なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

Fukuoka Rinji/Michel Henritzi『Desert Moon』

Desert Moon


OVERHANG PARTY魔術の庭を率いてきて本作リリース元のレーベルの主宰者でもある
東京拠点の音楽家・福岡林嗣(ヴォーカル、エレクトリック・フィドル、エフェクツ他)と、
フランス在住で同じくレーベル主宰者でもある
ミッシェル・アンリッツィ(ラップ・スティール・ギター、エフェクツ他)の、
“ユニット”の新作。


OVERHANG PARTYや魔術の庭における演奏ではエレクトリック・ギターが中心の福岡だが、
バンドを離れた時には様々な楽器を手にしており、
本作ではエレクトリック・フィドルがメインだ。
P.S.F. Recordsから2011年に二人の最初のコラボレーションCD『Outside Darkness』が出た頃、
ミッシェルのギターに惚れ込んだ友川カズキが激賞の言葉を綴ったこともあるが、
それも納得のラップ・スティール・ギターをミッシェルが奏でる。

インプロヴィゼイションにも聞こえるが、
“composed by FR & MH”となっているとおりの曲のテクスチャーだ。
二人は骨まで溶け合い、
心に焼けつくメロディがうっすらと漏れてくる。

VELVET UNDERGROUNDの『The Velvet Underground and Nico』の、
「Venus In Furs」「All Tomorrow's Parties」「The Black Angel's Death Song」のドローンを、
アップデートして研ぎ澄ましたようなサウンドにも聞こえる。
13分近くの「Song For Nico」という曲は、
そのファーストで歌っていたニコに捧げた曲のようだ。
そのニコがソロ活動で演奏していたハーモニウムの冷厳な響きと共振している。

インスト・パートが中心だが、
ジョン・ケイルを思い出すヴォーカルの“詠唱”と反復音のめくるめく調べの曲もたのもしい。
「暗い日曜日」という邦題で知られて日本でもたくさんの人が歌い演奏してきた、
1930年代に書かれたシャンソン・ナンバー「Sombre Dimanche」もカヴァー。
その曲ではフランス在住スペイン人のDana Valserのポエトリー・リーディングと
非常階段のJUNKOの“スクリーミング・リーディング”も、
確かなる磁場を生み出している。

高濃度のサイケデリックな空気感に覆われ、
静謐な、しかしアグレッシヴな歌心に包まれ、
深く覚醒される。

強力。


★Fukuoka Rinji/Michel Henritzi『Desert Moon』(Pataphysique DD-016)CD
カードボード状のペーパースリーヴ仕様の約48分6曲入り。


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BANTEAY AMPIL BAND『Cambodian Liberation Songs』

BANTEAY AMPIL BAND『Cambodian Liberation Songs』


カンボジアのバンドが1983年にLPとカセットでリリースしたアルバム。
昨年2月ごろにリイシューされたCDである。


カンボジアは70年代後半にポル・ポトの超恐怖政治で支配されていて、
アメリカとの戦争“勝利”後に進出したベトナムに“解放”されるも、
今度はベトナムに“支配”された感じになる。
BANTEAY AMPIL BANDは、
大まかにいうとそのベトナム傀儡政権を打倒する政治組織が作ったバンドだ。

ポル・ポト政権(クメール・ルージュ)時代は知識人や文化人が特にターゲットで粛清され、
映画人だけでなくミュージシャンもことごとく殺された。
そんな中でまさに生き残りの一人の音楽家が若い人とバンドを組んで制作したアルバムである。
そのリーダーはヴァイオリンとキーボードをプレイし、
他にギターとベースとドラムの計5人が演奏。
男女5人が曲によってデュエットや合唱をしながら歌っている。

基本的には組織のプロパガンダのための音楽だったようだが、
そういう趣旨の音楽特有のたいへんわかりやすい曲の連続だ。
ちょい勇ましいトーンが滲む曲があるにしても、
切なくも穏やかなムードに包まれている。
彼の地の民謡をイメージするメロディを含みつつ、
日本の昭和の歌謡曲を思い起こし、
ところによっては演歌っぽい。
時に軽快で、
バンド編成のハイカラなアレンジがまた心憎い。

歌詞はわからないが、
クレジットされている以下の強烈な曲名だけでも歌の内容が想像できる。
「My Last Words」「Please Take Care Of My Mother」「Tuol Tneung (The Hillock Of The Vine)」
「Don't Forget Khmer Blood」「Sereika Armed Forces」「Follow The Front」
「I'm Waiting For You」「Please Avenge My Blood, Darling」「Destroy The Communist Viet!」
「Look At The Sky」「Vietnamese Sparrows」「The Vietnamese Have Invaded Our Country」

こういう曲調と歌唱でこのタイトルか!っていうギャップが、
逆に恐ろしくもインパクトがある。
“侵略者/支配者”というだけでなくヴェトナムが共産主義という点でも反発もあったことがうかがえる。
歌声がおおらかだけに怖い。
もちろんパンクでよくある芝居がかったわざとらしい歌い方なんて一つもない。
ゆとりありまくりのムードの曲のようで、
そんな“余裕”なんかこれっぽっちもない感情の震えの歌の連続なのである。

もちろんポル・ポト時代とは比べられないにしろ
ここのところまた統制が厳しくなっている今のカンボジアも根っこが変わらず、
このアルバム・タイトルと音楽がリアルに響いてしまうのが悲しい。


★BANTEAY AMPIL BAND『Cambodian Liberation Songs』(AKUPHONE AKUCD1004)CD
約52分12曲入り。
60~70年代を中心にカンボジアの政治/文化状況が英語とフランス語で綴られた長文ライナーと
メンバーと思しき写真が載った、
36ページのブックレット封入のデジパック仕様。


泉邦宏『イズミン族の祝祭音楽』

泉邦宏『イズミン族の祝祭音楽』


渋さ知らズをはじめとして実に多彩な活動展開を続けている山梨県在住の音楽家、
泉邦宏の新作。
基本的にはサックス奏者ながら多芸で、
精力絶倫な“多作家”でもあり純な歌ものアルバムもたくさん出し、
作品を出すたびに何が出てくるかわからない正真正銘の奇才である。

今回の核はアフリカ発祥の“親指ピアノ”楽器のカリンバ(木琴の一種のマリンバではない)。
ほぼすべてインスト・ナンバーで、
もちろん一曲の中でも例によって一人で何種類もの楽器を手がけているが、
シンプルな作りだ。


ピアノが一種のリズム楽器である以上に、
カリンバはもっと打楽器に近いからアルバム全体が躍動している。
いわゆるトランスものとは一線を画し、
どこに飛んでいくのかわからない反復の音だ。
サックスをはじめとする管楽器やキーボード/シンセサイザーなど、
色々な楽器類をさらに加えて曲として彩り豊かに仕上げられている。
シンフォニックがかったアンビエント・ナンバーや、
何語かわからない言葉で一人二役みたいな寸劇っぽいヴォーカル芸の曲もやってのける。

ROLLING STONESのブライアン・ジョーンズがプロデュースした
モロッコ音楽の『Brian Jones Presents The Pipes Of Pan At Joujouka』や、
日本のYXIMALLOOを思い起こすところもある。

秘境の部族音楽みたいなアルバム・タイトルと曼荼羅ジャケットどおりの冗談本気の作品だ。
真剣にやっているからこそ頓智が効いて滑稽になっている音そのものが
あちこちで踊っている。
出している音の聴こえ方を言葉にしたような曲名も含めて
おおらかなユーモアに包まれている。
プリミティヴながら不思議とポップで庶民肌。
どんな音楽をやっても滲み出る泉邦宏のキャラは健在である。

と同時にヤバい祭祀や怪しい儀式に使われても不思議はない一枚だ。


★泉邦宏『イズミン族の祝祭音楽』(キタカラ K-30)CD
セルフ・ライナーが内側に載った二つ折りのカードボード状ペーペー・スリーヴ仕様の
約70分15曲入り。


非常階段『ライヴ!デストロイ・ノイズ・シンフォニー』

非常階段『ライヴ!デストロイ・ノイズ・シンフォニー』


“キング・オブ・ノイズ”を標榜するバンドの非常階段が、
昨年11月に秋葉原クラブ・グッドマンで行なったライヴ。

メンバーは、
JOJO広重(g~オリジナル・メンバー)、
ジュンコ(voice)、
T.美川(エレクトロニクス~INCAPACITANTS)、
岡野太(ds~元SUBVERT BLAZE、GHOST、現SILENCE)である。
アンコールでは、
MASONNAのマゾ・ヤマザキ(voice)と、
数年前に非常階段と合体したBiSのメンバーだったテンテンコ(エレクトロニクス)も参加している。


約39分の本編は、
昨年リリースした『デストロイ・ノイズ・シンフォニー』のアルバム・タイトル曲の再現である。
再現に関して広重は、
2003年のソロ作『怒鳴り散らすぼくの声はあまりにも小さい』の際の取材で「できますよ」と言っていた。
ただしそのソロ・アルバムは一種の“歌もの”で、
ギターも一般的な概念から言えばノイズかもしれないが、
ヴォーカルに沿うように弾いていた。
一方で非常階段は大音量でやること以外に決め事がなく、
いわゆるインプロヴィゼイションが基本のバンドである。
でも「デストロイ・ノイズ・シンフォニー」は構築的な流れで作られている“曲”だから、
スタジオ・ヴァージョンの再現は十分可能と見た。

『デストロイ・ノイズ・シンフォニー』のアルバムは雑誌のレヴューのために聴いたとはいえ
今はCDが手元にないから聴き比べられなくて申し訳ないが、
組曲形式はこのライヴ盤でも維持されている。
だからけっこうヴァラエティに富む。
メンバー全員~岡野のドラム・ソロ~岡野とジュンコー~岡野と美川~岡野と広重~メンバー全員~
広重のノイズ・ギター・ソロ~~広重と美川とジュンコ~メンバー全員という感じで
パフォーマーが入れ替わっているように聞こえる。
だが音が途切れることはなく、
加速するジェットコースター・サウンドと言えるだろう。

岡野は手数足数多くリズムとテンポを“章”ごとに変えつつ小気味良く抜けがいいビートを打ち鳴らし、
特に序盤は15分近く叩き続ける。
ジュンコは高い声域のヴォイスでピュアな叫びを続ける。
美川と広重はジェットなノイズを容赦なく放射し続ける。
5分ほどのアンコールではゲストの2人も目立っている。

わかりやすい流れでワイルドな非常階段が味わえる一枚。


★非常階段『ライヴ!デストロイ・ノイズ・シンフォニー』(アルケミー ARCD-260)CD


佐藤幸雄とわたしたち『わたしたち』

佐藤幸雄


すきすきスウィッチを率いたことで知られ、
他にも80年代初頭からPUNGO、くじら、、絶望の友、ソロなどで活動してきたアーティストの、
佐藤幸雄(ヴォーカル、ギター)が2016年に活動を始めたユニットのファースト・アルバム。
他のメンバーは、
サカナでドラムを叩いていたことで知られるPOP鈴木(ドラムス、コーラス)と、
シンガーソングライターとしてだけでなく多彩な活動を続けている柴草玲(ピアノ、コーラス)だ。

鈴木は絶望の友でも佐藤と一緒に音楽をやっていた。
絶望の友は観たことがある。
たぶん90年代初頭のことだと思う。
積極的な考え方の力(bikkeがフロント・ウーマンだったラブジョイの前身バンド)が対バンで、
ライヴ会場が代々木のチョコレートシティだったことまで覚えているのは、
どういう歌だったかはっきり思い出せないとはいえまっすぐな歌が妙に印象に残ったからだ。

根がポップなすべての曲を佐藤が作詞作曲をしている。
序盤はギター弾き語りで曲を作っていったことがイメージできる歌ものユニットの佇まいだが、
鈴木も柴草もキャリアが長くミュージシャンシップも高いだけに、
ドラムとピアノとコーラスでフリー・フォームに曲をふくらませている。
それこそバンドと言ってもいいぐらいだ。

さりげなく熱いほど快活、
そして切ない。
歌詞カードでひらがなを多用しているのも納得の想像力をふくらませる歌である。
「繁殖と交尾のため?」「くるまにのって」「やかん」「むだ」「大東亜の在日人」「どちらかといえば」
「新国立競技場での観兵式」「名前はまだない」
という曲のタイトルからもユーモラスで鋭い言葉が想像できよう。
批評性もピリリと効いていてヘヴィな曲も聴き応え十分だ。

まったり飄々としているかと思えば勢い余って前のめりにもなる歌声はもちろんのこと、
粗削りのギターの響きがとても耳に残る。
知る人ぞ知る“場”である東京・神保町視聴室での録音により、
いい感じの生の音質に仕上がっている。

透けて見える凝った紙質のジャケット/歌詞カードや、
日本語の曲名とクレジットが英語で併記されているところも特筆したい。


★佐藤幸雄とわたしたち『わたしたち』(アルケミー ARCD-259)CD
約44分8曲入り。


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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