なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

KILLSWITCH ENGAGE『Incarnate』

KILLSWITCH ENGAGE『Incarnate』


2000年代以降の米国産メタルコアの一スタイルを築き上げた米国マサチューセッツ州出身の5人組が、
『Disarm The Descent』以来約2年半ぶりにリリースした7作目。

まさに真打ち登場である。
1秒で場の空気が変わる。
意識が研ぎ澄まされた鳴りが違う。
だから視界が開かれていく。
進化と深化が止まない素晴らしいアルバムだ。

いい意味でワンパターンな“KILLSWITCH ENGAGE節”をキープしつつ、
こっそりブラック・メタルを忍ばせるなどのヴァラエティに富むアレンジと構成力の“脚本”が見事で、
曲間をあまり空けず一気に聴かせる。
ブックレットのメンバー写真でも見せる程良く田舎臭く垢抜け切れぬ味わいが息づいて
アメリカン・ロックの伝統をさりげなく感じさせる作曲は、
キャッチー&ドラマチック&コンパクト。
映画でもなんでも言い訳じみた“無駄”なパートが多くてダレる作品が多いが、
どの曲も聞かせどころをしっかり設けつつ何気にストイックに贅肉を削ぎ落としている。
エッジとグルーヴの音のブレンド具合もクールだ。

プロデューサー、エンジニア、ミキサーとしてクレジットされている“Trash D.”なる人物は、
遊び心を忘れないアダム・デュトキエヴィッチ(g他)ならではの命名ではないか。
これまでの自分たちのアルバムだけでなく他のバンドもよくプロデュースしているアダムは
昔はドラマーとしてもレコーディングしていたわけだが、
ドラムができるミュージシャンが中心のバンドのアルバムは必ずしも歌やギター主導にならない。
ライヴ中にステージの後ろから前のメンバーを見ているように、
どうやってリスナーに届かせるかというバランスを頭の中で描きながらレコーディングもしている。
ステージでのオチャメすぎる素行からは想像がつかないレコーディングでの仕事ぶりとも言えるが、
彼の“ポップ気質”は隠し味として本作でも顔を覗かせ、
デス・メタリックなバッキング・ヴォーカルは彼がメインだと想像できる。

こういう系統の音楽のバランス感ということで言えば、
アメリカのハードコア/エクストリーム・メタル系のバンドは、
USAの伝統的な国家体質に通じるほど相手のことを考えないゴリ押しスタイルが目立つ。
馬鹿の一つ覚えの単細胞ハードコア・ヴォーカルやスクリーモ・ヴォーカルもその典型だが、
これまでのKILLSWITCH ENGAGEのアルバム以上に本作は
メロディアスな歌唱と怒号の“ハーモニー”も冴えわたっている。

というわけで、
みんなと同じ敵を対象にした悪口を言って悦に入っている満ち足りたドヤ顔が思い浮かぶヴォーカルではない。
あえて言えば敵は世界中に無数存在する。
もちろん自分自身の中にも無数存在する。
そんなふうに“免罪符”を葬り去った歌詞である。
個人的レベルと現況世界に対峙したかのようでもある。

これぞハードコア!な歌詞だが、
声にも音にもウソがない。
響きは正直だ。
アルバム・タイトルやアートワークに表れているように、
これまでになくスピリチュアルな命が息づいている。
ヴォーカルはもちろんこと楽器の音の一つ一つに歌心が確かに宿り、
わざとらしいエモみたいなのじゃなく感情濃度が高い。

音楽に対する誠実さ。
表現に対する誠実さ。
そんなことをあらためて思い知らされる。
たとえキャッチーなフックのサビを設けた音楽だろうと深いものは深い。
こういう系統の音楽では珍しく感動してしまった。
迷わずグレイト!と言い切れる。


★キルスウィッチ・エンゲイジ『インカーネイト』(ワーナーミュージック・ジャパン WPCR-17105)CD
16ページのオリジナル・ブックレット封入。
日本盤は、
本編12曲+本編の曲とは微妙に違う“スペシャル・エディション”に収録のボーナス・トラック3曲に
前作収録曲「In Due Time」の一昨年10月録音の音質良好ライヴ・テイクを追加した約57分16曲入りで、
全曲の歌詞の和訳が載った12ページのブックレットも封入。


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VISION OF DISORDER『Razed To The Ground』

VISION OF DISORDER『Razed To The Ground』update


92年にニューヨーク州ロング・アイランドで結成されたメタル・ハードコア・バンド、
通称VODが約3年ぶりに出した5作目のオリジナル・アルバム。

再結成活動は前作『The Cursed Remain Cursed』をリリースして終わりかとも思っていたが、
ギタリストの一人だったマット・バウムバックが去って
96年のアルバム・デビュー時から不変の鉄壁体制が崩れたにもかかわらず、
活動を続けていて心の底からうれしい。

そして甘え無き声と音に身震いが止まらない。


HATEBREEDSHADOWS FALLなどのメタル/ハードコア系の名作を多数手がけてきた、
ゼウスがミックスとプロデュースとマスタリングを担当。
ありそうで今までなかった人選だが、
言うまでもなく相性バッチリである。

音を多少重ねてはいるとはいえ今回のレコーディングではギタリストが一人になって多少シンプルになったが、
一点集中のリフにもなった反復演奏から加速し、
マイク・ケネディ(g)が密かに得意とする哀切のメロディのギター・プレイも目立つ。
タイプは違えどWITH THE DEADに匹敵するリズム隊の二人は、
VODからしか生まれ得ない生のヴァイブレイションを繰り出して前へ前へと曲を押し進めていく。
ケミストリーは健在だし、
複雑なリズム・パターンの音のテクスチャーを勢いで一気に聴かせる。

98年のセカンド『Imprint』の曲がコンパクトに凝縮されたようでもあるが、
96年のセルフ・タイトルのファーストや2001年の4作目『From Bliss To Devastation』を思い出す
キャッチーなパートもアップデートして無理なく挿入。
CDを再生して1秒でVOD!とわかるほど“VOD節”全開のサウンドをさらに掘り下げて突き詰め、
粗製乱造のメタルコアだのスクリーモだのの似非“ポスト・ハードコア”を木端微塵に粉砕する。
KING CRIMSONが破壊的になったリズムもデス/ドゥーム・メタルのリフも織り込まれ、
カオティックなハーモニーの音像をふくらませている。

矢継ぎ早に叩きつけられる楽曲群は、
膨張した熱量で前作をアップデートしたかのようでもある。
だが、ますます壮絶だ。
混乱を曲にし、
錯乱を歌にしている。

もともとリアリスティックな表現のバンドだったといえ、
アートワーク同様にいつになく世界情勢が投影されたみたいな歌詞である。
米国がモチーフにもなっているようだが、
“war”という言葉が頻発している。
言葉遣いがストレートで、
“government”や“American hatred”も歌い込んでVODのイメージを更新。
むろん今までの歌詞と同じく言葉をよく知っているからこそ中学校レベルの単語しか使ってない。
それで深い表現をする。
ラスト・ナンバーの曲名「Amurdica: A Culture Of Violence」の“Amurdica”は、
“America”と“murder”をミックスした造語だろうか。

でも単なる政治的メッセージとは一線を画す地獄絵図である。
他者に真剣に向き合うことは、おのれに真剣に向き合うことと、あらためと思わされる。
おのれ自身と対峙し、おのれをえぐりだす。
でないとこういう歌詞は生まれ得ない。
ストイックな言葉の連なりは心の反目を血で描いた詩であり、
意識が無限大に触発される。

だが歌詞がわからなくても、
稀代のヴォーカリストであるティム・ウィリアムズ(vo)の声を全身に浴びるだけで総毛立つ。
いかにものメッセージ・ソングに限って声はウソばかりで底意地も下心も見えてくる。
このアルバムみたいに心の軋みも震えも声から聞こえてこなきゃウソだろ。
声の響きは正直だ。

90年代以降の米国のハードコア/メタルコア/スクリーモ・タイプのバンドに目立つ、
力まかせの単細胞スクリーマーとはまったく別次元の喉が激昂している。
ラップみたいに整然と言葉が進みやしない。
“はらわた”から搾り出したアナーキーな激情が炸裂しているからこそ、
スタイリッシュなヴォーカリゼイションにはなりえない。

逆上の歌心が貫くスクリームと歌唱は、
曲や音と調和と成しつつそれらとの軋轢のエナジーですべてを突き破りながらインプロヴァイズしている。
メロディ・ラインを歌うパートもひっくるめて、
これぞ全身全霊
凄味を超えて戦慄の妖気すら漂う。
なにしろ体裁を一切気にしてない。
内から湧き上がって止まない殺伐とした熱情を外に出さなければ死ぬ人間の表現がここで激しく息をしている。

すべてが鎮魂歌にも挽歌にも聞こえてくる。
だがこういうアルバムにし希望を感じない。
胸を刺し、胸を打ち、胸に響き、胸が熱くなる。

VISION OF DISORDERという究極の名を自ら背負ったバンドにふさわしい今年一番震えたアルバム。
グレイトと言うほかない。


★VISION OF DISORDER『Razed To The Ground』(CANDLELIGHT CDL558CD)CD
12面のインナーシート封入の約41分10曲入り。
僕が買った↑のカタログ・ナンバーのCDはデジパック仕様。


BLACK BREATH『Slaves Beyond Death』

BLACK BREATH DYMC-254


ツイン・ギター体制でヴォーカル専任のシンガーも擁する5人編成の
米国シアトル出身のダーク・ヘヴィ“ハードコア/パンク・メタル“バンドによる、
『Sentenced To Life』以来の約3年ぶりのサード。
ファースト・アルバム『Heavy Breathing』(2010年)以来の付き合いの
カート・バルー(CONVERGE)が今回も録音と共同プロデューサーになっており、
重量感バッチリで聴き応えありありの仕上がりだ。


ENTOMBEDをはじめとするスウェーデンの伝統的なデス・メタルが基本、
つまり初期デス・メタルとMOTORHEAD直系のロックンロールのブレンドの“Death ‘n’ Roll”サウンドが核で、
DISCHARGE直系のハードコア・パンクも交わっている。
さらにデス・メタルとブラック・メタルがファックしたギターが軋みを上げつつ、
BLACK SABBATHに似たバンド名を付けているだけに当然ヘヴィ・スロー・リフも随所で黒光り。
ときおりブラスト・ビートもブチ込まれ、
『Heartwork』以降のCARCASSの疾走感とギター・ソロも挿入される。

爆走感をキープしつつ、
アルバム全体のドラマチックな構成をはじめとして本作ではヘヴィ・メタリックな展開を強めている。
全曲5分台から7分台の間という具合に、
曲が長くなってじっくりと練り上げたソングライティングも象徴的である。
特に80年代のMETALLICAを想起する。
とりわけリリカルなギター・パートにその色が濃く、
8分近くに及ぶラスト・ナンバーは『Master of Puppets』収録の「Orion」の流れを感じさせるほどなのだ。

ところによってG.I.S.Mを思い出すヴォーカルが放つ歌詞も含めて
メタル・パンクならぬパンク・メタルな充実の一枚。
というか何もかも内向き志向で小ぢんまりしている世の中だけにスケール・アップがうれしい。
メタルもパンクもひっくるめてロック!でいいじゃないか。


★ブラック・ブレス『スレイヴズ・ビヨンド・デス』(デイメア・レコーディングス DYMC-254)CD
8ページのブックレット封入の約50分8曲入り。
日本盤は歌詞の和訳付で10月7日(水)発売。


CONQUER DIVIDE『Conquer Divide』

CONQUER DIVIDE


ツイン・ヴォーカルの女性メタルコア6人組のデビュー・アルバム。
彼女たちのFacebookから察するに米英混成のバンドのようだ。

KILLSWITCH ENGAGE以降のメタルコア・スタイルで、
メタル・ハードコアのエッジの効いた音と、
一般的な歌ものポピュラー・ミュージックのキャッチーなサビとの融合なのだが、
物腰が柔らかく凛とした佇まいに惹かれる。
女性のみでこういうハードコアなアタック感の音を演奏するバンドというだけで貴重だし、
ドラマチックに展開されるサウンドがなにしろクールだ。

怒号のスクリーマーとメロウなシンガーのコントラストで曲を引っ張る。
歌詞は人間ドラマの映画のシーンをイメージする感情表現の綴れ織りだが、
スクリーモによくあるわざとらしいエモーショナルの押し売りはない。
あくまでもナチュラルだ。
どの曲もメロディ・ラインが耳に残り、
たおやかに伸びやかに歌い上げる切ない歌唱パートは在りそうでなかった輝きを放つ。

ヴィジュアルもいいバンドだが、
ジャケットにもブックレットにもメンバー写真を載せてないのは“あえて”だと思われる。
それどころかその各々の黒い部分はカビが生えたみたいに白くなっているし、
白いCD盤もインクの汚れみたいにところどころが黒くなっている。
サウンドそのものでまず勝負!という意識が見え隠れしていると思うのは深読みだろうか。

鮮やかな音像のメジャー感たっぷりのアルバムなのだが、
可能性を感じさせる一枚。


★CONQUER DIVIDE『Conquer Divide』(ARTERY Recordings AR127)CD
歌詞が載った8ページのブックレット封入の約45分10曲入り。


EARTH CRISIS『The Discipline』

EARTH CRISIS『The Discipline』


ニュースクール・ハードコアを代表するニューヨーク州郊外のシラキュース出身のバンドが、
アルバム『Salvation Of Innocents』以来のリリースとして数ヵ月前に出した約13分4曲入り。
80年代の末に結成され、
2000年代半ばの活動停止期間を挟みつつコンスタントに活動しており、
このCDでもブレのない健在ぶりを鋼のサウンドと歌詞で示している。

CDタイトル曲でもあるオープニング・ナンバーは曲名からしてまさに、
ヴィーガン・ストレート・エッジの急先鋒として90年代前半にシーンを切り開いたEARTH CRISISらしい。
むろん彼らのように完全菜食主義のストレート・エッジになる必要はないが、
結局“discipline”というのは自分のことは自分でして自分で責任を取るようなもんだ。
ほとん心身を鍛えないと生きていけない。
不穏なほどドゥーミーなサウンドも心身に響く。

2曲目の「Behind The Mask」は、
歴史的なデビューEP『All Out War』をリリースした92年のデモ制作時点で録っていた曲のニュー・レコーディング。
アルペジオ込みで、
音楽性以外でもEARTH CRIRISが影響を認めているCARCASS(特に『HEARTWORK』)のリフの応用にも聞こえる。

3曲目の「New Ethic」は、
様々なことを題材にしているバンドとはいえEARTH CRISISのイメージを決定づけた“動物倫理”に関する曲。
ヴィーガニズムは動物がかわいそうというモチーフだけではなく政治/社会/環境問題につながるわけで、
この曲も単純な内容ではない。
ナタや牛刀の如く振り下ろされるリフに耳を傾けると、
“斬首される豚や牛や鶏の身や気持ちになって共食いのつもりで肉を喰え!”
という声も聞こえてきそうな曲だ。

ラストは音楽的にも歌詞的にも原点を見つめ直す「Time Of Strife」。

パンク・ロックに端を発するハードコアの定義を塗り替えたメタリックな音と全身全霊のヴォーカルで
CONFLICTにも通じる戦闘的な歌詞だが、
他者の悪口を言うだけでなくより自己も厳しく追いつめるような内容で全編貫かれている。
EARTH CRISISとは考え方が違う部は僕にもあるが、
何に対しても言えるように“違ってることは素晴らしい”わけだし、
だからこそ大いに触発される。
オススメ。


★EARTH CRISIS『The Discipline』(BULLET TOOTH BT042)CD


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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