なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

書籍『VIVIENNE WESTWOOD ヴィヴィアン・ウエストウッド自伝』

ヴィヴィアン・ウエストウッド自伝


公私のパートナーだったマルコム・マクラーレンとSEX PISTOLSの“プロデュース”も行なった、
1941年英国生まれの“ファッション・デザイナー活動家”の伝記。
ヴィヴィアン中心にたくさんの発言をなるべく編集せずにたっぷり盛り込みながら、
伝記作家のイアン・ケリーがまとめて一昨年本国で発刊された624ページの大作である。

ヴォリュームたっぷりの作りになったのは外したくないネタばかりだからだろう。
それぐらい濃密な人生を送ってきている率直な女性である。
当然のことながらファッション関係のネタがメインだが、
同じく当然のことながらヴィヴィアンの肝のパンクの話にもページを割き、
活動家としてのヴィヴィアンの行動もしっかり綴られている。
2013年のパリ・コレクションの話から始めているということが象徴するように
“現在進行形”の視点で書かれているとはいえ、
基本的には時系列の構成だ。


僕が特に引き込まれたのは、
やはり服飾に関心を持ち始める子供の頃、ロックンロールとの出会い、マルコムとの関係、
してNEW YORK DOLLSやリチャード・ヘル、SEX PISTOLSとの関係が描かれる部分である。
正確に言えばマルコムのネタは彼が他界するまで随所に織り込まれているのだが、
このあたりの部分はとにかく読むのを止められないほど興味深すぎるエピソードの連発である。
たとえファッションなどにあまり興味がないとしてもその前半部分を一気に読ませるのは、
僕が関心を持っているからだけでなく、
ヴィヴィアン自身のエキサイティングな活動の加速ぶりが文章や発言に表れているからだ。

DIYをはじめとする彼女のパンク・スピリットはパンク・ムーヴメント勃発前の幼少期に育まれたものであり、
彼女の知名度を上げた一般的なファッションのデザインもパンク・スピリットは基本であり、
それは環境保護や人権派のリベラルな活動家としての今にも直結している事実が詰まっている本だ。
対極に見えるCRASSも含めてたくさんのパンク・バンドに影響を与えたことも想像できる。

「わたしは別に何かに反発していたわけではなかった。
でも、ティーンエイジャーは最高の時代だった。ファッションは大人に対抗心を燃やす若者の象徴だから」
という十代の頃の気持ちがヴィヴィアンの基本である。
今も変わらないパンクのパブリック・イメージを作り上げた自負の発言が随所から溢れてもいる。
一方で僕からすると彼女のパンク観やSEX PISTOLSの捉え方は無邪気で一面的だし、
巻末で彼女が書いた“資本主義をストップさせる”というコラム等の資本主義云々の考え方もナイーヴに映る。

本書によればジョニー・ロットン/ジョン・ライドン(SEX PISTOLS/PiL)は、
“本来は独自の発想で手づくりするもので、
アンチ資本主義であるはずのロック・スタイルを売り物にしている現状については彼女を厳しく非難している”という。
資本主義を糾弾しているアーティストがデザイナーによる高価なTシャツを売っている例も少なくない。
ただセレブが御用達にするほど事業拡大を続けていただけにヴィヴィアンも自分が詭弁を吐いていることを認め、
罪悪感も覚えているようである。
時間とエネルギーを注いで作っただけにそれに見合う対価が必要なのは理解できるが、
過激なデザイン以前にヴィヴィアンの服などは値段が庶民にとっては敷居が高い。
極端な話、一生懸命倹約してユニクロの服を買って楽しむ人にはちょっと遠い存在にも映るだろう。

そもそもヴィヴィアンの商品は庶民肌というより、
“芸術としてのファッション”であり“時代を反映したファッション”である。
スローガンやメッセージ含みの言葉を入れて絵柄が過激なデザインのTシャツをはじめとして、
革命的なファッションを作り続けてきた。
興味深いのは過去へのオマージュと歴史を参考にして革新的なものにする姿勢だ。
それってロックンロールやパンク・ロックそのものではないか。
活動家としてチャールズ皇太子との交流も深いようだが、
英国やイングランドへの愛も深い。
そのへんはSEX PISTOLSのDVD『勝手にやったぜ! ゼア・ウィル・オールウェイズ・ビー・アン・イングランド』での
ジョン・ライドンにも近い気がする。
「イギリスらしさはわたしの行動の基本」・・・ヴィヴィアンの言葉である。

ヴィヴィアンは伝統を尊重もする。
ファッション・デザイナーや活動家、“パンクス”としてのヴィヴィアンと同じぐらい、
一人の子供としての、
一人の母親としての、
一人のおばあちゃんとしての、
一人の妻としてのヴィヴィアンにあちこちでページを割いているところもこの本のポイントだ。
労働者階級の子として生れ、
マルコムと“決別”した直後しばらくは色々あって生活は困窮したが、
「家族意識がとても強くて、そういう感覚に浸れる時間がすごく好きなの」という孫の言葉そのままである。
幼少の頃から愛情いっぱいの家庭で育ったこともヴィヴィアンの不屈のポジティヴな姿勢に影響している。

この本はまとめ役のイアン・ケリーが“取材”して集めた発言のウエイトも高いのだが、
スティーヴ・ジョーンズ(SEX PISTOLS)やファッション関係者などの談話も豊富に盛り込みつつ、
ヴィヴィアンと彼女の“身内”の話がメインである。
彼女の弟、父親違いの2人の子供、夫たちなどの言葉で
ヴィヴィアンを炙り出しているところに、
彼女が行なってきている一般的な家庭人とはかけ離れた行動のすべて源が
家族であることを示してもいるのだ。


ひらがなが多めの和訳で読みやすく、
ヘヴィなページは漢字が多めで場面ごとに空気感が醸し出されている。
人名等の適度な脚注もページ内の下部で記されていてありがたい。
さらにヴィヴィアンらの人物やデザイン関係のカラー写真も1ページ使って適度に挿入され、
これが実にいいアクセントになっている。
総じて風通しのいい丁寧な作りだから分厚い本でもけっこう一気に読み通せるのであった。

ヴィヴィアン・ウエストウッドに少なからず興味を持っている方はもちろんのこと、
ロンドン・パンク・ムーヴメントの発火点や英国文化に強い関心を持っている方も読み応えありだ。
ハードカヴァーで厚さ5センチ近くの624ページの本だけに目方自体も重いのだが、
英国の伝統の重みも感じる本である。

若い頃のパンク姿ではなく“今”の写真を使った表紙にもヴィヴィアンの自信が満ち溢れている。


★書籍『VIVIENNE WESTWOOD ヴィヴィアン・ウエストウッド自伝』
ヴィヴィアン・ウエストウッド、イアン・ケリー[著]
定価 : 本体4,000円+税
B5変型/624頁、カラー写真多数/上製
発行元:DU BOOKS
発売元:株式会社ディスクユニオン


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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