なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『あさがくるまえに』

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心臓移植をテーマした2016年の劇映画。
フランス拠点に活動している80年生まれの女性カテル・キレベレ監督の長編3作目だ。
エキセントリックなことはせず、
シンプルに、静かに、ドラマチックに、ストーリーを進め、
じわじわ染み入ってくる佳作である。

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フランス北西部の港湾都市ル・アーブルでサーフィン好きな青年が交通事故で脳死状態になる。
病院を訪れた両親はまもなく臓器移植を提案されるも受け入れる精神状態になかったが、
臓器移植コーディネーターが二人に向き合う。
一方で心臓に難のある音楽家の中年女性がパリにいて、
希望者が多い中で余生が長くない自分に心臓移植を受ける資格があるのかと悩む。
お互いに時間はない。

例によってネタバレを最小限にすべく物語の大筋だけを書いてみた。

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ほとんどのシーンで特に凝った見せ方はしてないが、
こまやかな感情のひとつひとつも、ちょっとした行為のひとつひとつも、
ていねいに描き込んでいて引き込まれる。

とりわけ一人一人の人物の気持ちは観ていてひしひしと伝わってくる。
双方の葛藤がかなり感情を押さえて淡々とと言ってもいいほど落ち着いて描かれていて、
だからこそゆっくりと僕の中に深く入ってきた。
特に提供する側であるドナーの方、
といって本人は脳死状態だからその両親は観ていて僕もつらくなった。

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もちろん基本的には張りつめている映画だが、
緊迫感に覆われたシーンは限定集中させ、
それ以外はゆっくりほぼ“平常運転”なのがとてもリアルだ。
ナチュラルに人間たちを描き込み、
ギリギリの状況で湧き上がった提供する側と提供される側のふたつの家族愛を
さりげなく浮き彫りにする。

関係人物の“日常”を適宜見せるところもポイントだ。
医師関係の一人が現場から離れて唐突にメールしたりセックスを夢想するシーンも、
四六時中緊張しているわけではなくヘヴィな仕事から離れた瞬間ふとそういうこともあるという感じで、
くだけたシーンを適宜挿入することで自然な仕上がりに一役買っている。
移植を待つ音楽家の中年女性の息子たちの様子も、
かなり“普段どおり”っぽいのが逆にリアルだ。

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この映画の中で唯一ずっと息を抜いてないのはドナーの青年の両親だ。
終始顔はこわばっていて痛々しくてたまらないのだが、
それだけに映画の最後の方の二人には僕も解き放たれた気持ちになった。

心臓を提供する青年に対する臓器移植コーディネーターの行為のひとつひとつが、
ゆっくりと圧倒されるほど敬意にあふれていて胸が打たれる。
脳死状態から“解放”する直前の最期のひと時に、
真摯な態度で青年に語り掛け、
記憶を呼び覚ますような“ある音”を聞かせ、
手術後の誠実なケアにもジワッとくる。

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映像の力をあらためて思い知らされる。
序盤は生を謳歌する青年の溌剌としたまぶしい映像で、
ファンタジックに見えるほどの映像はもしかしたらこの時点で青年は“最果て”に到達していたのかもしれないとも思わせる。
そこから“暗転”とともに映像は人間たちの葛藤へと移り、
そして“再生”の緊張の時間の映像へと続く。
なだらかにストーリーが流れていって3つも4つも映画を続けて観ている気持ちにもなる。

序盤の交通事故のシーンと
臓器を移動するシーンは“スピードが求められる”場面だから速く、
他のシーンはスロー、
というか落ち着いている。
取り乱さず、諦観の境地のように、
みんな覚悟を決めている、

大半を占める微妙に冷たい質感の映像色もぴったりだ。
対照的に、昏睡状態になった青年の生前の姿をフラッシュバックする映像にはあたたかみを感じる。
いちばんの思い出をよみがえらせる甘い回想イメージのシーンと、
心臓を取り出そうとする映像へと移る生々しい現実への転換の落差にも静かに息を呑み、
どれほど移植が生々しいものかとリアルに手術シーンを淡々と映し出す。

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何より役者がみんな好演である。
映画の鍵を握る臓器移植コーディネイター役のタハール・ラヒム(『預言者』他)、
ロマン・ポランスキーの妻でもあるエマニュエル・セニエ(『エッセンシャル・キリング』他)、
歌手としても知られるアンヌ・ドルヴァル(『マイ・マザー』他)らはもちろんのこと、
無名も新人も過剰さを排してまっすぐ役の中に入り込んでいるのだ。

劇中では適宜アンビエント音楽などが使われ、
エンディングにはデイヴィッド・ボウイが“限られた時間”を歌う「Five Years」を使っている。

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英語だと心臓も心も単語は“heart”。
頭が支配するものではなく、
感情、心情、愛情といった人間らしさを司る気持も意味する。

この映画の試写会のとき、
僕の隣で観ていた20~30代と思しき女性が終盤ずっとハンカチで目を押さえながら観ていた。
青年に思い出を蘇らせるシーンから長い手術シーンを経て“heart”が新しいボディで生きるまで
ずっと泣いていた。
手術シーンはエグくて生理的に苦手な方もいるかもしれないが、
切開から取り出して縫合までをしっかり“生”で映し出しているからこそ、
いかにもの感動とは異なる“生”の深さをたたえている。

オススメ。


★映画『あさがくるまえに』
2016年/フランス=ベルギー/104分/原題:Réparer les vivants
提供:リアリーライクフィルムズ/配給:リアリーライクフィルムズ/コピアポア・フィルム
9月16日(土)より ヒューマントラスト渋谷 他 全国順次にてロードショー。
© Les Films Pelléas, Les Films du Bélier, Films Distribution / ReallyLikeFilms
www.reallylikefilms.com/asakuru


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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