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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『パラダイス・ネクスト』

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妻夫木聡と豊川悦司が台湾を舞台に繰り広げる新感覚ムーヴィー。
音楽家でもある半野喜弘監督による『雨にゆれる女』(2016年)に続く長編2作目で、
半野とともに坂本龍一が音楽を担当している。
ツマブキの“陽キャラ”とトヨエツの“陰キャラ”が絶妙にブレンドし、
『黒衣の刺客』(2015年)で妻夫木と共演したニッキー・シエもいいアクセントで、
ストレンジな情緒あふれる佳作だ。

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一年前、シンルーという名の女性が不審な死を遂げた。
事件をきっかけに、その女性のボディガードをしていたヤクザの島(豊川悦司)は日本を去り、
自分の存在を消すように台湾で生きていた。
そんな島の前にある日突然、
牧野(妻夫木聡)というお調子者で妙に軽い男が現れる。
たった一人、荷物も持たずにやって来た牧野は、初めて会う島の名前を知っており、
「あの子が死んだのは事故じゃない」とシンルー死亡事件の真相を知っていることをほのめかす。
最初は牧野をいぶしがる島だったが、事件の秘密を握る牧野が命を狙われていることを知り、
台北から台湾東海岸の町・花蓮へと一緒に移動する。

花蓮へ辿り着いた二人の前に姿を現したのは、
シャオエン(ニッキー・シエ)という日本語を話す台湾人の女性。
その容姿は、一年前に死んだシンル ー(ニッキー・シエ2役)にそっくりだった。
この運命ともいえる偶然の出会いによって、止まりかけていた時間は再び動き始め、
閉ざされた「過去」が明らかになっていく。
牧野と島は危ない橋を渡りながらシャオエンとともに“楽園”へと向かうのであった。

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クラシカルな曲からアンビエントな音楽まで、
やはり音楽に対しての気遣いもさすがの映画だ。
静謐とは言わないが、
意外と派手でやかましい場面は多くないから音楽も落ち着いたトーンが中心に使われている。

音楽だけでなく音声へのこだわりが感じられる。
試写会では一般の映画よりも音の響きが大きくてパーカッシヴなアタック感も強く聞こえたが、
もちろんうるさく思わせることなくひとつひとつのシーンに宿る感情を静かに浮き出させ、
音響彫刻といっても過言ではない音像が見事だ。

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全編台湾ロケで監督とカメラマン以外は監督とほぼオール台湾スタッフとはいえ、
“木を見て森を見ず”のチマチマした邦画とは別次元のリズム感と開放的なダイナミズムに引き込まれる。
奇想天外な物語や自由な空気感やヴィヴィッドな作りなどジム・ジャームッシュの映画も思い出す。

そういった仕上がりの要になった大胆な編集も痛快で、
楽しいことばかりの映画ではないにもかかわらずセンチメンタルな臭いとは一線を画している。
もちろん合理的なカットはせずに長時間続けるべきシーンは徹底的に続け、
特に序盤と終盤の非常に大切な二つのシーンは長回しも使ってじっくりと気持ちを炙り出し、
セリフ無しの長時間の場面だろうが妻夫木も豊川も圧倒するほどの役者魂を見せてくれる。

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『岬の兄妹』を撮影した池田直矢が、
この映画でも人物の内面にまで迫るカメラ・ワークで生々しい仕上がりに一役買っている。
島と牧野が運搬する“食べ物”をはじめ、
場面場面の匂いがスクリーンから漂ってくる人間臭い映像力も特筆したい。

説明しすぎない物語の組み立て方も素晴らしい。
人物の過去のこともストーリーに必要な最低限の情報のみでミステリアスな部分を残している。
何に関してもそうであるようにすべてがわかってしまうとつまらなくなってしまうものだ。
でもラスト・シーンまで見届けると、
『パラダイス・ネクスト』というシンボリックなタイトルのニュアンスが湧いてくる。

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妻夫木は飄々としたポップな存在感が光る。
豊川はパブリック・イメージを強化した演技が笑っちゃうほどストロングで
ハートボイルドを気取っているがゆえにちょっとした場面でこっちが失笑を禁じ得なくなるほどだ。
昨今の“禁煙ファシズム”に苦々しく中指を立てていると思うほど、
豊川がヘヴィ・スモーカーを貫く姿もスモーキーな本作にピッタリである。
はかない女の子を演じるニッキー・シエもチャーミングでたまらない。
二十四時間苦虫をつぶしたような仏頂面で笑ったことがないような豊川が演じる島に、
ニッキー・シエが“笑顔のススメ”を説く場面も見どころで、
無口な島がその言葉を転用したセリフを終盤に吐くところもグッとくる。

何しろ見どころだらけの映画。
オススメだ。

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★映画『パラダイス・ネクスト』
2019年/日本・台湾/日本語・中国語/カラー/ビスタ/100分/原題:PARADISE NEXT
■映倫:G
7月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
(C) 2019 JOINT PICTURES CO.,LTD. AND SHIMENSOKA CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED
hark3.com/paradisenext/


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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