なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

書籍『ピート・タウンゼンド自伝 フー・アイ・アム』

ピート・タウンゼンド自伝cover


英国のThe WHOのメンバーでソングライターでもあるピート・タウンゼンド(g、vo)の初の自伝が、
森田義信・訳で河出書房新社から発刊されている。
“自伝”と謳いながら他の人間が書いているエセ自伝も多いが、
これはピート自身が執筆に15年以上を費やして書き上げたリアル自伝である。

残してあった日記やメモの類を基にしているのかもしれないが、
記憶が残ってなければここまでは掘り下げて書けないであろう詳細な記述に驚く。
何より当人以外ではここまで濃密な本は書けない。
2段組464ページというウルトラ・ボリューム。
速読者でも1日で読み切るのは難儀なほどピートの無数の足跡が綴られている。
むろんThe WHOにまつわる話が多いが、
全体の1/4ほどはソロ活動などの話題だから
ディープなピート・タウンゼンドのファンもうならせる。


幼少の頃に親と離れた生活もしていたし、
“ロックンローラー”にしては“健闘”したとはいえ結婚生活も安定していたとは言い難い。
ただミュージシャンとしてはかなりの痛手であるはずの難聴や耳鳴りをキャリアの途中で患うなど
トラブルに見舞われながらも、
ピートは家族と家庭に関してずっとハッピーだったように映る。
“不幸自慢”のストーリーとは違うある種ふつうの人間の物語として親近感を寄せる方も多いだろう。
ピートが典型的なロックンローラーとは一線を画しているからだ。

シャイで奥手な人である。
ステージではカッコいいが、
この本の中では情けなさを隠せない魅力があふれている。

“マージー・ビート(≒ブリティッシュ・ビート)”のバンドの中でThe WHOは、
いくらキース・ムーン(ds)がアナーキーな行動をしようが、
いくらロジャー・ダルトリー(vo)がギラギラした男性性をアピールしようが、
いくらジョン・エントウィッスル(b)がスカル・スーツを着てでかいベース音を出そうが、
いくらピートがステージで激しく動いて機材を破壊しまくろうが、
BEATLESやROLLING STONESと並ぶと地味に映る。

他のメンバーより一桁以上は控えめだったようだが、
ピートも“セックス、ドラッグ&ロックンロール”なライフ・スタイルと無縁ではなかった。
特にアルコールとの付き合い方には苦労していた。
でも有名無名問わずロック・スターによくある“不良自慢”で持っていく本ではない。
もちろん一般の人からしたら十分すぎるほど“不良”とはいえ、
大有名ロック・バンドのリーダーにしては“武勇伝”が大人しい。
恥ずかしいから隠している部分もゼロではないだろうが、
正直な“自己申告”と読める。

女性関係をはじめとする性的な話はデリケイトな扱いだ。
ファースト・ネーム入りで女の子の話が細かく出てくるが、
女好きでありながらずっと変わらぬピートのヘタレ・キャラが切なく愛おしい。
虐待された過去があったがゆえにチャイルド・ポルノ(児童ポルノ)のサイトにアクセスして逮捕され、
“誤解”を解くためのページもかなり割いている。

不器用なキャラが文章にも表われている。

少年時代は目標に向かって進むまっすぐな道で描かれているし、
The WHOでの活動の部分は他のメンバーの見えない糸で制御されているかのように整理されている。
だがソロ活動の部分になると断続的な記述が多くなる。
盛り込みすぎて話が散っているところもあるが、
80年代以降は特にプライベートも含めて同時多発的に色々なことが起こったドキュメント仕立てだ。
あまり自分自身の感情を爆発させず、
クールに自分自身と距離を置いたような語り口である。
英国人らしいユーモアに加えて“エスプリ”も効いており、
英国文化もさりげなく滲む。

BEATLESやROLLING STONESなどと違ってThe WHOは双頭体制でなく、
ほとんどの作詞作曲を手掛けるにもかかわらずピートの独裁体制でもなく、
メンバーみんな我が強かったがゆえにバンド内は奔放で尊敬と確執も格別だった。
特にロジャー・ダルトリーとの永遠の反目と信頼でピートのエナジーが生まれていることがわかる。
家族や他のミュージシャンをはじめとする人間関係の記述が緻密だが、
ジャンル問わず吸収していった音楽の話もたいへん興味深い。
ハード面とソフト面に関してかなり詳しく述べられている。
The WHOの他のメンバーのプライベートな話はあまり出てこないが、
やはりThe WHOとピート・タウンゼンドに関する本の決定版と言えるだろう。

むろんThe WHOもソロも曲やアルバムの解説や制作エピソードも満載だ。
ライヴやツアーにまつわる話もたっぷりでステージングの話も面白い。
腕をぐるぐる回す“風車のギター”やジャンプといったピートのステージ・アクションが
後のロックンロール・ミュージャンの基本になったことよく知られているだろう。
CLASHのポール・シムノン(b)も
ステージを飛びまわるアクションはピート・タウンゼンドからの影響が大と自認する。

イメージ作りをはじめとするバンドのアピールの仕方を含めて、
ロックンロールをアートとしても表現して映画やミュージカルなどとのリンクも積極的だった。
ロック・オペラに象徴されるように音楽を“ドラマ”としてもふくらませ、
作詞作曲家というだけでなく様々な意味で“作家”としても活躍。
一方でチャリティにも御執心である。


「(クールと思われていたジェイムズ・ディーンが、その実、内面は不安のカタマリだったのと同じように)
私もステージ上ではミュージシャンとして、
実際の生活ではとうていやれないようなことをやってのけた――つまり役を演じることができた。
そんなパフォーマンスが可能になったのは、
いつもは隠れている極端な個性を表に出したからだ。
(中略)
しかしステージから離れると、率直に申し上げて、私はただのネズミでしかない。
それも、気分がコロコロ変わるネズミ。」

ロマンチストでリアリストな紳士のピートを象徴する言葉だ。


2段組464ページ/カラー口絵16ページという大ヴォリューム。
ハードカヴァーで物理的にも重み十分。
本体3800円も高くはない。


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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