なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『南京―引き裂かれた記憶』

揚子江 2


上の画像の揚子江が“死の河”と化したという南京大虐殺とそれにまつわる惨状を、
7人の被害者の証言と6人の元日本兵の証言で綴るドキュメンタリー映画。
証言者の方々の発言は字幕付でわかりやすくなっている。

日中平和研究会の共同代表であり本作の取材や歴史検証や撮影などを行なった松岡環は、
『南京戦―切りさかれた受難者の魂』『南京戦―閉ざされた記憶を訪ねて』の編者でもある。
彼女との出会いで本作の映画監督等を行なった武田倫和はとある記憶を呼び起こされた。
幼い頃に亡くなった祖父が普段大人しい性格だったにもかかわらず、
酒に酔うと「自分が殺した中国人が襲ってくる」と言って暴れたと父から聞いた話を。
そこで武田もカメラをかついで松田らと映画を制作していくことを決意した。


南京大虐殺は、
日本が中国を侵していく過程の南京占拠以降の1937年(昭和12年)12月に起きた“ホロコースト”だ。
以降日本関係だけを見ても、
東南アジアや沖縄などでの兵士や現地人のカオス、
アメリカによる日本各地の空襲と広島・長崎原爆投下や終戦以降も中国大陸の日本人は阿鼻叫喚と続く。
個人的にこのへんのことは子供の頃からかなり吸収してきたが、
ぼくにとっては知れば知るほど最もドゥームな時代の重い空気の暗部を吸い込んだ映画で、
ナマの映像とナマの音声の強さを再認識させられた。

中国共産党政府らが言う死者の数は多すぎるとも思う。
だが“起こされたこと”を否定はできない。
そして70年前の日本と中国だけの狭い範囲で留まる問題ではなく今も世界中あちこちで続いている。
たとえば90年代の東欧の旧ユーゴスラビアのボスニア紛争だってアフリカのルワンダの大虐殺だって、
一個人が拠り所とさせられた集団による暴力という意味では同根に思える。
むしろ現在世界中で起こっている不条理なことをダブらせてこそリアリティを増すし、
政治云々以前に人間をテーマにした映画である。


当時の写真なども適宜織り込まれるが大半が97年から撮影されたインタヴューで構成されている。
顔や取材場所や当時の所属部隊等も映し出され、
各々の現在の生活風景を織り込んでいることで話が一層リアルに迫ってくる。
一人一人が違うアングルから撮影されて個性を引き出している。
集団が共通で使うお仕着せの手垢にまみれた言い回しではなく、
むろん教科書をどおりの取って付けた政治的な言葉でもなく、
一人一人が自分自身の言葉で自分の中から振り絞った言葉で話している。
そして身振り手振りの動き。
映画ならではのダイナミズムだ。


まさに九死に一生を得た中国の方々の話は凄惨を極める。
ひたすら、むごい。
この映画のサントラに最もふさわしいDISCHARGEの曲名で言えば「A Hell On Earth」、
まさにこの世の地獄だ。
7歳や11歳で強姦/輪姦された女性の話も含まれている。
当時を思い出して錯乱する様子も映し出す。


ヤられた側の方々の壮絶な話は言うまでもないが、
ヤってしまったヤらざる得なかった当時二十代前半だった元日本兵の方々の話も強烈だ。
こういう話の肉声を聞く機会はほとんどないからでもある。

国家間の戦争や侵略以上に現代は民族紛争や宗教紛争の類が耐えないが、
ヤられる側はもちろんのことヤる側もやはり組織の“大義”の下で“個”が抹殺される。
集団や因習で“個”が押しつぶされることがとにかく嫌だ。

むろん大半の日本兵の方々は好き好んで中国に出向いて進軍したわけじゃないと思う。
暴力的なほど上下関係が徹底していただけに上の人間の命令は絶対だし、
鉄砲の音が聞こえてきたら歯止めが効かないほど終始張り詰めて理性が麻痺した精神状態。
明日死ぬかもしれない兵士たちが強い立場に立って気持ちが荒れた。
何も楽しみはないにもかかわらず何もかもが溜まった。
集団心理も働いた。
飢えていた。

状況はまったく違うが、
女性を見る機会がない環境の長期間の合宿レコーディングを終えた直後のバンドにインタヴューした際、
「帰国後とにかく女に目が行って困る」と言っていたことを思い出す。
セクシズム云々ではなくオスとメスとの関係みたいなものである。

見ていて聞いていて息を呑むほど赤裸々な口調だ。
聞き手が女性だから話しにくかったのではないかとも思ったりしたが、
逆に女性だからこそ大げさではない正直な話を引き出せたと思う。
国を侵し女を犯したことへのつぐないと責任感から封印を解いたことが端々から感じられる。
60~70年近く閉じていた重い口を一気に開いたからか、
ときおり堰を切ったかのように言葉が加速。
あまりに気持ちが高ぶって口が止まらなくなる方も。

そしてヤった元日本兵の方々も単なる加害者ではなく“被害者”でもあった。


勝ち誇った顔の連中が死者の桁数を言い争っている。
むろんこの映画に登場する方々にはそんな余裕はない。
なぜなら立場は違えども誰もが真に崖っぷちだったし、
時を経ても消し去られぬ肉体に刻み込まれた匂いや色や声や物音の記憶を呼び起こし、
お年寄りの方々が勇気を振り絞って必死に言葉を振り絞っているから。

MINOR THREATの曲「Guilty Of Being White」になぞらえれば、
“guilty of being Japanese”ということになろうが、
いつなんどきでもおのれを省みることを忘れたくない。

“力”で威嚇するような強姦の精神性はそこいら中にころがっている。
どんなに努力しようが力に押しつぶされてしまう弱者もたくさん存在する。
体の弱ったお年寄りにしたってまだ頼りない赤ん坊にしたって根本的に弱いものが虐げられる。
戦闘状態に限らず極日常にも転がっていることなのだ。


想像を絶する光景が語られる映画だが、
だからこそ関係者の痛みと悼みにありったけの想像力を駆使したい。
そのためにも神経を研ぎ澄まさねば。


11月14日(土)よりアップリンクFACTORYにてロードショー。


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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