なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『Mr.Long/ミスター・ロン』

ミスター・ロン チラシ


『蟹工船』(2009年)、『うさぎドロップ』(2011年)、『Miss ZOMBIE』(2013年)、
『天の茶助』(2015年)などで知られるSABUが監督/脚本の映画。
台湾の殺し屋と日本の田舎町の人々との間で非情と人情がまぐわい、
昭和時代の日本のホームドラマとヤクザ映画、
あるいは浪花節の演歌と妥協無きハードコアをミックスしたかの如き人間ドラマの佳作だ。


台湾の殺し屋のロン(チャン・チェン)は六本木の台湾マフィアを殺す仕事を請け負うも失敗し、
日本のヤクザに捕らえられて傷を負ってトドメを刺される寸前に逃走。
行き着いた先は北関東の田舎町だった。

しばしロンがその地の廃屋を住み家にしようとしていたところ、
食料として無造作に野菜を置いていった無口な8歳の少年ジュン(バイ・ルンイン)との交流が始まり、
日本のヤクザにシャブ漬けにされたジュンの母親の台湾人リリー(イレブン・ヤオ)を手助け。
まもなくジュンに作っていた汁物などでロンの料理の達人ぶりが素朴な周辺住人たちに知れわたり、
みんなから生活をサポートされていく中でロンは牛肉麺の屋台を始めることになる。
屋台を手伝うジュンとの交流が深まる中でロンはリリーとの接触も増えていき、
周囲の住人たちのノリのいい気遣いもあって三人の間で一つの家族のようなムードが生まれつつあった。

例によってネタバレ最小限で物語の途中までの大筋を書いてみた。

メイン

いい意味で洗練されてない粗削りの映像によって場の匂いや空気感が生々しく伝わってくる。
アナログ感が溢れる映像がさりげなく登場人物たちの心模様と共振し、
なかなか晴れることのない曇天みたいな映像色が続く中、
中盤から後半にかけてのわずかな“晴れ間”みたいな明るさの映像がまぶしい。

映画の中の自動車のナンバープレートから察するに足利市をはじめとする栃木県が主なロケ地のようだ。
いわゆる限界集落やシャッター街ではないにしろ、
しばしロンが住むことにした家屋や彼と交流を深める母子の生活状態はなかなか強烈だが、
いわゆる底辺の人々の状況を声高にメッセージする映画ではない。
いくら都市部でインテリやサブカルが満ち足りた顔で得意げに調子のいい政治話を吐こうが、
合理主義とは別の次元で暮らすこの映画の人たちには何も響かない。
だが右も左もヘッタクレもない生活環境の中で、
人と人とのつながりを大切にして暮らす人たちのリアルな“生”は観る者一人一人の心に響く。

SABU監督ならではの人間臭い描写に飲み込まれる。
セックスのシーンも死のシーンもモロに長時間見せないことで心臓を射抜くことをよくわかっている。
映画の肝を醸し出す調度品や事物などのアイテムも見せ方も上手く、
ロンとジュンとサリーの手作りの茶碗は映画後半の命の象徴だから特に目を離さないでいただきたい。

サブ2

俳優陣の演技も自然体で素晴らしい。

主人公のロンは日本語がわからないということでほとんどしゃべらず、
無駄口叩かずにやることはやる一匹狼の“気”が滲み出ている。
いつ敵討ちされるかわからず24時間気が抜けないハードボイルドな佇まいの中で、
笑顔を見せない無表情の顔が中盤にうっすらと和らいでいくあたりも名演だ。

ロンとの交流でこの映画を進めていく子役のジュンも朴訥としたいい味を出している。
育った環境ゆえかPTSD(心的外傷後ストレス障害)が感じられるほどやはり寡黙で笑わないが、
これまた中盤以降の表情を見ているとホッとする。
ロンをミステリアスな存在にしておく一方で、
この映画のキー・パーソンだからこそジュンの母親リリーは過去を明かすことに時間が割かれているが、
情感豊かで艶っぽく時に悲痛な演技に息を呑みっぱなしだ。

ロンの周辺の日本の住民たちも何気にリズミカルで好演極まりない。
ロンを詮索もよそ者扱いもせず困ってそうだと思ったらイケイケの真心で接しで手を差し伸べ、
おせっかいと一線を画す“お世話様”の心意気の連係プレイでロンを手助けして“更生”。
正直でナチュラルだから納得できて人間ってもんをもっと信じてみたくなるほどの力がある。
対象的に生きてる価値無し!のヤクザの存在感が観る者の憎しみを燃え上がらせる。
とりわけリリーにたかるまさに血も涙もないヤクザは観ていて本気で殺意を抱くほどの演技力だ。

サブ1

手加減しないSABU監督の“脚本力”も特筆したい。

次々に繰り出される様々な落差がダイナミズムを生んでいる。
心あたたまるシーンが続くと思ったら心が凍りつくシーンにいつの間にか転換。
崖っぷちから這い上がり、しあわせの光が見えてきたと思ったら、また地獄に、そして天国にみたいな、
サディスティックなまでの暗転ぶりで“もてあそぶ”ように見事なほどこっちの感情を揺さぶる。
観ていて心臓の高鳴りが聞こえてくるほどの容赦無き物語の流れに身震いする。

どちらか死ぬまで苦しみが続くのなら相手を殺すか自分が首を吊るしかない人がいる。
話し合いの余裕がないほど一気に追い詰められて殺すか殺されるかしかない人がいる。
憎しみが一気に沸点を越えた人間の神々しさも見る。

終盤の加速度に絶句する。
一瞬で血の気が失せる“とある光景”直後の“殺陣”のシーンは、
取り巻く情景を映し出すことでさらに背筋が凍る。
「もうかんべんしてやってくれ!」とボクシングのセコンドみたいにタオルを投げ込みたくなるほど、
いたたまれない展開である。
だからこそラスト・シーンは救いと断言したい。

オススメ。


★映画『Mr.Long/ミスター・ロン』
2017年/日本・香港・台湾・ドイツ合作/129分
出演者:チャン・チェン、青柳翔、イレブン・ヤオ、バイ・ルンイン、
監督/脚本:SABU『天の茶助』
製作:LiVEMAX FILM LDH pictures BLK2 Pictures 
高雄市文化基金會 Rapid Eye Movies
配給:HIGH BROW CINEMA
映倫:PG-12
クレジット表記:Ⓒ2017 LiVEMAX FILM / HIGH BROW CINEMA
公開表記:12月16日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
https://mr-long.jp/


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映画“ポーランド映画祭2017”

ポーランド映画祭2017


今年も“ポーランド映画祭”の季節がやってまいりました。
11月25日~12月15日に最寄り駅が恵比寿の東京都写真美術館ホールでの開催に加え、
京都同志社大学でも12月7日に一日限定で開催が決定している。

監修は2012年の第一回目から変わらず、
『アンナと過ごした4日間』『エッセンシャル・キリング』
今回上映される『早春』『イレブン・ミニッツ』の監督で知られ、
あの大メジャー映画『アベンジャーズ』への出演も含めて俳優としても活躍している、
奇才イエジー・スコリモフスキ。
アニメーション4小作品をまとめた回と、
ボグダン・ジヴォルスキによるドキュメンタリー5小作品をまとめた回をそれぞれ一つと数えると、
計“24タイトル”の上映だ。


今年もまたまた守りに入らぬ攻めのプログラムにどれを観ようか!?ってな嬉しい悲鳴に悩まされる。

2012年の第一回目から“ポーランド映画祭”はポーランドのクラシックな映画をたくさん披露してきた。
僕もそれでホントたくさんインスパイアされてきたし、
代表作『灰とダイヤモンド』や『コルチャック先生』(CRASSの曲「Shaved Women」とリンク)等の、
昨年他界した巨匠アンジェイ・ワイダ監督の古典でポーランド映画の入り口に最高な作品も今回上映する。

と同時に自己保身を潔しとしない進取の精神の映画祭ゆえに毎年何もかもがアップデートされている。
1950~1960年代の映画でもこれまであまり上映されてない作品も披露し、
さらに2015~2017年の映画が半数近くを占めるのが現在進行形でエキサイティングだ。
今回が日本初公開の映画も全部痺れそうな長編+αで10作近く揃えている。
ポーランド映画史上初のアカデミー賞外国語映画を受賞した『イーダ』をはじめとして、
『イマジン』『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ラブ』『最後の家族』といった
新鋭監督による2010年代のポーランド映画の新たなる傑作群も“石頭”の風通しを良くする。


種々雑多なポーランド映画を観てきて感覚が磨かれ、
それまで自分の中になかった物の見方や見る角度がプラスされていることをホント実感する。
感動の押し売りみたいな映画とは別次元の空漠感にいつもいつもいつもいつも打ちのめされる。
ギリギリの表現を体験するとただの“不幸自慢”や底の浅いプロテストもののウソ臭さも見えてくるし、
映画はもちろんのこと音楽も含めてポリティカルな表現の在り方とアプローチの仕方も考えさせられる。
新世代でも政治性抜きでも飢えた表現ゆえにスクリーンから胸を“撃つ”。
ナチスに心底ボロボロにされてソ連(≒ロシア)が“救済”したかと思えば長年支配し続けるという、
島国で考えられない国境状況で様々な国にオモチャにされてきたポーランドの歴史が消えることはない。
だから“ポーランド映画祭”であれこれ観た映画の中で
政治的表現に嘘や甘えを感じた作品は一つもない。

映画も含めてそもそもグレイトな表現はすべて政治性を超えて人間に向き合っている。
ポーランド映画は、
映画が物語や役者だけで語られるものではなく映像や使われている音楽/音声も含めて表現ということも、
あらためて知らしめる。
それって映画の真髄じゃないか。

“楽しい”にしても人の数だけ無数の“楽しい”がある。
映画でも音楽でも“結果がわかっている作品”を観たり聴いたりするのも楽しいし、
未知の作品にまぐわったフレッシュな体験で研ぎ澄まされ触発されるのも楽しい。
だから僕は今年も“ポーランド映画祭”に臨む。
たったひとつの映画でもスクリーンがひとりの人間の世界を広げて覚醒する力がある。


★映画“ポーランド映画祭2017”
http://www.polandfilmfes.com/
https://www.facebook.com/polandfilmfes/
https://twitter.com/polandfilmfesjp
11月25日~12月15日に東京都写真美術館ホール(最寄り駅は恵比寿)にて開催。
お得な特別観賞券2回券(税込み2000円)は、
東京都写真美術館1Fホール受付(※休館日にご注意ください。)、有隣堂アトレ恵比寿店、
メイジャーネット通販(https://www.major-j.com/)、お茶の水JazzTOKYOに加え、
ディスクユニオン新宿ジャズ館とディスクユニオン吉祥寺ジャズ館でも購入可能!

追記:
京都同志社大学でも12月7日に一日限定でポーランド映画祭開催決定!
http://d-live.info/program/movie/index.php?c=program_view&pk=1510551636


映画『一礼して、キス』

「一礼して、キス」ポスター


加賀やっこが小学館の「ベツコミ」で連載した同名コミックの映画化。
映画版の『みんな! エスパーだよ!』(2015年)で体当たりの演技を見せた池田エライザと、
仮面ライダー関係などの戦隊ものに多く出演してきた中尾暢樹が映画初主演を務める。

監督の古澤健は最近だと『恋と嘘』を手掛けた人で、
モデル出身の主演女優の特性を活かしたクールな高校生ものとしてこちらも一見の価値ありだ。
映画が始まってしばらくはぬるすぎて「こりゃダメかなぁ~」と思いながら観ていたが、
あれよあれよといううちに最後まで観てしまった。

★メイン画像_convert_20171011175141

弓道部の部長の岸本杏(池田エライザ)は、
高校3年生で挑んだ夏の大会も満足のいく結果が出せないまま終わってしまう。
一方、次期部長候補である後輩の三神曜太(中尾暢樹)は入部時から天才ぶりを発揮。
普段からほとんど練習もせずに大会でも優勝した三神に複雑な思いを抱く杏は引退し、
部長を三神へ引き継ぐことを決める。

でも、そんな三神は杏への一途な思いを募らせていた。
杏もいつのまにか三神への一途な思いを募らせていた。
お互いが“ライバル”の存在を意識しながら多少歪んだ積極的な行動を取る。
杏の心も体も時間も全部欲しいほど底無しで好きすぎて迷惑をかけるがゆえに躊躇する三神。
あくまでもストレートな愛の言葉と行動で攻める杏。
部活の際に何度か“体を重ねる”も心はなかなか重ならない。
そうこうしていくうちに大会、
そして“一騎打ち”に挑む。

例によってネタバレ最小限で物語の大筋をオフィシャル・サイトのものを元に書いてみた。

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高校の先輩女子と後輩男子のラヴ・ストーリーで、
お互いがまっすぐすぎるがゆえになかなか交わらないジリジリした時間が見どころだ。
この映画の中で流れる“ゆとりの時間の流れ”は大半の高校生のタイム感と思われるし、
その中でお互いが無意識のうちに駆け引きみたいなことをしていく様子がおもしろい。

外でのいわゆるデートみたいなシーンはあまりなく、
大半の場面が部活関係というシチュエーションもさりげなく映画全体を引き締めている。
さすがにいきなりこういう弓道をやるのは無理で、
池田エライザも中尾暢樹も本作撮影にあたって小笠原流の弓術等を礼法から学んだという。

サブ5

つるみたくないのかプライドの高さゆえか杏は他の部員とは別に一人で練習し、
それによって一人よがりの弓さばきで成績は伸びなかった。
かたや練習嫌いながらも“一匹狼”という点で杏と共振する天才肌の三神は、
弓道の天才肌の直感ゆえか杏の弓をずっと見ていてもどかしく思いながらも惚れ込み、
杏の弓道の“型”を微調整するアドバイスをしながら彼女の“型”を自分でも実践していく。
そんな感じで“一緒に戦い”ながら二人がゆっくりとひとつになっていく流れがとても自然だから、
ドラマチックなラストに目が釘付けになる。

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普段はおっとりしていても点火されたら我が道を猛進して男が引くほど攻め抜いてモノにする様子は、
池田エライザ自身の実際の行動様式や気質に近いと想像させる。
天然真面目すぎて融通が利かずに時にトンチンカンなほど前だけを見て行動してズッコケる。
演技というよりB型牡羊座女性の純情な地そのままではないだろうか。

映画が始まってしばらくは池田エライザを観ていて“下手ウマ”という言葉を思い出した。
“微妙な演技”と思ったからだが、
たどたどしく映った演技は三神に対する杏の複雑な気持ちの表れであった。
中盤以降の揺るぎ無き演技も三神に対する杏のまっすぐな気持ちの表れである。
映画が進んでいくにつれて長身を活かした立ち姿がどんどんどんどんカッコよくなり、
顔つきが凛々しくシャープになっていく流れも見どころの映画だ。


★映画『一礼して、キス』
2017年/99分
出演:池田エライザ、中尾暢樹、松尾太陽、鈴木勝大、前山剛久、萩原みのり、結木滉星、金森啓斗、
奥仲麻琴、押田 岳、牧田哲也、吉岡睦雄、三谷輝也、向井拓海、斎藤夕夏、福田桃子、中村浩太郎、
植田浩崇、高山範彦、夏嶋カーラ、中村琉葦、山本杏珠、佐藤友祐(lol-エルオーエル-)、眞島秀和
11月11日(土)ロードショー。
http://shite-kiss.com/


映画『密偵』

メイン


日本統治時代の“朝鮮”の独立運動団体と日本警察の攻防を描く2016年の韓国映画。
密偵(≒スパイ)が主人公のハードボイルドなサスペンスものながら、
血も涙もないクールな筆致であると同時に
血と涙があふれる人間ドラマの佳作である。

1964年生まれのキム・ジウン(1999年の『反則王』、2013年の『ラストスタンド』)が監督し、
1967年生まれのソン・ガンホ(1999年の『シュリ』、2006年の『優雅な世界』)が主演し、
1979年のドラマ『3年B組金八先生』から年輪を刻んだ鶴見辰吾が朝鮮総督府局部長役を務めている。
ところによってはソン・ガンホも日本語で話し、
英語圏以外の外国映画にしては人名も覚えやすくて取っつきやすい。

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関係者の方から掲載依頼された<あらすじ>は以下のとおりである。

1920年代の日本統治時代。
元朝鮮人の日本警察イ・ジョンチュル(ソン・ガンホ)は
武装独立運動団体の義烈団を監視しろとの特命を受け、
義烈団のリーダー、キム・ウジン(コン・ユ)に接近する。
出処不明の情報が双方間で飛び交い、誰が密偵なのか分からない中、
義烈団は日本統治下の主要施設を破壊する爆弾を京城(現ソウル)に持ち込む計画を進めていた。
そんな中、日本警察は義烈団を追って上海へ。
義烈団と日本警察のかく乱作戦が繰り広げられる緊張感の中、
爆弾を積んだ列車は国境を越えて京城へ向かうが…。

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まず緻密な脚本が見事だ。
贅肉を削ぎ落して重厚に研ぎ澄まして反日も嫌韓も絶句させる。
ばかし合いと裏切りで時に身内で憎み合う。
どちらの側につくか?
誰がどっちの味方なのか?
二重スパイなのか?
敵も味方もヘッタクレもない古今東西不変の人間関係をギリギリの状況で見せつつ、
そこを突き抜けた誠意と真摯なつながりの尊さを描くところが白眉だ。

80年代の日本のドラマや映画を思い出す映像色が生々しい。
拷問シーンも韓国映画ならではの妥協無し容赦無しのハードコア描写で、
ホラーものも含めて日本映画や欧米映画とは別次元の神経痛撃の映像に息を呑む。
女性にとっては性的拷問以上の鬼畜行為には目を覆いたくなり、
観ていると自分の爪がペンチでブチ割られて自分の頬に灼熱の焼印が押される気分になる。

音楽の使い方もスリリングかつ挑発的だ。
残虐なシーンだからこそあえて落差の大きいムーディな音楽を流すところでは、
“非常時”にはヒトの命が軽く扱われることを表したようにも思える。

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何より俳優陣の演技が熱く鈍く光っている。
映画のシチュエーションと状況そのままの生きるか死ぬかの決死の気合で、
俳優全員が真剣勝負で役に挑み臨んでいる。

特に(元)朝鮮人の日本警部を演じた主演のソン・ガンホは強力。
忠誠を誓うがゆえにいいように使われて朝鮮と日本のどちらにとっても売国奴になりかねない立場で、
葛藤やアイデンティティに苦悩し、ヒトとして自分が犯している罪に苛まされながら、
揺れ動く感情と意識の流れと強固な意志を全身表現している。

“他の密偵”を演じる面々も壮絶だ
独立と恋人のために義を貫く女性をはじめとして終始断末魔である。
必死に本気で生き抜こうとした人間を演じるには必死に本気でなければならない。
ギリギリの状況のテーマなのに本気で対象に向き合ってない作品が目立つ昨今、
甘えがない。
だからリアルなのである。

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朝鮮と日本だけの問題ではなく普遍的なテーマの映画でもある。
祖国だの愛国だのがどーのこーのって話がよく出るが、
パレスチナ人やクルド人をはじめとして国のない人たちは蚊帳の外だ。
ケースは違うが最近だとスペインのカタルーニャ地方の独立問題も考えさせられる。

でもこの作品はいわゆる政治的な映画とは一線を画す。
たしかに時代背景からしてポリティカルな要素は強く滲んでいるが、
肝は人間である。
人間の“義”と“業”を胸元に突きつける。
“国”としての独立を目指した人間たちの物語ではあるが、
ひとりの人間としての“独立”を思う。
生き抜くために嘘も方便として使いながら、
真摯であり誠実であることを問う強靭な映画なのである。


★映画『密偵』
2016年/韓国/韓国語・日本語/カラー/140分/原題:密偵(밀정)
<公開表記>11月11日(土)公開
<コピーライト>(C)2016 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
<受賞歴>
第36回韓国映画評論家協会賞 作品賞、音楽賞 受賞
第53回大鐘賞 助演男優賞(オム・テグ)、美術賞 受賞
第11回アジア・フィルム・アワード 作曲賞(モグ)
第53回百想芸術大賞 監督賞(キム・ジウン)、主演男優賞(ソン・ガンホ)

http://mittei.ayapro.ne.jp/


映画『セブン・シスターズ』

『セブン・シスターズ』ティザービジュアル_convert_20171006155645


人口過多で“一人っ子政策”を強行する国家と
それに引っかかって“粛清”の対象になった“一卵性の七つ子姉妹”の、
血みどろの死闘を描くアクション・ヒューマン・ストーリー。
無駄なくテンポよく風通しもよく息を呑み、
七姉妹が命懸けで束縛を解き放つ深く繊細なストロング・スタイルの力作である。

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都市部を舞台にした近未来の物語。
世界規模の人口爆発と地球温暖化等に伴う干ばつによる食糧不足に対処すべく、
欧州連邦は一家族につき子供1人のみを認める「児童分配法」を施行。
違法に生まれた二人目以降の子供は地球の資源が回復する時まで、
(表向きは)冷凍保存する政策を強行した。

至るところに検問所が設けられてIDカード等で人々の生活や行動を厳しく管理する体制の中、
母親が出産と同時に死亡した七つ子の姉妹が唯一の身寄りである祖父に引き取られる。
祖父は7人を、“月曜(Monday)”“火曜(Tuesday)”“水曜(Wednesday)”“木曜(Thurdsday)”
“金曜(Friday)”“土曜(Saturday)”“日曜(Sunday)”と名付け、
「児童分配局」に見つかって“拉致”されずに生き延びるための方法を幼少時から教え込む。
その方法とは、それぞれ週1日、自分の名前の曜日にだけ外出し、
カレン・セットマンという共通の“一人”の人格を演じることだったが、
外出時に限るとしても指一本の欠損でも見た目を7人常に同じにすることは想像以上に過酷だった。

30年過ぎても人口増加が止まらず路上は常に人間で溢れていてまともに歩けない状況の中、
七つ子姉妹は一人一人が性格も得意分野も違う大人の女性に成長。
7人の頭脳やスキルを併せ持ったカレン・セットマンは銀行員になってエリートへの道を歩んでいた。
そんなある月曜日に“月曜(Monday)”が出勤したきり行方不明になり、
まもなく何者かの裏切で当局が気づいて姉妹は外出先だけでなく共同生活の住まいも狙われてく。

7sis_main.jpg

ハードボイルドなほどセンチメンタリズムを殺ぎ落しているにもかかわらず、
北欧出身の人が中心になった映画ならではのデリケイトな感情表現がとにかく素晴らしい。

ヘヴィ・メタルやパンク/ハードコアをはじめとしたロックの世界と同じく、
アクション絡みの映画では大味になりがちな米国産ではなかなかできない緻密かつ“生”の仕上がりなのだ。
79年ノルウェー生まれで『ヘンゼル&グレーテル』(2013年)で知られるトミー・ウィルコラが監督し、
79年スウェーデン生まれで『パッション』(2012年)でも存在感が抜群だったノオミ・ラパスが主演。
特にほぼ出ずっぱりのノオミ・ラパスの猛烈な熱演は驚愕ものである。
一人の人格がブレることなく一人一人のキャラをクールに分けながら、
成人になってからの7つ子全員を一人一人違う“断末魔”までダイナミックに演じ抜き、
今年の主演女優賞は彼女に決定!なほど観終わった後に惚れること必至だ。

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可能であれば劇場のスクリーンで観ていただきたいかなりハードなアクションも多い。
リアルに見せるがゆえに目を覆いたくなるおぞましいシーンも少なくないが、
“政府の暗殺部隊”と戦うシーンも文字通りホントに必死な様子を丁寧に映し出す。
現代よりさらに進化したコンピューターなどの装置が設定として張り巡らされた映画で、
超監視社会のシステムを“武器に転用”して七つ子が当局と戦う様子もわかりやすく見せる。

そういった強烈な映像力を裏打ちする精巧な脚本にも舌を巻く。
一筋縄ではいかない姉妹間をはじめとして人間関係の複雑な気持ちを丁寧に描き切り、
ちょっとしたラヴ・ストーリーも絡めてスパイスを効かせている。
お気軽な御都合主義はなく物語の展開はなかなか非情で、
だからこそリアルに迫ってくる。
同じ人間を演じる外出時のキャラ等がブレないようには帰宅後に一日の出来事などを“報告”するが、
全員が外では同じようにふるまわなければいけないのに、
一人が内緒で定期的にセックスをしてバレて大ごとになる話など現実的なネタも織り込む。

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ちょっと前にこのブログで紹介した映画『恋と嘘』とは真逆の設定で、
同じく荒唐無稽な物語のようでリアルに迫る。
確かに日本だけを考えれば少子化が進んでいるわけだが、
世界規模だと人口増加が止まらず、
地球規模の視点で考えれば日本にも影響する環境問題も食糧問題も深刻さを増している。

人口が急増しすぎた中国では70年代末から2010年代半ばまで“一人っ子政策”が行なわれ、
今と変わらず強烈なメディア統制の国でも残酷な弊害がボロボロ噴き出していたわけだが、
それ以上の鬼畜な政策がこの映画では行なわれている。
極端な出生の七つ子の生涯が象徴的ながら、
終盤に明かされる“二人目以降の子供たち”に対する処置はほとんどナチスである。

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けどもちろん“政治家=悪”みたいにナイーヴな描き方もされてはいない。
この映画の一人っ子政策の責任者の“児童分配局長官”が女性であり、
“サッチャー meets トランプ”な顔立ちの彼女が極端な政策に向かった個人的な動機を思うと、
エンタテインメント映画の中で“誠意とは何か?”ってことも考えさせられる。。

もちろん女性の七つ子という設定にしたことで、
さりげなくある種のフェミニズムの要素も感じさせる。
直で戦わねば殺されるエクストリームな状況の女性のプリミティヴな自立が生々しく、
極端な状況下で抑えつけられてきて膨張した七つ子一人一人のアイデンティティの炸裂があまりに鮮烈だ。
戦いの場でも“個”を殺してみんなと一緒になることで満ち足りてしまう世の中で、
このギリギリの女たちはindividualismに裏打ちされた理想的な協力関係をも提示する。

7sis_sub7.jpg

似た者同士なのにキャラが全員違うがゆえの近親憎悪の軋轢と確執で息が詰まっていた7人が、
生き延びるために憎しみを突き抜けていく流れにゾクゾクする。

狭いスペースの中で閉じこもって他の姉妹と朝から晩まで年がら年中一緒に生活してきた七つ子にとって、
週に一回だけの外出は囚人の外出許可のようなもの。
だからこそ生と愛への渇望が一人一人パンパない
「死にたくない」「I love (you....)」という“最期の言葉”がこれほど重い映画もそうそうない。
そして不条理な運命に抗う人間の美しさをあらためて知る。

オススメ。


★映画『セブン・シスターズ』
2016年/カラー/シネスコ/DCP/英語/123分/原題:What Happened to Monday?/配給:コピアポア・フィルム
10月21日(土)より東京・新宿シネマカリテほか、全国順次公開。
©SEVEN SIBLINGS LIMITED AND SND 2016
http://www.7-sisters.com/


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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