なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ポルト』

メイン


STOOGESの映画も手掛けたジム・ジャームッシュが製作総指揮を務め、
1982年ブラジル出生まれのゲイブ・クリンガーが監督・脚本・製作を行なった2016年の映画。
ポルトガルのポルトを舞台に描かれる大人のラヴ・ストーリーで、
シンプルな展開の物語であるからこそ彫りが深く、
“こんな手法があるのか!”と思わされるアイデアを使っても奇をてらったように見えない佳作である。

いい感じで褪せた暗めのテイストの色合いの映像力により、
映画が始まって2秒でスクリーンの中に飲み込まれる。
35ミリ、16ミリ、スーパー8などのフィルムを用いた渋い映像色にひたすら魅せられるのだ。
シンボリックな感じで適度に街の風景を織り込み、
それがまた侘び寂びの効いたトーンで映画の場の匂いも漂ってくる。

サブ9

例によって話の大筋だけを書くが、
ストーリーも甘く痺れる。

臨時雇いの仕事を転々としている26歳の孤独なアメリカ人の男と、
考古学を学ぶ32 歳のフランス人留学生の女の物語。
ひょんな場所で男が見初めてカフェで偶然“再会”し、
二人は“一仕事”をした後に自然な形で一夜を共にし、
翌日も男は忘れられないどころか熱を帯びる一方だった。

サブ2

年下男と年上女のワン・ナイト・ラヴの物語でストレートな話の流れでありながら、
それをここまでふくらませるとは!とひっそりと驚いた。
映画は奇想天外な話で気を引くだけではないことをあらためて思うし、
他の要素も大切な“全体表現”だとあらためて思う。
“事の前”と“事の最中”と“事の後”の情景や感情をていねいに描き、
数年後の二人も見せながら時間から時間へと意識が行き来する作りで心のヒダの流れを映像にしている。

男の視点から、
女の視点から、
そして“もうひとつの視点”からといった具合に、
同じ物語が繰り返される“3部構成”もこの映画の最大の特徴だ。
いくらセリフなどがダブろうが、
見せ方でこうも印象が違ってくるのかとも思うし、
変わらないようにも見える映画のマジックである。

サブ3

「こんなにいいセックスは久々」というセリフになぞらえるわけじゃないが、
こんなにいいセックス・シーンの映画は久々だ。
ラヴシーンを含める映画はそこをどのように見せるかで映画の印象を大きく左右するし、
必要もないのにだらだらだらだらベッドシーンが長い映画は自分で自分の首を絞めているだけでしかない。

この映画のセックス・シーンも長い。
一晩に一回で終わらないほど求めあっているからだが、
にもかかわらずまったく飽きない。
情熱的で美しく、
なによりとても自然だからである。

愛があるとかにないとかよくわからない。
でも“意気投合”してからが速い。
前戯とかそっちのけで短時間で終えて再びという情緒を削ぎ落した“動物性”も、
ちょっとみすぼらしくてたどたどしい男の動きも、
慣れているっぽい女の冷めた表情もリアルである。

サブ6

たいへんエロチックだが、
観ていて実際にしている気分になるほど引き込まれる映像だ。
ほんとに性交しているように見える形で絶妙のフレームの切り取り方をしており、
シンプルで落ち着いた佇まいながら遠近を効果的に使って撮る角度も工夫し、
部屋に隠れて覗き見ているような調子で撮っている。
濃厚な陰影の映像は一般的なカジュアル・セックスの軽さとは対極で、
会ったその日ににもかかわらず二人の関係の深さを物語るほど生々しい。
カラダの交わりだけでなく精神的にも何か交感している。

「こんなの初めて!」といった具合に、
てらいのない言葉も真実味いっぱいだ。
ストレートなセックス中に限らず
この映画は妙味の効いた会話の言葉の選び方と間合いやテンポも心憎い。

サブ4

メインの二人の演技にもうならされる。

残念ながら男の方を演じたアントン・イェルチンはこの映画の公開を待たずに事故死している。
ジャームッシュの『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(2013年)に出演。
僕はオムニバス映画『ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区』(2012年)、
その中の一つの作品『スウィート・エクソシスト』の拡大ヴァージョンの『アナーキー』(2014年)、
ハードコア・パンク・バンドのホラー映画『グリーンルーム』(2015年)でも観たが、
ほんと他界が残念である。

女の方を演じたルシー・ルーカスの演技も筆舌に尽くしがたい。
観れば観るほど味わいが口の中で広がる感じで、
コクがありビートの効いたスモーキーなウィスキーみたいに濃厚。
でも吞み口サッパリのクールな存在感をさりげなく示している。

サブ1

使われている音楽もセンスがいい。
ジョン・リー・フッカーやカナダのZACHT AUTOMAATに加え、
Emahoy Tseguéのジャズ・ピアノがやさしく随所で寄り添い、
米国のThe Space Ladyの変態ストレンジ音楽、
ハンガリーのオスカー・リーディングのヴァイオリン、
ポルトガルのレゲエのBezegolなどユニークだ。


あれこれあってここに行き着いたみたいな
終盤からラスト・シーンにかけての時間の使い方も見事としか言いようがないし、
このあたりの音に耳を澄まして注意して観ていただきたい。
“生”の証しの小さな男が聞こえてくるから。

76分にまとめ上げた手腕も見事。
グレイトな映画はどれだけ贅肉を削ぎ落とすかだと痛感する。

この映画は何度でも観たくなる。


★映画『ポルト』
2016 年|原題:PORTO|ポルトガル=フランス=アメリカ=ポーランド|カラー|ステレオ|76 分|
9月30日より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
© 2016 Bando a Parte – Double Play Films - Gladys Glover – Madants
http://mermaidfilms.co.jp/porto/


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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