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なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

VENOM PRISON『Primeval』

VENOM PRISON『Primeval』


女性ヴォーカルを擁して2014年に英国サウス・ウェールズで結成された
デス・メタル系のバンドによる“企画盤”。
2015年に発表した最初の2つの音源の
EP『Defy The Tyrant』『The Primal Chaos』の全9曲を、
新曲2曲と一緒に昨年12月に再録音した計11曲入りである。


2010年代半ば以降に出てきたデス・メタル系の中で一番好きなバンドだが、
“デス・メタル系”と書いているのは
“デス・メタル・バンド”と決めつけてしまうと聴き手を限定しかねないからだ。
なんにしても狭い“サークル”の中で馴れ合っているようじゃどうしょうもないし、
何より僕がVENOM PRISONをハードコアとして聴いているからである。
かつてニュー・スクールと呼ばれたハードコア・バンドに近いニュアンスを感じる。
パンクっぽいドラムも含めて以前のCARCASS
(特に『Necroticism – Descanting the Insalubriou』~『Heartworks』の間の時期)に、
EARTH CRISISが突っ込んで複雑にデス・メタル度を高めたようでもある。

9曲目までの2015年発表の曲と終盤の新曲2曲を
レコーディング状態が同じ音質のこのCDで続けて聴くと、
曲展開の激しさなど基本的には変わってないと同時に楽曲深化の様子もよくわかる。
メロディの導入も意欲的ながら初期の9曲は、
向上した演奏技術でプレイしても色々な要素をつないだ“つなぎ目”が見える。
もちろんセカンド・アルバム『Samsara』(2019年)以降の高みには遠いだけで、
昔の曲もそのへんのバンドより抜きん出ていてはいる。
ただ新しい曲は緻密で込み入ったテクチャーだとしてもよりナチュラルに聴こえ、
さらなる可能性を感じるのだ。
ブラスト・ビートをブラック・メタルのような使い方もしつつ、
ありがちなバンドとはやっぱり一線を画している。

ヴォーカルがさらに素晴らしい。
デス・ヴォイスやブラック・メタル風のスクリームも包容しつつハードコア・ヴォーカルと言い切れる。
ポーズつけてない発声だから、ほんと生々しい。
ところによってJURASSIC JADEを思わせるのは、
ド迫力の本気肉声ということに加えてデリケイトな歌唱も漏らすからだ。
もちろん歌詞もリアル・ハードコア。
大半のパンク系よりずっとシビアだ。
人間に向き合っている。
自分自身に向き合っている。
掘り下げている。
“誰もが世界を変えることを考える/けど誰も自分自身を変えることは考えない”
というフレーズに集約される。

“デス・メタリック・カオティック・ハードコア”とも呼びたくなる一枚だ。


★VENOM PRISON『Primeval』(PROSTHETIC PROS104292)CD
約38分11曲入り。
“筆記体”で歌詞が載った二つ折りのインサート封入のデジパック仕様。


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KILLSWITCH ENGAGE『Atonement』

KILLSWITCH ENGAGE『Atonement』


2000年代以降のUSメタルコア・スタイルを決定づけたバンドが
『Incarnate』から約3年ぶりのリリースした8作目。
フォロワーとは別次元で歌と音が広がり轟くディープな快作である。


“KILLSWITCH ENGAGE節”みたいなものができあがっているバンドだけに、
進化というより確かな深化をまた遂げている。

ミックスとマスタリングは、
90年代後半以降の“メタル・サウンド”を創り出した一人で、
ここ数年JUDAS PRIESTのツアー・ギタリストも務めているアンディ・スニープが担当して万全。
プロデュースとエンジニアはもちろんバンドの核のアダム・デュトキエヴィッチ(g)である。
単なるギタリストではなく音楽家と呼びたい人だけに今回もさすがの仕事ぶりだ。
キャッチーなサビのメロディが安っぽくならない曲作りや目の覚める音作り、
どの曲にも聴かせどころを設けたアレンジも仕切っているだろうし、
ドラムとベースを大きめに鳴らしてアタック感を強めつつ各パートの楽器のバランス感も絶妙である。

ドラマチックな展開でありながら1曲平均3分台のハイ・クオリティの楽曲を揃え、
アルバム全体も簡潔で約39分11曲に凝縮しつつ、
いい意味で長く感じる濃厚な仕上がり。
緩急織り交ぜた楽曲の中にツイン・ギター体制も活かし、
厚みのあるハード/スラッシーなリフだけでなく、
リリカルなフレーズとメロディアスなハーモニーでも感情を加速させる。
シンプルなようでリズム・チェンジが激しく、
曲によってはブラスト・ビートやLED ZEPPELIN風のグルーヴ、
ブラック・メタルちっくなトレモロなどのスパイスを利かせてもいる。

2000年代以降の米国のメタル/ハードコア系のバンドに目立つ
“聴き手がどう思おうとゴリ押し”するアティテュードのアルバム作りとは対極だ。
むろんファンに媚びているわけではなく、
リスナーと“交感”する意識に貫かれている。
代表作の一つである2002年のセカンド『Alive Or Just Breathing』のような
ある種の“ポップ感”は薄めながら、
ポピュラリティの高い楽曲構成に磨きをかけ、
その上で90年代のメタル・ハードコア以降の強度を高めてもいるのだ。

ジェシー・リーチ(vo)によるシャウト/スクリーム混じりのハードコア歌唱は、
ソウルフルでありスピリチュアル。
エクストリームを気取ったメタル/ハードコア系バンドに目立つ、
ただ声がでかいだけでメロディアスな歌い方もなぞっているだけみたいな無機的ヴォーカルとは違う。
歌い上げるパートでは歌の上手さも際立つが、
巧いだけでなく“旨い”。
アダムとジョエル・ストレッツェル(g)の“バッキング・ヴォーカル”もいい感じで、
ジェシがバンドを離れていた時にシンガーを務めていたハワード・ジョーンズと、
USスラッシュ・メタルのベテランTESTAMENTのチャック・ビリーが、
1曲ずつヴォーカルで参加している。

歌詞はこれまで以上に政治的な事象がモチーフになっていると思しき表現が目立つ。
人称名詞は例によって“俺”“俺たち”“おまえ”が多いが、
“ヤツら”も目立つアルバムだ。
だが馬鹿の一つ覚えの無邪気な“反体制ソング”と一線を画すのは言うまでもない。
おのれの非から目をそらすべく免罪符を求めて他者非難ばかりしてる人間の醜さは世界共通。
だからおのれに向き合い、
“償い/罪滅ぼし/贖罪”といった意味合いのあるハム・タイトルのニュアンスも滲み出ている。
やっぱりそういう意識は歌詞だけでなく声や音にも表れるのだ。

“ファック・ユー!”アティテュードの放射からストロングな自問自答まで、
パンク・ロックから派生したハードコアの最も研ぎ澄まされた表現がここで響き、
閉塞を突き抜けんと輝ける美すら感じる。

胸のすくオススメ盤だ。


★キルスウィッチ・エンゲイジ『アトーンメント』(ソニー・ミュージックエンタテインメント SICP 6188)CD
MASTODONの『Cold Dark Place』(2017年)も描いたリッチー・ベケットによるイラストの、
ジャケットの絵柄の八つ折りミニ・ポスター(表に歌詞印刷)封入の約39分11曲入り。
初回分は四面デジパック仕様でステッカーが封入され、
日本盤は歌詞の和訳が載った12ページのブックレットも封入。


CALIBAN『Elements』

CALIBAN『Elements』


20年強コンスタントに活動しているドイツのメタルコア・バンドの11作目。

2000年代前半ぐらいまではニュースクール・ハードコアに括られることも多かったバンドだが、
その呼称があまり使われなくなったと同時に彼らの音楽性の進化に伴い、
ドイツを代表するメタルコア・バンドの一つと呼ばれるようになっている。
もちろんここで言うメタルコアは2000年代以降の米国産メタルコアが基本のスタイルである。

ただやはり最初からキャッチーなメタルコアを狙ったバンドとは違い、
ヴォーカルも音も根の響きが激烈なところにハードコア上がりであることが表れている。
ツボを心得て作られた楽曲は緩急織り交ぜてヴァラエティに富むが、
いくらサビの部分をメロディアスに歌おうと骨っぽいのだ。

と同時にゲストが挿入するキーボードの音も相まって、
エレクトロニクスの装飾も薄っすらと施されている。
ニュー・メタル(nu metal)のグルーヴ感が全体的に濃いところも興味深く、
KORNのギタリストのヘッドが1曲ゲスト・ヴォーカルと一部の作詞を担当したのも納得だ。
2000年代後半には古臭く聴こえたニュー・メタルが一周してフレッシュになったようでもあるが、
もともと音楽的にな接点が大きかったニュースクール・ハードコアが取り込んでブレンドし、
アップデートして再生されたかのようなサウンドなのだ。

ラップとは言わないまでもそれっぽいヴォーカルも飛び出すが、
おのれの外とおのれの内に向き合っている歌詞を見るとやはりハードコアと思わずにはいられない。
タフ・ガイ系と似て非なるヒリヒリしたスクリームと歌唱で、
ほとんどの歌詞を英語で歌う。
母国語で歌っている一曲も、
たとえクセの強い響きのドイツ語であろうとCALIBANの音楽として消化している。

“メタルコア通過後のモダン・ヘヴィネス”とも言うべきコンパクトに凝縮された約51分13曲入り。


★キャリバン『エレメンツ』(ソニー・ミュージック SICP 5812)CD
歌詞が載った16ページのオリジナル・ブックレット封入。
日本盤は歌詞の和訳等が読みやすく載った12ページのブックレットも付き、
言葉数の多いバンドだけにありがたい。


BETWEEN THE BURIED AND ME『Automata I』

BETWEEN THE BURIED AND ME『Automata I』


カリフォルニア出身の“ハードコア系メタル・プログレ・バンド”が、
オリジナル・アルバムとしては『Coma Ecliptic』以来約3年ぶりに出した8作目。


最近のアルバムはプログレ色がやや強めだったが、
彼らの“お里”のメタル・ハードコアの色が今回はわりと多めだ。
アルペジオから始まるも、
まもなくメタル・ハードコアの名残がヴォーカルと音に炸裂し、
さらにヘヴィ・ロックへと突入。
メタル・リフでツー・ビートのパートを絡めつつ自然な流れで展開していき、
場面転換もスムーズに滑らかな推移でリズムを変えつつ加速度をキープしながら、
リリカル&パワフル&ドリーミーに音楽そのもので物語を紡ぎ編んでいく。

いわゆる演奏テクニックは十分ながら、やっぱりテクニカルに聞こえない。
いい意味でDREAM THEATERほどカッチリしてないのは、
拘束度の高いメタルのテクスチャーに縛られてないからだ。
音の抜けが良く不思議とポップな感覚に包まれている。
ブリティッシュ・プログレ全般が頭をよぎり、
基本的には70年代のKING CRIMSON系だが、
ところどころで70年代後半以降のGENESISやYESやPINK FLOYD、
さらに後期UKも想起するマイルドなニュアンスが滲み出ている。

MUSEあたりに通じるキャッチーなメロディ・センスが光る一方で、
シタールっぽい音も聞こえてくる呪術的なパートは新境地。
適宜キーボードやピアノも使い、
曲によってはトランペットやトロンボーン、バリトン・サクソフォンもゲストが挿入している。
ヴォーカルは色々な歌い方をしていてナチュラル・ヴォイスではまろやかな歌唱も多く、
“恫喝系”とは一味違う太い声のパートが
今年3月に事故で他界したケイラブ・スコフィールドを思い出すというのもあって、
全体的にCAVE INがもうちょいプログレ寄りになったようでもある。

ブレイクには至らないにしても独自のポジションで支持を集め、
地道にコンスタントな活動を続けてミュージシャンシップも自然と高まっている。
クレジットによればバンドで行なっている作曲がいい意味でこなれてきたというか、
曲作りの術が肉体化されているのだ。
メタル・ハードコアなサウンドの米国産はお国柄かゴリ押しバンドが目立つが、
どの曲にも聴かせどころをしっかり設け、
楽曲クオリティも高い。
6分台、8分台、10分台の曲と
3分台、4分台、1分台の曲の計6曲で、
トータル35分強というバランス感とヴォリューム感も一つの作品として的確。
一気に聴かせるのに一役買っている。

今年中に出るらしい“Ⅱ”も楽しみだ。


★BETWEEN THE BURIED AND ME『Automata I』(SUMERIAN SUM930)CD
8ページのブックレット封入のデジパック仕様。


AGRIMONIA『Awaken』

AGRIMONIA『Awaken』


女性ヴォーカルを擁して2000年代の半ばから活動している、
スウェーデンのネオ・クラスト系バンドの4作目。

ポリティカル・クラストDIYレーベルのSKULD RELEASESやPRAFANE EXISTENCEから
初期にリリースしていたことで、
どういうシーンから出てきたバンドかわかるし、
その両方ともメタリックなバンドを90年代の頭から出していたレーベルだけに違和感はなかった。
と同時に最近SOUTHERN LORDからリリースしていることも違和感のないバンドだ。


約58分6曲入りというヴォリュームで、
15分以上はないにしろ10分前後の曲がほとんどだ。
いわゆるネオ・クラストのドラマチックな展開は変わらないが、
もっとメタル寄りの構成美を内包し、
2000年代以降のNEUROSISをはじめとするポスト・メタルや
ポスト・ブラック・メタルの質感の音でもある。
熾烈な音ながらメタルというよりシューゲイザー系の耽美性も漂うが、
やっぱりサウンドがヒリヒリしていてメタル・クラストの最新型といっても過言ではない。
メランコリックな旋律でプログレとドゥーム・メタルをブレンドもしている。

大半のパートはポントス(g、kbd他)がレコーディング。
ドラムはスウェーデンのDIVISION OF LAURA LEEのパーらが録音し、
AT THE GATES『At War With Reality』を録ったヘンリック・ウッドがミックスしている。

AGRIMONIAがゴセンバーグ(イエテボリ)出身のバンドということで、
AT THE GATESらの同郷の“先輩”をはじめとする
スウェーデンのメロディック・デス・メタル勢との接点も見えてくる。
実際5年前の前作はそのシーンの主のフレドリック・ノルドストロームがミックス等を手掛けていたし、
前作に引き続きベースは今回もAT THE GATESのギタリストのマーティン・ラーソンが弾いている。
もちろん比べるとパンク/ハードコアとヘヴィ・メタルという核の違いは明らかだし、
AGRIMONIAの方がずっと緻密だが、
ARCH ENEMYともダブる。
ヴォーカルの迫力で特に現在のARCH ENEMYを思い出す。

AGRIMONIAのクリスティーナのヴォーカルは、
CARCASSのジェフ・ウォーカー直系の胸のむかつきを解き放つスタイル。
歌詞は英語で、
ストレートな政治表現はないにしろ意識が変わってないこともしっかりと伝わってくるのであった。

オススメ。


★AGRIMONIA『Awaken』(SOUTHERN LORD LORD 251)CD


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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