なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

書籍『CRASS』(ジョージ・バーガー著)

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英国のアナーコ(アナーキスト)・パンク・バンドCRASSの歴史を綴った、
英国のジャーナリスト・ジョージ・バーガー著の本(原題『The Story of CRASS』)。

作りといい大きさといい個人的には自分が書いた『パンク・ロック/ハードコア史』を思い出すが、
もっと厚くて450ページ強のヴォリュームである。
中間部に8ページほどお宝写真コーナーを設けている他は縦書きの文字オンリー。
とはいえある程度CRASSと当時の英国パンク・シーンの予備知識があって、
なおかつところどころに出てくる政治的な難しい記述の部分を後回しにすれば、
メンバーをはじめとする関係者の発言満載で和訳も滑らかだから丸一日で一気に読める。


この本をディスクユニオンで購入すると付くオリジナル特典の解説を4000字程度書かせてもらいました
(+CRASSのシンボル風のデザインのしおり付・・・↓の画像)。
CDのライナーのような四つ折り体裁で、
シンプルかつクールなブラック・デザインにもかかわらず読みやすいレイアウトになっています。

“私情”は極力排し、ほぼ補足に徹した。
本文で言及されてない基本的なこともあるし、
CRASS以外のバンドのデータに関しては省略したが巻末のディスコグラフィーなどの客観的な誤りも訂正。
説明無しで唐突に固有名詞を出している箇所もあるから、
CRASSが活動していた77~84年あたりの英国のパンク・シーンに対して予備知識がない方のために、
周囲のバンドなどとのつながりの説明も色々させてもらった。


本書自体はCRASSのメンバーの60年代の活動から始まり、
CRASS結成前後のエキサイティングな日々を綴り、
様々な闘争を経て至るバンドの崩壊とその後まで書かれている。
まさにCRASS全史である。
エピソード満載。
それだけでCRASSファンは一週間メシが食える。
ただ全体的には政治的な活動に重きが置かれ、
そのへんは著者もリーダーのペニー・リンボー(ds)の考え方に近いようだ。
著者はサウンズ紙やメロディメイカー紙、
人権擁護団体として知られるアムネスティ・インターナショナルのために執筆し、
ザ・レヴェラーズの伝記も書いている人。
CRASSに対しては時に手厳しい評価も下す“よき理解者”ということに努めている一方で、
CRASSの本だからCRASSのことが中心なのは当たり前!ということを了解しつつ、
CRASSと同時代のバンドをはじめとしてパンク・ロック全般に対して冷たい。
読み通してみると英国のメイン・ストリームの典型的な音楽ジャーナリストという印象だ。

使う言葉からしてインテリである。
となると当然のことながらハードコア・パンクやOi!パンクに対する愛が薄く、
CRASSの影響で続々生まれた他のアナーコ・パンク勢にすらほとんど言及していないし、
それどころか“CRASSの二番煎じ”と切り捨てている。
英国の様々なパンク・ロックが最も熱かった時代にもかかわらず・・・なのだが、
なにしろDISCHARGEですら
最初の2枚の7”EP『Realies Of War』『Fight Back』以外はNGな人である。
人間どうしたって産まれた環境や育った状況で“格差”は生じるわけだから、
パンク・ロックに縁がない人はそれはそれでしょうがない。

同時代の他のパンク・バンドとの関係性があまり見えてこないのは、
全体的に内向きだからにも思える。
ある意味一般社会から隔絶してメンバー全員が共同生活をしていたCRASSの生活の反映とも言えるが、
アートワークも含めてCRASSは英国のことだけを表現していたわけではない。
フォークランド紛争勃発後は別としてサッチャーが首相になってからだってそうだ。
でも当時の英国の状況をカラダ(not頭)でわかってないと理解しにくい部分も少なくないほど、
政治的には英国ネタが多い。
逆に言えば他国ネタが少なく、
重要シングル曲「Nagasaki Nightmare」ですら2行程度しか言及していないのも象徴的だ。
メンバー自身からも“不要”と指摘された結成前のCRASS関係者の話題にもページを割いている。


それでもぼくは著者を弁護したい。
CRASSの“信者”ではないから辛辣な言葉も随所で踊る。
CRASSの説いたアナーキーの概念を炙り出するところを読むと、
ヤリ逃げせずに2000年代も現役バリバリのEXPLOITED
まったく違うスタンスでCRASSと同時代に道を切り開いたBLACK FLAG
そしてSEX PISTOLSの潔く感覚的かつ原始的なアナーキーが実はピュアで真実とも思い知らされる。
たとえば本当の無政府状態がずっと続くソマリアみたいな失敗国家で生活する一般の人々は、
「まず治安をどうにかしてくれ」である。
アナーキーなんて冗談にもならない。
もちろんCRASSは庶民が訴える現実の生活に即した活動もしたが、
リーダーのペニーが抱えてきている“中産階級コンプレックス”にも焦点を当てて、
現実の生活のために稼がなければならない“フツーの人”たちやプリミティヴなバンクスとの
“溝”も浮き彫りにしている。

CRASSの長文を書くのはホント骨が折れる。
どちらかというとこの著者は“体制 vs 反体制”の書き方だが、
実際は“糾弾一筋”ではなく自分たちにも攻撃の矛先を向けていて
外の敵も無限大だから魚眼レンズで物事を捉える必要があるのだ。
ぼくもこの数分の一の分量ながらCRASSについて何度か書いてきているから、
著者の後書きにある“正気を保つ”のが大変という意味が少なからずわかる。
書いていると頭痛がしてくる。
だから事実を踏まえた緻密な筆致の力作と言い切りたい。

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何しろネタの宝庫である。
考え方に賛否両方を含むからこそ逆にインスパイアされて次々と言葉が出てくる本だ。
全曲ではないが、メンバーの話を踏まえて解釈したと思しき歌詞の解説も詳しい。
曲のネタにされたCLASHのジョー・ストラマーの談話も率直でうなずける。
Oi!ムーヴメントを先導してCRASSと敵対したギャリー・ブッシェルに対して字数を割いているのは、
同じくサウンズ紙を活動フィールドにしていた音楽ジャーナリストという同業者の確執にも思えて、
ぼくなんかは面白い。

今回の本のために取ったと思しきメンバーの膨大な数の言葉も、
いかに意見がバラバラだったかわかる意味でも非常に興味深いし、
その挿入のタイミングも絶妙だ。
特にスティーヴ・イグノラント(vo)は
ナイーヴな“アナーコ・パンク優等生アクティヴィスト”に泡を吹かせる無頼なコメントが
あちこちでテロのように炸裂。
ほとんど放言である。
これでよくCRASSのフロントマンをやってたなーってな具合で笑えるが、
リーダーのペニー・リンボーとは“ボケとツッコミ”みたいな関係で、
女性3人を中心にした他の“大人”のメンバーたちが中和していた光景が想像できる本だ。
中産階級で“最後のヒッピー”を自称するペニーは頭デッカチなところもあり、
いわゆるパンク精神を携えながらもCRASSが基本的にアート集団だったからこそ
スティーヴみたいな生粋の“パンク・ロッカー”が必要だったことを再認識させられる。

スティーヴのくだけた“反革命”な言葉の数々はCRASSの矛盾をさりげなく抉り出し、
individualismに裏打ちされた生活から湧き出てきたものでぼくにとって非常にリアルだ。
おもしろすぎるし示唆に富みすぎるから読んでのお楽しみ!とさせていただくが、
ほとんどミーハー。
いや正直な“ロックンローラー”である。
DIRTのギターと当時BUZZCOCKSと掛け持ちしていたドラムも擁したバンドの、
STRATFORD MERCENARIESで98年に来日した際に話を訊いた時にも思ったことである。
CRASSの曲も連発したそのライヴでもこの人は本物だとぼくは確信もした。

そこでぼくは“アナーコ・パンクのグレイトな落第生”の二人を想起する。
「女とヤるためだったらなんでもやるぜ!(笑)」という“名言”を吐き、
fuckのためにはヴェジタリアン(たぶんヴィーガン)の禁を(いっとき)破ることもへっちゃらの、
CARCASSのジェフ・ウォーカーを思い出した。
80年代初頭にCRASSと一緒に愛聴していたCOCKNEY REJECTSのライヴに最近出向いた、
CATHEDRALのリー・ドリアン(元NAPALM DEATH)を思い出した。
CRASSと敵対関係にあったCOCKNEY REJECTSやEXPLOITEDに対するシンパシーも
当時から抱いていたスティーヴ。
“アナーコ信者”にとっては幻想が打ち砕かれるあんまりな発言かもしれないが、
そもそもスティーヴのヴォーカル・スタイルがOi!である。
あの声があったからこそCRASSは
“スピリットだのアティテュードだのがパンク”という頭デッカチで終わらず、
音そのものが強烈なパンク・ロック(≠パンク)に成り得たのだ。


CRASSの全アルバムはボーナス・トラック追加と分厚いブックレット付でリイシューされ、
シングル集の『Best Before』も今秋新装リイシューされる予定だ。
LPもポスター・ジャケットで再発されている。
自分もリアル・タイムではないものに接する時に気をつけるが、
何に関しても後追いの人は幻想が肥大化して過大評価しやすい。
“アナーコ教科書”からコピー&ペーストした手垢にまみれたスローガンやメッセージは、
結局自分自身の中から湧き出てきた言葉ではない。
やっぱりまずは作品そのものに真正面から向き合って、
サウンド、言葉、アートワーク全体を感覚で味わっていただきたい。
そうしたらシリアス一辺倒ではなく英国流のユーモアも伝わってくるはずだ。
本書がそのきっかけになると信じたい。

ただし本書の帯の“パンクは、真実を生きた”というコピーに一言。
ぼくは決して“パンク信者”ではないが、
パンクは断じて過去形じゃない。
このブログの“PUNK/HARDCORE”のところで紹介しているバンドたちをはじめとして
いつだって現在進行形だから。


★『CRASS』(ジョージ・バーガー著)[河出書房新社]税抜3500円


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プロフィール

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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