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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ビーツ・オブ・フリーダム』

BoF1 fot.Tomek Sikora


両親がポーランド人で70年代から英国の雑誌で書いていたジャーナリストが案内人となり、
2011年に作られたポーランドのロックのドキュメンタリー映画。
近年は『アンナと過ごした4日間』『エッセンシャル・キリング』を監督したイエジー・スコリモフスキ監修の、
“ポーランド映画祭2012”の一つとして公開される。
今回は東京・渋谷で1日だけの上映だが、
敬意を込めてスコリモフスキ監督を“ロックじじい!”と呼びたくなるほど興味深い作品で、
どうしてもここで書いておきたい映画だ。

ニュース・フィルムなどの政治的/社会的な映像も挿入しつつ、
当時の様々なバンドの演奏シーンや人々の映像や写真を中心に構成し、
ポイントを押さえた関係者の発言を適宜挿入してビートが脈打つリズミカルな作りである。
60年代後半から80年代末までのポーランドのロックと政治/社会を描いた映画だが、
POST REGIMENT~EL BANDAをはじめとする
90年代以降のポーランドのパンク/ハードコアがなぜディープでエキサイティングかもわかるし、
VADERやBEHEMOTHをはじめとするポーランドのエクストリーム・メタルもここから始まった。
ポーランドのカウンター・カルチャーのドキュメンタリー映画としても佳作である。


ロックンロールの始まりの50年代はソ連のスターリンの影響が強かったという説明がプロローグで、
共産主義体制の終焉がエピローグなのは、
政治と抜き差しならない関係にあるポーランドのロックの精神的な基盤を描く上で必然的な構成だ。
当時のポーランドでもマリファナを調達する程度の余裕はあるバンドもいたが、
「西側の音楽は道徳革命の一要素/共産主義のポーランドでは抑圧体制への抵抗の表現になった」
という言葉が言い得て妙である。
国問わずハングリーな環境で生きてきた人間は目の色が違うわけで、
“巨大な牢獄”のポーランドはほとんどの人間があらゆる意味で飢えてロックに向った。
ダイレクトに状況に向き合うからこそ生まれた原始の響きは、
なぜロックでなければダメなのか?ということを知らしめる。
血と肉と汗の匂いを吸収してなきゃダメなのである。
そんな音楽の本質すら示唆する映画だ。

BoF2 fot.Tomek Sikora

67年のROLLING STONESのポーランド公演。
カソリックと共産主義の間の“鬼っ子”としてロックが生まれたバックグラウンド。
“抵抗歌”の始まり。
ポーランドにおけるヒッピーに扱われ方。
70年代の政治とポピュラー・ミュージックの関係。
パンク・ムーヴメントの影響。
80年のストライキ~社会主義体制下では異例の独立労組<連帯>の誕生。
81年の戒厳令。
経済面も含めた困窮の中でもコンスタントに行なわれたロック・フェスティヴァル。
ロックを流すラジオ番組の影響。
楽器や機材の自作の話。
ナチ・スキンズの出現。
・・・・などなど刺激的なネタの連続で目が離せない。

東欧支配国のソ連に抗ったハベル大統領がサポートしていた
チェコスロヴァキアのバンドPLASTIC PEOPLE OF THE UNIVERSEみたいな例もあるが、
当時同じく共産主義/全体主義国家だった東欧圏の国の中で最もロックが盛んだった背景が、
じっくりと描かれているところを特筆したい。
政府とミュージシャンとの危ういユニークな関係は日本の警察とパチンコ業界みたいで、
微妙な緊張感の時間の流れの中での現実的な闘争がポーランドのロックの発展に一役買った。
様々なバンドの歌詞が日本語の字幕で映し出されるのもうれしい。
83年にポーランド・ツアーをしたUK SUBSのヴォーカルのチャーリー・ハーパーが言ったという、
“規制があるがゆえの創造力”もなるほどと思わされる歌詞の内容はイイ意味で詩的、
そして何よりリアリスティックだ。

おじょうちゃんおぼっちゃんの“友達探しの暇つぶし闘争”じゃない。
生活も困る貧困の社会状況だからこそポーランドの人は“革命ではなくリアルな変化”を求めた、
なにしろ物不足で生活の必要から生じた必然的な闘争であり、
あらゆるものを獲得するための闘争は常に続いていた。
そして80年代末、
東欧圏における共産主義の終焉の始まりを告げるべくポーランドは他の国の見本になった。
ロックが世界を変えた!みたいなナイーヴなことは言わないが、
現実的なロック・スピリットがポーランドの変革の一因になったことに疑いの余地はない。

BoF16 fot. Micha_ Was__nik

演奏シーンも多いから60年代からのポーランドのロック史も目で感じ取れる。
英米のオールド・ロックからの影響のバンドも面白いが、
パンク・ロック/ポスト・パンクのバンドは90年代から現在までに直結しているサウンドだ。
初のパンク・バンドとされるTILT(米国のパンク・バンドとは別)、
民俗音楽とポスト・パンクのブレンドのKRYZYSやBRYGADA KRYZYS、
サイコビリーに収まらないSTAN ZVEZDA、
むろんSTALINとも交流を持っていたDEZERTERのライヴも観られる。

当時のポーランドの風俗が見えてくる映像や写真もたっぷり。
なんでもあり!な種々雑多なファッションがたくましいし、
UKハードコア・パンクの情報が伝わってきたのかモヒカン頭もポツポツと目立ち出す。
音楽に表れているようにどこもかしこも様式美が入り込む余地はないのだ。

ポーランド云々を超えて普遍的に訴えてくる映画でもある。
“個人の独立”に対する切迫感がひしひしと伝わってくるのだ。
“自分自身でいることが自由”なのに、
反体制を気取っていても結局は集団の規制に縛られる。
とある人の「(歌詞は)全体主義下で生きる個人の痛みを語っていた」という言葉もリアルに響く。
世界中で日常いつどこでも生じる“全体主義”に抗うindividualismの大切さを暗に問う。

映画を見られる環境にいてピン!と来た方は是非。
歴史的な上映になるから。


★映画『ビーツ・オブ・フリーダム』
2011年/78分/デジタル
11月29日(木)18:30 渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開。
以下のイベントの一環で上映される。

・「・偵・繧ケ繧ソ繝シjpeg_convert_20121030102333
“ポーランド映画祭2012”
2012年11月24日(土)-12月7日(金)2週間限定
渋谷シアター・イメージフォーラムにて開催。
公式サイト www.polandfilmfes2012.com


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
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