fc2ブログ

なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『恋と嘘』

koiuso_main_convert_20170929171633.png


週間少年マガジン編集部「マンガボックス」連載の同タイトルの漫画が、
設定等を変えつつムサヲの原作とつながりを持つアナザーストーリーの実写映画で公開される。
いかにも漫画ちっくで荒唐無稽な物語に見えて、
少子化が進む日本ではあながち冗談とは思えない政府が結婚相手を通達する世の中の恋愛ものだ。
ぬるい高校生もの映画っぽい序盤で“こりゃダメかなぁ~”と思いながら、
観ているうちにわくわくしてきて目が離せなくなってしまった良作である。

森川葵(2010年のミスセブンティーンのグランプリでモデル・デビューして今に至る)が主演で、
北村匠海(DISH//のメイン・ヴォーカル/ギターや映画『君の膵臓をたべたい』の主演を務める)と、
佐藤寛太(『イタズラなKiss THE MOVIE』シリーズで主演を務めてきている)が“三角関係”の相手。
さらに徳井義実、浅川梨奈、田辺桃子、温水洋一、遠藤章造、三浦理恵子、木下ほうか、中島ひろ子が、
脇を固める。
監督は『ロスト★マイウェイ』(2004年)で長編映画デビューし『一礼して、キス』の公開も控える、
古澤健である。

sub_1_convert_20170929171704.jpg

出生率の低下がさらに進んだ近未来の日本では、
“政府”が国民の遺伝子情報を分析し、
“最良”の結婚相手を16才の誕生日に“通知”する「超・少子化対策法」が施行されていた。
その法律には罰則規定がなく自由恋愛も認められてはいるが、
自立心があやふやな多くの16才は“政府通知”が伝えたパートナーこそが運命の相手と受け止め、
あまり疑問を持たずに幸せな結婚のかたちとして捉えていた。

仁坂葵(森川葵)も政府通知が教えてくれる“王子様”をずっと心待ちにしている高校生乙女。
そんな葵は16才の誕生日を迎える直前に幼なじみの司馬優翔(北村匠海)から「好きだ」と告白される。
だが小さな頃からいつもそばにいてくれる心優しい司馬の気持ちに戸惑っている真っ只中の葵の前に、
無口でクールな高千穂蒼佑(佐藤寛太)が政府通知の相手として現れる。

大病院の御曹司で“ワケありの状況”の高千穂は友達もいないほど冷めていて、
いつも一方的に提案される定期的なデートも義務的かつ事務的に進められて葵は戸惑うばかり。
そんな調子で悩んでいる最中に跡取りを強制する親に反発して自分を思ってくれた高千穂の“俠気”を見て、
葵は本格的に惹かれていく。
一方の司馬も“ワケありの状態”の中で生きている高校生だが、
だからこそ葵のしあわせを見届けようと葵と高千穂の二人にアドバイスをしていく。
そんな三人にまもなく“進路”を決断する転機が訪れる。

sub_2_convert_20170929171724.jpg

登場人物のキャラにずっぽり入り込んだメインの三人の好演技に引き込まれる。
特に森川葵のナチュラルなパワーが素晴らしい。
けなげで、かわいいのは言うまでもないが、
一生懸命だからこそコミカルにも見えるわざとらしくない天然テイストに持っていかれっぱなしだ。

ちょっぴり優柔不断で結論を出すのに時間がかかる葵の性格そのままで話が進むにもかかわらず、
三人のケミストリーに突き動かされた映画全体のテンポがいい。
過剰に盛り立てない音楽の入れ方も的確。
ドキュメンタリーも含めて“ゆとり”なのか最近の映画に多く、
とりわけ邦画にホント目立つ無駄なシーンを削ぎ落した編集も何より特筆したいところだ。
ダラダラお茶を濁してないからこそ伝えたいことが薄まってなく、
“ゆとり”の映画に見えて穏やかな緊張感がキープされているから目が離せない。
みんな全力なのだ。

それぞれが“ワケあり”ゆえに、
男二人がこの若さで一種の諦念を抱いているようにも見える。
いい意味で二人とも大人だ。
自分に思いを寄せる二人に対して葵はいい意味で子ども。
そういったコントラストでも魅せる。

プリティな女の子とイケメンの男の子が繰り広げる物語だから、
男子も女子もこの三人を見ていてジェラシーを覚えそうだが、
そういう楽しみもまた昔からの映画の醍醐味ってもんだなとあらためて思わされる。
クレープをはじめとするカラフルなアイテムも映画に彩りを添えている。
でもただのラヴ・ストーリーには終わらない。

sub_3_convert_20170929171744.jpg

もちろんセリフなどに堅苦しいメッセージは無しだが、
隠しテーマが“アンチ押しつけ”の映画らしく、
押しつけがましい政治的/社会的な映画の百万倍も思いが心に染み込んでくる。

今の世の中も政府だけでなく警察も何もかも力を錯覚した人間は“守ってやる!”とばかりのエゴでもって、
大して“被害者”や“不幸”と思ってない人が頼みもしないのにおせっかいなことをしてくる。
一人一人違うのに杓子定規で人生に介入してくる。
自分自身の頭で考えて自分自身の気持ちのまま行動することを抑えつける。
一人一人の人格を認めない余計なお世話に自立心が殺されていく。

この映画の「超・少子化対策法」で“病気持ち”の人間がリストから外されているところが、
ナチスをはじめとする“潔癖政府”が行なってきた優生政策を思い起こすことも付け加えておく。


まったりしているようで、
自分のことは自分で決める、
自分の意思と自分の意志がすべて。
そんなに三人の気持ちがお互いを思いやりながらゆっくり加速していく後半の流れには息を呑む。

いわゆる“ラスト・シーン”で確かに“映画本編”は終了かもしれない。、
だがこの映画はエンド・テロップが流れ始めてすぐ席を立つせっかちな人も全員がしばし足を止める。
さりげなく続編を期待させる最後の最後のシーンも実に粋だ。

何気に深いオススメの映画!と言い切りたい。


★『恋と嘘』
10月14日(土)全国ロードショー。
(C)2017「恋と嘘」製作委員会
(C)ムサヲ/講談社
配給:ショウゲート
公式サイト:koiuso.jp
公式Twitter:koiuso_jp


スポンサーサイト



 | HOME |  古い日記に行く »

文字サイズの変更

プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (15)
HEAVY ROCK (274)
JOB/WORK (427)
映画 (395)
PUNK ROCK/HARDCORE (0)
METAL (56)
METAL/HARDCORE (53)
PUNK/HARDCORE (500)
EXTREME METAL (150)
UNDERGROUND? (189)
ALTERNATIVE ROCK/NEW WAVE (159)
FEMALE SINGER (51)
POPULAR MUSIC (41)
ROCK (101)
本 (12)

FC2カウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

Template by たけやん