なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『きっと、いい日が待っている』

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子どもたちが抑鬱になった60年代後半の首都コペンハーゲンの養護施設における事件が基の、
2016年のデンマーク映画。
さりげなく重い邦題がピッタリの明日の見えない抑圧状況の中で
宇宙に対する“夢”をエナジーにしながら、
兄弟が命がけで“ファック・ユー!”アティテュードを炸裂させる。
60年代の空気感が醸し出されている落ち着いた発色の映像も奏功し、
音楽も含めて感動を押しつける作品とは一線を画した胸のすく佳作だ。

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13歳の兄と10歳の弟は母親と3人で貧しいながらもつつましく幸せに暮らしていたが、
1967年のある日、病気が悪化した母親が入院することになり、
兄弟だけでは生活していけないと役人に判断された二人は男子児童向けの養護施設に預けられる。

宇宙飛行士になるのが夢ながら足の悪い弟にも過酷な労働作業が課せられ、
上級生からのイジメや制裁と
校長をはじめとする教職員たちの体罰の毎日。
出る杭は“平手”で打たれる。
目を覆いたくなるほど容赦ない。
子どもたちには「no!」という選択肢はない。

人一倍反骨心が強いわけでもない。
ただ自分らに向き合わずに聞く耳を傾けない連中が気に食わないだけだ。
協力してくれる大人もいるが、
なかなか事が上手く進まない。
施設から“解放”されることになりかけるも状況は悪化する一方で決死の行動に出る。

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わかりやすいストーリーだからネタバレを避けるべくかなり大ざっぱに話の筋を書いたが、
教職員の“責め”と兄弟の“攻め”の、せめぎあいから生まれた、
事件、トラブル、アクシデント、挑戦、反抗がスクリーンに刻まれていく。
キワドイ話だからぼかして描いたと思われるが、
同性愛も絡んだ性的児童虐待と想像できるシーンも織り込まれている。

「いずれ私たちに感謝するようになる」みたいな言葉が最後まで一貫した口癖で
自分の名誉のことしか考えてない鬼畜極悪校長に対し、
観ている僕でも殺意の絶えない映画だ。
子どもがどんな状況であろうと“持論”を曲げずに手を上げる校長をはじめとしてここの教職員たちは、
規律と懲罰で子どもたちを一般社会で通用する人間に育てようとしているのだろうが、
規律と懲罰で子どもたちを支配しているようにしか見えない。
絶対的な力を持つ者による弱い者いじめだし、
正義の味方を気取って善人ヅラした高圧的な“モラリスト”の恐ろしさとインチキ臭さも知る。

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“その他大勢”の子どもたちも含めて登場する俳優のすべてが熱演だ。
たとえぱこういう映画を日本で作ったらイケメン少年がズラリと並んでウソ臭くてシラケるが、
少年院みたいな不良の集まりとも違うほんと素朴な少年児童がもっさりした佇まいでリアルである。
とりわけ兄弟役の二人は長編映画初出演とは思えない生々しい演技で、
意識の流れが見えてくる心理描写に引き込まれる。

兄はストレートな熱血漢であり、
弟はいい意味でクレヴァーでもある。
特に弟は宇宙関連の豊富な知識と言葉を使った創作力が施設内で知られるようになり、
徐々に一目置かれていく。

兄弟も生き延びるために本音を隠してウソの心情を吐くことを覚えていくが、
まっすぐな人間ほどウソも方便になる。
不条理を突き抜ける目的を遂げるために。
従順に、従順に、耐え忍ぶ姿が痛々しい。
『The Day Will Come』という本作の英語の原題にならうと“その日”が来るのを指折り数えて待っている。
だがその期待が裏切られた時に炸裂する“静かなる殺意”の行動も痛々しい。
そして大切な人が死にそうになった時に決死の“テロリズム”に走る。

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施設内の友人や一部の“大人”のサポートを得つつ、
兄も弟も一人で立ち上がって行動を起こしているところに注意したい。
つるんでないのだ。

仲間を信用してないわけではなく、
むしろ仲間を大切に思っている、
だからこそつるまない。
自分の問題で立ち上がったわけだから巻き添えを食わせたくなかったりかもしれないが、
そもそも団結して云々という発想はなかった。
あくまでも自分自身のための闘いだからだ。

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まずは兄が弟を気遣ってリードして激昂した勢いで“傷”を付け、
兄から勇気をもらった弟が後を継ぐように“破壊”する。
文句を垂れながらの二人の兄弟愛もジェラシーを覚えるほどイイ。

米国のアポロ計画で人類が月に行く時代で映画中にそういうネタがちりばめられたところもポイントだ。
ヘヴィな物語の中で風通しを良くしている。
この映画の弟も施設に入ろうが宇宙飛行士への夢がふくらむ一方だったが、
意志がみなぎる中で追い詰められ、
“ある人”が住む天国に近い“月”に飛び立とうとするシーンがクライマックス。
ただファンタジックな要素もちりばめながら漫画みたいな“奇跡”で現実感を薄めることなく、
リアリティのある見せ方をしている。

兄弟にインスパイアされて仲間たちもゆっくりと手を挙げて意思を表すようになっていく。
さりげなく友情を感じさせるラスト・シーンも好きだ。


★映画『きっと、いい日が待っている』
2016年/デンマーク/デンマーク語/カラー/スコープサイズ/5.1ch/119分/PG12/
原題:Der kommer en dag 英題: The Day Will Come/配給:彩プロ
8月5日(土)より YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
©2016 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa International Sweden AB.
http://www.kittoiihigamatteiru.ayapro.ne.jp/


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映画『俺たちポップスター』

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映画監督デビュー作『40歳の童貞男』(2005年)がいきなり大ヒットした、
1967年米国生まれのジャド・アパトー製作による2016年のコメディー映画。
一つのヒップホップ・グループとそのフロントマンの栄枯盛衰+再生の物語を、
ドキュメンタリー映画タッチで作った作品である。
<スタイル・ボーイズ>という架空のトリオ・グループの設定ながら、
“ヒップホップ・アレルギー”の人もまったく問題なく楽しめるし、
そういう人も取り込む開かれた馬鹿パワーがいっぱいの映画である。

<スタイル・ボーイズ>の3人を、
実在のコメディ・トリオの“ザ・ロンリー・アイランド”が演じているところがポイント
(ちなみに3人とも製作と脚本も担当して、そのうち2人は監督も担当)。
これってホントに本人?って疑ってしまうほど大御所多数のゴージャスなカメオ出演陣も話題だ。

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<スタイル・ボーイズ>は幼馴染みの男性3人による世界的に有名なヒップホップ・グループだったが、
<スタイル・ボーイズ>の人気を自分一人が作ったと勘違いしたのか
フロントマンが突然ソロ・デビューして解散。
他のメンバーのうちの音担当の一人は彼の専属DJ(といっても“機材”は1台のiPodのみ)に成り下がり、
作詞担当だったもう一人は引退して農場主となるが、
フロンマンの男性はファースト・アルバムが大ヒットするも前途多難。
彼はフォーマーとしての素養が抜群とはいえ自分大好き傲慢男で、
音作りや作詞も創作力が不明で<スタイル・ボーイズ>のようにはいかずに、
仕掛けに頼ったライヴ・ショウを行なうも小学校低学年みたいなエロ生き恥をステージでさらす。
懲りない馬鹿男に幼馴染の二人はあきれるが、
三つ子の魂百までといった具合にガキの頃にできあがってた性根は直らないことに気づく。

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音楽グループの活動ネタは、
いわば“あるある!”である。

メンバー間がこういう役割分担みたいな関係で創作表現をしているようなグループ、
というかバンドは古今東西いくらでもいそう。
グループやバンドの人気が出ると自分一人が才能あると思ってしまうフロントマンも多そうだ。
結局どの世界でも目立ちたがり屋で要領がいい人間がしあわせになって、
踏み台になった人間たちは落ちるだけなのが事実みたいなこともほのめかしかかるが、
しあわせに見える人間も謙虚さに欠けるとブレイクをキープできないことも示す。

一種の友情物語で、
思い切りふざけ続けていても結局は真面目に楽しく終わるところが
自由奔放なようで伝統を踏まえて安泰なアメリカ映画の王道と言える。

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ユーモアとペーソスが乱交する躁状態の映画であることに変わりはない。
アパトーが監督もした2015年の“前作”映画の、
『エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方』みたいに、
お下劣露悪趣味がダラダラ続くというのはない。
というかその反動のように、
エロネタ含みとはいえわざとらしい見せ方はない。

セリフの言葉も下品すぎずに何より展開も含めてナチュラルだから映画の中に入っていけるし、
お馬鹿ネタもスピード感を損ねない程度に抑えている。
主人公のフロントマンみたいに放蕩の限りを尽くしている映画のイメージのようで、
メイン登場人物の他の二人の生活姿勢と共振してむ映画自体も意外とストイック。
身内楽しければいいみたいな無駄なシーンを削ぎ落せるかが映画も濃度を高める大切なところで、
この映画は馬鹿馬鹿しいシーンの連続のようで肝を絞ってビシッ!とハジけていて引き込まれる。

相変わらずの過剰なまでのおもてなしtoo muchサービス精神やりすぎの映画ながら、
監督が違うというのもあるのだろう映画全体のシマリが良くて、
何しろテンポがいい。
いつも言うように、
ためになること言ったり感動させようとしたりしてもリズムに欠ける映画は
頭デッカチでウソを感じてしまう。
この映画は頭は脳天気かもしれんが、
裏表を隠さないハートと躍動を止めないカラダのプリミティヴなハーモニーに持っていかれる。

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ちなみにカメオ出演の人たちは以下のとおりだ。
マライア・キャリー、リンゴ・スター、NAS、アッシャー、50セント、シール、RZA、クエストラヴ、
キャリー・アンダーウッド、サイモン・コーウェル、アダム・レヴィーン、エリック・アンドレ、
ピンク、ビッグボーイ、DJキャレド、エイサップ・ロッキー、ケヴィン・ニーロン、マリオ・ロペス、
ウィル・アーネット、チェルシー・ペレッティ、マイク・バービグリア、アシュリー・ムーア、
ビル・ヘイダー、デンジャー・マウス、T.I.、ファレル・ウィリアムス、ジミー・ファロン、ザ・ルーツ、
ウィン・バトラー、レジーヌ・シャサーニュ、スティーヴ・ヒギンズ、マーティン・シーン、エイコン、
ウィル・フォーテ、スヌープ・ドッグ、マイケル・ボルトン、イモージェン・プーツ、クリス・レッド、
エドガー・ブラックモン、ジェームズ・バックリー、エマ・ストーン、ジャスティン・ティンバーレイク。

カメオ出演はほとんどが“本人役”で、
音楽ドキュメンタリー映画の王道(が陳腐だと皮肉っているように見えるのは深読み?)みたいに、
<スタイル・ボーイズ>を称賛するようなコメンテイターとして登場する人が多い。
必ずしも数秒ちょっとだけ顔を出す程度に留まっているわけではなく、
マライア・キャリーなんてかなり長時間出演していてオチャメなやり取りをしているのであった。


★映画『俺たちポップスター』
86分/2016年/米国
8/5(土)より、新宿シネマカリテ他にて全国順次ロードショー。
© 2016 UNIVERSAL STUDIOS
http://popstarmovie.jp


映画『心が叫びたがってるんだ。』

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一昨年に劇場公開された同名の劇場版オリジナル・アニメの実写映画版。
アニメとはまた違った感じで楽しめるだろうし、
アニメの方を観てなくてもまったく問題なく楽しめる。
みんなで力を合わせて!という高校生物語ではあるが、
青春映画を超えてインスパイアされる作品だ。

中島健人(注:今回このブログでは画像をアップできなかったので写真はHP参照)と芳根京子を核に
石井杏奈と寛一郎が絡んで高校生を演じ、
大塚寧々が芳根の母親役で荒川良々が教師役を務めている。

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成瀬順(芳根京子)、坂上拓実(中島健人)、仁藤菜月(石井杏奈)、田崎大樹(寛一郎)は
高校三年生で担任の教師から、
「地域ふれあい交流会」の実行委員に任命されてクラスの出し物がミュージカルになる。

成瀬は幼い頃に自分の一言で両親が離婚してしまったトラウマで言葉を発せられなくなっていた。
無理やり声を出そうとすると腹が痛くなる状態だったが、
歌なら思いを告げやすいとインスパイアされ、
主役に立候補して物語も考えて作詞もすることになる。
そんな成瀬に触発されて坂上は、
元々教育も受けていた音楽の素養を活かしてベートーベンの曲などをアレンジ。
チアリーダー部の仁藤は優等生らしくみんなの潤滑油となり、
野球部の元エースの田崎は傲慢な性格を正しながら協力的になっていく。

水面下では切ない“三角関係”がひそやかに揺らめいていく。
特に成瀬は恋に突き動かされて歌える自信もついてくる。
そしてミュージカル当日を迎える。

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成瀬がなかなか声を発せられないだけにスマートフォンも大切なツールになっている映画ではあるが、
声に出して気持を伝えることの大切さをあらためて知る。

うわべだけの言葉はあっちいけ!って感じで置いておいて、
目の前の一人に思いを伝えるにはエネルギーが要る。
深い深い必死の思いであればあるほどむずかしい。
人によって違いはあるだろうが、
不平不満の文句の類や悪口をぶつける方がまだたやすい。
目の前の一人に心からにポジティヴなことを言うのはもっとエネルギーが要る。
特に覚悟を決めた「好き」を言うのはとてつもなく膨大なエネルギーが要る。

でも何か重い経験をした者は口が重くなってしまう。
自己愛の強い人や想像力に欠ける人は相手のことなんか知ったこっちゃないから置いておいて、
一人に発した一言で何人かの人生をネガティヴな方向に変えてしまう言葉の重みを知ると、
調子のいい言葉は出てこなくなるものだ。

順

成瀬は両親の離婚が自分のせいであると一心に思い込んで言葉が出なくなった。
ひとたび自分が口を開けば他人を傷つけてしまうと思い込んでしまったかのようだ。
自分が見たもの思ったことをすぐ口に出してしまう包み隠さないオシャベリな女の子だったがゆえに
その反動で真逆の性格になってしまった。

事実をそのまま言ったことで人間関係を破滅に導いた。
気を使ってその人のためと思ってかけた言葉が相手の逆鱗に触れて心無い言葉を返されて深手を負う。
そんなことを幼少の頃に経験した成瀬。
でもやっぱり正直に言葉に出すことの大切さ、
何より好きと言葉に出して言うことの大切さを、
逆流する感情の中で自分の言霊に焼きつけていく。
おのれを乗り超える過程の彼女のエネルギーに圧倒される。

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必死の思いで声を発する者のパワーをあらためて知る。
もちろんポップな歌も一生懸命なら素敵だが、
ジャンル関係なく音楽も、
やっぱりギリギリのところから発した声はメロディもリズムも超えて五線譜も突き抜けて心を打ち撃つ。

そういう声がこの映画の成瀬の声で、
見ようによっては脂汗にも見えるほど涙でグチャグチャになった顔も見せながら必死で声を出す。
感情がゆっくり加速する成瀬役の芳根京子の熱演には身震いもした。
終始まさに“心が叫びたがっている”顔である。
と同時に終盤で本音を吐きまくるシーンには笑った。
他の出演者も好演で彼女を盛り立てる。
成瀬と一緒に住み続けている母親役の大塚寧々も、
サディスティックなまでの娘への無理解な演技で映画を盛り上げる。

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映画のカギを握る卵などのちょっとした“アイテム”の使い方も上手い。
埼玉県の北西部の秩父市と横瀬町でのロケもいい感じだし、
終盤のミュージカルのシーンは“ミュージカル映画”としても楽しめる。
クラムボンのミトらが担当した音楽もぴったりだ。

ストーリー自体も後半は“こうきたか・・・”とひねりの効いた展開でうならされたが、
最近の日本映画には珍しく感動の尾を引かせずに終わる潔いラスト・シーンもお見事。
でもエンドロールの途中で席を立ってはいけない。
最後の最後に用意された“オチ”にもヤられた。


★映画『心が叫びたがってるんだ。』
119分/配給:アニプレックス
(C)2017映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (C)超平和バスターズ
7月22日(土)全国ロードショー
http://kokosake-movie.jp/


映画『ウィッチ』

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原題も“魔女”というそのものズバリのタイトルで迫る2015年の米国のホラー/オカルト映画。

ホラー映画といっても残酷なシーンはストイックなほど必要最小限だが、
だからこそ派手な出血映画の百万倍ダメージが大きい。
じわじわ憑かれていくような映画である。

サブ1

1630年の米国北東部のニューイングランド地方が舞台。
父ウィリアム(ラルフ・アイネソン)と母キャサリン(ケイト・ディッキー)は、
5人の子供たちと共に森の近くの荒れ地にやって来た。
街を追い出されたからだが、
清教徒として敬虔なキリスト教生活を送るためでもあった。
しかし赤ん坊のサムが何者かに連れ去られて行方不明に。
悲しみに沈む家族だったが、
“犯人”は森の魔女か狼かと考える中で、
父ウィリアムは子どもたちの最年長の少女トマシン(アニヤ・テイラー=ジョイ)が
魔女ではないかと疑い始める。
家族全体が疑心暗鬼になっていく中、
森ではぐれた長男が異常をきたす。

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“敵”になりそうな何かを“犯人”にデッチ上げて物事を“解決”する手法は古今東西絶えない。
他者を非難することで自分の不備や“罪”から目をそらして自己保身に務める輩も古今東西絶えない。
トランプ米国大統領が例によって自己愛と被害者妄想をふくらませて魔女狩りという言葉を使うが、
そういうトンチンカンな解釈ではなく、
いわゆる魔女狩りは世界中のどこかで今も行われている。
科学がすべてとはまったく思わないが、
ある種の科学が通用しない地域においてだろうし、
この映画の舞台も時代的に科学的なことが入り込む余地はほとんどなかったとも想像できる。
それが話の流れだけでなく全体を覆う空気から伝わってくるところが映画ならではの表現の深みで、
描き方と切り口は気がついたから血が噴き出しているような感じでじわじわひたひた強烈だ。

家族崩壊の物語とも解釈できる。
身内ほど信用できない、
最初に殺すべきは身内、
なんてこともあらためて思ったりする。
子どもを信用しない親、
きょうだいを信用しないきょうだい、
そんな反目から魔女が生まれるみたいにも映る。
家族の中でも魔女狩りが行なわれるクレイジーなことは現代でも起こっているわけで、
嫉妬の気持も重なり特に目立つ女性が生贄というのも普遍的で現代に通じるとも思わされる。

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やはりBLACK WIDOWなどのオカルトちっくなへヴィ・メタル・バンドを思い出す映画でもあり、
BLACK SABBATHから始まるドゥーム・メタルの曲の雰囲気にも近い。
ヘヴィ・メタルには“WITCH”を含むネーミングのバンドが多く、
ANGEL WITCH、WITCHFINDER GENERAL、WITCHCRAFTWITCHERYWITCH MOUNTAINなど、
それっぽいムードを醸し出すバンドばかりだ。
やや別系統ながら、
DINOSAUR JR.のJ・マスキスがドラムを叩くモロのバンド名のWITCHもその一つと言える。

そういうバンドの曲が使われているわけではないが、
オーガニックで冷たい音響効果もじわじわ効いてくる映画だ。

悪魔と切り離せない生き物の山羊がシンボリックに登場するところも恐怖を静かに煽るポイントで、
ファンタジックな作り物というより妙に真実味を帯びた仕上がりである。

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ストーリーだけでなく映画全体の空気感の大切さにもあらためて気づかされる。

今回が長編映画デビュー作になるロバート・エガース監督は、
撮影前に彼の地の当時のことをかなり調査して制作に取り掛かったという。
魔女に関することや悪魔憑きのことを緻密に調べ、
そういう感じのセリフや発音も当時の記録を参考にしたらしい。
だからこそgodやsinといった言葉もリアルに響く。
物語の舞台になった地の風俗(もちろん本来の意味の方)や風習、信仰、伝承も調査し、
家や服装、調度品なども再現。
一人一人の衣装・・というか日常着も見どころだ。

ディテールにこだわった作りであることが一目瞭然だが、
ニューイングランド地方に比較的近いカナダのオンタリオ州の北部で撮影された森林地帯の
寒々とした気配にも身が引き締まる。
もちろんスクリーン全体で魅せる広がりと奥行きのある映像で、
影と光と緑がまぐわったかのような“ウィッチ・カラー”と呼ぶべき底無し沼の深い色合いの
オーガニックな映像美に、
ひたすら飲み込まれていく。

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子役たちも含めて俳優陣もみな熱演だが、
特に主演のアニヤ・テイラー=ジョイに惹かれる。
セリフから察するに初潮を迎えたぱかりとも解釈できる年齢設定にも思えるが、
微妙なロリータ・フィーリングで蠱惑的な魅力がある。

裸身も披露するが、
分厚く着込んでいるようでガードが甘い服装だからエロチック。
彼女が身にまとう“ファッション”にも魅了され、
童話に出てくるお姫様のような佇まいのフェミニンな香りを漂わせつつ、
やはり魔女なのかも・・・と思わせるオーラにじわじわ痺れていくこと請け合いだ。


★映画『ウィッチ』
2015年/米国/英語/カラー/93分/原題:WITCH
配給:インターフィルム
(c)2015 Witch Movie,LLC.All Right Reserved.
7月22日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
http://www.interfilm.co.jp/thewitch/


映画『ダイ・ビューティフル』

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ユニークなトランスジェンダーの人生をユーモアとペーソスをまぶして描き、
『Die Beautiful』という原題がリアルに響く2016年のフィリピン映画。
『ある理髪師の物語』(2013年)を手掛けたジュン・ロブレス・ラナ監督の佳作である。

主人公は実在の人物ではなく『ダイ・ビューティフル』は劇映画だが、
“ミス・ゲイ・フィリッピーナ、ミスコンの女王”であるトランスジェンダーの
ドキュメンタリー映画のように作られている。
主演のパオロ・バレステロスはメイクアップ・アーティストでもあり、
instragramで披露している海外セレブのものまねメイクも見せるカラフルな作品だ。

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幼少のころから目立ちたがり屋さんで“男好き”だった男の子のトリシャは、
保守的な父親に男手一つで姉とともに育てられた。
いつかは“ヴァージン喪失の覚悟”をしないと思っている高校生の時にボーイフレンドを作るも、
悲惨な形で“初体験”。
家族にバレて父に絶縁を通告されてダメージを負うも、
トリシャは親友と共同生活を始め、
身寄りのない娘を引き取って育てながら、
ミスコンへの出場を続けて女王を目指す。
トリシャも恋をして“娘”と家族を作れる期待感でテンションが上がるも、
人生いろいろ。
一筋縄ではいかない相手の思いと運命と状況に煩悶しながら、
顔だけでなくオッパイもビシッ!と“メイク”し、
“ミス・ゲイ・フィリッピーナ”のミスコンの決勝戦に臨む。

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わかりやすい物語だが、
“ミス・ゲイ・フィリッピーナ、ミスコンの女王”としてのトリシャの最期を最初に見せ、
適宜時代を行き来しながら遡って話を進めていくスタイルの構成で、
入り組んだ流れにしたことが奏功して躍動感を生んでいる。
もちろん“娘”までも学校で馬鹿にされるような状況だが、
不幸自慢なんてする暇あったらビューティフルになるため精を出した方がいい!ってアティテュード。
自分自身をはじめとしてなんもかも笑い飛ばすことでエナジーを放射するようにトリシャはたくましい。
トリシャも仲間たちもみんな、いい顔をしている、

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あけすけな会話も痛快きまりない。
ワイセツとされるスラングを使っているにもかかわらず、
お下劣フィーリングを封じ込めて一般的な日本語に“矯正”された字幕になっていて、
“これはおかしいだろ?”と思わされる海外の映画が多い。
“チンコ”はもちろんのこと“マンコ”も堂々と日本語化した、
日本語字幕担当者をはじめとするこの映画の関係者の方々に親指を立てたい。
卑語でないと伝わらないニュアンスがあるしスノッブと対極の赤裸々な人間たちのナマの声なのだから。
そういう言葉を発している人物たちの、
“ふぁっくゆー!”とあっけらかんと中指を突き立てる佇まいの和訳でダイレクトに伝わってくる。

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というふうに遠慮なきストレートな言葉遣いながら
もちろんキワモノ扱いはしてない。
ネタがネタだけにエキセントリックに映るかもしれないが、
落ち着いた調子で人物の感情の揺れをじっくりと描き込んでいる。
微妙にくすんだストレンジな明るさの映像色も、
次々と深手を負いながらも輝こうとするトリシャの心情の表れに見える。
やはり映像そのものが味わい深いからこそ面白いセリフも生き生きするのだ。
トリシャをはじめとする俳優たちの熱情と
監督などの制作陣の情熱がハーモニーを織り成し、
テンポがいいところも高得点。
映画全体がヴァイブレイションに貫かれているからリズムを生み、
心の底から生きている映画だなーと思わされるのだ。

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もちろん根っこの気持ちはそういうものだろうが、
LGBT差別反対!とか馬鹿の一つ覚えで連呼するようなトーンとは真逆の映画だ。
諦観諦念を突き抜け、
ある意味冷めているからこそエネルギッシュになれるしストロングになれる。
つるんで声高にアビールなんてしない。
“個”であることが大切だとわかっているから。

“もし死んだら、
アンジェリーナ・ジョリー、ビヨンセ、ケイティ・ペリー、ジュリア・ロバーツ、レディ・ガガといった、
海外セレブの日替わりメイクをしてね”と、
急死直前に冗談交じりで近しい人にお願いしていたトリシャ。
ただそれはヴィジュアルの憧れの話だ。
と同時にミスコンの公の場で、
「死んだあと、もしも生まれ変われるなら、もう一度自分になりたいです(以下自粛)」とトーク。
ありとあらゆるどこかの範疇に属することなく、
もっともっともっともっと自分自身でありたい強靭な意志表明に目が覚める。

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心を動かされるのはトリシャの生き方に対してだけではない。
トリシャが棺に入った以降に時間を割いているところも特筆すべきだろう。
何事においても自分が“理解”できないからといって恐れて排除しようとする人間が後を絶たないが、
生前だけでなく死後も自分の所有物にしようとするエゴイストからトリシャを解き放とうとする、
仲間や支持者たちのクールな友情やサポートぶりも見どころだ。

映画を観た後“もうちょいがんばってみよう”って気持ちになる。
オススメ。


★映画『ダイ・ビューティフル』
2016/フィリピン/120分/カラー/原題:Die Beautiful/日本語字幕:佐藤恵子
© The IdeaFirst Company Octobertrain Films
7月22日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
https://www.cocomaru.net/diebeautiful


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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