なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『アイ・コンタクト』

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世界規模で4年に一度開催される、
聴覚障害者のためのスポーツの国際競技大会であるデフリンピック(Deaflympics)に挑み、
ろう者(聾者)の女性たちがサッカーで燃えるドキュメンタリーだ。

『アイ・コンタクト』の中村和彦監督は、
『プライドinブルー』で07年度の文化庁映画賞優秀賞を受賞している人だが、
“サッカー日本代表激闘録シリーズ”を手がけているようなサッカー大好きな人でもあり、
過度な情緒性に陥らないバランスの取れた作品に仕上がっている。


主人公である“2009年デフリンピックろう者サッカー日本代表”の女性たちの大半は二十代だ。
ボーイッシュなルックスの人が目立つし何より<気持ち>がそうだから、
実年齢よりもずっと若く見える。
女の子と呼ぶのがふさわしい人が多い。
前半はそんな彼女たち自身が描き出される。

まず一人一人の聴覚レベルが違うことを見ている人がわかる形で表していく。
たとえば飛行機が飛ぶシーンとダブらせて“この音がギリギリ聞こえる”というふうに示すのだ。
デシベル(dB)で表示される数字の上では難聴者と呼んだ方がいい人も含まれているかもしれないが、
ここでは彼女たちすべてをろう者と書かせていただく。
今までわからなかったことをたくさん知ることができた映画でもあり、
やっぱり音楽とダブる問題でぼくも聴力に関心を持っているからそのシーンも興味深く見た。

さらに一人一人の“個”を見せていく。
生活の核はやっぱり家族で、
親御さんも登場して育て方や学校などの現実問題を綴る。
手話と口話(訓練して相手の口の動きを読み取り自分でも発声する話法)との兼ね合いの葛藤も、
ぼくはこれまで気づかなかった。
健聴者とのやり取りにおいて、
話せるろう者はちゃんと聞こえている人間と解釈されて誤解を招くこともあるという。
聞こえないふりをしていると思われることもあるのだろう。

少なくなりがちな語彙を増やすことの大切さも教えられた。
彼女たちは自然と耳から入ってくるようにはいかないから、
自分から積極的にならないと閉ざされる。
だからこそ健聴者の何倍もコミュニケーションが大切だろうし、
そのためのエナジーと熱意が彼女たちを突き動かすのだ。

苦労が絶えないとはいえ、
もちろん“不幸自慢物語”とは一線を画す。
そもそもそんなことをする余裕は彼女たちにも家族にもない。
家族絡みの話題ということで結婚についての思いも語られ、
やっぱり女の子ならではのオシャレのこともイイ感じなのである。

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そんな彼女たちがサッカーとの出会いでさらにパワフルになっていく。

このチームの結成は2005年。
北海道に住む者もいれば兵庫に住む者もいるし、
高校生、大学生、会社員、既婚者など様々な日常を送っている。
彼女たちは年に数回集まり、
合宿して練習を積み重ねる。
実績のない日本代表チームは全額自己負担で、
台湾における2009年の大会に臨んだ。
もちろん目指すはメダルである。

試合中は補聴器を付けられないルールになっているから、
彼女たちにとっては聴覚的にも“非日常”の空間の中で挑むことになる。
チーム・スポーツにアイ・コンタクトは必須なわけだが、
彼女たちは健聴者みたいに声でやり取りできないからその重要性は計り知れない。
いつでも顔を上げ、
目で他のメンバーとやり取りしなければならない。
ボールを追うことだけに気を取られていると墓穴を掘る。
彼女たちはそういったことを日常生活の無数の局面で体験しているとも想像できた。

日本代表チームは、
イギリス、ロシア、タイ、デンマークと対戦。
特に最後のデンマーク戦の時間は、
ぼくも一瞬“耳を疑った”。
見ている者全員が彼女たちと同じような聴覚で映画を見る“仕掛け”が施されており、
サイレントな緊張感は息を飲むほどだ。

勝ちもすれば負けもする。
ハッピーじゃない負けからヒトはたくさんのことを学ぶ。
泣き腫らして負けて当たり前の根性を自分たちで叩き直す。
鍛えられた精神性が目を覚まし、
彼女たちのハングリー・スピリットが点火される。

みんなカッコいい。
ほんといい顔している。
びっくりするぐらい生き生きしている。
一生懸命な姿に惚れてしまうほどだ。

単純にスポーツっていいなーとあらためて思わせたし、
あくまでもサッカーをキーワードに描いているが、
狭い世界にこもりかねない彼女たちの“外向き志向”が際立つシーンも見どころである。
ろう者が集まっている老人ホームで働く女の子は様々な意味でモテモテ。
サッカーで知り合った外国の友達と抱き合うシーンも最高だ。

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映画を見て個人的に3人のろう者の方を思い出した。
昔ぼくが派遣社員として働いていた会社は、
いわゆる海外進出企業だから欧米やアジアやアフリカから来ている方がたくさんいて色々と学んだが、
同じ部署に2人のろう者の方が配属されたことがあり、
手話ができないぼくはホント“おしゃべり”だった彼女たちに対してよく“アイ・コンタクト”したものだ。
また共通に好きなバンドの絡みで別のろう者の方と知り合ってシャープな感性によくうならされた。
彼女から元旦に届く年賀状で今も熱心に音楽を聴いていることが伝わってくるとまたうれしい。

誰もが健聴者と会話するときもアイ・コンタクトで意思も伝わる。
ぼくも視線を外して話しがちになるから気をつけないと。

やりすぎると「ガンつけんじゃねーよ!」ってなるから注意は必要だが、
外を歩いているときや知らない周りの人との関係も含めて多少なりとも、
健聴者もアイ・コンタクトをとらないと殺伐とする。

誰だって下を向いていたら何も伝わらない。
いつでもどこでも携帯とイヤホンで“武装”している世の中だからこそ、
コミュニケーションについても考えさせられる佳作である。


★映画『アイ・コンタクト』
http://www.pan-dora.co.jp/eyecontact/
日本/2010年/カラー/ビスタ・サイズ/ステレオ/HDV/88分
日本語の字幕と手話の“翻訳文”が入る。
9月18日(土)より、ポレポレ東中野にて公開。


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プロフィール

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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