JURASSIC JADE『Nyx filia』
2023-03-20

メタルを超えた東京拠点の“リアル・エクストリーム・バンド”が、
『id -イド-』から2年4ヶ月ぶりにリリースする最新作。
正確には“Nýx filia”と表記する言葉で“ニュクス・フィリア”と読めるタイトルの、
約42分10曲入りのフル・アルバムである。
“アンケート形式のインタヴュー”を行なったうえで、
ライナーを担当させてもらいました。
というわけで例によってここでは内容があまりダブらないように書くが、
ライナーで使わなかった“インタヴュー発言のアウトテイク”も引用しながら紹介する。
前作リリース前のインタヴューの際にNOB(g)は、
「一つ心に決めていたことは、
これが我々(少なくともHIZUMIとNOBにとって)の最後のアルバムだろうということです」
と言っていた。
でも、それは当時のNOBの“勇み足”と“フライング”の“独り言”であったことをまず記しておく。
それぐらい『id -イド-』は精魂尽くしたアルバムだったわけだが、
『Nyx filia』はさらに精と魂が込められている。
「メンバーチェンジを経ずにフルアルバムを2作連続でリリースしたのは
(ベスト盤等を除くと)今回が初めてではないかと思います」というWATANABE(b)の言葉どおりに、
バンドの活動が加速している。
リリースのインターヴァルの短さに驚くほかない。
メンバーの半数が自分より年上で守りに入らずに進化と深化を絶やさず、
コンスタントに創作とライヴを続けていることに僕もインスパイアされるばかりだ。
むろん今回も濃厚極まりない。
ライナーを読む人はCDで曲を聴けるからライナーではあまり音楽ついては書かなかったが、
JURASSIC JADE以外の何ものでもない“デリケイト”なサウンドに磨きを掛けている。
“SLAYER meets KORN with KING CRIMSON”と言ったら安直だが、
そこに日本のDOOMのグルーヴが入り込んだみたいでもある。
昔NOBに「えっ…!?」と思うほど伝説的な70年代のプログレのライヴを観に行った話を聞いたし、
HIZUMIがNOBを「昔からいわゆる“プログレ”大好きな人だったよネ」と言っているのも
納得の楽曲だ。
もちろんスラッシーなパートも含むが、
ツー・ビートに拘束されない異形のリズムで畳みかけながら“ドライヴ”していく。
激烈パートでは身震いし、
覚醒するほどしめやかなパートの“戦慄感”には身が凍る。
メンバーみなさん人間味あふれて基本的には特別禁欲的な生活をしているわけではないと思われるし、
清廉とは言わないが、
修行僧をイメージするほどやはりストイックな音だ。
贅肉を削ぎ落し殺ぎ落し、
骨と魂だけが激しく静かに息をしているような研ぎ澄まされたサウンド。
全パートのバランスも鬼気迫る。
ヘッドフォンで聴くとアンビエントな音も含めて細かいところが聞こえてくるし、
スピーカーから聴くと中低音の迫力に驚かされる。
ベースがうねるうねるうねる。
特にスピーカーで聴くと弾力感がたまらない。
スネア、キック、シンバルも、ドラムの音は必要最小限だ。
ギターは特に身を切り命を削っておのれの奥底から音を紡ぎ出している。
耳を傾けるたびに発見がある。
聴く人の心情によってその時々で聞こえ方が違う、まさに生きている音楽だ。
ライナーでは、一筋縄ではいかない綴り方だから歌詞等に関して字数を割かせてもらった。
「できるだけ聴き手に委ねたいです。多様性、重層性、時空を超えて想像して頂けたら幸いなんです♡」
というHIZUMIの発言を踏まえたうえで、
歌詞に出てくるキーワードを基に、
インタヴューの質問に対する彼女の回答を引用しながら僕なりのヒントを書かせてもらった。
とはいえ、自分自身の解釈をしていただきたい。
HIZUMIならぬ“泉”の表現にも思えた前作からさらに深く掘り下げられ、
音と共振して意識の流れを編んでいる。
もちろん“不都合な真実”を“出刃包丁で刺す”ような“超ポリティカル”な内容でもある。
これまでの歌詞からさらに一歩も二歩も三歩も踏み込んだ日本や中国からのモチーフ、
言うまでもなく現在進行形の世界情勢、
さらにHIZUMIのある種の“ライフワーク”のアダルトチルドレンのこと、
すべてがつながっている。
様々な状況下での子供の受難、今も昔も地域問わず、普遍的にリンクすることばかりだ。
ヒガミ屋なもんで僕が普段鼻白んでしまう“NO WAR”というフレーズも、
様々な“深手”の表現を続けてきたJURASSIC JADEと“その曲”だからこそ生で響いてくる。
オフィシャル・サイト
http://www2.odn.ne.jp/jurassic-jade/
の“WORKS”の部分をクリックしてそこの本作のジャケットをさらにクリックすると
歌詞とその英訳を見ることができるから、触れてみていただきたい
(ちなみに他のアルバム等の歌詞もそこでチェックできる)。
今回ますます胸元に迫り喉元を突かんとする言葉が綴られ、
まさにハードコアな表現だが、
音やヴォーカルと共振してエクストリームにエモーショナル…いやソウルフルな表現である。
フジタタカシ(DOOM)が今回も歌録りの際にアドバイスを行なっている。
「彼の存在が、自分たちが生み出した音楽に、自信や信頼感を与えてくれます。
彼がアドバイスしてくれることがは喜びと安心なのです。」とNOBが言うフジタは、
HAYA(ds)曰く「(HIZUMIの)安定剤」でもある。
HIZUMIの声があってこそさらに生きる言葉の連射。
NOBとHAYAとWATANABEの音や、
彼らと“仲間たち”の気合ほとばしるコーラスがあってこそ生きる言葉の放射。
ヴォーカルは言わずもがな、
楽器の音のひとつひとつにも意思や歌心が宿り得ることをあらためて知る。
媚びも驕りも甘えもない。
心からグレイト。
★JURASSIC JADE『Nyx filia』(B.T.H. BHT-081)CD
歌詞も載った12ページのブックレット封入の約42分10曲入り。
3月22日(水)発売。
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LOCK UP『The Dregs Of Hades』
2021-12-09

NAPALM DEATHのシェーン率いるデス・グラインド・バンドのLOCK UPが、
ケヴィン・シャープとトーマス・リンドバーグによる“ダブル・ヴォーカル体制”になってからの、
初のオリジナル・アルバムの5作目をリリースしている。
ライナーを書かせてもらったから、
あまり内容がダブらないようにポイントのみを簡潔に書いていく。
現在のメンバーはシェーン(b)の他に、
ケヴィン・シャープ(vo~元BRUTAL TRUTH、現VENOMOUS CONCEPT)、
トーマス・リンドバーグ(vo~AT THE GATES他)、
アントン・レイセネッガー(g~CRIMINAL他)
アダム・ジャーヴィス(ds~PIG DESTROYER、MISERY INDEX)。
前作『Demonization』(2017年)に参加したメンバーはシェーンとアントンとケヴィンで、
オリジナル・ドラマーのニック・バーカーが脱退してアダムが加入し、
二代目ヴォーカルのトーマスが再加入している。
呼び方はツイン・ヴォーカルでもダブル・ヴォーカルでもデュアル・ヴォーカルでもいいが、
こういうエクストリーム・ヴォーカルの掛け合いは、
今までのロック史の中でもあまりなかった。
曲の方はオープニング・ナンバーとラスト・ナンバーで新境地を見せつつ、
緩急織り交ぜながらデス・メタルがかったグラインドコアに磨きをかけている。
歌詞もコロナ云々に留まらず世界中のニヒリスティックな混沌をイメージせずにはいられない。
日本盤のボーナス・トラックではREPULSIONの「Radiation Sickness」のカヴァーが聴ける。
まさにLOCK UPのルーツ、グレイトだ。
★ロック・アップ『ザ・ドレッグス・オブ・ハデス』(トゥルーパー・エンタテインメント QATE-10135)CD
本編の曲の歌詞等が載った12ページのブックレット封入で、
日本盤は本編の歌詞の和訳も載ったインサートを封入し、
ボーナス・トラック3曲追加の計46分17曲入り。
CARCASS『Torn Arteries』
2021-10-23

一か月ほど前にリリースされた8年ぶりの7作目のオリジナル・アルバム。
最近の超へヴィ・ローテーションだ。
CARCASSが今もなおクールにロックしていることに、
渾身のアルバムを再び出してくれたことに
またしても最高傑作を更新したことに感動すら覚える。
メンバーは、
ジェフ・ウォーカー(vo、b)、
ビル・スティアー(g、vo)、
ダン・ウィルディング(ds、vo)。
クレジットから察するに初期みたいなトリプル・ヴォーカル体制になっている。
トム・ドレイパー(g)もクレジットされているが、
正式なメンバーは現在3人のようだ。
SPIRITUAL BEGGARSのペル・ヴィバリもピアノとオルガンでひそかに参加している。
セルフ・プロデュースで
LEPROUSとの仕事で知られるデイヴィド・カスティロがエンジニア。
ソリッドなサウンドながら中低音がよく出ていて、
さりげなくグルーヴィだ。
誤解を恐れずに言えばMETALLICAの『Metallica』を思わすところも。
曲によってはビルがフロントマンを務めていたFIREBIRDを思い出すブルース・テイストも香る。
ダンの演奏も加入まもなく録った復活後の前作『Surgical Steel』よりCARCASSに深くハマっており、
ダークなビートなのに小気味いいリズムのドラムもかなり光る。
とにかく足腰のしっかりした歯切れのいいサウンドだ。
曲は、
サードの『Necroticism – Descanting The Insalubrious』(1991年)、
4作目の『Heartwork』(1993年)、
6作目の『Surgical Steel』(2013年)
をブレンドしながらヘヴィにアップデートしたかのようである。
スラッシーなパートとブラスト・ビートを適度に織り交ぜ、
ダイナミックかつドラマチックに展開。
激しく緻密に練り上げられた楽曲クオリティがホント高い。
メランコリックな華麗なるギター・ソロにも磨きをかけ、
聴かせどころだらけのアレンジにも舌を巻くのみだ。
10分近くに及ぶ曲も長さをまったく感じさせない。
本気だ。
サウンドに甘えがない。
じっくりと耳を傾ければわかる。
濃密、そして濃厚なのである。
苦み走った声で歌われる歌詞は、
デビュー作の『Reek Of Putrefaction』(1988年)と
セカンドの『Symphonies Of Sickness』 (1989)も含めて、
これまでのCARCASSを総括しているみたいな味わい。
一時封印していた臓器ネタが今回もちりばめられ、
世界視野での政治的/社会的なニュアンスも生々しく滲む。
例によってシニカル&ニヒリスティックに人間をえぐり出しているように映る内容だ。
ブックレットの作りもさすがの出来である。
載っている歌詞は読みやすいレイアウトだが、
言葉がパズルのような構成になっていて簡単に“解読”できない。
CARCASSならではの“面倒臭いユーモア”も健在なのだ。
めくっていくと、
ジャケットにもデザイインされている新鮮な“ヴェジタブル心臓”が徐々に弱っていき、
しまいには堵殺済みと思しき豚コラージュの心臓と化すまでの過程が見て取れる流れ。
これまた実にCARCASSらしいではないか。
だがもちろん自分を棚に上げて文句言ってるようなヤツじゃない。
何よりサウンドそのものがビシッ!と突き抜けている。
メタル、デス・メタル、エクストリーム・メタル以前に、
ロックとして素晴らしい。
聴いていると力になる。
ウルトラ・グレイト。
★カーカス『トーン・アーテリーズ』(トゥルーパー・エンタテインメント QATE-10130)CD
24ページのブックレット封入の三面デジパック仕様。
日本盤は、
CRASSのジーがジャケットを手掛けた5作目の『Swansong』(1996年)を俗っぽくしたような
意味深タイトルの「NWOBHEAD」を追加の約52分11曲入りで、
歌詞の和訳とジャケット・デザインのステッカーも封入。
AT THE GATES『The Nightmare Of Being』
2021-07-01

メロディック・デス・メタルを開拓しながら新たな地平を切り開き続ける、
スウェーデンのダークネス“ヘヴィ”メタル・バンドAT THE GATESの3年ぶりのニュー・アルバム。
これがまた震えるほどのグレイト作だ。
通算7作目のオリジナル・アルバムで再編後の3作目になる。
メンバーは前作『To Drink From The Night Itself』と同じだ。
AT THE GATES節のメロディック・デス・メタル・チューンは言わずもがな、
自分たち自身の声と音をもっているバンドだから、
どういう曲をやってもAT THE GATES!になることをあらためて示している。
もう1曲目が始まって2秒で傑作と確信したほど、
ナマのままの“気”が宿り、
“念”が息づいている。
贅肉を削ぎ落してコンパクトに凝縮し、
まさに深化と進化を同時に遂げた楽曲クオリティも最高だ。
AT THE GATESにしかできない緻密なリズムの刻みのドラミングが貫く
メロディックかつアグレッシヴな疾走感に磨きをかけ、
緩急織り交ぜながら閉塞感を突き抜ける。
もちろんクラスティな荒々しさをほとばしらせて爽快感とは一線を画す。
凄味を増して生々しいヴォーカルが解き放つ全編シリアスな歌詞と共振し、
何かを背負い込んだかのようにメランコリックなサウンド全体が重い。
メイン・ソングライターになっているベーシストの音が程良く大きめなのもポイント。
と同時に何しろリフがクールだから沈滞することなく、
興奮を禁じ得ない各パートの絡みの筆舌に尽くしがたいほどのケミストリーを生み、
もがきながらも生き抜いていくアルバムなのである。
バンドと共に制作したイェンス・ボグレンのプロデュース力も見逃せない。
DRAGONFORCEのアルバムにおける明快なニュアンスもいい感じで作用しつつ、
OPETHとの仕事におけるプログレ・テイストがデリケイトに活かされている。
曲によってゲストが、
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ダブル・ベース、フルート、クラリネット、チューバ、
バスーン(木管楽器)、クラシカル・ギター、サックスで彩りを添え、
これがまた絶妙にハマっている。
楽曲自体も、
『Larks' Tongues In Aspic』~『Red』のAT THE GATES流の解釈みたいな
「Garden Of Cyrus」をはじめとして、
KING CRIMSONを思い出すリフとリズムが聞こえてくる。
ジャズ・ロックを肉体的にしたパートを絡めつつ、
NAPALM DEATHの最新作『『Throes Of Joy In The Jaws Of Defeatism』に通じる
SONIC YOUTH系のポスト・パンクのニュアンスが滲む「Cosmic Pessimism」も新鮮だ。
全体のバランス感も見事としか言いようがない。
暗黒ヘヴィ・メタルの金字塔と言い切りたいアルバムである。
日本盤は約36分9曲入りのボーナスCD付。
CENTURY MEDIA Records発売のメディアブック版のボーナスCDと同内容と思われる。
オランダ(2019年のロードバーン・フェス)とスウェーデンと米国でのライヴから9曲抜粋し、
違和感ない流れでまとめられ、
もちろん音質良好で臨場感バッチリだ。
KING CRIMSONの中で最もメタリックな曲の「Red」のカヴァーから始まる。
アルバム本編の布石みたいな選曲で、
ギター2本だから“本家”が1981年の初来日公演で披露した時のことを思い出した。
現代音楽系のミュージシャンの中でもポピュラーなフィリップ・グラスのカヴァーも渋い。
このライヴ盤は「Red」だけでなくノスタルジーに浸らぬオリジナル曲のセレクションも含めて、
本作に至る流れが見えてくる興味深い構成だから要注意だ。
猛烈に大スイセン。
★アット・ザ・ゲイツ『ザ・ナイトメア・オブ・ビーイング』(トゥルーパー・エンタテインメント QATE-10128-29)2CD
歌詞とクレジット、写真で彩った20ページのブックレット封入。
日本盤は約46分10曲入りの本編の歌詞の和訳付。
7月2日発売。
JURASSIC JADE『id -イド-』
2020-12-05

1985年に東京で結成された“リアル・エクストリーム・メタル・バンド”JURASSIC JADEが、
12月9日(水)にリリースする約40分11曲入りのニュー・アルバム。
ライナーを書かせてもらいました。
『帰天(Kiten)』(2014年)以来の新作で、
フル・アルバム・サイズの作品として『Left Eye』(2004年)となるCD。
JURASSIC JADEのライヴを観に行っている方ならお馴染みの、
“JJCREW”ことワタナベ(ベース、コーラス)が加入してからの初作でもある。
『Hemiplegia』(2006年)に収めた「Hemiplegia」を、
歌詞に日本語を混ぜてリメイクした「22nd Hemiplegia」も含まれている。
実は今回のライナー、
発売レーベルの方から音を送ってもらって聴いてあまりに興奮したから、
レーベルの方を通してメール・インタヴューみたいな形でメンバー4人に質問を送り、
いただいた貴重な回答をたくさん盛り込んでいる。
というわけで普段のライナー担当盤以上に内容がダブらないように紹介させていただく。
ほんとCD再生2秒で打ちのめされる。
楽曲クオリティの高さで最後まで一気に聴かせる。
JURASSIC JADEならではのスラッシーな核をキープしつつ、
デス・メタリックなリフやビートも織り交ぜ、
グルーヴ感もワタナベが持ち込んだ時空を横切るベース・プレイでアップデートし、
“暗黒わらべ歌”とも言うべき情趣も滲む。
アルバム全体だけでなく一曲の中でも緩急織り交ぜているにもかかわらず、
スピード感も加速度も止まることはない。
日本のDOOMのフジタ・タカシによる共同プロデュースの力も作用したのか、
突進パートと静寂パートの振り幅が際立つ。
音と声ひとつひとつのストイックな鳴りの息吹が格別で、
すべてが喉元と心臓と突きつけられる。
ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムのバランスが絶妙のミックスだ。
メンバー間の交感が目に見えるほどである。
メンバー全員の精神性やベクトルの融合感が過去最高なのもはっきりとわかる。
“メタル”に類されるサウンドにも、
おのれ自身の中から声や音を紡ぎ出せば歌心が息づき得ることをあらためて知る。
カオティック・ハードコア/マス・ロックと呼ばれるようなサウンドとも
2000年代以降のJURASSIC JADEの曲は接点を持ってきたが、
そういうスタイルではないにもかかわらず、
まっすぐなのにカオスが体現されている。
それも空恐ろしいほど研ぎ澄まされた形で。
覚悟を決めている。
一曲一曲でケリをつけている。
だからどの曲も音が止んで終わった後の残響に息を呑む。
アルバムすべてが終わった後の静けさに身が引き締まる。
これまで以上に鬼気迫るアルバムであり、
“危機迫る”とも書きたくなるほどの切迫感だ。
内面描写という意味合いも含めて
これまで以上に戦場や戦闘地域をイメージするサウンドからも伝わってくるが、
歌詞がまた無限大に意識を触発する。
刺激に満ちた言葉の連打は、
底無し沼なほど示唆に富む言葉の乱舞である。
本気の肉声によって初めて歌詞に命が宿ることをあらためて知る。
本作の肝の曲と言える「遼かなるペシャワール」を聴いて、
1年前にアフガニスタンで起こった中村哲殺害事件を思い起こすのは僕だけではないだろう。
もちろんアルバム・タイトルにもリンクしている。
帯に書かれている言葉から勝手に解釈させてもらうと、
ヒズミ(vo)が“hizumi”を掘って彼女自身の“泉”を呼び覚ましたアルバムにも聴こえる。
痛みと傷み、そして悼みもモチーフかもしれないが、
赦しと救いの音楽、祈りの音楽、否定を突き抜けた肯定の音楽に聴こえる。
過去の名作群を超え、
結成35年目の最高傑作と断言したい。
まさにグレイト。
★JURASSIC JADE『id -イド-』(B.T.H BTH-066)CD
本作の世界観を見事に視覚化したNOBUO TAKANASHIによるアートワーク&デザインも強烈な
12ページのブックレット封入。