なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『コール・オブ・ヒーローズ/武勇伝』

COHメイン


“黒澤明監督の『七人の侍』や『用心棒』に
セルジオ・レオーネ監督のマカロニ・ウエスタン(『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』等)を足し、
香港伝統の武侠映画で掛けたような“
という宣伝文句がハッタリではない映画だ。
1968年香港生まれのベニー・チャン
(『WHO AM I』『コネクテッド』『新少林寺/SHAOLIN』『レクイエム -最後の銃弾-』ほか)が
製作・監督・共同脚本。
本作と本作に先駆けて上映される『おじいちゃんはデブゴン』では主演も務める、
サモ・ハンがアクション監督を担当した2016年の作品である。

サブ8

舞台は内戦下の1914年の中国。
団長率いる自警団に守られて貧しいながら平和に暮らしていた田舎の村に、
各地で略奪と虐殺を続ける悪名高き軍閥の勢力が迫っていた。
軍閥を率いる将軍の冷酷非情な息子は、
村に単身乗り込むと教師やその教え子をたやすく殺して逮捕される。
団長は会議を開いて将軍の息子の死刑を決めるが、
そこへ軍閥の将校が現れて将軍の息子の釈放を要求する。
拒否すれば総攻撃をかけて村民を皆殺しにするという軍閥の要求を団長は断固拒否し、
徹底抗戦を主張。
だが村人たちは、おびえるばかりだった。

以上はストーリーの序盤だが、
馴染みのない人が多いであろう時代の中国の史実を元にしているとはいえ
話の流れはわかりやすい。

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一地域の物語であるにもかかわら大陸感あふれる超ビッグ・スケールで迫る。
可能であれば映画館で観ていただきたいビッグ・スクリーンの左から右までをフルに活用した動きで、
ダイナミズム満点の映像力に“これぞ映画!と”ひざを打ちたくなる。
アクション・シーンは言わずもがなだが、
人物をじっくりとらえるシーンでも押しと引きが絶妙なカメラ・ワークの思い切りが良く、
ロマンあふれる楽曲で躊躇なく大仰に盛り上げる音楽も相まって
映画全体の歯切れのいいテンポに一役買っている。

戦いのシーンも様々な場が描かれ、
アクションが売りの一つの映画とはいえダラダラ続けずにメリハリをつけ、
派手にやればやるほど観ている方は意外と飽きることをわかっているかのように、
様々な見せ方をしているのも上手い。
映画全体を見渡して無駄がなく引き締まっていて適度に風通しのいい編集が的確なのだ。
もちろん移動の乗り物は車ではなく馬。
これがまたいい味を出している。

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核兵器や化学兵器をはじめとしてまとめて始末しようとする現代の兵器も残酷は残酷だが、
当時の戦いの火薬関係はせいぜいピストルやダイナマイト程度で
強烈な刃物が基本のプリミティヴな武器による残虐性もハードコアに描かれる。
豚なり牛なり鶏なりを殺すような生々しいテイストである。
“R15+”指定されているほど流血も包み隠さず映すからホラー映画テイストを感じる場面も多いとはいえ、
首吊りシーンも含めてリアルな描写を大切にし、
むろん死をオフザケ交えて描くことはしてない。

まさに虫けらの如く人を簡単に殺すシーンも目立つ映画だけに
凄惨なシーンの数々を通して死の重みに貫かれている。
やりたい放題で人を弄び人殺しが趣味としか思えない人間で
笑顔を絶やさないからこそ逆に冷酷度五割増しの将軍の息子の冷酷非情非道ぶりが強烈だ。
女も子どもも年寄りも差別区別は無しの“平等”な殺害ぶりは、
現代の世界中の独裁者(+力を持つ者)に珍しい性質ではない。

サブ3

人の数だけ正義があり、
自分勝手な正義も含めて正義のために命をかけた者たちの映画であることは間違いない。
「権力は正義だ。権力に従わなければ殺せばいい」という言葉も吐かれる映画だから、
“正義”とされることが抑圧的になり得ることもほのめかしているようにも思える。
そして僕は単純な勧善懲悪ものと一線を画すこの映画のテーマを“義”と断定する。
“義”は“正義”だけではない。
信義と義侠が交錯し、
かつての同志が考え方の違いで敵になって殺し合う終盤の一騎打ちシーンでの“義”も強烈だ。

見せ場だらけで、
あくまでも基本はエンタテインメント映画だが、
功徳ってものも考えてみる。

サブ2

今の世界各地の情勢ともリンクしている。
それこそ香港や中国ともだが、
いわゆる反政府映画ではないにしても
これだけ痛烈強烈な作品を“ギリギリのライン”で仕上げた制作陣の手腕に乾杯!である。

それぞれのキャラが際立つ俳優たちの深い感情表現も特筆したい。
特に主人公である“流れ者のさすらい人”が、
シリアスなこの映画にいいアクセントを付けている。
人助けに興味はないが結果的にそういうことばかりやっていて基本的に“護衛”が仕事で、
飄々とした悠々自適な“ズッコケとんちきトーク”もファニーで浮いていて楽しい。
香港映画特有のアクションの動きが例によってユーモラスに見えたりもする。

カメラ・ワークや脚本はもちろんだが、
やはり演技力あってこそ映画だとあらためて思う作品だ。

サブ5b

★映画『コール・オブ・ヒーローズ/武勇伝』
2016年/中国・香港/120分/カラー/シネスコープ/R15+
©2016 Universe Entertainment Limited.All Rights Reserved.
配給:(株)ツイン
6月10日(土)より、新宿武蔵野館、シネマート心斎橋ほか、全国順次ロードショー。
主な出演者:
エディ・ポン(『激戦 ハート・オブ・ファイト』、『疾風スプリンター』)、
ラウ・チンワン(『奪命金』、『レクイエム -最後の銃弾-』)、
ルイス・クー(『レクイエム -最後の銃弾-』、『ドラッグ・ウォー 毒戦』)、
ウー・ジン(『新少林寺/SHAOLIN』、『ドラゴン×マッハ!』)、
ユアン・チュアン(『ラスト・シャンハイ』、『レクイエム -最後の銃弾-』)
ジャン・シューイン(TVドラマ「最高の元カレ」、『So Young ~過ぎ去りし青春に捧ぐ~』)、
リウ・カイチー(『SPL/狼よ静かに死ね』、『クリミナル・アフェア/魔警』)、
シー・ヤンネン(『カンフー・ハッスル』、『新少林寺/SHAOLIN』)、
サミー・ハン(『燃えよ、マッハ拳!』『ドラゴン・ブレイド』)。

主題歌「危城(Dangerous City)」は台湾のロック歌手の信(Shin)が作詞作曲して歌っている。

sammohungisback.com


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映画『セールスマン』

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久しぶりにパーフェクトな映画を観た。
トランプ米国大統領に抗議して
本作のアカデミー賞(外国語映画賞受賞)授賞式への出席のボイコットを表明したことで知られる、
イランのアスガー・ファルハディ監督の作品だ。
大きな賞の受賞みたいなことは権威に認知された感じでウサン臭く思ってしまう僕でも、
これぞ映画!と言いたくなる底知れぬ“ちから”に揺さぶられて飲み込まれた。
一種のサスペンスものながら何度も観たくなるほど謎解きで終わらず、
何もかもが底無し沼のようにディープで一瞬たりともスクリーンから目が離せず、
物語と演技と映像と音楽が交感する“芸術”の映画だからこそ成し得る彫りの深い表現に感嘆するしかない。
これはほんと掛け値なしの傑作だ。

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イランのテヘラン在住で小さな劇団に所属する教師の夫とその妻が中心の物語。
思いがけないことで住む家を失った夫婦は二人の劇団仲間が紹介してくれたアパートに移り住むも、
引っ越しまもなく夫が不在中に妻が何者かに襲われる。
事件が表ざたになることを恐れて警察に通報しない妻に業を煮やした夫は勝手に犯人を探し始め、
夫婦が入居する部屋の前住人が“ふしだらな商売を営んで男を連れ込んでいた女性”だったことも発覚。
とばっちりのアクシデントに巻き込まれた夫婦は“信頼関係”が試される。

以上はほんの序盤だが、映画の性格上、ストーリーを明かすのはここまでにしたい。
話の流れはとてもわかりやすくシンプルである。
だが“主演夫婦”をはじめとして登場人物の静かな熱演により人間の奥底をえぐり掘り下げ、
目が覚めるほど生々しく善悪の彼岸を浮かび上がらせる。
グレイトな表現のすべてがそうであるように様々な角度から様々な要素を溶かし込み、
白黒つける“合理主義”で割り切れないことをそこはかとなく見せている。

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フェミニズムというとニュアンスが硬くなってしまうが、
イランで女性が置かれている状況を炙り出している。
強硬なイスラム原理主義ではなくいちおう民主主義国家とはいえ、
イランでは表に出にくい重圧感が女性を覆っていることがじわじわ伝わってくる。
日本も含めて他の地域でも大差ないが、
やはりイスラム圏では女性に非がなかったとしても夫以外の男性と“接触”したことが公になると半端ない。

ハムラビ法典を意識してなのか“目には目を! 歯には歯を!”とばかりに、
俺の手で敵を討つ!みたいな“男のプライド”に突き動かされた夫の男性の復讐心が凄まじい。
イランで生活をする女性は性の噂が広まると大変なことになるという妻の不安を察しようとせず、
おまえのことを思っているからこそ!とばかりに正義の制裁に邁進する夫。
と同時に“スキがあったおまえも悪い!”と言わんばかりの意識で、
“女は男の所有物”といった感じだから妻からしたら余計なお世話というか、
他人に知られるリスクと自分の心の痛みをまったく理解していないと思っているように映る。

そんな夫に対する妻の態度はとにかく尾ひれがついて話が拡散することを恐れたがゆえにも思えるが、
“赦し”の気持ちを示しているようでもあり、
心にも体にも深手を負ったにもかかわらず憐憫の気持ちも見せる。
今にも死にそうな人間に対しても容赦しない夫との対比がまた強烈である。
終盤は妻の意向おかまいなしで相手がどんな状況だろうが情状酌量無しの夫の激高ぶりもさることながら、
終始落ち着いた佇まいだからこそ痛々しいほど迫ってくる錯綜した妻の感情の震えが壮絶だ。

監督によればこの夫婦の生活様式はイランの“中流家庭”がモデルらしいが、
質素とはいえ共に役者もやっているから文化的な生活を送っていて、
いわゆる“知的水準”が高くてもこうなるという人間批評にも見える。
もともと根っこでくすぶっていたズレとヒビ割れがトラブルで一気に大きく広がったかのようで、
一般的な夫婦関係、いや普遍的な人間関係にも当てはまる。

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いわゆるセールスマンが直接物語とは関係ないだけに意味深なタイトルをはじめとして、
米国の劇作家アーサー・ミラーの戯曲『セールスマンの死』をダブらせているという。
監督は過去にすがって時代の変化に取り残されたその戯曲の初老のセールスマンを
急速に近代化が進むイランの社会状況に重ね合わせたらしいが、
この映画の夫婦の夫の教師にも重ね合わせられる。
現代的なライフ・スタイルと伝統的な価値観の狭間で生きて摩擦を起こすこの映画の夫婦にもつながる。

僕も映画を機に『セールスマンの死』を読んでみて、
ちょっとした会話の中から醸し出される軋轢の空気感や家庭/家族の在り方も触発されたようにも見える。
映画本編でも熱演している夫婦らが役者として『セールスマンの死』を演じているシーンも
一種の劇中劇として要所で簡潔に挿入して映画を引き締めており、
その舞台中で感情が高まったのか
夫が台本とは違う“本音”のセリフをアドリブで言ってしまうところも生々しい。

ただし試写会で観た時点での僕がそうであったように、
もちろん戯曲『セールスマンの死』を知らない方も釘付けになること必至である。

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124分間、一切の無駄がない。
物語だけでなく表現手法もストイックだ。

清流と濁流と奔流が交錯する意識の流れと痛々しく動揺する心理の緻密な描写に舌を巻きっぱなしである。
俳優すべての表情が絶品で、
特に一瞬たりとも気の抜けない精神状態が表れた事件後の主演女優の顔のこわばりように息を呑む。

1950~1970年代のカラー映画を思わせる陰影に満ちて渋味の効いた鮮やかな色合いの静謐な映像にも、
人物たちの淡く儚い心情が滲み出ていてゆっくりと引き込まれる。
さりげなく映し出される現代のイランの調度品や日常風景も生活感を醸し出すことに一役買っている。
落ち着いた話し方のシーンがほとんどにもかかわらずスローなようでテンポがいいところも特筆したい。
カメラの長回しをほとんど使わず、
シンプルでオーソドックスなアングルが中心ながらカメラの切り替えが適度に頻繁な編集も奏功している。
とりわけ夫婦の表情のコントラストをはじめとして、
場にいる人物たちの顔を交互に見せるタイミングが見事としか言いようがない。
特に中盤以降は重い空気が続いて緊張の糸がゆるむことがほとんどないが、
リズミカルな流れだからそ観る者の目をスクリーンから離さない。
そして終盤は観る者すべてが否応無く固唾を呑んで行方を見守る“傍観者”となる。

音楽の使い方も素晴らしい。
ある意味、物語以上にネタバレ厳禁だから詳しく書かないが、
観終わってから初めて気づく“音楽のちから”である。


一般の映画以上に観た人の精神状態によって異なる無限のかたちで触発される。
僕は、観て、“死に体”が救われた。
エンディングを観るとこれもまた“再生”の映画だと信じる。

必見。


★映画『セールスマン』
2016年/イラン・フランス/124分/ペルシャ語
6月10日(土)より、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー。
(C) MEMENTOFILMS PRODUCTION–ASGHAR FARHADI PRODUCTION–ARTE FRANCE CINEMA 2016
http://www.thesalesman.jp/


映画『心に吹く風』

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韓流ドラマ・ブームの発火点であり
2000年代半ばに日本でも大旋風を巻き起こした『冬のソナタ』で知られる、
ユン・ソクホが監督・脚本を手掛けた初の映画。
春の北海道富良野を舞台に、
眞島秀和(『フラガール』『ボクの妻と結婚してください。』ほか)と
16年ぶりに女優復帰を果たした真田麻垂美(『月とキャベツ』ほか)が織り成す、
大人の純愛映画である。
僕も含めて興味がない人間もその気にさせた『冬のソナタ』にも通じる、
むせかえるほどの透明感あふれる濃厚な匂いどっぷりの佳作だ。


仕事で富良野を訪れたロンドン在住のビデオアーティスト/写真作家の日高リョウスケ(眞島秀和)は、
まったくの偶然で高校時代の恋人・春香(真田麻垂美)と20年ぶりに再会する。
春香にはダンナも娘もいるが、
春香をずっと想い続けていたリョウスケは風景画などのビデオ撮影の付き添いに誘う。
春香は戸惑いながらもリョウスケに同行して忘れかけていた想いをよみがえらせ、
20年前のプラトニックなふれあいの情景を浮かび上がらせながら、
失った時間を取り戻すように2人は急接近していく。

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冷静に見ればただの不倫映画である。
そこまで言わなくても浮気であることは間違いない。
いやこの程度だったら不倫二歩手前で浮気一歩手前ではないかとも思うし、
そういう“ギリギリのライン”の表現がこの監督ならではだろう。

二人の距離感と間合いと空間の見せ方がまず素晴らしい。
20年前みたいな後悔をしないように男が押し、
女は戸惑って心を逃がしつつも思いを受け止めようとゆっくり自分自身を開いていく。
奇人でも変人でもない二人が“俗”を超越した時間を創る。
春香の気持ちを“現実”に戻すように数ヵ所で登場する口うるさい姑とオッサンなダンナが、
溜め息が出るほど“いかにも”俗っぽいのも的確だろう。
まるでフツーのテレビ・ファミリー・ドラマの典型的な人物みたいで、
ギャップが大きいがゆえにリョウスケとの時間が際立つ。

寡黙な映画だ。
それだけにセリフのひとつひとつが重い。
おだやかな緊張感に貫かれている。
もちろん通常の聞き取れるスピードで語ってはいるのだが、
特に春香の言葉は“スローモーション”でじんわりと胸に響く。
白馬に乗った王子様ではなくリアリスティックなリョウスケのロマンチストぶりも特筆したい。
静かな音楽の多用も奏功して現実の時間軸を動かしそうなほどの独特のタイム感に飲み込まれる。

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宣伝コピーどおりにまさに“大人の純愛”、
というか大人にしかできない超ロマンチックな純愛のかたちが描かれる。
いわゆるロマンチックというよりは、
息を吐くように口から解き放つセリフの言葉を聞いていると
英国をはじめとする中世のロマン派詩人のロマンティシズムを思わずにはいられない。
ウィリアム・ブレイクやジョン・キーツ、パーシー・ビッシュ・シェリー、
ジョージ・ゴードン・バイロンといった人たちの作品を思い出す。
比喩の仕方など現実離れしているようで実はかなり現実を反映しているのである。

自然の事物や現象で心を描く映画だ。
「昔から風が吹く日は心にも風が吹いている」
「風のざわめきは心のざわめき」
「風と日差しのスキンシップ・・・風が男性、日差しが女性」といった言葉が、
鮮やかな映像とともに解き放たれる。

映画館のスクリーンが映える映像だし、
ほんと僕もこの地に行ってみたくなった。
木々をはじめとする植物、野の夜景、湖水など、
凛とした景色を際立たせるまっすぐな撮り方が絶妙で、
観た者すべてを覚醒させるほどの映像美なのだ。
風がテーマの一つの映画だけに、
風で揺れる木々などで“風の動き”もしっかり見せてくれる。
もちろんそれは心の動きでもある。

終盤は特にネタバレ厳禁の映画だが、
美しいものは、はかない。
僕はこのエンディングを“再生”と信じてやまない。


★映画『心に吹く風』
日本/2017/ビスタ/107分/5.1ch
監督・脚本:ユン・ソクホ 
音楽:イ・ジス 
出演:眞島秀和 真田麻垂美 鈴木 仁 駒井 蓮 長内美那子 菅原大吉 長谷川朝晴
製作:松竹ブロードキャスティング 
制作:ドラゴンフライエンタテインメント 
配給:松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ 
クレジット:©松竹ブロードキャスティング
公開表記:6月10日(土)より北海道先行公開、6月17(土)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
http://kokoronifukukaze.com/


映画『20センチュリー・ウーマン』

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TALKING HEADSBLACK FLAGRAINCOATSSiouxsie and the BANSHEESGERMS
BUZZCOCKS、SUICIDE、DEVO、CLASH、NEU!、
デイヴィッド・ボウイ、ルイ・アームストロング、サンディ・ウィリアムズ、フレッド・アステア、
ベニー・グッドマン、ルディ・ヴァリー
・・・・・・という並びにピン!ときた方はまず間違いない!映画だ。
以上はこの映画の中で使われた曲をやっているアーティテストたちだが、
もちろんこれらの名前を知らない方もいつのまか虜になる佳作である。

1966年カリフォルニア州バークレイ生まれで『人生はビギナーズ』(2010年)で知られる、
マイク・ミルズの監督・脚本による2016年の映画。
自身が育ったLA近郊のサンタバーバラを舞台に、
自分の母親をモデルに親子をはじめとする人間関係を描いている。
実話じゃないとはいえ母親と女きょうだいだけの環境の中で成長していった監督だけに、
実体験も流し込まれていると思われる。
1979年の夏が中心の舞台設定で、
個人的には高校二年でロックに入れ込み始めた頃だし大好きな曲が続々の映画だから当時の感覚が蘇る。
いちいちディーテールに気づいてニンマリするし観ていてこれほど居心地のいい映画は久々だが、
むろんノスタルジーの映画ではなく現在進行形の視点で描いている。

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進取の精神に富むシングルマザーで55才のドロシアは、
思春期を迎える15歳の息子ジェイミーの教育に悩んでいた。
ある日ドロシアは、
同じ家でルームシェアで暮らす24才の写真家のアビーと、
ジェイミーの幼なじみで夜な夜な泊まりに来る性経験豊富な17才のジュリーという二人の女性に、
息子を助けてやってほしいと頼む。
そこにドロシアの家の同居人で推定45才の元ヒッピーのウィリアムも現れる。

以上が大まかなストーリーで話の流れはわかりやすいが、
家族の問題を含む色々な要素を絡めていて侮れないほど深い。

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年上の二人の女の子と彼女たちにやさしい男の子のじりじりした関係が楽しい。
映画『青い体験』を思い出すシーンもなくはないが、
必ずしもそういうテーマではない。
主に少年が軸になって物語は進むし、
メインの登場人物の5人全員が主人公とも言えるほど各々のキャラを大切にしつつ、
タイトルどおりに女性がリードしていく映画だからだ。
3人の女性のアティテュードが見どころだが、
言うまでもなくコテコテの男女同権云々とは一線を画し、
写真家のアビーが愛好するRAINCOATSの歌のニュアンスの
シャープで“おっとり”したフェミニズムで描かれている。
ときおり吐き漏らす女性たちの“ドッキリ発言”にもいちいちうなずいてしまうのだ。

監督のリアルな音楽体験にインスパイアされて映画が作られたかのように、
使われている音楽の気持みたいなものが混ざり合っている。
母親が好きなジャズなどのハッピーな色を適宜ブレンドしつつ、
パンク・ロックからポスト・パンクやハードコア・パンクに派生していく1979年という、
微妙な時代の空気感をしっかりと映画化しているところがたまらない。

70年代後半のそういう曲がカリフォルニアの一角でどう捉えられていたかが見えてもくるが、
映画全体がクールで微妙に冷めていて、
特にポスト・パンクの体温そのものの映画である。
スノッブなサブカルのムードとも一線を画しているのは、
この映画の登場人物たちの根が全員パンクだからだ。
たとえBLACK FLAGファンから“ART FAG(アート気取りのカマ野郎)”と侮辱されようが、
スノッブにまでは至ってない。
従来のロックとは一味違うパンク時代ならでは・・・いやパンクというよりは、
ラヴシーンやセックス観も含めて
やっぱり“ポスト・パンクなラヴソング・ムービー!”と言い切りたくなる。

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当時発売まもないレコードをかけるシーンを含むから
使われている曲が78~79年に音源が発表された曲が多いとはいえ、
アーティストの代表曲というよりは埋もれた名曲がほとんどというのも、
ポップな雰囲気にもかかわらず微妙に渋いこの映画の匂いを象徴している。
落ち着いているが、
さりげなく映画全体のテンポがいい。
三人の女性をはじめとしてシーンによって主人公を変えて描いているから変化に富み、
小気味いい展開なのだ。

詰め込みすぎずに間合いがいいし、
あらゆる点で空間の使い方も映画の手法として特筆したいところだ。
サンサンとビーチを照りつける太陽のイメージとは一味違う、
カリフォルニア郊外をイメージするソフトな色合いの映像美も素敵である。
室内でも屋外ででも光の使い方が素晴らしく、
緑の中で少年少女二人がタバコを吸うシーンなんて絶品だ。

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この親子を取り巻く人たちは“新型の家族”にも見えるつながりだが、
ファミリーにしてはゆるくて自由があってクールな透き間がとても居心地がいい。
聴き馴染みのないBLACK FLAGとTALKING HEADSのレコードで母親とオッサンが妙なダンスをするなど、
微笑ましくてまったりなごめる。

女と男と女と男と女の関係も含めて、お互いの距離感がこの映画の肝だろう。
息子の助けを頼まれた女の子二人が色々と“痛み”を抱えて母親との絆がイマイチということで、
母と子の関係もテーマの一つとして盛り込まれている。

子離れできていないのか親離れできていないのか相思相愛なのか僕からは言えないが、
「私のようになってほしくない」「しあわせになってほしい」と母親は言い、
「(二人の女の子に世話させていたけど)でも母さんがいればいい」
「父さんと愛し合っていた?」と息子は母に訊く。
さりげない会話の妙味も楽しめる。
書物からの引用も多いようだが、
「セックスしたら友情は終わり。このままがいいの」といった類いのセリフもひっくるめて、
格言みたいな言葉がさりげなく頻発しているのも面白い。
もちろん子供っぽいジョークに逃げることなく穏やかな緊張感に貫かれている。
いい意味でみんな大人なのだ。

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メインの登場人物5人の中で話がほとんど完結しているが、
世界的な物語を展開しているわけでもないのに
“自分の半径30センチ以内”の意識ではなく視野が普遍的である。
それぞれの人間模様をていねいに描いているし
みんなチャーミングな演技で惚れ惚れする。
特に息子の世話を母親から頼まれた強気の写真家と小悪魔な幼馴染の女の子二人は、
ほんと愛おしい。

甘酸っぱくてほろ苦い体験の描き方が旨くてとろける。
これが実体験だとしたら監督に嫉妬するし、
これほど心地良いジェラシーを覚えた映画は初めてだ。

観ていくうちに未来が開ける光がまばゆいジューシーな映画。
オススメ。


★映画『20センチュリー・ウーマン』
2016年/アメリカ/119分
6月3日(土)丸の内ピカデリー/新宿ピカデリーほか全国公開。
(C)2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:ロングライド
www.20cw.net

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参考までに映画に使われている曲を書いておく。
サントラ盤には未収録のBLACK FLAGなどの曲も含めてある。

ロジャー・ニール(映画音楽作曲家)「Santa Barbara」「Modern People」「All Of My Objects」
「Everything On Television」「The Politics of Orgasm」
ルイ・アームストロング「Basin Street Blues」
デイヴィッド・ボウイ「DJ」
サンディ・ウィリアムズ「After Hours On Dream Street」
フレッド・アステア「This Heart Of Mine」
TAKING HEADS「Don't Worry About The Government」「The Big Country」「Drugs」
RAINCOATS「Fairytale In The Supermarket」
Siouxsie and the BANSHEES「Love In A Void」
Benny Goodman and His ORCHESTRA「In A Sentimental Mood」
GERMS「Media Blitz」
SUICIDE「Cheree」
DEVO「Gut Feeling (Slap Your Mammy)」
Rudy Vallee & His CONNETICUT YANKEES「As Time Goes By」
BUZZCOCKS「Why Can't I Touch It?」
Lars Clutterham「Chant D'Amour」
CLASH「White Man (In Hammersmith Palais)」
Phlask「Vag Punch」
NEU!「Lila Engel (Lilac Angel)」
Brick Fleagle (Roger Jacob Fleagle)「So Blue Love」
BLACK FLAG「Nervous Breakdown」


映画『ブラッド・ファーザー』

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『マッドマックス』『リーサル・ウェポン』シリーズの主演で知られ、
アカデミー賞の録音賞と編集賞を受賞した『ハクソー・リッジ』(2016年)等の監督もしている、
メル・ギブソンが主役を務めたフランス映画。
ハードなアクションものながら親子愛の物語も絡めた人間臭い作品だ。
1966年パリ生まれのジャン=フランソワ・リシェ(『アサルト13 要塞警察』ほか)が監督し、
1969年LA生まれのピーター・クレイグ(『ザ・タウン』ほか)が原作・脚本を手掛けている。


深読み解釈すると、
メル・ギブソン自身のことをイメージすると同時に、
『マッドマックス』から40年後に
あの“マックス”が一人娘の父親になって荒野に帰ってきたかのような錯覚も抱かせる映画だ。

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ジョン・リンク(メル・ギブソン)はアル中のリハビリをしながら彫り師として身を立て、
米国内のトレーラーハウスでひっそりと暮らす保護観察中の身。
生き別れて4年前に行方不明になっていて生きていれば18才の娘のリディア(エリン・モアーティ)から
突然電話がかかってくるも、
彼女はトラブルを起こしたギャングからも警察からも追われていた。
かたやジョンはおのれとの闘いの日々だった。
だがアルコールだけでなくドラッグも断ち、
真面目に日常を送って仮釈放から“本釈放”を目指すべく無難に過ごしているうちに、
“心の張り”を失って眠っていたジョンの熱情が点火された。
父親失格だったジョンは娘を守るために銃を持って立ち上がり、
無法者の若造たちを相手に、
筋金入りの無頼派アウトローのスピリットで立ち向かう。

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おおまかにストーリーを書くとこんな感じだが、
シンプルかつストレートな話ながらもちろん紆余曲折。
アメリカ社会の一部を炙り出しながら、
友情も絡めて人間関係のつながりもさりげなく織り込んでいる。

バイクや銃撃などのアクションも“売り”の映画とはいえ、
過剰なまでにやりまくる映画が多い米国産とは一味違うクールな描き方も印象的だ。
もちろんメル・ギブソンは激情で燃えたぎっているが、
いい意味で年を重ねた“不良”の凄味でぐいぐい押してくる。
本作用のインタヴューで監督が言った
「一緒に仕事をするにあたり、メルほど控えめで、冷静な人物はめったにいません」
という言葉もなるほど !と思える演技なのだ。
娘のリディアも父に対する気持ちを押し殺しているかのようで、
いかにもの“感動型”とは一線を画す調子で演じられ、
それはラスト・シーンの佇まいにも表れているとも言えよう。
フランスの監督ならではと言える感情のブレンドが体感できる。

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撮影中に『駅馬車』などで知られる西部劇の帝王ジョン・フォードを監督は意識したらしいが、
撮影地は同じ米国ながらニューメキシコ州アルバカーキ周辺だという。
荒野がメル・ギブソンを引き立てている。
メキシコと国境を接する南部で、
トランプからもヒラリー・クリントンからも見放された“今のUSAの人々”が
ジョンの周りで生活している光景も見えてくる。

娘のリディア役を演じたエリン・モリアーティは1994年ニューヨーク生まれで、
『Marvel ジェシカ・ジョーンズ』(2015年)や『はじまりへの旅』(2016年)に出演している女優だ。
最近だと『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)で知られる、
ディエゴ・ルナが冷酷なギャング役で貢献。
そして『君が生きた証』(2014年)では監督も行なっている、
ウィリアム・Hメイシーがジョンの友人役として映画を引き締めているのであった。


★映画『ブラッド・ファーザー』
2016年/フランス/英語/シネスコ/ドルビーデジタル/88分
監督:ジャン=フラソワ・リシェ
脚本:ピータ・クレイグ
出演:メル・ギブソン、エリン・モリアーティ、ディエゴ・ルナ、ウィリアム・Hメイシーほか
提供:ハピネット/ ポニーキャオン
配給:ポニーキャオン
原題: BLOOD FATHER
クレジット: © Blood Father LLC, 2015
公開表記: 6月 3日(土)新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショ。
http://b-father.jp/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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