なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『Mr.Long/ミスター・ロン』

ミスター・ロン チラシ


『蟹工船』(2009年)、『うさぎドロップ』(2011年)、『Miss ZOMBIE』(2013年)、
『天の茶助』(2015年)などで知られるSABUが監督/脚本の映画。
台湾の殺し屋と日本の田舎町の人々との間で非情と人情がまぐわい、
昭和時代の日本のホームドラマとヤクザ映画、
あるいは浪花節の演歌と妥協無きハードコアをミックスしたかの如き人間ドラマの佳作だ。


台湾の殺し屋のロン(チャン・チェン)は六本木の台湾マフィアを殺す仕事を請け負うも失敗し、
日本のヤクザに捕らえられて傷を負ってトドメを刺される寸前に逃走。
行き着いた先は北関東の田舎町だった。

しばしロンがその地の廃屋を住み家にしようとしていたところ、
食料として無造作に野菜を置いていった無口な8歳の少年ジュン(バイ・ルンイン)との交流が始まり、
日本のヤクザにシャブ漬けにされたジュンの母親の台湾人リリー(イレブン・ヤオ)を手助け。
まもなくジュンに作っていた汁物などでロンの料理の達人ぶりが素朴な周辺住人たちに知れわたり、
みんなから生活をサポートされていく中でロンは牛肉麺の屋台を始めることになる。
屋台を手伝うジュンとの交流が深まる中でロンはリリーとの接触も増えていき、
周囲の住人たちのノリのいい気遣いもあって三人の間で一つの家族のようなムードが生まれつつあった。

例によってネタバレ最小限で物語の途中までの大筋を書いてみた。

メイン

いい意味で洗練されてない粗削りの映像によって場の匂いや空気感が生々しく伝わってくる。
アナログ感が溢れる映像がさりげなく登場人物たちの心模様と共振し、
なかなか晴れることのない曇天みたいな映像色が続く中、
中盤から後半にかけてのわずかな“晴れ間”みたいな明るさの映像がまぶしい。

映画の中の自動車のナンバープレートから察するに足利市をはじめとする栃木県が主なロケ地のようだ。
いわゆる限界集落やシャッター街ではないにしろ、
しばしロンが住むことにした家屋や彼と交流を深める母子の生活状態はなかなか強烈だが、
いわゆる底辺の人々の状況を声高にメッセージする映画ではない。
いくら都市部でインテリやサブカルが満ち足りた顔で得意げに調子のいい政治話を吐こうが、
合理主義とは別の次元で暮らすこの映画の人たちには何も響かない。
だが右も左もヘッタクレもない生活環境の中で、
人と人とのつながりを大切にして暮らす人たちのリアルな“生”は観る者一人一人の心に響く。

SABU監督ならではの人間臭い描写に飲み込まれる。
セックスのシーンも死のシーンもモロに長時間見せないことで心臓を射抜くことをよくわかっている。
映画の肝を醸し出す調度品や事物などのアイテムも見せ方も上手く、
ロンとジュンとサリーの手作りの茶碗は映画後半の命の象徴だから特に目を離さないでいただきたい。

サブ2

俳優陣の演技も自然体で素晴らしい。

主人公のロンは日本語がわからないということでほとんどしゃべらず、
無駄口叩かずにやることはやる一匹狼の“気”が滲み出ている。
いつ敵討ちされるかわからず24時間気が抜けないハードボイルドな佇まいの中で、
笑顔を見せない無表情の顔が中盤にうっすらと和らいでいくあたりも名演だ。

ロンとの交流でこの映画を進めていく子役のジュンも朴訥としたいい味を出している。
育った環境ゆえかPTSD(心的外傷後ストレス障害)が感じられるほどやはり寡黙で笑わないが、
これまた中盤以降の表情を見ているとホッとする。
ロンをミステリアスな存在にしておく一方で、
この映画のキー・パーソンだからこそジュンの母親リリーは過去を明かすことに時間が割かれているが、
情感豊かで艶っぽく時に悲痛な演技に息を呑みっぱなしだ。

ロンの周辺の日本の住民たちも何気にリズミカルで好演極まりない。
ロンを詮索もよそ者扱いもせず困ってそうだと思ったらイケイケの真心で接しで手を差し伸べ、
おせっかいと一線を画す“お世話様”の心意気の連係プレイでロンを手助けして“更生”。
正直でナチュラルだから納得できて人間ってもんをもっと信じてみたくなるほどの力がある。
対象的に生きてる価値無し!のヤクザの存在感が観る者の憎しみを燃え上がらせる。
とりわけリリーにたかるまさに血も涙もないヤクザは観ていて本気で殺意を抱くほどの演技力だ。

サブ1

手加減しないSABU監督の“脚本力”も特筆したい。

次々に繰り出される様々な落差がダイナミズムを生んでいる。
心あたたまるシーンが続くと思ったら心が凍りつくシーンにいつの間にか転換。
崖っぷちから這い上がり、しあわせの光が見えてきたと思ったら、また地獄に、そして天国にみたいな、
サディスティックなまでの暗転ぶりで“もてあそぶ”ように見事なほどこっちの感情を揺さぶる。
観ていて心臓の高鳴りが聞こえてくるほどの容赦無き物語の流れに身震いする。

どちらか死ぬまで苦しみが続くのなら相手を殺すか自分が首を吊るしかない人がいる。
話し合いの余裕がないほど一気に追い詰められて殺すか殺されるかしかない人がいる。
憎しみが一気に沸点を越えた人間の神々しさも見る。

終盤の加速度に絶句する。
一瞬で血の気が失せる“とある光景”直後の“殺陣”のシーンは、
取り巻く情景を映し出すことでさらに背筋が凍る。
「もうかんべんしてやってくれ!」とボクシングのセコンドみたいにタオルを投げ込みたくなるほど、
いたたまれない展開である。
だからこそラスト・シーンは救いと断言したい。

オススメ。


★映画『Mr.Long/ミスター・ロン』
2017年/日本・香港・台湾・ドイツ合作/129分
出演者:チャン・チェン、青柳翔、イレブン・ヤオ、バイ・ルンイン、
監督/脚本:SABU『天の茶助』
製作:LiVEMAX FILM LDH pictures BLK2 Pictures 
高雄市文化基金會 Rapid Eye Movies
配給:HIGH BROW CINEMA
映倫:PG-12
クレジット表記:Ⓒ2017 LiVEMAX FILM / HIGH BROW CINEMA
公開表記:12月16日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
https://mr-long.jp/


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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