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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

MISERY『From Where The Sun Never Shines』

MISERY.jpg


米国ミネアポリス拠点の重鎮メタル・クラスト・パンク・バンドの2枚組LPでの新作。
80年代後半から活動しているにもかかわらず、
クラストなタイム感の“ウルトラ・マイ・ペース”での活動だから音源リリースも少ない。
これはフル・アルバムとしては約17年ぶりの3作目だが、
さすが筋金入り、
感動的な傑作である。


入念に作るために時間を掛けたのかレイジーな性格ゆえに時間が掛かったのか
おそらくその両方だと思われるが、
2005年から2010年の間にレコーディングした14曲を収めている。
マスタリングは、
最近POISON IDEAのリイシュー盤も手がけている売れっ子
ジャック・コントロール(SEVERED HEAD OF STATE~WORLD BURNS TO DEATH)。
何しろ音楽に対するMISERYの気遣いと熱意が端々から感じられるアルバムで、
気合が注ぎ込まれているのだ。

ノイジーとは言わないが、
洗練でもない。
確かな酩酊感も健在だし、
ジャケットどおりの曇天のサウンド・カラーに覆われ、
同時に「Just Never Ends」という曲名が象徴する一筋の光も見えてくる音像だ。
いい意味でスケールが大きく、
奥行きがあって音楽が開かれている。
アート感ゼロ以下でB級のメタル/パンク・センスだった以前のMESRYのイメージと違う、
AMEBIXが昨年出したアルバムからの12"シングル『Knights Of The Black Sun』風のジャケットにも、
ディープに進んだ意識が表れている。

“『Arise!』『Monolith』の頃のAMEBIX meets 後期ANTISECT”みたいなサウンドが、
深化しながら進化している。
彼らの食生活について詳しくは知らないが、
少なくても音楽はアナーコな草食系とは一味違う汗臭くワイルドなクラストだ。
このアルバムも分厚い音で固めたわけではないが、
ジャキジャキのギターで薄っぺらいメタル・クラストのパターンに陥らないのは、
MISERYのはらわたの響きがそのまんまサウンドとして響いているからだ。
ヴォーカルもギターもベースもドラムも極めて素行が悪く暴れていてヘヴィ。
なんせ音そのものが野蛮なんである。

ミディアム・テンポの疾走感に加え、
MOTORHEAD直系のありきたりの爆走モノとは一味違う
真打ちならではのダーティなドライヴ感のリアル・メタル・パンク・チューンも新味だ。
と同時に適宜アルペジオも挿入したロマンすら溢れる叙情性がたまらない。
楽曲クオリティも文句無しである。
SEPULTURAもやっていた英国のポスト・パンク・バンドのNEW MODEL ARMYの「The Hunt」と、
AMEBIXの「ICBM」のカヴァーにも、
MISERYの一貫した美学が表れている。

歌っていることは相変わらずといえば相変わらずのピュア・クラストな価値観の内容だが、
一歩も二歩も踏み込んで音楽と同様に内省的なニュアンスも滲み出ている。
何かの問題に特化した歌詞が少ないだけに意外と抽象的だが、
普遍的な描き方が素晴らしい。
そもそもヴォーカルにも楽器にも歌心すら感じる。


デリケイトな紙質の二つ折りジャケット仕様である。
ぼくが買ったレコードはグレイ・マーブル色の盤で重み十分だ。
もともとダウンロードで発表していたとはいえ、
トータルな表現者としてのフェチなこだわりがうれしい。
レーベルのサイトで売られているLPそのものの値段はそれほど高くはないが、
メイルオーダー・オンリーのこのカラー盤は基本的に店舗に対しても卸値ではないようで、
物理的にも重いからアメリカから届けられる送料の関係で日本だと高い値段になってしまう。
むろん高価であればけりゃいいわけじゃない。
だが安かろう悪かろうのブツとは違って真心を込めて愛したくなる。
何しろ作品に対する愛がこもっている。
45回転のレコード2枚組にしたのもダイナミック・レンジを重視した音質への気遣いだろう。
ジャケットを手にして開いて歌詞を見ながら、
じっくりとスピーカーに向き合って耳を傾けたくなるのだ。


パンクとして、ハードコアとして、メタルとして、
なによりロックとしてカッコイイ。
まさにグレイト!


★MISERY『From Where The Sun Never Shines』(INIMICAL IR028)2LP


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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