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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

本『70sパンク・レコード図鑑 UNDERGROUND PUNK ROCK VINYL ARCHIVES 1976-1985』

70sパンク・レコード図鑑


東京・新宿西口の小滝橋通りロック・レコード店街の生き残りで孤軍奮闘するNAT Recordsの板垣正信監修の本。

出版元のリットーミュージックの担当編集者が僕も3冊手がけてもらってたいへんお世話になった方で、
マニアックな70’sパンク・ロックもののライナーも書いているほど70’sものに詳しく、
監修者とは旧知の仲だから連携バッチリで仕事が進められたことだろう。


内容はタイトルどおり。
その“1976-1985/70sパンク・レコード”という部分はややまぎわらしいが、
76~85年にリリースされた70’sスタイルのパンクのレコードを扱っているということのようで、
その数は1600枚を超えているという。

重要度によってなのか掲載されたジャケット写真の大きさが様々だが、
盤ごとに掲載スペースが均一化しがちでデザインがシンプルになりがちなディスク・ガイド本とは一線を画す。
ページごとにレイアウトが変化に富み、
そこにもまた当時のパンク・ロックのポップ感が表われていると言えよう。
だからといって見にくいわけでもなく、
凝りすぎて何がなんだかわからず読みにくいデザインのパンク本とは違ってすっきり風通しがいい。

一枚一枚に付いた文章は短めだ。
最短で30字程度、
多いものでも150字以下である。
インターネットで検索すれば少なからず曲や音がチェックできるからかもしれないが、
音楽性や歌詞などについて言及されず出身地等の客観的な事実のみのコメントのレコードも多い。
最低限の簡潔な“説明文”に留め、
ディスク・ガイドというよりはタイトルどおりに“図鑑”に近い。
ジャケットだけでなく作品によってはレコード/レーベル面も添え、
写真はすべてカラーで掲載されている(ことで逆に当時のレコードにモノクロ・ジャケットも多いことに気づいた)。

シングルが中心で、
PHONOGRAM RecordsからリリースされたベルギーのKIDSなどポジション的に微妙なレコードもあるが、
メジャー・レーベルからリリースされたものはほとんどない
(例外的にメジャー・レーベル・リリースの特設コーナーも設けている)。
一方で有名なレーベルでもSTIFF Recordsはインディだからそのレコードは紹介されているが、
たとえばそこからリリースしていたDAMNEDも一般的は買えないレコードの紹介だ。
あまり知られていないパンク・レコードの図鑑と言ってもいいだろう。

レコードごとに★~★★★★★★の評価が成されているところにも本書の特徴が表われている。
その★評価も作品そのものがグレイトか否かということ以前に、
中古盤の世界的な市場価格(★が$50以下で★★★★★★が$1000以上)で付けられているのがポイントだ。

もちろんスペースに限りもあるからどのバンドも全レコードが載っているわけではなく、
ほとんどのバンドは1枚のみ。
なるべくたくさんのバンドを紹介することの方に重きが置かれたと想像できるが、
それは正解だろう。

ポスト・パンク、Oi!、ハードコア・パンクのレコードは基本的に外されているが、
一般的にそのジャンル名が付けられるバンドの初期作品も“70's”がキーワードということでけっこう含まれている。
“ジャンル的”にどこかで切らないといけない作業は僕も経験しているから厳しさは理解できるし、
どうしても編者の方の感覚で分けられるから境目は微妙だ。
GANG OF FOUR、CRASSCOCKNEY REJECTSBLACK FLAGD.O.A 、BIG BOYS、BEASTIE BOYSの
初期レコードは入っている。
だから意外とヴァラエティに富んで彩り豊かだ。

ただ英国、北米、欧州、オセアニアという具合にコーナーが分けられた本書には、
それ以外の地域のレコードが入ってない。
これだけ緻密にパンク・バンドをフォローした本だけに残念である。
日本ものも外されている。
含めれば場の空気が乱れて当時のパンクの猥雑なカオスが伝わってきたとも思うが、
洗練されたスタイリッシュな一冊としてまとまっている。

とはいえこの本の価値は、
この時代にこれだけたくさんのパンク・バンドが各国でレコードを発射していた事実を記録したことである。
グレイトなレコードばかりではないかもしれない。
だがそもそも“優れたレコード”“優れたバンド”みたいな言い回しで語られるように、
なんでもかんでも優劣で評価する既成の世の基準をデストロイ!したのがパンクの最大の功績なのだから。


★本『70sパンク・レコード図鑑 UNDERGROUND PUNK ROCK VINYL ARCHIVES 1976-1985』
B5版/192ページ/帯付き
3,456 円(本体3,200円+税)
リットーミュージック


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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