラセットの息子のロッシフ・サザーランドが主演を務め、
東南アジアのラオスをメイン舞台にした初の北米産の映画になる2015年の作品。
異国の地で“事件に巻き込まれた男”が逃走する話だが、
カー・チェイスや血が炸裂するアクションものとは完全に一線を画す目が離せない佳作である。

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ラオス北部でNGOの医療活動に従事して救える命はあきらめずに救おうと試みるアメリカ人のジョンは、
激務で疲れきった心身を癒すためにラオス南部のリゾート地を訪れる。
そこで“犯罪現場”に出くわして人助けをするも、
やりすぎた“正当防衛”と“誤解”で懸賞金付の指名手配をされてしまう。
無政府状態ではないとはいえ独裁政権下だけにラオスの司法はアメリカと違うし、
捕まったとしてもしっかりした裁判が行なわれるのか素朴な不安も抱いたのか、
包囲網の中であるにもかかわらずジョンは逃げる。
おのれの脚、自転車、舟、盗難車、バス、友達が運転する車などを使って逃げる、
母国への“帰還”を目指して。


とてもわかりやすい物語だ。
シンプルなストーリーをいかにふくらませるかに注いだ情熱が加速している。
表現に対するそういう取り組みは、
シンプルな構成の曲をいかにふくらませるかという音楽ジャンルのロックンロールにも似ている。

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二転三転どころか四転も五転もしていくつもの山あり谷あり川ありの展開をする脚本がまず見事だ。
場面の流れに無理がないし関係する国の情勢などを考慮しながらリアリティを高めている。

ドイツの実験的な音楽プロジェクトTROUMが大胆に挿入するアンビエント/ドローン・チューンも、
シーンにふさわしい磁場を作り上げている。

本作が初の長編映画監督作になるジェイミー・M・ダグは、
カナダのBROKEN SOCIAL SCENEやBEDOUIN SOUNDCLASH、
アメリカのBLACK REBEL MOTORCYCLE CLUBなどの
ミュージック・ヴィデオを撮ってきた映像作家である。
そういう経験を活かしてリズミカルな音楽が持ち得るダイナミズムそのものの映画に仕上がっており、
まったりと佇みつつも映画全体がエモーショナルに疾走もしている。

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映画を音楽にたとえて曲が脚本だとしたら音に当たる映像力も素晴らしい。
基本的に映像は鮮明ながらクリアーすぎずクリーンすぎない映像は、
土臭く、泥臭く、濁水臭いからこそ、人間の匂いがとろけるように鼻を突く。

監督によれば撮影中には「独裁主義政府の妨害に直面」したとのことだが、
そういったトラブルも“味方”につけて醸し出された緊張感の中で、
ラオスやタイの自然の風景や生活の場の情景をしっかり映し込んで空気感が漂っているところもポイント。
ほとんどが地方都市や田舎での撮影と思われ、
木や水のある自然はもちろんのこと自動車や舟などの一つ一つが見どころになっていて、
なんとも言えないアジアの情趣に包まれ続ける。
そういうのんびりしたシーンと緊迫シーンの落差でも持っていく映画だ。

クローズアップや陰影を有効に使った撮影も特筆すべきで、
いい意味での粗削りの作りゆえに人物描写が実に生々しい。
適度なブレもスピード感を高めることに一役買っている。

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主人公のジョン以外に目立つ役回りの人はほとんど出てこない映画だが、
人と人とのつながりも見どころで、
ハードな状況下でのリアルな友情も見て取れる。
とにかく味のある演技力でも引き込んでいくのだ。

政治家の息子である“送り狼”オーストラリア人観光客、
ラオスのバーの若い女性客、
ラオスのバーテンダー、
ラオスの宿の“女将”、
ラオスの警官、
ラオスとタイに在住のアメリカ大使館員、
ラオスのヤクザみたいな男たち、
顔なじみのラオス人の運転手、
タイの“国境警備隊員”、
などなどの人物がいくつもの節目で登場。
そういった脇役やチョイ役の人たちのさりげないキャラが場面ごとにドラマを盛り立てている。

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主人公のジョンが熱演であることは言うまでもない。
ストレートな正義感に貫かれた人物だが、
押しつけがましい熱血漢とは一味違う臆病な面も全身から噴き出している。
“聖人”ではないからこその人間味が滲み出ている。
必死だから逃走に際して“犯罪”に手を着けざるを得なくもなるが、
そんな中で心の奥底から湧き上がってくる恐怖や焦燥や葛藤といった感情をしっかり描き込んでいる。
そういった一種のネガティヴな思いを逆にエナジーとして燃え上がらせ、
まさに“Run for my life”し続けていたのだ。

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昨年終盤に大ヒットしたテレビ・ドラマのタイトルの『逃げるは恥だが役に立つ』は、
ハンガリーのことわざの引用だという。
確かに現実はそのフレーズが意味するとおりだし、
人間に限らず時に生き物は逃げなければ生き延びられない。
そのためにはなんだってやることもこの映画は示してもいる。

しかし、だ。

あと一歩で“解放”されるというのに見て見ぬふりをできない男がいる。
“義”のためであり、
おのれに“落とし前”をつけるために男は“逆行”する。
太宰治の『走れメロス』も思い出すこの“逆行”に静かなる感動を禁じ得ない。

正直者は馬鹿をみるのか?
結論を決めつけないラストも心地良い余韻を残す。


★映画『逆行』
2015年/カナダ・ラオス/英語・フランス語・ラオ語・タイ語/カラー/DCP/シネスコ/88分
監督:ジェイミー・M・ダグ
出演:ロッシフ・サザーランド(『ハイエナ・ロード』)、
ヴィタヤ・パンスリンガム(『オンリー・ゴッド』)、サラ・ボッツフォード他
3月11日(土)、ユーロスペース他にて全国順次公開。
配給:エスパース・サロウ
レイティング:G ©2015 APOCALYPSE LAOS PRODUCTIONS LTD.
公式HP:gyakko.espace-sarou.com


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映画『ミス・サイゴン:25周年記念公演 in ロンドン』

『ミス・サイゴン 25th』メインビジュアル(横)


ミュージカル『ミス・サイゴン』25周年記念公演の“映画化”作品。

『ミス・サイゴン』はもともと1989年9月20日初演の舞台だ。
今回の映画はその上演25周年を記念して
2014年9月にロンドンで1回のみ敢行されたアップデート・ヴァージョンのステージを基に、
映画のために後日観客を入れずに行なわれた追加撮影分を合わせて仕上げられている。
2回の休憩タイムをはさむ“3部構成”で3時間を越える大作だが、
いっときたりとも目が離せないダイナミック&デリケイトな快作だ。


ベトナム戦争末期のサイゴンのナイトクラブで働く少女とアメリカ大使館軍属の運転手の悲恋が描かれる。
ロマンスや親子関係/夫婦関係といった人間のつながりをテーマにしつつ、
ベトナム戦争で負ったアメリカンの精神的な後遺症(いわゆるPTSD)も含む
政治的な側面もさりげなく絡められている。
わかりやすいストーリー展開で結末はショッキングだが、
ポジティヴなエナジーがすべてにみなぎる作品だ。

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本作のエナジーの源は役者たちの猛烈な熱演である。
主演の二人は言わずもがな、
数えきれないほど多数のすべての出演者がこの瞬間に賭ける圧倒的な熱量で演じている。
やはり撮り直しができる一般的な映画とは違う舞台演劇ならではのライヴ感が凄まじい。

ミュージカルだからセリフのほとんどは“歌”になっていてテンポが抜群に良く、
鍛えられた発声に舌を巻くと同時に表現力に痺れる。
大声だけで終わらず感情の機微が表われた声を自然体でエモーショナルに震わせ、
言葉数は多いがシンプルな言葉ばかりで説明的でなくストレートでありながら機知とユーモアに富む。
もちろん“セリフ/歌詞”は字幕付で作詞家/翻訳家として知られる岩谷時子担当の日本語ヴァージョンだ。
役者たちの動きも大きいから、
パンチの効いた声と身振り手振りでおのれを解き放つ“全身表現”のパワーを思い知らされるばかりである。

ベトナムのサイゴンがメインでタイのバンコクがサブのロケーションゆえに
ナイトクラブ関係の女性から軍の兵士までアジア系の人が多数出演しており、
黒人も鍵を握る人物の一人として好演し、
人種が混じっているところも特筆したい。

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ミュージカルだから音楽もチャーミングだ。
音はロック・ミュージックと違うかもしれないが、
ドラマチックな曲自体は、
70年代前半のアリス・クーパーデイヴィッド・ボウイからQUEENやMUSEまでも思い浮かぶ。

追加撮影の映像を組み込んだ効果も大きいのだろうが、
圧倒的な映像力にも打ちのめされる。
いきなりナイトクラブの豪華絢爛なムードに引き込まれ、
かなりエロチックな絡みがステージのあちこちで繰り広げられる様はドキドキ圧巻である。
もちろんラインダンスなどの“ショータイム”も見どころで、
軍服含めて衣装も目を引く。
“表と裏”といった感じで、
ベトナム戦争の終結と言える“サイゴン陥落”の混乱の中でヘリコプターがアメリカ兵を救出するシーンなど、
映像技術を駆使した作りに息を呑む。

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舞台本編の“第一部”と“第二部”はズームアップ等を多用してステージ上のみを映し、
ポイントを押さえたカメラと編集で一般の劇映画のように俳優のみの映像で魅せてくれるが、
“第三部”の<25周年記念スペシャル・フィナーレ>は音楽のライヴ映像に近い。
いわばコンサートのアンコールのような感じで、
いわゆる芝居のシーンはなく歌と踊りとトークが構成されるステージに加え、
盛り上がっている観客の姿も多少盛り込まれている。

89年初演時のオリジナル・キャストの面々やプロデューサーたちも集い、
『ミス・サイゴン』の予備知識があまりない僕でさえ観ていてワクワクして胸に迫るものがあった。
引きつがれることの大切さや、
みんなで一致団結して力を合わせて創作して物事を成し遂げることの良さも考えさせられて、
個人的にもたくさんインスパイアされた。


オススメ。


★映画『ミス・サイゴン:25周年記念公演 in ロンドン』
<出演>ジョン・ジョン・ブリオネス、エバ・ノブルザダ、アリスター・ブラマー、タムシン・キャロル、ヒュー・メイナード、ホン・グァンホ、レイシェル・アン・ゴー、ほか多数。
<25周年記念スペシャル・フィナーレ>
ゲスト出演:ジョナサン・プライス、レア・サロンガ、サイモン・ボウマン
製作:キャメロン・マッキントッシュ、脚本:アラン・ブーブリル/クロード=ミッシェル・シェーンベルク、
歌詞:アラン・ブーブリル/リチャード・モルトビー・ジュニア、追加歌詞:マイケル・マーラー
音楽:クロード=ミッシェル・シェーンベルク、監督:ブレット・サリヴァン
© 2016 CML
http://miss-saigon-movie-25.jp/
2017年3月10日(金)より、TOHOシネマズ 日劇をはじめ各地で順次ロードショー。


映画『バンコクナイツ』

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話題作『サウダーヂ』(2011年)に続く空族(kuzoku)の新作。
スタミナ満点ホルモンたんまりで、
ダシの効いた雑食人間どものまばゆい“臭気”をスクリーン越しに鼻から吸ってハイになり、
この映画のネタだけで一晩も二晩も飲み明かせ語れる濃密な大作である。
タイの首都バンコクをメイン舞台にその隣国のラオスでの映像も絡め、
政治的な要素も多少ナチュラルに滲ませつつ感情表現がデリケイトで、
バンコク歓楽街の店のナンバーワンのタイ女性と自衛隊出身の日本男性の“ラヴ・ストーリー”を中心に描く。

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バンコク歓楽街の日本人専門店でNO.1の女性ラックは
タイ東北部の地方イサーンからバンコクへ出稼ぎに出て5年が経った。
ラックが生活を支える大家族はタイ東北部でラオスと国境沿いのノンカーイ県で暮らしているが、
ラックは今は亡きアメリカ軍人だった2番目の父の息子の弟とは特に仲がいい反面、
実母とは確執が絶えない。
ある晩ラックは元自衛隊員の元彼のオザワと5年ぶりに再会する。

以上が物語の序盤だが、
場面が一種のモザイク状に絡まって“地続き”でふくらんでいき、
やがて研ぎ澄まされ収斂していくストーリーの自然な流れがまず見事である。
いくつものシーンがまぐわうことで次々と“新しい命”が産まれていく映画だ。
映画の終盤も観る人の想像の力を信頼し、
一人一人のイマジネーションで無数のドラマを展開させる締めになっている。
いつも言うように余計なお世話で説明しすぎの映画は人間の脳ミソを殺す。
スマホに代表されるように便利にしすぎて人間の肝を骨抜きにする“システム”と同じだ。
“シーンとシーンの行間”を感じながら楽しみたい。

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“楽園”がテーマの一つだが、
白黒つけることせずに政治/社会的な切り口もさりげなく溶かし込まれている。

タクシン派~反タクシン派~軍のクーデターや、
今も不敬罪が維持されている立憲君主制の中心で昨秋他界した国民のカリスマ・プミポン国王といった、
ここ数年のタイの政治状況は反映されてない。
会話から察するに70年代が舞台と思われるからだ
(余談ながら当時存在し得ないヒップホップ勢[田我流も出演]の出現も
一種の“タイムワープ”みたいなノリで気にならない)。

かたや様々なビジネスで進出しつつバンコクなどの国外アジアで“爆買い”する日本男性批評や、
ベトナム戦争~インドシナ戦争を絡めた米国欧州批評もさりげなく織り込んでいる。
“軍か!?出家か!?”を進路選択する立場の男性もいる彼の地の生活も映し出す。
とある主要人物がさりげなく吐いた“No Money, No Life”の言葉も深く響いてくる。

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グレイトな映画のすべてがそうであるように脚本以外も酩酊するほど魅惑的だ。
すべてに息づくたくましい生命力にぐいぐいぐいぐい引き込まれて持っていかれる。

現地の人たちを多数起用したというポーズ無しの生身の演技力に舌を巻かずにはいられない。
日本の人も含めてオフィシャル・サイトにさえ俳優の名前が載ってないのは、
一般的に知られている役者がほとんどいないからなのか。
でも、こなれてないことを強みにした懸命の本気で演技で勝負してすべての演者が自分の“地”で臨み、
演出に見えるほど“思想的な編集”が行き届いたドキュメンタリー映画の百万倍のリアリティで迫る。

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プリミティヴな映像力に痺れっぱなしだ。
シーンによって違う場のよどみや透明感や酩酊感までもしっかりと映像にし、
場に立ち込めた匂いや空気感も生のままスクリーンから漂ってくる。
オリエンタルな歓楽街シーンは過剰かつアナログなカラフル感のヴィヴィッドな色調で、
クサでキメているシーンはまったりダウナーな色合で、
手つかずで空気が美味そうな田舎のシーンは目が覚める鮮やかな色彩で映し出す。
モノクロでは時々そういうニュアンスの映像にも出会うが、
ここまで彫りの深いカラー映像もなかなかない。
猥雑と純が背中合わせの紙一重であることも表すかのように、
歓楽街と田舎を対比した作りも各々の本質を剥き出しにした淡く鮮烈なブレンドの色合に目が奪われる。

様々な視点で物事を捉えていることも反映したような小技を利かせたアングルや、
ときおり“シンボリックな映像”も入れる手法も観る人の意識をふくらませる。
店の看板や小物、車両、Tシャツも含めてディテールにこだわっているというか、
映像の枠内に映っているすべてが自己主張しているように見える。
映っている小物一つとっても無駄がなかった昔の名作映画群にも通じるセンスだ。

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生々しく粗削りの編集力も素ん晴らしい。
内容が詰まりまくった182分の特大ヴォリュームにもかかわらず無駄がない。
ゆるい時間で進みながらもストイックなほど引き締まっているから上映中まったく目が離せないのだ
ユーモアたんまりだが、
本質をごまかして薄めるように最近の日本映画でよく挿入される中途半端ゆえに幼稚なオフザケがない。
この映画のシチュエーションを思えば頻発しても不思議はない“エロ”に頼らず、
わざとらしいセックス・シーンで興ざめさせる映画とは別次元で人間と人間のまぐわいを描き切っている。
暴力にも頼らない。
生き物すべてが逃れられないがゆえに様々な表現にとって死は避けられないテーマになり得るが、
人間の“死”がこの映画にはほとんどない。
すべてそのへんのことを“売り”にしている映画と一線を画すことを意識しているかのようでもある。

とにかくエキセントリックな仕掛けや見せ方を一切してない。
すべてが素のまま。
“潔癖症”なんか知ったこっちゃない体力と精神力に裏打ちされた天然素材を活かし切っている。
誤解を恐れずに言えばこれは大人の映画である。
甘えがないのだ。

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場面転換が多いことを逆手に取ったかのように、
まったりしたムードにもかかわらずテンポがいいところも特筆したい。
いつも書くように映画そのものに命のリズムが宿ってこそ傑作になり得る。
人間のビートが映画の中で鳴っていないとダメなのだ。

脚本や映像だけでなくトータルな表現としてグレイトな映画だけに音声も言うこと無しである。
聞こえてくる音楽も映画全体のテンポに一役買っているが、
感情の押しつけみたいな使い方とは対極でおくゆかしく映像と寄り添っている。
録音/音楽担当は山崎巌とYOUNG-G。
YOUNG-Gは『サウダーヂ』絡みでstillichimiyaのトラック担当として知られている人だ。
山崎は初期のGHOST(日本)やOVERHANG PARTY、OUT TO LUNCHでドラムを叩いてきたが、
その頃から録音技師としても活動していて『国道20号線』(2007年)から空族作品に関わり続け、
彼が今やっているバンドのSuri Yamuhi And The Babylon Bandの曲も今回提供している。
民謡やスポークンワードをはじめとして挿入される音楽はもちろんのこと、
街角の音楽、ラジオの音声、雑踏の音声なども場の気温を高めている。

日本語ともに多用されているタイ語の響きも不思議な情緒へと誘うが、
方言や人物のキャラを反映させたのかのように、
登場人物によってはセリフが訛りを含めた感じの日本語字幕になっているのもお見事だ。
だからこそ一層、生活と人間が感じられる“日本版”映画に仕上がっている。

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生活の臭気と人間の香気がリアルに現像され、
ほろ苦く甘美な味わいが観ているうちに心のなかで広がっていく映画だ。
観終わったあと、ほのかにしあわせな気持ちになる。


あ、そうそう、
延々続く膨大な固有名詞に映画の興奮を冷まされがちなエンディング・テロップ部分も、
目が離せない作りになっている。
ぬかり無し。


★映画『バンコクナイツ』
2016年/日本・フランス・タイ・ラオス/182分/DCP/配給:空族
2月25日(土)からテアトル新宿ほか全国順次公開。
©Bangkok Nites Partners 2016
http://www.bangkok-nites.asia/


映画『クリミナル 2人の記憶を持つ男』

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大御所ケヴィン・コスナーが主演を務めて
ヴァイオレントな行動の中で感情を押し殺し震わせるド迫力かつ重厚な演技を見せ、
ロンドンをメイン舞台にした英国/米国の合作映画。
スパイものや国際政治ものでもあるし派手なアクション・シーンやミサイル発射/爆発シーンも含むが、
一般社会とはかけ離れた人間でも持ち得る家族愛を嫌味なく絡め、
人物の感情の微妙な揺れをしっかりと描きこんだエンタテインメント人間ドラマだ。
俳優全員名演で、
監督は『THE ICEMAN 氷の処刑人』(2012年)を手掛けたアリエル・ヴロメンである。


CIAロンドン支局のエージェントの男が重大な極秘任務の最中に死亡した。
彼は米軍の核ミサイルさえも遠隔操作可能なプログラムを開発した謎のハッカーの居場所を知る唯一の人物だった。
巨大なテロを阻止するために謎のハッカーを捜し出す最後の手段は、
殺されたCIAの男の記憶を脳手術によって他人に移植すること。
まもなく処刑される人間ゆえ手術に失敗しても問題無しみたいにその移植相手に選ばれたのは、
幼い頃に父親から受けた虐待が原因で人間的な感情や感覚を失ってしまった凶悪な死刑囚ジェリコ。
手術は成功するが、ロンドンの街へ逃走したジェリコは、
我が物顔で極悪な自分自身と正義感あふれるビルの“2人の記憶”の間で引き裂かれながら、
テロリストとの壮絶な闘いに巻き込まれていく。

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序盤で派手な単細胞アクション映画と思っていた僕もまもなくぐいぐい引き込まれていった。

失うものは何もねえ!どいつもこいつもブッ殺してやる!ばかりに殺伐とした天涯孤独の極悪男が、
妻と娘の愛に包まれた生活を送っていたCIAの男の記憶を脳に埋め込まれ、
二人の人格の間で葛藤と軋轢を繰り返して苦悩する姿がこの映画の肝だ。
親に感情を殺されて憎しみに満ち満ちた人間の精神の苦闘が、
粗暴極まりない言動の中から命を削って紡ぎ出すように描かれていく過程が生々しい。
いわゆる更生の類いとは違うが、
いわゆる更生もおのれのはらわたをズタズタに切り裂くぐらいの覚悟がないとできないとも思わされる。
そこに世界情勢を一変させる政治的な行動や人間同士が向き合い“ふれあい”を絡めていく
スリリングかつエモーショナルな展開に目が離せなくなる。

計算高いうわっツラのやさしさなんてなんの意味もない。
極悪男のハートに火を点けたのは、
極悪男の脳に記憶を埋め込まれた男の妻のギリギリの行動もさることながら、
極悪男の心が実父のものと悟って極悪男を父親のように慕う娘の無邪気な行動が大きい。
ここから先のストーリーを書くのは野暮ってもんだろう。

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2010年代に入ってまた冷戦化しつつある米国とロシアをはじめとする冷厳な国際関係に加え、
やさしさとエゴが殺し合う冷厳な人間関係も炙り出す。
この映画の主人公が一匹狼というところも大切だ。
信じる者がいない人間は、
仲良く手を取り合って“共犯者”になって繰り広げる“愛と平和の大合唱”なんか知ったこっちゃない。
でも調子いいこと言っていても結局は自分の身の回り30センチ以内が良ければそれでいい“善人”より、
百万倍誠実だ。

全員死ね!と思っているような人間が世界を救うこともありえる。
命がけであれば愛が世界を救うこともありえる。
そんな幻想を信じてみたくもなるストロング・スタイルの映画だ。


★映画『クリミナル 2人の記憶を持つ男』
2015年/イギリス・アメリカ/113分
ゲイリー・オールドマン(『ダークナイト』『裏切りのサーカス』)
トミー・リー・ジョーンズ(『ノーカントリー』『ジェイソン・ボーン』)
ライアン・レイノルズ(『デッドプール』)
ガル・ガドット(『ワンダーウーマン』)
2月25日(土)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー。
© 2015 CRIMINAL PRODUCTIONS, INC. All Rights Reserved.
criminal-movie.jp


DVD『我が闘争 若き日のアドルフ・ヒトラー』

『我が闘争 若き日のアドルフ・ヒトラー』


画家を目指していた二十代頭のヒトラーを描いた当時日本未公開の2009年の劇映画。
注目を集めやすい“不幸”や“悲劇”を紹介するだけのドキュメンタリーと同様に、
“ネタ”に頼っているだけでイマイチのヒトラー/ナチス関連映画も多い中、
これは映画として見応え十分の佳作だ。

ヒッチコック監督作の『私は告白する』の脚本を手掛けたジョージ・タボリの戯曲が原作で、
もちろん100%事実とは言えないだろうが、
ヒトラーの一時期を丁寧に描きこんでいて説得力がある。


画家になる夢を追い、
美術アカデミー入試のため1910年にオーストリアのウィーンへとやってきた青年アドルフ・ヒトラー。
ホームレスのための安い下宿所に住むことになったヒトラーは、
ユダヤ人商人シュロモと共同生活を送ることになる。
豊富な知識を持っていたシュロモと知識に貪欲だったヒトラーは意気投合し、
多くの時間を2人で過ごしていたが、
美術アカデミーの試験に落ちたヒトラーは橋の上から自殺を図る。
シュロモの助けもあり自殺は未遂に終わったが、次第にヒトラーは政治に傾倒していくようになっていく。


家庭環境の話も交えながら“我が闘争”へと進むに至るヒトラーの思想と人格形成の源を炙り出す。

『コーヒーをめぐる冒険』や『ピエロがお前を嘲笑う』で知られるトム・シリングも好演で、
眼光鋭く痩せこけたヴィジュアルで笑顔を見せることなく当時から冷酷オーラを発し、
神経質そうな若き日のヒトラーをリアルに演じている。
繊細さも気性の激しさエクストリームで権威に従わず、
傲慢で強気で潔癖で自信家で完全主義者。
シュロモは“無名時代”から危険人物と見なされているそんなヒトラーを擁護してきているが、
そんな爺さんと小悪魔な女の子との三角関係もこの映画の肝。
ヒトラーにふさわしく合理的でラフな展開ながら感情の機微が細やかに表われているところも大切だ。

若い人間がヒトラーと女の子以外ほとんど出てこない映画ながら登場人物は多いが、
シュロモ以外の他の老人をはじめとする他の人物たちも丁寧に描きこまれているのもポイント。
彼らもヒトラーをしっかりと浮き彫りにしている。

場面転換が多くてテンポがいいからぐいぐい引き込まれている。
編集のセンスがいいから目を離せないのだ。
映画もリズムが大切だとあらためて思わされ、
けっこう躍動的なシーンが少なくないが、
いわゆる刺激的な映像はあまりなくて落ち着いたトーンに覆われている。
太陽がまったく当たらず陰鬱な色合い映像が閉塞の空気を醸し出している。

最近だと『帰ってきたヒトラー』も手掛けたエニス・ロトホフが担当している音楽もヨーロッパ臭くて的確。
時にユーモラスで欧州民謡やクラシックな音楽もふんだんに使うが、
うるさくなく感じさせずにシーンごとの感情をさりげなく浮き彫りにしていく。

ヒトラーが一種のヴェジタリアンということをほのめかす“とある生々しいシーン”を
あえて随所に挿入しているのも興味深い。
ヒトラーが“flesh嫌悪”にも見える。
そういった小ネタに注意して観るとまた深く楽しめる映画だ。


★『我が闘争 若き日のアドルフ・ヒトラー』(トランスフォーマー TMSS-356)DVD
2009年ドイツ、オーストリア、スイス/ 伝記、ドラマ、スリラー /原題:Mein Kampf
【111分 / カラー / 片面1層 / 画面:16x9ビスタ / 音声1:ドイツ語ステレオ 字幕1:日本語字幕】
© 2009 Schiwago Film / Dor Film / Hugofilm


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プロフィール

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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