映画『子どもが教えてくれたこと』
2018-06-30

難病を抱えた5人の子どもたちが中心のドキュメンタリー。
1973年フランス・パリ生まれのジャーナリストの女性が、
生まれてから3年ほどで娘を病気で亡くした思いがモチーフになった作品だが、
センチメンタルな感動ものとは一線を画すポジティヴなリアリズムがゆっくり疾走する映画だ。
撮影時に5歳〜9歳だった子どもたち。
スポーツが好きな子がいる。
植物を観察する子がいる。
ピアノを楽しむ子がいる。
演劇でステージに立つ子がいる。
おもちゃと戯れつつ勉強熱心な子がいる。
みんなそれぞれにキャラが立っている。
毎日を楽しみながらも自分の病気に関する認識もしっかりしている。

演出の類いはない。
ドラマチックに盛り上げようという“魂胆”が見えない。
施設で、病院で、屋外で、家庭で、
“子どもたちにとっての日常”を撮っただけである。
可能な限りカメラを回し続けて粘り強く5人を追って膨大な時間撮影したと思われるだけに、
監督が編集に苦労したのもうなずけるが、
映画の出来に大きく左右するそのエディットがとにかく絶妙だ。
5人のうちの数人が絡むシーンも含むとはいえ、
基本的には5人別々の行動やトークがナチュラルにミックスされている。
だからゆるやかにテンポがいい。
80分があっというま。
これほど時間を感じさせない映画も珍しい。
映像と同じく音楽の挿入も押しつけがましくなく、
情緒に流されないトーンでささやかに寄り添っている。

監督の視点がクールで、
適度に子どもたちと距離を保ちながら撮っているところも特筆したい。
観る人に自分の気持ちや考えを働かせるスペースを設けている。
と同時に言うまでもなく子どもたちにゆっくり迫っている。
カメラのズームアップも多い。
心にもやさしく迫っている。
しっかりと向き合っている。
監督だけでなく親や医師や関係者が子どもにしっかり向き合い、
子どもの言葉にしっかり耳を傾けている。
だから子どもたち一人一人が自分の病気や自分の思いをまっすぐ語っている。
子どもへの虐待のニュースが絶えないだけに、
周りにいる人たちが開かれていれば子どもも開かれるとあらためて知る。

ところによっては子どもたちに諦念や達観も感じられる。
一方で将来の意思や意志の言葉も目立つ。
子どもたちは本音トークの中にシンプルな“金言”を次々と残している。
他の誰かさんからの借り物の言葉じゃなく、
自分の経験から心と体に息づく自分自身の言葉ばかりである。。
「病気でも幸せになれる」
「自分次第で幸せになれる」
「うまくいかないことがあっても、なんとかなる。それが人生」
「愛してくれる人がいるなら」
「嫌なことは脇に置いておいて」
「愛してる人たちがいれば幸せだわ」
オフィシャル・サイトに載っている 山口もえのコメントじゃないが、
観ていてメモを取りたくなる言葉の連発である。
子供たちの表情が生きているからリアルに響いてくる。
予告編の映像でも観られる仲間に対しての「ずっと友達だよね」という言葉が何気ないようで特に好きだ。
僕も1ヶ月前に友だちのお見舞いに行った時に「ずっと親友だから」と別れ際に言った。
生の尊さと命の重みをさりげなく伝える。
★映画『子どもが教えてくれたこと』
2016年/フランス/フランス語/カラー/80分/ヴィスタサイズ/DCP
監督・脚本:アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン
原題:『 Et Les Mistrals Gagnants 』
7月14日(土)より、シネスイッチ銀座 他全国順次公開。
http://kodomo-oshiete.com/
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