COCOBAT『Devil's Rondo』
2022-07-24

結成31年目に突入した東京拠点のCOCOBATの新作。
単独作CDとしては、
2009年の『Searching for Change』以来で、
TAKE-SHIT(b)、HIDEKI(vo)、SEIKI(g)、KIM(ds)という現メンバーでは初である。
収録曲は5曲。
だがトータル・タイム約33分だし、
内容もひっくるめてアルバムと言える聴きごたえありありのCDだ。
ヘドバン誌のミクスチャー特集におけるTAKE-SHITのインタヴュー記事を読み、
メジャー/マイナー問わないポイントを押さえたリスナー歴と着眼点に
“やっぱりタダモノじゃない”と個人的に思ったタイミングでのリリース。
もちろんミクスチャーに留まらず、
深化したCOCOBATが堪能できる作品だ。
ほぼ曲間無しで畳みかけてくる。
1曲目の「Discipline」は昨年リリースした7”レコードに収録した曲の再録音。
ヘヴィ・メタルなリフのミディアム・テンポから始まってツー・ビートでの疾走になだれこむが、
スラッシュ・メタルでもハードコア・パンクでもない。
やはりグルーヴィなメタルでSEIKIによるトリッキーなフレーズの挿入もポイント高い。
2曲目の「Struggle(Void lab session)」は、
1993年のセカンド・アルバム『Struggle Of Aphrodite』収録の「Struggle」の再録音。
ちょいPANTERAを想起するグルーヴからメロディアスな歌が湧き上がり、
70年代ハード・ロック風のギター・ソロがまた渋い。
3曲目の「Tetrad(instrumental)はインスト・ナンバーで、
LED ZEPPELINをCOCOBATならではのグルーヴで解釈したみたいかの如きクールな曲である。
一番新しいメンバーのKIMが打ち放つ練られたリズムのタイトなビートも聴きどころだ。
4曲目は前述した7”レコードに収録のSABBRABELLSのカヴァーの「Devil’s Rondo」。
飄々と悠々自適なHIDEKIの歌唱も日本語ヘヴィ・メタルの名曲をアップデートし、
これぞメタル!なギター・ソロも明快痛快だ。
そしてラスト・ナンバーの5曲目は大曲のインストの「Dolphine Ear Bone(instrumental)。
COCOBATには
『Ghost Tree Giant』(2001年)に収めたアルバム・タイトルと同名の9分強の名曲があるが、
今回の曲は15分を越える。
だが時間の長さをまったく感じさせない展開にうならされた。
TAKE-SHITのバキバキのベースはもちろん健在だし、
これまたLED ZEPPELINをイメージする雄大なメロディと静かなパートも含みつつ、
ロマンあふれるメロディを湧き上がらせながらの疾走がまたたまらないのであった。
歯切れのいい音作りでの仕上がりもCOCOBATにピッタリで、
理屈抜きにグレイト。
★ココバット『悪魔の円運動/デヴィルズ ロンド』(HELLO FROM THE GUTTER HFTG-075)CD
歌詞が載った4つ折りインサート封入のデジパック仕様の約33分5曲入り。
HxS(Hirota Saigansho)とHAROSHIの造形物をジャケット内にフィーチャーしたアートワークで、
うてなゆき(ネムレス)によるイラストが浮き出る特殊パッケージ。
↑の画像は、うてなゆき(ネムレス)によるイラストの“紙”が上に重ねられる前の状態のものです。
7月29日(金)発売。
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VOIVOD『Synchro Anarchy』
2022-02-21

カナダ東部のケベック出身の“パンク・プログレ・へヴィ・メタル・バンド”、
VOIVODが約4年ぶりにリリースした15作目。
これがまた胸のすく快作である。
『Islands』あたりも含む70年代のKING CRIMSONやVAN DER GRAAF GENERATORなどの、
パーカッシヴなプログレッシヴ・ロックの色が今回も強い。
それは不安感が醸し出されている不穏なコード進行によるところが大きく、
変則的なリズムが繰り出されるも変拍子ビシバシでもないドライヴ感が魅力だ
速いパートが多くてスラッシーなほど走っているし、
プログレ展開をしようが曲もフック十分で音の抜けが良く、
誤解を恐れずに言えば音のハジケ方はポップですらある。
変態ねじれサウンドであろうが確かにロックしているサウンド、
そこが何より重要だ。
プログレ要素の強い“メタル”であっても、
DREAM THEATERみたいなバンドのようにスキのないガチガチのサウンドとは一線を画す。
その核はもちろんアウェイのドラム。
結成時からTAU CROSSの一員でもあったアウェイのドラムがVOIVODの肝であり、
ビシビシとキメつつクールな体温の歌心が滲むビートがたまらない。
タイトでありながら程良く“ゆるい”のはパンクからの影響であり、
もっと言えば“ロックンロール”なのである。
色々と深読みができるリアリスティックな歌詞もまたまた見事だ。
閉塞感が滲みつつ、
これまたすべてを突破する。
程良く突き放したスネイクのヴォーカルも絶好調だ。
コロナも影響しているのか、
排他的なほど内向きで自分のサークルや身内しか相手にしてない作品等がますます目につく昨今、
この作品は開かれた意識がすべてに表れている。
力になるアルバム。
オススメだ。
★ヴォイヴォド『シンクロ・アナーキー』(ソニー・ミュージックエンタテインメント SICP 6442)CD
歌詞に加えてアウェイが描いた画もたっぷりの16ページのブックレット封入で、
国内盤はポイントを突いた奥野高久(BURRN!)執筆のライナーと
歌詞の和訳が載った16ページの日本特製ブックレットも封入。
約48分9曲入りで2月23日(水)発売。
IRON MAIDEN『Night Of The Dead, Legacy Of The Beast: Live In Mexico City』
2020-11-22

80年代以降のブリティッシュ・ヘヴィ・メタルを代表するIRON MAIDENが、
昨年9月にメキシコで行なった3日間のライヴを編集した2枚組CD。
計約101分17トラック入りである。
IRON MAIDENのイメージを決定づけた3~5作目の曲がやっぱり過半数を占めるが、
ファーストの「Iron Maiden」もやっている。
80年代後半以降の曲もちょこちょこ披露しているが、
2010年代の曲は入ってない。
第二次世界大戦中の英国首相だったウィンストン・チャーチルのスピーチから始まるCDで、
ブックレットに載った文章から察するに、
“WAR”“RELIGION”“HELL”をキーワードに全体が構成されているようだ。
プレイ中でも熱い観客の大歓声を適度に混ぜて合唱もしっかり聞こえる作りだが、
もちろん曲がしっかり聞こえる程良くラフな音質。
リーダーのスティーヴ・ハリス(b)が共同プロデュースを務めているにもかかわらず、
いや共同プロデュースを務めているからこそ、
ベース・ギターが肝でありつつ全体のバランス感のとれた仕上がりになっている。
演奏もヴォーカルもベテランならではの安定感十分のパフォーマンスで、
“ヘビメタ”とか“メタル”とかの省略形ではなく、
ヘヴィ・メタルと呼びたい滋味も滲む一枚。
★アイアン・メイデン『ナイツ・オブ・ザ・デッド、レガシー・オブ・ザ・ビースト:ライヴ・イン・メキシコシティ』(ワーナーミュージック・ジャパン WPCR-18396/7)2CD
ライヴ写真中心の28ページのブックレット封入ま3面デジパック仕様。
初回プレス分のみステッカーと
“レガシー・オブ・ザ・ビースト・ツアー '21”の四つ折りポスター封入。
日本盤は歌詞と和訳が乗った32ページのブックレットも封入。
AC/DC『Power Up(PWR/UP)』
2020-11-13

『Rock Or Bust』以来の6年ぶりの新作。
オリジナル・アルバムとしては17作目と言えそうだ。
前作をリリースした後のライヴではアクセル・ローズがヴォーカルになったり、
ドラマーが変わったり、
さらにベーシストもか!?という話も飛んだが、
結局元のさやに戻って『Rock Or Bust』と同じ5人によるレコーディングである。
故マルコム・ヤングがバンドを離れてからは、
アンガス・ヤング(g)の独断場みたいに聞こえたりもする。
ただ今回の曲のソングライティングのクレジットは、
『The Razors Edge』(1990年)以降のすべてのアルバムと同様に
“アンガス・ヤング&マルコム・ヤング”となっている。
日本盤発売元のレコード会社のサイトには、
“マルコムが遺していた数々のアイディアをアンガスが中心となって完成させた”
と書かれている。
それはともかくリズムが際立つ音作りを特筆したい。
とりわけクリフ・ウィリアムズのベースとフィル・ラッドのドラムのコンビネーションに痺れる。
聴いているとカラダが勝手に動いちまうのだ。
とりわけ『Powerage』(1978年)からずっとボトムを支えてきたクリフのベースが、
AC/DCになくてはならない“隠れ肝”みたいになっている。
ブライアン・オブライエンが今回もプロデュースし、
AC/DCのポップ感が引き出されていて、
メタルがどうこうというよりキャッチーなハード・ロックである。
もともとそうじゃないか!ってことになりそうだが、
やっぱり前はもっとリフが押せ押せのソリッドでストロングなサウンドだった。
今回は爽やかなコーラスも目立つ。
意味深な歌詞も興味深いが、
リラックスして楽しめる盤石の出来だ。
★AC/DC『PWR/UP』(ソニー・ミュージックエンタテインメント SICP 31394)Blu-spec CD2[一般のCDプレイヤー等で再生可能]
紙ジャケット仕様の約41分12曲入り。
20ページのオリジナル・ブックレットに加え、
日本盤は歌詞とその和訳が載った28ページのブックレットも封入。
TRIVIUM『What The Dead Men Say』
2020-04-27

山口県岩国市生まれのマシュー・キイチ・ヒーフィー(vo、g)らが、
米国フロリダで1999年に始めた新世代へヴィ・メタル・バンドのニュー・アルバム。
『The Sin And The Sentence』以来の2年半ぶりの9作目で、
2000年代以降のメタル・サウンドで売れっ子のジョシュ・ウィルバーが今回もプロデュースし、
最高傑作の一枚と言い切れる素晴らしい出来だ。
斬新なサウンドで歴史を切り開いたバンドとは言わないが、
既に確立している“TRIVIUM節”とも呼ぶべき自分たちのスタイルを研ぎ澄まし、
さりげなく進化を覗かせながらさらなる深化を遂げている。
クールなアルバムのすべてがそうであるようにオープニングの2秒で引き込まれる。
初期のような激しさが前作以上に際立ち、
メロディアスなメタルコアのテイストが高い。
そこにブラック・メタルのブラスト・ビート、
ベイ・エリア・スラッシュ・メタルのリフ、
デス・メタルのギター・フレーズ、
nu metalのグルーヴなどを絶妙にブレンド。
ツイン・ギター体制を活かした流麗なギター・ソロも簡潔に挿入し、
ベースとドラムも歌を引き立てながら突っ込んできて、
緩急織り交ぜながら疾走する曲をふくらませている。
起伏に富む展開ながら聴かせどころを設けた楽曲クオリティが高い。
6分を越える2曲も長さをまったく感じさせず、
ある意味どの曲もキャッチーなのだ。
聴いているといつのまにか脚でリズムを取っている・・・そういうアルバムに間違いはない。
程良い湿り気を含む抜けのいい音作りも気持ちいい。
ヴォーカルの歌心もさらにアップ。
メロディアスな歌唱のパートはもちろんのこと、
咆哮も90年代以降の米国のハードコア系に多いゴリ押し単細胞スクリームとは一線を画す。
すべての気持ちが錯綜する感情の解放である。
だからフィリップ・K・ディックの小説と同タイトルのアルバム・タイトル曲を筆頭に、
リアリスティックな歌詞が心に迫ってくる。
6作目の『Vengeance Falls』(2013年)からずっと担当している、
マシュー・キイチ・ヒーフィーの奥さんがデザイン等を手がけたアートワークもピッタリだ。
日本盤は本編の2曲の別ヴァ―ションが、
アコースティック・ギター弾き語り+コーラスで追加されている。
これがまたファン絶対必聴であると同時に、
メタルの音が苦手なポピュラー・ミュージック・ファンの方々も
TRIVIUMの魅力に打たれること必至のグレイトなボーナス・トラックだ。
世界中が内向きの今だからこそなお深くパワフルに響くアルバム。
視界が開けてくる。
オススメ。
★トリヴィアム『ホワット・ザ・デッド・メン・セイ』(ワーナーミュージック・ジャパン WPCR-18333)CD
日本盤は本編の2曲のアコースティック・ヴァ―ション追加の約54分12曲入りで、
歌詞や写真等が載った16ページのカラー・ブックレットに加え、
歌詞の和訳も載った12ページのブックレットも封入