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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

GRAND MAGUS『Wolf God』

GRAND MAGUS『Wolf God』


SPIRITUAL BEGGARSの二代目シンガーだったJBがギターを弾きながら歌う、
スウェーデンのヘヴィ・メタル・トリオが今年4月に発表した目下の最新作。
セルフ・タイトルで出した2001年のデビュー作をはじめコンスタントにリリースを続け、
本作は『Sword Songs』以来の約3年ぶりの9作目である。


不変だからこそアルバムを創るたびにおのれを更新していき、
今回は特に男が男に惚れる感覚のクール極まりない作品だ。

バンドとともにプロデュースしたステファン・カールソンは、
ARCH ENEMYのヴォーカル録りも何度か行なってもいる。
GRAND MAGUSの2014年の『Triumph And Power』のドラムのレコーディングをした人で、
その経験も起用のポイントになった。

基本的にはスタジオ・ライヴで演奏を録音し、
そのあとヴォーカルやギター・ソロなどを重ねたという。
むろんわざとらしいrawな音作りとは対極で、
各パートの分離がよくてクリアーに音が響いてくる。
“クリアー≠クリーン”であり、
無頼、ゆえに切ないヘヴィ・メタルが全身を震わせる。

“一発録り”ならではの絡み合いのナマの立体感が刻まれた仕上がりが感涙もので、
特にラドウィッグのドラムは重い音で録られて以前にも増してビートに血が通っている。
音の息遣いまでもが伝わってくる生々しいダイナミックなレコーディングから、
無限の情感とソウルが湧き上がる。

静かでリリカルなインストのオープニング・ナンバーからして殺られる。
前4作のプロデューサーでENTOMBED A.D.のメンバーでもあるニコ・エルグストランドが
サンプラーなどを使ったオーケストレーションを作り、
ベーシストのフォックスがチェロを弾いて仕上げた曲である。
BURRN!誌の今年の5月号に掲載されたJBのインタヴューによれば、
前作『Sword Songs』ツアーのライヴのオープニング用にニコが書いた曲だという。
まさに曲名の「Gold And Glory」の輝きをたたえる曲だ。

2曲目以降はトリオ編成のロック・バンドならではのギリギリ感で緩急織り交ぜ、
狼の遠吠えや水音などを適宜挿入しつつ音も曲もつつシンプルに仕上げられている。
ストイックなほど贅肉を殺ぎ落して40分弱10曲入りというコンパクトな作りに感情を凝縮し、
通して聴いても疲れない音作りも見事だ。
時にアップ・テンポで走って加速して程良く勇壮ドラマチックな展開をしつつ、
世界で何が起ころうが揺るがない悠々と泰然とした佇まいの雄大な構成に引き込まれていく。
DEEP PURPLEやBLACK SABBATH、URIAH HEEP、DIOなどの
英国の伝統的なバンドたちからも彼らがインスパイアされていようが、
ハードコア以降のアタック感とアグレッションに通じる響きで覚醒する。

JBの歌唱はいわゆるハイ・トーンではないが、
濁声でもない。
落ち着き払ってストロング・スタイルを極めた鋼の喉を震わせる。
いくらメタルちっくな音を出していてもヴォーカルが強靭でないとメタルではない。
だがもちろんJBはゴリ押しの歌い方でもない。
デリケイトな感情のひだも震わせる歌唱なのだ。
ヴォーカルは言わずもがな、
ギターからもベースからもドラムからも歌心が横溢して命の息吹をたたえている。

ヘヴィ・メタルの厳選の神話的な魔力も大切にしてきたバンドだが、
今回は2005年の3作目『Wolf's Return』からの連続性も感じるアルバム・タイトルだ。
平易な単語と言い回しの英語の歌詞で、
音や曲と同じくシンプルな表現だからこそ深いところを突く。
音と相まってロマンとリアリティがブレンドした世界観が広がって神経が昂る。

何事でも“省略形”になると肝が消えて変質するように
食いつきやすい“上澄み”だけすくいとっただけのモノが横行して
“メタル”という言葉も軽くなってしまっている今、
やはりしっかりとシンプルにただ“ヘヴィ・メタル”と呼びたい深いアルバムだ。
“様式美”という言葉はいらない。
“正統派”という言葉もいらない。

もっと言えばヘヴィ・メタルとして云々を超え、
ロックとして素晴らしく、
一表現として素晴らしい。
自己表現に対する責任に誠実だからだ。
スタイルより何より大切なのは意識で、
そういうのは映画でも文章でも映像や言葉に表れる。
音楽なら意識に耳を傾ける。
『Wolf God』は“本物”ならではの一声一音の重みが響きに貫かれ、
胸が熱くなり、
出口無しの袋小路の視界も開けてくる。

ライヴが観たい。
ウルトラ・グレイト。


★GRAND MAGUS『Wolf God』(NUCLEAR BLAST NB 4917-2)CD
歌詞が読みやすく載った16ページのブックレット封入の約39分10曲入り。


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IRON REAGAN/GATECREEPER『Iron Reagan/Gatecreeper』

IRON REAGAN/GATECREEPER


ヴァージニア州リッチモンド出身のクロスオーヴァー・バンドIRON REAGAN
アリゾナ州のデス・メタル・バンドのGATECREEPERという、
米国東西のバンドによるスプリット盤。
両バンドともミックスはカート・バルー(CONVERGE)が手がけている。


日本でもファンが定着してきているIRON REAGANは5曲提供。
昨年の快作サード『Crossover Ministry』に引き続き絶好調である。
ミディアム・テンポもブラスト・ビートもお手の物!とばかりのリズムの“勘”がハンパない。
ジャストなコーラスもひっくるめてポイントを押さえた曲作り、抜けのいい音作り、
メタリックな中に忍ばせるロッキンなフレーズの作り方、楽曲の適度な練り込み方、
すべてパーフェクトに勢いの中に凝縮して5曲で一つの流れを作り出している。
ちょい甲高いヴォーカルはシンプルな歌詞で日常の中の真実を吐き出し、
いわゆるシュレッダーをネタにした「Paper Shredder」など目の付け所も楽しい。


かたや3曲提供のGATECREEPERはオールド・スクールのデス・メタルとでも言おうか。
ブラスト・ビートを使わずに緩急を織り交ぜ、
BOLT THROWERに通じる重戦車スタイルで押す。
1曲目の「Daybreak (Intro)」はタイトルどおりに今回の彼らのイントロで、
「Dead Inside」では世の中に苦悩し、
「War Has Begun」では最近のシリアの底無し沼をイメージもする。
陰鬱フレーズもたまらない。


本物は策を弄する必要がないこともあらためて知る。
ウルトラ・パワフルな肉体サウンドで“出口無し”を突破する好スプリット盤だ。


★IRON REAGAN/GATECREEPER『Iron Reagan/Gatecreeper』(RELAPSE RR7391)split CD
掛け帯付きの計約18分8曲入り。


JUDAS PRIEST『Firepower』

JUDAS PRIEST『Firepower』


ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル・ゴッドのJUDAS PRIESTが、
『Redeemer Of Souls』から約4年ぶりにリリースしたニュー・アルバム。
絶好調の18作目である。

二人のプロデューサーがタグを組んでいる。
一人は80年の『British Steel』をはじめとして
80年代のJUDAS PRIESTの一連のアルバムで貢献したトム・アロム。
もう一人はARCH ENEMYの『Anthems Of Rebellion』『Khaos Legions』、
IRON MONKEYの『Our Problem』、EARTH CRISISの『Breed The Killers』など、
90年代後半以降のモダンなメタル・サウンドを作り上げてきたアンディ・スニープだ。
プロデュースしてなくても、
CARCASSの『Surgical Steel』KILLSWITCH ENGAGEの『Disarm The Descent』などの
ミックス等でたくさんのレコーディングに携わってきた“仕事人”だけに、
本作でもアンディはエンジニアとミックスとマスタリングも行なっている。

新旧のファンの期待に応えつつさりげない深化と進化でおのれを研ぎ澄まし、
すべてにおいて絶妙のバランス感の仕上がりだ。
ブリティッシュ・ロックの侘び寂びと、
デス・メタル/メタル・ハードコア以降の痛烈な硬質の音のブレンドなのだ。
威厳も感じさせる勇壮なムードを漂わせながら活きのいいソリッドな響きが連射される。
やりすぎないハードでヘヴィな質感と適度なスピード感に貫かれ、
ベースとドラムもしっかり前に出ていてヴォーカルやギターとの混ざり具合もバッチリだ。

フック十分の楽曲クオリティも高い。
ピアノから始まるリリカルな曲やドゥーム・メタル・チューンの曲も聴き応え十分だ。
長い曲はほとんどなくメタル・ロマン溢れる劇的な展開がコンパクトに凝縮されつつ、
6分弱のラスト・ナンバーのパワー・バラードも泣ける。
1時間近いにもかかわらず通して聴いても飽きず疲れずの作りも特筆したい。

伝統的なヘヴィ・メタルの歌詞はファンタジックとも言われるし、
実際本作にもそういうニュアンスは感じられる。
と同時に80年の名曲「Breaking The Law」をはじめとしてJUDAS PRIESTの過去の曲と変わらず、
歌詞にリアリズムが息づいているところも堪能していただきたい。
全編ロブ・ハルフォード(vo)の歌心に打たれること必至である。

70年代終盤から80年代半ばまでのアルバム『Stained Class』『Screaming For Vengeance』『Turbo』が
加速したかの如きジャケットも含めて、
現在進行形のパーフェクトなリアル・ヘヴィ・メタル・アルバム。
まさにグレイトだ。


★ジューダス・ブリースト『ファイアーパワー』(ソニー・ミュージックエンタテインメント SICP 31117)Blue-spec CD2[一般のCDプレイヤー等で再生可能]
↑のカタログ・ナンバーは“デラックス・エディション”の限定盤
(表がエンボス加工された24ページのブックレット綴じ込みのハードカヴァー・ブック仕様で
ジャケットのデザインのステッカー封入)。
スタンダード・エディションもあり(通常CD+プラケース+12ページのブックレット封入)。
共に約59分14曲入りで日本盤は歌詞の和訳も載った16ページのブックレットも封入。


IRON MAIDEN『The Book Of Souls: Live Chapter』

IRON MAIDEN『The Book Of Souls Live Chapter』


出身国のイギリスのみならず80年代初頭からヘヴィ・メタルを象徴するバンドであり続ける、
IRON MAIDENの最新録音ライヴ盤。
2016年の3月から2017年の5月までに、
オーストラリア、南アフリカ、アイルランド、カナダ、ポーランド、日本(13分強の大熱演)、
エルサルバドル、イタリア、英国(3ヶ所)、ブラジル(2ヶ所)、アルゼンチン、ドイツでの、
すべて違うステージの中から15曲をピックアップし、
計約101分にまとめている。

持ち曲をたくさん抱えているにもかかわらず、
目下の最新作『The Book Of Souls』(2015年)の曲が全体の3分の1の5曲を占めるところに、
“懐メロ・ロートル”とは一線を画す現在進行形のバンドであることの自負がうかがえる。
と同時に83年の4作目『Piece Of Mind』まではリアル・タイムで聴いていた人間としては、
80年代前半の曲が半数近くを占めて最初の2作から3曲も収録しているのはやっぱりうれしい。
そういう感じで、
過去からの継続形として今も動き続けるバンドの息吹の流れがナチュラルな構成のアルバムだ。

わざとらしく若作りしたりせずにいい意味でベテランならではの適度なまったり感がリアルだし、
ブリティッシュのロマンが溢れる抒情性、
さりげないプログレ的な曲展開、
イングランドの侘び寂び、
ヘヴィ・メタルのパワー、
を生のままアップデートして濃縮ブレンドされている。

続ければエライわけじゃないが、
多少インターヴァルが空こうがコンスタントに新作を発表してライヴも行なっている人達には、
ほんとインスパイアされるし最大限に敬意を表する。
“思い出”に頼らぬ筋金入りということは本作の強靭な声と音の響きに表れている。

物理的に重いとか速いとか話はウワベの問題でしかない。
そんなことよりサウンドに宿る意識に耳を傾けるとピンピンの音から命を感じる。
ヘヴィ・メタル云々に留まらず、
60年代からのブリティッシュ・ロックの重みも十分。
姿勢を正され、
個人的には81年の最初の日本公演以来のライヴを体験したくなった。

CDでもギスギスしてなくてアナログ感のある音に仕上がっているところも特筆したい。


★アイアン・メイデン『魂の書~ザ・ブック・オブ・ソウルズ~ライヴ』(ワーナーミュージック・ジャパン WPCR-17954/55)2CD
ライヴの写真やマネージャーの英文ライナーも載った28ページのオールカラー・オリジナル・ブックレット封入。
日本盤はスタジオ録音ヴァージョンの歌詞とその和訳も載った28ページのブックレットも封入。
日本盤初回生産分にのみジャケットのキャラクターがアレンジされた厚手の“しおり”も封入。
CD盤面のマジカル・ポップなデザインも楽しい。


SEPULTURA『Chaos A.D』[expanded edition]

SEPULTURA『Chaos~』[expanded edition]


進取の精神でへヴィ・メタルの歴史を塗り替えてきたブラジル出身のバンドによる、
93年リリースの5作目のCD2枚組での2017年リマスタリング“拡大版”リイシュー。
むろん次作の後に脱退してSOULFLYCAVALERA CONSPIRACYをやる、
マックス・カヴァレラ(vo、4弦ギター)がリーダーの頃だ。


ディスク1には約47分12曲入りの本編を収録。
その本編に関してはオリジナル盤の状態のものを今月発売のヘドバン誌で書かせてもらったから、
仁義上あまり内容がダブらないようにここでは客観的な事実と書き漏らしたことを書く。

今回のリマスタリングの音はいわゆるコンプかけすぎ音圧アップのCDとは一線を画す。
オリジナル盤の良さを活かしつつ埋もれていた音がいい感じで掘り起こされ、
アナログ感覚の彫りの深い音だからアルバムを聴き込んだ方でも納得の仕上がりだ。

軋轢と調和のブレンド具合をはじめとしてすべてのバランスが絶妙で、
憤怒のニュアンスもナチュラルにレコーディングされている。
SEPULTURAが共同プロデュースしているが、
アンディ・ウォレスがメインでプロデュース(+エンジニア、ミックス)していることが大きい。
NIRVANAの『Nevermind』のミックスで有名になった人だが、
その直前にSEPULTURAの前作『Arise』のミックスを行なっていた。
SEPULTURAはアンディが手がけたSLAYERのアルバムも大好きだったからだ。

スラッシュ・メタル、デス・メタル、パンク/ハードコア、グルーヴ・メタル、民俗音楽、
インダストリアル・ノイズといった
SEPULTURAの魅力のすべてが最もしっかりと凝縮されているアルバムだ。
そんな中で、
BIOHAZARDのエヴァン・セインフェルドと、
ジェロ・ビアフラ
(注:SEPULTURAは92年のDEAD KENNEDYSの傑作トリビュート盤『Virus 100』で
「Drug Me」を自分らの曲「Arise」みたいにしてカヴァーしている)が作詞で参加し、
英国ポスト・パンク・バンド勢の硬派だったNEW MODEL ARMYのカヴァーも収録。
SEPULTURAのアルバムの中でパンク/ハードコア色が一番強いアルバムでもある。


ディスク2は約60分17曲入り。
以前のCDのボーナス・トラックや当時のシングル/EPのサブ・トラックから抜粋の5曲、
未発表の“インストゥルメンタル・ライティング・セッション・ヴァージョン”の3曲、
デスラッシュ時代の曲も含む94年のミネアポリスでの絶好調ライヴ9曲で構成されている。
BLACK SABBATH(「Symptom Of The Universe」)、
SEPULTURAがピックアップしたことで国外にその存在が知れわたったブラジルのTitãs、
80年代初頭からブラジルを代表するハードコア・パンク・バンドのRatos de Porão[R.D.P.]
LAのFINAL CONFLICT(再編後の92年のEP『The American Scream』の収録曲「Inhuman Nature」)
のカヴァーも聴きどころである。


ちまちまちまちました内向き意識の心臓に風穴を空ける熱量に胸がすく。
一番聴き込んだアルバムだし、
ジャケットもひっくるめて一番好きなアルバムだ。


★セパルトゥラ『ケイオスA.D.:エクスバンデッド・エディション』(ワーナーミュージック・ジャパン WPCR-17929/30)2CD[一般のCDプレイヤー等で再生可能なSHM-CD]
三つ折り紙ジャケット仕様。
16ページのオリジナル・ブックレットに加え、
そこに載った長文英文ライナー(ブラジルの政治状況と絡めた内容)と本編の歌詞の和訳が読める
16ページの日本版ブックレットを封入。


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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