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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『青の帰り道』(Blu-ray/DVD)

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大ヒット中の『新聞記者』も手掛けた藤井道人の監督で真野恵里菜主演の、
2018年12月公開の佳作『青の帰り道』が先週Blu-ray/DVD化されている。
発売日が2016年に起きた出演俳優の事件で撮影が中断した8月23日というところに、
お蔵入りになりかねなかった関係者の苦闘のこだわりが表れている。

この映画に対する思いは1万字でも2万字でも優に書けるが、
今夏のドリパス上映会場限定リーフレットで書かせてもらった文章などを元にネタバレ避けつつ、
このたび発売された“円盤”で観てあらためて思ったことも加えて簡潔にまとめてみた。

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群馬県前橋市と東京を舞台に高校三年生だった2008年から10年ほどの間の、
カナ(真野恵里菜)、キリ(清水くるみ)、リョウ(横浜流星)、タツオ(森永悠希)、
コウタ(戸塚純貴)、マリコ(秋月三佳)、ユウキ(冨田佳輔)の青春群像劇。
取って付けた陳腐な感動ものとは別種で何度観ても胸が“絞め”つけられる映画だ

真野が主演であることに間違いはないが、
7人全員が主役である。
びっくりするほどみんな演技が“すっぴん”だ。
日本の青春映画につきものの大仰で芝居がかった“発声”もまったくない。
一人一人方向性は違っても意志を感じさせるナチュラルな演技で、
一般的な二十歳前後の女性と男性に思えてくる。

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青春映画につきものの仲間内のキワドイ恋愛ネタはほぼゼロ。
だからさりげなくストイックな空気に包まれている。
高校卒業後の7人の進路を追ったストーリーではあるが、
不器用な人間関係の裂け目から流れ出る“血と膿”がこの映画の核である。
自分が傷つくことには敏感でも、
とりわけ窮地に追い込まれた時に人間は他人を傷つける言動に鈍感になりがちだ。
特に友だちや家族に対しては一種の甘えもあって残酷な言動に出るもので、
この映画の中での清水くるみと森永悠希の熱演は“犠牲者”の負のエネルギーの昇華と言える。

主演を務めてきた人も含むとはいえ、
若手の“名バイプレイヤー”が集った映画ならではの瑞々しい渋味もポイントの映画だ。
実のところ『青の帰り道』の7人は数人ずつ他の作品で共演しており、
それも絡み合いにいい作用をしている。
人間関係の軋轢が見どころの中、
実年齢最年長の真野恵里菜と最年少の横浜流星の関係は配役を超えて特にスリリングだ。
まったく違う作風の同時期撮影のネット配信ドラマ『彼氏をローンで買いました』での二人を思うと、
腐れ縁のソウルメイトみたいで僕が本作の続編を観たくなる理由の一つである。
誤解を恐れずに言えば『青の帰り道』の中では“悪役”の二人だ。

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横浜流星にとっては大ブレイク直前の撮影の映画になったわけだが、
ルックスがいいだけに終わらないほど登場しただけで場の空気を変えるエネルギッシュな演技で、
半グレ街道まっしぐらながらリアルな俠気による終盤の一撃もクールだ。
彼が演じるリョウがいわゆる“反社”だけに、
この映画が正義や正論を説く品行方正な感動ものとは一線を画したリアリティを増す一因にもなっている。

真野恵里菜はテレビドラマ版『みんな!エスパーだよ!』に次いで、
“学級委員長キャラ”の殻を破った強気の演技で魅せる。
2000年代後半以降で希少なアイドル・ソロ歌手出身ならではの経験を活かした役柄で、
一人で大きなステージに立ってきた“パフォーマンス力”により一般の女優とは一味違う演技が光る。
『青の帰り道』のカナは真野しか出せない清楚感とポップ感と妖女感を内包し、
本物のアルコールを浴びるように飲んでいたように見えるほど真野が堕ちていく様も色っぽい。
“セックス、ドラッグ&ロックンロール”な役を演じる日も遠くない気がするほどだし、
中盤以降に加速していく“どS+自虐キャラ”にも痺れる。

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映画の中で真野恵里菜が着ているTシャツのデザインが暗示的なのも興味深い。
レコード会社の人と会う前で意気揚々とした気持ちの時に着ているのが、
“元気者”のハード・ロック・バンドのAC/DCのTシャツ。
“雲行き”が怪しくなった後半のとある場面で着ているのが、
ヤク中(ディー・ディー・ラモーン)とアル中(マーキー・ラモーン)のメンバーを擁した
RAMONESのTシャツ。
関係者の意思を感じる。

そして渋谷 Ruido K2でのライヴの際に着ているTシャツのNIRVANAが『青の帰り道』の肝だ。
地元でのカナ(真野)の音楽的パートナーだったタツオ(森永悠希)の部屋の中も
NIRVANAやカート・コバーンのアイテムがいっぱいなのである。
(目立つところに置かれたマーク・スチュワートのシングル「Consumed」をはじめ、
何度も映し出される室内がマニアックかつロックなブツ散見だから要注意)。
自転車に乗って7人が盛り上がっている『青の帰り道』のメイン・イメージ写真が、
NIRVANAの大ヒット・アルバム『Nevermind』のジャケットみたいに青みがかっているのも必然だ。
『青の帰り道』を覆う焦燥感、漂泊感、空漠感、フラストレイションが
NIRVANAと共振しているからである。

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71分の特典映像も充実している。

目玉は約6分の<未公開映像>。
完成までの過程でカットしたと思われるシーンがいくつかまとめられているのだが、
本編を観た方なら「えーっ・・・こんなシーン撮っていたの!?」と驚く秘蔵映像ばかりだ。
これらのシーンを入れていたら物語の流れが変わって映画全体の印象も違っていたほどで、
『青の帰り道』がいかに贅肉を削ぎ落す編集を重ねてシナリオを練ったかがわかり、
喉から手が出るほど他のアウトテイク/お蔵入り場面が観たくなる“チラ見せ”映像集である。

続いては<メイキング映像>が約35分。
シリアスな本編の流れをくむように笑ってお茶を濁すNGシーンはなく、
『青の帰り道』を象徴する序盤とラスト・シーンや、
『青の帰り道』の節目になった“とあるシーン”を特にクローズアップしている。
藤井道人監督が出演者の“事件”で撮影中止~再開後に撮り直した時のことにも言及し、
出演者一人一人に対する的を射たコメントの数々も素晴らしい。
別撮りによる7人一人一人のコメント映像も特筆すべきで、
その最後を締める真野恵里菜の場面でDVD/BDの特典映像を観て初めて涙が出てしまった。

さらに撮り下ろしと思しき<スペシャル・トーク>が約30分ほど収められ、
藤井監督、清水くるみ、秋月三佳、冨田佳輔が
登場人物一人一人やamazarashiによる主題歌「たられば」などについて語り合っていく。

もちろん予告編も収録だ。


★『青の帰り道』
2018年/日本/121分(本編)+71分(特典映像)/カラー/シネマスコープ/
●ブルーレイ =DTS-HD Master Audio 5.1chサラウンド
●DVD=ドルビーデジタル5.1chサラウンド
出演:真野恵里菜/清水くるみ/横浜流星/森永悠希/戸塚純貴/秋月三佳/冨田佳輔/山中崇/淵上泰史/嶋田久作/工藤夕貴/平田満
Ⓒ映画「青の帰り道」製作委員会

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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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