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なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

てあしくちびる『さん』

てあしくちびる『さん』


栃木県足利市を拠点に2010年から活動している男女デュオ・バンドのサード・アルバム。
男性がヴォイス/アコースティック・ギターほかを担当し、
女性がヴォイス/ヴァイオリン/チェロほかを担当し、
ほとんど2人だけでプレイしている。


メイン楽器がアコースティック・ギターとヴァイオリンのみというユニークな編成だけに、
タダ者じゃないアルバムだ。
いわゆる“ノー・ウェイヴ”勢が頭をよぎる瞬間もあるが、
それほどシャープにヒリヒリはしてない。
ちょいキテレツにも聞こえるにしろ、もっとポップ。
アヴァン・ポップと呼ぶとカッコよすぎるほどプリミティヴ。
でもローファイに逃げずにレコーディグに工夫を凝らした跡も見られる。
どこかの民謡っぽいメロディも漏れてくるし諧謔スパイスも利いているから、
SLAP HAPPYをはじめとするレコメン系を思い出す。

といってもプログレの香りはほとんどない。
パンクと言ったら誤解を与えるが、
まったりしつつ行先不明の前のめりの演奏と歌である。
合唱も斉唱も込みで二人が歌い合う奔放ヴォイスは特に遠慮がない。
アカペラに聞こえるほど曲をリードしている。
芝居がかった歌い方はせずに天然でポップに躍動している。
曲によってはラップっぽくヴォイスを発射しているが、
もちろんスタイリッシュとは百万光年かけ離れ、
トーキング・ヴォーカルと言いたいドライヴ感でヴォイスが疾走するのだ。

歌詞もなかなか一筋縄ではいかない。
「ネオノルマ」「d.t.w.」「グリストラップ ミー」「たららぬま」「パス」「チャンスロス」
「できたての化石」「いわせてきかせてアイラブユー」
という曲名からもさりげなく“不条理”が感じられる。
ちなみに「d.t.w.」は“Dive to 渡良瀬川”の省略形のようだ。
社会批評とまでは言わないが、
普段の生活で見たり聞いたり体験したことかモチーフにも思える。
“スペシャル・サンクス”リストにクレジットされた佐藤幸雄の歌に通じるところも感じる。

ヴォイスも音も活きいい、
スマホ見ながら下を向いて歩いたりせず前と上を見て歩いている。
謎のバンド名が象徴するように、
アウトサイダー・アートならぬ“アウトサイダー・ミュージック”と呼びたい一枚。


★てあしくちびる『さん』(Club Lunatica CL-039)CD
味のあるシュールなイラスト入りで丁寧な作りの六つ折り歌詞カード封入の約29分8曲入り。
日本語、英語、ハングル、中国語[繁字体](主に台湾等で使用)で曲名が書かれている。
実際のジャケットの色は↑の画像より濃いです。


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水晶の舟(Suishou No Fune)『失われた楽園の樹々を想ふ(- The Lost Trees of Paradise -)』

水晶の舟


東京拠点に我が道を歩む水晶の舟が結成20年目の年の終盤に発表した6曲入りのライヴ・アルバム。
2016年の1月5日に行なった自主企画シリーズ・ワンマン・ライヴの
“水晶の舟 UNDERGROUND SPIRIT Ⅳ - 失われた楽園の樹々を想ふ”から抜粋したLPだ。

まず音質を特筆したい。
新譜も旧譜も最近製造されるレコードは妙に“ひきこもった音”で萎えることも多いが、
アナログ盤ならではの音の柔らかさや彫りの深さ、コシの強さが引き出されている仕上がり。
計57分強だから物理的にLPサイズだとダイナミック・レンジ等がキビしくなるが、
この日のライヴ会場の高円寺ショーボートの狭い空間の中でのダイナミズムが
溝に生々しく刻まれているレコードだ。


オリジナル・メンバーの紅ぴらこ(g、vo)と影男(g)のみの活動も行なってきているが、
これは現在の4人のロック・バンド編成による唯一の音盤でもある。
水晶の舟の“静”の面がよく表れているアルバムながら、
やはりバンドならではのダイナミクスが格別の作品だ。
2本のエレクトリック・ギターの綴れ織りを基調としつつ、
松枝秀夫(b)と原田淳(ds)の渋味の利いた音もよく歌っている。

インプロヴィゼイションを絡めつつ、
やはり楽器も含めてすべてが歌・・・日本の土壌から生まれた水晶の舟の歌である。
語りと演奏でゆっくりと進めるB面の2曲目では、
紅ぴらこと影男が飼っていた猫との関連性も綴られている。

ミニマルな反復も多用されるサウンドは、たおやかで、
のぼっていく感覚に、ゆっくりと持っていかれる。
妖女と幼女のわらべ歌みたいなヴォーカルも含めて、
やはり、まさに、研ぎ澄まされて凛としたリアル・サイケデリックな表情をたたえている。
このレコードの音響効果も相まって底知れぬ深いところから立ち現れてくる。
ポーズなんて微塵もない。
そんなもんを必要としない揺ぎ無き強靭な意思と意志にさりげなく貫かれている。


実のところ当初この音源は、
生悦住英夫が主宰したPSF Recordsから2016年の4月に発売されるはずだったという。
だが生悦住が体調を崩して2016年のPSFのすべてのリリース予定が中断。
結果的に水晶の舟を観た最後のライヴになったこの公演の約1年後の2017年2月に生悦住が他界し、
それから紆余曲折を経て米国のレーベルからリリースされたものである。

その生悦住の娘さんが本作の曲の歌詞の英訳を行ない、
薄手の和紙に印刷して封入されている。
アルバム・カヴァーは一枚一枚が手作り。
本作のテーマに沿うように表と裏に別々の葉っぱが刷り込まれ、
伝統的な和紙をメンバー全員でジャケットに貼り合わせたという。
表面はアートワークのデザインをした影男(g他)による日本語でのバンド名とタイトル、
裏面には紅ぴらこ(g、vo他)によるアルファベットでのバンド名とタイトルが、
手書きで書かれている。

水晶の舟は植物にまつわる曲を多くやってきているが、
この日のテーマにならってこのLPには、
代表曲の一つである「花になって」を最初と最後に持ってきた他に、
「失われた楽園の樹々を想う」「ヤツデ」「ケヤキ」も収録。
エコとかのメッセージ以前の次元で、
アルバム全体が自然な形でオーガニックな作品として仕上げられている。


いつも言うようにパッケージすべてで表現だから。
サブリクション・サービスとやらも含むいわゆるデジタル・データ音源なんかで
曲に耳を傾ける聴き方ができるわけない。
あんなもんただ聞き流すか試聴用でしかない。
敷居を低くし過ぎることによって作品への敬意も失われる。
音楽への向き合い方は人間関係と同じだ。
簡単に使い捨てなんかしたくない。
匂いも手触りもひっくるめて感覚すべてを使って真正面から向き合わないと
対象の意識を感じ取ることはできない。

大切なものか何かと、あらためて気づかされるアルバム。
こわれもののようで強靭、そして重み十分。
水晶の舟らしいパッケージだ。

メンバーの服装は黒が多いが、
白いジャケットに白いレコード盤。
アルバム全体の流れも含めて肯定の光がまばゆい逸物である。


★水晶の舟(Suishou No Fune)『失われた楽園の樹々を想ふ(- The Lost Trees of Paradise -)』(Important IMPREC482)LP
70年代のCBSソニーでよく使われていたような裏面が厚手のビニール製のレコード袋に
ホワイト・ヴァイナルのLPが収納されている。
手書きのシリアル・ナンバー入りの限定100枚プレス。

http://www.suishounofune.jp/suishou.jp.disco.vinyl4.imprec482.html?fbclid=IwAR2y36W2BUSHxstyOdnoNoIZgF6J62s1oCxgc2QI014tHcIAi4vdSoXvQ0g

https://plaza.rakuten.co.jp/suishounofune/diary/201910270000/


柳川芳命+藤田亮 デュオ'19『BURAIHA』

無頼


名古屋拠点に70年代の後半から活動を続ける“フリーフォーム・サックス奏者”の柳川芳命と、
クラスト・パンク出身の大阪で生まれたドラマーの藤田亮が、
2019年の9月28日に滋賀県近江八幡の『酒游舘』で行なったライヴを収めた作品。

約1年前の『無頼派二重奏』に続く実質的な2作目で、
CD-Rのフォーマットながらパッケージも含めて丁寧に作られ、
奥行きも広がりも極上の痺れる響きの音の仕上がりである。
二人が演奏している姿勢からドラム・キットのセッティングまでもが見えてくるほどだ。


インプロヴィゼーション29分強の“1トラック”勝負。
二人が火花を散らして渡りあうというよりは
適度に距離を置きながらじっくりと対話している様相だが、
息を呑むほどの張りつめた空気に覆われている。
静寂のオープニングの2秒で身が引き締まり姿勢を正される。

フリー・ジャズに特有のスピードアップ演奏がほとんどないのも自然な営みの結果だろうが、
そもそもフリー・ジャズとは一線を画す。
あたたかくも物哀しく野太く艶やかというより艶っぽい音で悠々と吹かれるサックスも、
シンバルを多用して空間を斬るストイックな音出しのドラムスも、
研ぎ澄まされた歌心のデリケイトな音の調べの持続。
大胆かつ繊細というフレーズも陳腐と化す、
まさに地を這う演奏。
飄々とした走りでゆっくりとドライヴしながら、
ゆっくりと加速していく。

作品タイトルどおりの無頼音楽である。

“無頼”という言葉も色々な解釈があるが、
“正業に就かずに無法な行ないをすること”に加えて
“頼みにするところのないこと”という意味もある。
本来パンクが無頼であることを思い起こさせ、
頑固な風情の中から酒の匂いがほのかに漂ってくるところも好きだ。

それにしても本作の名義の末尾に付けられた“’19”は最近のモーニング娘。を意識したのだろうか。
だとしたらそれもまたなかなかキュートである。


★柳川芳命+藤田亮 デュオ’19『BURAIHA』(Buraiha-02)CD-R
ていねいな作りのミニ・ポスター状のジャケットで帯付き。
↑の画像はジャケットの表を開いた状態で、
右側がアルバム・カヴァー、左側がアルバム・バック・カヴァー。
https://www.facebook.com/rfujita3


INSANE SUPER UNIT『Noise Ballads』[大変なユニット『ノイズ・バラッズ』]

FDR1042jw-300x300.jpg


近藤直司(のなか悟空&人間国宝ほか~バリトン/テナー・サックス)、
組原正(GUNJOGACRAYON~ギター)、
ヒゴヒロシ(元MIRRORS/CHANCE OPERATION/The STALINサポート~ベース)、
本田珠也(ドラムス)
によるユニットのデビュー作。
東京・阿佐ヶ谷のイエロー・ヴィジョンでレコーディングされた音源である。

全6曲すべてのタイトルに“inprovisation”と付けられているとおりの演奏で、
16分半を越えるトラックや18分半を越えるトラックも含む。
でもリリースしたレーベル主宰者の藤掛正隆のミックスとエディットも奏功し、
CDのオープニングとエンディングの静けさにもタダならぬ気配が漂い、
全体の流れが自然で一気に聴ける。

メンバーそれぞれ多彩なリズムで演奏して緩急織り交ぜていながらも、
僕の理想とするフリー・ジャズの加速度に貫かれていてたまらない。
サックスは太く鋭く、
ギターは硬質で、
ベースとドラムにはロックを感じさせ、
デリケイトかつダイナミックな白熱のパフォーマンスが繰り広げられる。
手の内の探り合いみたいな調子で収斂を繰り返しながら交感していく4人の音が絡み合い、
歌心が転がり放射される。
タイトルどおり、まさに“バラッド”だ。

もちろん全編張りつめているわけではないし走る演奏ばかりでもないが、
たるいシーンがまったくない。
1980年のThe POP GROUPの“ジャズ”がパンクならば、
これはハードコア。
オススメだ。


★INSANE SUPER UNIT『Noise Ballads』[大変なユニット『ノイズ・バラッズ』](FULLDESIGN FDR-1042)CD
薄手の二つ折りペーパー・スリーヴ仕様の67分強の6トラック入り。


死神紫郎『さよなら平成』

死神紫郎


死神”という名で2004年にソロ・パフォーマンスを始め、
2018年に改名した“死神紫郎”による2年半ぶりのアルバム。
友川かずき(友川カズキ)のファーストのタイトル「やっと一枚目」をもじったのか、
帯の裏には“やっと4枚目”と書かれている。
唄、ギター、打楽器、ピアノ、シンセサイザー、作詞、作曲、編曲を一人で手掛けた
自作独演盤である。


“死神”と名乗っていた頃にも増して一瞬で空間の空気を塗り替える個性は健在だ。
パッ!と聴いて、あの“死神”のCD・・・とわかる。

アコースティック・ギター弾き語りを基本としているし、
“日本式フォーク”という宣伝文句も使っているが、
やはりフォークを超えている。
初期の三上寛を思い出す曲をやっているのも必然で、
三上が日本のブルースなら『さよなら平成』も日本のブルースに思えてくる。
しっかり練り上げられてフック十分の曲からは、
クルト・ワイルの曲や童謡、歌舞伎のようなメロディも聞こえてくる。

そもそも適宜ピアノや打楽器、シンセサイザーを使った多彩な曲で構成されており、
シンプルな作りながら唄+ギターに留まらないアレンジの妙味も楽しめるのだ。
インスト・ナンバーや言葉無しと思しきヴォイス・パフォーマンスの曲もやっている。
部分的にはLED ZEPPELINのアコースティックな曲や「Kashmir」、
GASTUNKの「Geronimo」っぽいところもあり、
7分を越える曲を筆頭にプログレ風の物語性を孕む展開もさりげなく盛り込まれているのだ。

要は日本語の唄を前面に出している歌い手に多い“歌詞に頼るタイプ”ではなく、
歌詞の意味性以上に声だけで伝わってくるものがある。
卑屈なようでまっすぐだからこそヴォーカルはパーカッシヴなほど力強く、
まっすぐな発声だからこそ日本語がはっきりと聞き取れる。
やっぱりJACKS時代の早川義夫を思い出すが、
シアトリカルな歌唱も含めて不思議とMADAME EDWARDAも頭をよぎる。

「序幕」「続・自殺の唄」「七人掛けの椅子」「二足、影絵踏み」「なにかの拍子」
「夢遊蝕-ムユウショク」「死角い浴室」「さよなら平成」「牛は屠殺を免れない」
「どうせいつか壊れてしまう人間は悲しい肉の飴細工だから(live)」
という曲名からも歌詞のイメージが湧くと思う。
だが情念云々というよりアルバム全体は突き抜けた空気感に覆われている。

演劇性のパフォーマンスで抑揚を付けつて突き放しながらも
クリアーに喉を震わせる気負い無き歌唱には達観すら感じ、
リリカルな抒情が滲む澄んだ音が象徴するように開かれている。


清家咲乃(BURRN!)によるインタヴュー
https://diskunion.net/jp/ct/news/article/2/84438
も興味深い。
X JAPAN、LUNA SEA、COCK ROACH、JURASSIC JADE
町田康、三上寛、中学生棺桶、マリア観音、三島由紀夫、組織暴力幼稚園という、
“これまでの人生で影響を受けた10選”でピン!と来た方も間違いない力作だ。


★死神紫郎『さよなら平成』(伊丹社 ITMS-966)CD
内側に歌詞が載った三つ折りジャケット(インサート)封入のプラケース仕様の約36分10曲入り。


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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