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なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ビサイド・ボウイ ミック・ロンソンの軌跡』

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70年代前半のグラム・ロック時代のデイヴィッド・ボウイのバンドでギターを弾いていた、
音楽家ミック・ロンソンのドキュメンタリー映画。
ボウイとの絡みを軸に話を進めるためミックと関係ないボウイの細かいネタも含むが、
懐かしのライヴ映像等を織り込みながら関係者の談話で進めるオーソドックス、
かつ丁寧な作りだ。

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[ロジャー・テイラー]

ミック・ロンソン、デイヴィッド・ボウイ、ジョン・ピール、
ルー・リード(『Transformer』をプロデュースしてもらった)らが過去の映像で出演。
撮り下ろしで以下のミュージシャンもトークしている。

フレディ・マーキュリーの追悼ライヴで共演したロジャー・テイラー(QUEEN)、
MOTT THE HOOPLEやソロ作などで活動を共にしたイアン・ハンター、
YES加入前にボウイのアルバムで共演していたリック・ウェイクマン、
RICH KIDSのアルバムをプロデュースしてもらったグレン・マトロック(SEX PISTOLS)、
友人でもあったジョー・エリオット(DEF LEPPARD)、
モリッシーをプロデュースする仲介をした元FAIRGROUND ATTRACTIONのマーク・ネヴィン、
マネージメント等で関わっていて後にレコード・デビューも果たしたチェリー・ヴァニラなどなど。

ミュージシャン以外の関係者もポイントになる発言をたくさんしている。
写真家のミック・ロックは、
“ギター・フェラチオ”をはじめとしてロンソンとボウイの歴史的な“ツー・ショット”の絡みを
何枚も撮っただけ欠かせない人。
アンジー・ボウイが相変わらず目立ちたがり屋さんでガンガン発言している。
もちろんロンソンの奥さんも登場。

立ち位置がうかがえる幅広い面々がロンソンの活動と人となりを炙り出していく。

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[グレン・マトロック]

一緒にレコーディングやライヴをしたミュージシャンからは同業者ならでは逸話が連発される。
確かにギター弾きであることに変わりはないが、
単なるギタリストに留まっていた人ではないから音楽家と言いたい。
子どもの頃にピアノとヴァイオリンを習っていて、
ソロ・アルバムなどではギター以外の楽器もたくさん演奏していたし、
楽譜の読み書きもできる。
レコーディングにおいてはアレンジやミックスなどで才気を発揮し、
シンガーソングライターでもあった。

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[イアン・ハンター]

ビジネス関連の人の発言も興味深い。
ボウイとつながったことは人生を左右する幸運だったが、
ボウイにか彼のマネージメントにか実際は不明ながら
いいように使われていたようなニュアンスも映画の中で描かれている。
“営業”や世渡りが下手だったのか、
ボウイのバンドのギタリストのイメージが強かったために一音楽家としての才能が見落とされていたのか、
アレンジャーやプロデューサー、ミキサー、ソングライターとして
もっともっと活躍の場があったはずである。
どの世界でも要領が悪い人間はいるし、
才能があっても特に弱肉強食の“業界”はエゴが強い者たちの中に謙虚な人間は埋もれがちだと、
日本のシーンを見てきても思う。

といった具合に“暗部”のネタもさらすのはロンソンに対する制作者たちの愛ゆえのことだ。
ロンソンの奥さんの話は沈黙の時間に色々と確執があったことも深読みでき、
お金にかなり苦労した話をけっこうこぼしているのも切ない。
他界1年ほど前にロンソンがアルバムをプロデュースしたモリッシーへの“感謝”の一言も
あまりに率直で生々しい。
The SMITHS解散後も熱狂的なファンが絶えないビッグ・ネームになっていたモリッシーを
プロデュースするまでロンソンが知らなかった事実にも、
メインストリームの動きに我関せずで我が道を行く音楽馬鹿だったことが表れている。

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でもやっぱりパフォーマーとしてのロンソンが一番カッコいい。
BEATLESではポール・マッカートニーとジョン・レノン、
ROLLING STONESではミック・ジャガーとキース・リチャード、
The WHOではロジャー・ダルトリーピート・タウンゼンド
LED ZEPPELINではロバート・プラントとジミー・ペイジ、
GUNS N' ROSESではアクセル・ローズとスラッシュといった具合に、
クールなバンドのステージはフロントマンだけでなく“ツー・トップ”の絡みも大きな見どころになる。

いわゆるバンド名義での活動ではなかったにもかかわらず、
70年代前半のデイヴィッド・ボウイはミック・ロンソンと“ツー・トップ”といっても過言ではなく、
ライヴは二人の絡みでステージをリードしていた。
まさに絵になる二人だったことは、
この映画に使われている映像や写真からも伝わってくる。

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ロンソンは脇役に過ぎなかったのか?
それは映画を観た方一人一人の判断にゆだねたいが、
最高の“バイプレイヤー”であったことは間違いないと確信する作品だ。


★映画『ビサイド・ボウイ ミック・ロンソンの軌跡』
2017年/イギリス/カラー/デジタル/104分/英語/監督・製作:ジョン・ブルーワー
原題:Beside Bowie : The Mick Ronson Story
3月8日(金) より、渋谷・シネクイントほかにて公開。
(C)2017 BESIDE BOWIE LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
https://besidebowie-movie.jp/


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映画『岬の兄妹』

メイン

“無職”で足の悪い兄と自閉症の妹のエクストリームな兄妹愛を描いた問題作。
中途半端でイライラさせられる映画が目立つ中、
これほどすべての針が振り切った邦画は久々だ。

松浦祐也(『ローリング』『走れ、絶望に追いつかれない速さで』他)と
和田光沙(『貌斬り~KAOKIRI~』『菊とギロチン』他)が兄妹を演じ、
風祭ゆきが産婦人科の医者役で特別出演。
監督・製作・プロデュース・編集・脚本は、
ポン・ジュノや山下敦弘監督作で助監督を務めてきた片山慎三である。
サブ5
港町の掘っ立て小屋での底辺生活を送る兄妹の物語。
兄はある日、脱いだ服や下着から妹が“売り”をやったことに気づくが、
“失踪癖”もあるだけに外出できないようにするも妹は家の中でじっとしていられない。
その直後に兄はリストラ。
足が悪い上に都会と違って仕事がなかなか見つからないという事情もあるのだろう、
家賃も電気代も払えない状況に陥る。
そんな中でも元気な妹は外に出たがり、
「冒険~」という言葉を連発する彼女の姿を見ているうちに
兄は妹の“売り”の斡旋を思いつく。

トラブルを重ねて試行錯誤しながら“営業体制”を整えて“仕事”は軌道に乗っていくが、
危ない橋を渡っていることに変わりはなく、
やがて大きなツケがまわってくる。
サブ1
映画の大半を占める兄妹の演技がとにかく素晴らしい。
“なんでもいいから ぶち壊せ/なんでもいいから さらけだせ”という、
三上寛の歌の「小便だらけの湖」を思い出す。

特に和田光沙の超体当たりの熱演は感動を超える。
人間自体がそれぞれ違うように自閉症の方も一人一人違うことを念頭に置きつつ、
リアルに響いてくる演技なのだ。
幼少時から快楽に敏感だっただけに誤解を恐れずに言えば“天職”であるかのように
行為が楽しくてしょうがないといった調子で、
ノリノリ無邪気にセックスに興じるシーンは観ていてこっちも楽しくなるほどの名演である。
兄との確執などで地割れを起こす勢いで泣くシーンも強力だ。
もちろんわざとらしさなんて微塵もなく、
常連客との“ロマンス”のところもまたかわいい。
サブ3
もちろんとことんシリアスな映画でありテーマは重い。
中途半端なギャグでごまかさずに“真剣勝負”だからこそ、
悲劇が喜劇に“昇華”されている。

兄役の松浦祐也のダメ男ぶりも見事だ。
ダラダラした怠け者とは一味違い、
生きるために原始的な発想で必死に道を切り開こうとしている。
意識高い系とは真逆の火事場の馬鹿力がエナジーになったパワーの言動に
苦笑と失笑を禁じ得ない。
実にいい顔しとる。
サブ2
本人が積極的になっているとはいえ妹を“売り”に出す兄は道義的にサイテーだが、
その行為のすべては妹のしあわせな顔を見たくてやっているようにも思える。

“売り”の斡旋を始めたのも二人の生活のためとはいえ、
半ば閉じ込められてもいた家から解放された妹の“変化”に兄は気づいていく。
ふにゃふにゃの爺さんからイジメられっ子の童貞高校生までの他人の役に立ち、
しかも心身ともに気持ちよく“仕事”ができる喜びにあふれ、
生きがいを得た人間の活き活きした表情になっていくのである。
サブ4
この兄妹の行為は犯罪に当たるのかもしれない。
だが二人は、
ホームレスと争いながらもゴミを漁って食料を確保することはあっても万引きはしてない。
盗みに入ったお店をつぶしかねない万引家族と違って、
この兄妹はお金を無心される友達以外にほとんど他人に迷惑をかけてない。

二人の食事シーンも強烈だ。
たくましくて身も心もハングリーな兄妹なのである。
サブ7
生々しく簡潔に映し出すセックス関連のシーンに象徴されるように、
間延びしてない編集も的確でゆっくりしたテンポの良さを生んでいる。
さりげなく映し出す情景や風景の映像からも地方の匂いがさりげなく漂ってくる。
適度に入る髙位妃楊子のピアノ音楽も緊張感を高めながら兄妹に寄り添う。


一瞬、ふりだしに戻ったかのように見せかけたあと、
“兄妹愛”の物語の続きを観る者にゆだねたラストの余韻もいい。

必見。
サブ6
★映画『岬の兄妹』
2018年/シネマスコープ/89分/5.1ch SURROUND SOUND
(C)SHINZO KATAYAMA
公式ホームページ:misaki-kyoudai.jp
3月1日(金)より、イオンシネマ板橋、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー。


映画『移動都市/モータル・エンジン』

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『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』の監督のピーター・ジャクソンが製作・脚本を務め、
『キング・コング』(2005年)で第78回アカデミー賞視覚効果賞を受賞した
クリスチャン・リヴァースが監督の映画。
邦題どおりに都市が移動して他の都市を支配する未来世界を描くダイナミックな作品だ。


世界が滅び、人々は空に、海に、そして地を這う車輪の上に、都市を創った。
最終戦争後、残された人類は移動型の都市を創り出し、
他の小さな都市を駆逐し、捕食しながら生き続けるという新たな道を選択。
地上は“都市が都市を喰う”、弱肉強食の世界へと姿を変えた。
この荒野は巨大移動都市・ロンドンによって支配されようとしていた。
ロンドンは捕食した都市の資源を再利用し、人間を奴隷化することで成長し続ける。
小さな都市と人々は、その圧倒的な存在を前に逃げるようにして生きるしかなかった。
いつ喰われるかもしれない絶望的な日々の中、
その目に激しい怒りを宿した一人の女性(ヘラ・ヒルマー)が反撃へと動き出す。

★メイン②★2488_TP2_00047R (1)

視覚/特殊効果の仕事で様々な映画に貢献してきた監督だけに、
まず映像が強力だ。
都市が巨大な戦車みたいに動く様は奇想天外で“飛行物体”もユニークだが、
リアルな見せ方が成されている。

移動都市ロンドンと反移動都市同盟の戦いの映画でもあり、
絶えることのない現代の戦争や内戦ともダブる。
先制攻撃をためらっているうちに自分の都市が次々と破壊されていく。
話し合いの余地がなくなり、
喰うか喰われるかのギリギリの状況では攻めないと死ぬ。
それが現実で、
被害を最小限に戦いを続ける。

★サブ①★2488_TP3_00025R

SF映画や戦争映画やアクション映画の要素がたっぷりなのはもちろんのこと、
ひそかにロマンス映画のエキスが滲み出してもいるし、
二組の親子関係も含む人間ドラマでもある。

一種の復讐劇からスタートしてその肝をキープしつつ話が二転三転していくスリリングな物語だ。
観た瞬間の大切なことを忘れないように僕はいつもメモを取りながら試写に臨んでいるが、
この映画はその作業を怠ってしまうほど目が離せなかった。
かなりの数の人が登場し、
様々な立場の人が演じられることによっててストーリーをふくらませている。
7人ほどの主要人物のキャラがはっきりしていて似た顔の人があまりいないのも、
話の流れをつかみすいポイントだ。

主演のヘラ・ヒルマーをはじめとして俳優たちも好演で、
大味に陥ることなくクールな愛憎の心理描写も見ごたえがある。
ベタなラスト・シーンも映画の王道らしくてイイ。


★映画『移動都市/モータル・エンジン』
2018年/アメリカ/2時間9分
(C)Universal Pictures
3月1日(金)全国公開(日本語吹き替え版もあり)。
http://mortal-engines.jp/


映画『ノーザン・ソウル』

メイン


マンチェスターなどのイングランド北部のワーキング・クラスの若者から1960年代に生まれ、
後のレイヴ・カルチャーなどに影響を与えた音楽ムーヴメントである、
“NORTHERN SOUL”に魅了された青年たちを描く2014年の英国の青春映画。

ファッション・フォトグラファーのエレイン・コンスタンティンが監督・脚本を務め、
『さらば青春の光』『トレインスポッティング』『THIS IS ENGLAND』に通じる
イングランド臭さに包まれている。
ヘタレの少年が“出会い”で変身し、
クラブのDJとして波乱万丈の日々を送りながら自分の道を見出していく佳作だ。

サブ_3

時はパンク・ムーヴメント前夜の1974年、
“地図上には存在しない”英国イングランド北部の街Burnsworthが映画の舞台だ。
高校生のジョン(エリオット・ジェームズ・ラングリッジ)は、
学校にも家庭にも居場所がなく退屈な毎日にウンザリしていた。

唯一の慰めは、気の合う祖父と過ごす時間と年上黒人看護師を毎朝バスで見かける事だけ。
そんなある日、親に勧められて気乗りしないまま行ったユースクラブで、
ソウル・ミュージックに合わせて激しく踊る青年マット(ジョシュ・ホワイトハウス)に出会う。
初めて聴く音楽と軽快なダンス…ジョンにとって新たな世界が扉を開けた瞬間だった。
マットが傾倒する“ノーザン・ソウル”にジョンも次第にのめり込んでいく。

高校をドロップアウトして家も出たジョンは、
マットとコンビを組んでノーザン・ソウルDJとしての活動を始め、
誰も知らない埋もれた名曲が録音された7インチ・レコードを発掘する歓びも覚える。
やがてナンバーワンDJになるため、
新たなレコードを探しにマットと共にアメリカへ行くことを夢見るようになるが、
バイト先で知り合ったワルや大人のベテランDJとの出会いでまた状況が揺れていくのであった。

サブ_5

まずは、やっぱり映像。
1974年のイングランド北部の空気感を醸し出そうとしたと思しき適度にくすんだ映像色にそそられ、
クラブ等で回しているレコードや人物が着ている服の香ばしい匂いがスクリーンから漂ってくるほどだ。
程良く田舎っぽい街並みも味わい深く映し出され、
DJやダンスのシーンもまさに“ノーザン・ソウル”な佇まいで、
ホット&クールな質感がとても心地いい。

主演のエリオット・ジェームズ・ラングリッジをはじめとして俳優もみな好演している。
主人公のジョンは内向的でも反逆心は旺盛で、
ルックスだけでなくダンスの動きでイギー・ポップを思い出すのは僕だけではないだろう。
ファッションをはじめとして“変身”してからも微妙に垢抜けないところがまた愛おしい。

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主人公を大いにインスパイアした相棒役のジョシュ・ホワイトハウスは、
昨年日本公開の映画『モダンライフ・イズ・ラビッシュ~ロンドンの泣き虫ギタリスト~』で
主役を務めた人だが、
別人に見えるほどこちらでは“ファック・ユー!”アティテュード全開の生意気キャラで掻きまわす。

2002年の映画『24 アワー・パーティ・ピープル』で
FACTORY Recordsの総裁トニー・ウィルソンに成り切ったスティーヴ・クーガンも出演。
主人公の憧れの女性で年下男子を上手にあしらうソウルフルな看護師役の
アントニア・トーマスもいいアクセントだ。

サブ_2

ドラッグが欠かせないストーリーに中盤以降は展開していくが、
やろうと思えばできた物語にもかかわらずセックスを売りにする作りとは一線を画し、
性表現も70年代以前の映画を思わせる甘酸っぱい感覚がたまらない。
とてもテンポが良くてリズミカルで踊り躍っている映画にもかかわらず、
いい意味で落ち着いた仕上がりだからゆっくりと深く心と体に入ってくる作品だ。

もちろん映画のテーマに沿ったソウル・ミュージックが27曲も流れてきて、ほっこり。
使われた楽曲を
http://northernsoul-film.com/soundtrack/
で見てみても門外漢の僕には知っている曲がない。
けどR&BやDJにあまり関心がない方でも入っていける映画だし、
いわゆるレコード・コレクターとは一味違うココロでレコードを追い探していくところは
レコード好きなら身を乗り出して観てしまうことうけあいである。

未来につなげるラストもいい感じだ。

サブ_4

★映画『ノーザン・ソウル』
原題:NORTHERN SOUL|2014 年|イギリス|102 分|カラー|ビスタ|DCP|R15+
日本語字幕:升本直子|字幕監修:NIGHT FOX CLUB|協力:After School Cinema Club
宣伝協力:VALERIA|配給:SPACE SHOWER FILMS
Film © 2014 Stubborn Heart Films ( Heart Of Soul Productions) Limited All Rights Reserved.
2/9(土)~|東京・新宿シネマカリテ、兵庫・神戸・元町映画館、
2/16(土)~|大阪・シネマート心斎橋、
上映予定|愛知・名古屋シネマテーク、京都・出町座 以降全国順次公開。
http://northernsoul-film.com/


映画『誰がための日々』

誰がための日々 チラシ?


“介護うつ”になった青年の“再生”を描く2016年の香港映画。
重いテーマながらテンポが良く、
家族や躁鬱病との“闘い”や“共生”を通して人間を静かにえぐる佳作である。
監督は本作が初の長編監督作となるウォン・ジョン。
「インファナル・アフェア」シリーズで知られるショーン・ユー(主役)と
エリック・ツァン(父親役)が共演している。

会社を辞めて一人で母の介護をしていた青年トン。
弟はアメリカに行ったきり戻らず、
トラックの運転手の父はお金を入れるだけで家には寄り付かなかった。
婚約者との関係も微妙になる。
結果、介護うつになり、ある“事故”を起こして最愛の母を死なせてしまう。
トンは躁鬱病で措置入院させられて1年間の精神科病院生活を終え、
家から逃げていて恨んでいる父が迎えに来てトンは狭い部屋で一緒に暮らし始める。

父親がもともと一人暮らしていて主人公のトンと共同生活を営むビルの部屋が凄まじい。
ホームレスよりはましかもしれないが、まさに“底辺”で、
香港では古い建物の中に多く見られるという。
ただし社会性を帯びつつ人間の深部に迫ることが肝の映画だ。

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この映画の母親は認知症ではなく肉体的に介護が必要な人間だが、
一般的に仕送りも含めて親の面倒を看ることは経済的にも精神的にも追いつめられ、
自分の人生が制限される。
さらに家族を構成する他の人間が無責任だとしたら、
親孝行であればあるほどこの映画の主人公トンのように孤独な“闘い”をしいられる。

介護されるような立場の親も精神的にも肉体的にも追いつめられているだろうから、
身近な人間につらく当たる気持ちも半ば理解できる。
でも、どちらかが死ぬまで人生を犠牲にするといっても過言ではない中で、
人任せで利己的な弟のことばかり母親は気に掛けて
人生つぶして毎日世話している主人公トンに対しては「クズ!」を連発。
憎悪してるわけでなく母親想いでも虚無が爆発してキレて手を上げたくなる気持ちも非常によくわかるし、
“精神がこわれる”のも非常に理解できる。

家族がいいものとは限らないのは世界中ちょっと見渡してみればわかる。
家族は社会の縮図だ。
“身内”だからこそ甘えてエゴに満ちた人間がいると関係は崩壊し、
世の中の物事すべてが犠牲の上に成り立つようになっているように誰かが貧乏くじを引く。
そんな現実に対して調子のいい陳腐なメッセージなんてお呼びじゃない。

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セリフの量は一般的な映画のレベルだし“事件”も起きる映画だが、
寡黙で静かな映画だ。
音楽も控えめ。
そんな作りだからこそ、ゆっくりと深く入ってくる。
時系列を多少行ったり来たりしつつストイックな編集で人物たちの心理を炙り出していく作りである。

演技の要素も大きい。
意識の流れが見えてくる主役のトンの表情の推移が特に見事だ。
友人の結婚式で出席者を唖然とさせた“奇行”も前半のトピックだが、
それも新郎新婦を思うまっすぐな性格ゆえの行動であり、
損得と短期的な成果にこだわるトランプ米国大統領みたいな上辺と体裁だけの連中を
ファック!しただけである。
“底辺”から脱出すべく母親に学をつけさせられている隣の部屋の子どもとの交流からも、
主人公トンの人柄が察せられる。
だが、あまりにもデリケイトで人が良すぎる人間はイイように“利用”されて精神がこわれていく。
笑顔が消えていく流れがあまりにもリアルだし、
後半は時折笑顔を漏らしつつも感情が殺されてしまったかの如き無表情ぶりが怖い。

ずっと独りだとしても、
万が一、
親身になって向き合ってくれる自分の味方が一人でも現れたら救いになる。
誠意と赦しを経たラストもいい。
リアルdepressive doomなオススメ作だ。


★映画『誰がための日々』
2016年/香港/102分
http://tagatameno-hibi.com/


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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