映画『死霊の盆踊り HDリマスター版』
2019-11-29

奇才エド・ウッドが原作・脚本を手掛けた1965年の米国映画。
このたびHDリマスター版で日本再上映となる。
“サイテー映画”とも言われるが、
ストーリー性を度外視した華麗なるナンセンスの繰り返しがクセになる怪作だ。
原題は『Orgy Of The Dead』だが、
“乱痴気騒ぎ”という感じではなく邦題の“盆踊り”の飄々とした空気感で腰砕けになる。

満月の夜、ドライヴをしていた一組のカップルが荒れ果てた墓地でトラブルに見舞われた。
そこでは<夜の帝王>が<闇の女王>に命じて、
不幸な死を遂げた女たちの浮かばれぬ霊を呼び出して死者たちの饗宴を開こうとしていた。
蘇った女たちの霊が一人ずつ現れてヌードになって踊るのだが、
<夜の帝王>の下男のミイラ男と狼男に捕まって囚われの身になったカップルは、
女死霊たちの裸踊りを延々と見せられることになるのであった。

起承転結を備えたわかりやすい脚本も必要最小限の“舞台”も、
余計な細工無しのストレートなカメラもテレビのバラエティ番組や学芸会みたいである。
けど、だからこそ、映画の核がはっきりと浮き彫りになり、
“落差”も際立つ。
チープな作りとは裏腹に、
映画の大半を占める饗宴シーンがミスコンを思い出すゴージャスな雰囲気で、
いちおう“前菜”みたいなモノも設けつつほとんどがメイン・ディッシュの映画なのだ。
10名前後登場する女死霊たちのヴィジュアル・クオリティとダンス・クオリティが高い。
種々雑多なトップレス(+ほとんどがTバック)の美女たちが
ストリップのステージのようにゆったり踊るのだが、
エロとかワイセツとかいうより優雅で観ていてすがすがしいほどゆっくりととろけていく。
本作はA・C・スティーヴン監督の“セクシー映画”のデビュー作とも言え、
以降ポルノに該当しそうな映画もたくさん撮ったようである。
米国のポルノ映画によくある大味で安っぽい雰囲気はこの映画からも感じられるが、
と同時に昔のポルノ特有の味わい深さもたんまりだ。

今回のHDリマスター版は、
60年代の映画ならではの淫靡感をキープしつつヴィヴィッドな発色の映像で、
ほんと可能であればスクリーンで体験したい仕上がりである。
とりわけ延々と続く饗宴シーンで急所が痺れること必至だ。
女たちが踊る場面で流れる一人一人違う妖しく怪しいムーディな音楽もポイントで、
レア・グルーヴに類する曲も含めてキッチュな音もリマスターで生々しく響いて強力である。
テレビ・ドラマなどでやれば済むほどストーリー展開に頼る映画が目立つ今、
映像と音楽の魅力がブレンドされてこそ映画!とあらためて思い知らされる。
真面目に言うと“表現”ってもんをあらためて考えさせられたが、
少なくても大半の男性にとって甘美な悪い夢を見ている気分になることは間違いない。
なんもかも馬鹿馬鹿しくなったときに観たら無限の力が湧く“裏マスターピース”だ。
★映画『死霊の盆踊り HDリマスター版』
1965年/アメリカ映画/アストラヴィジョン/91分
©1965 Astra Productions, under license from Vinegar Syndrome
12月28日(土)より、シネマカリテほか全国公開にて順次ロードショー。
www.eden-entertainment.jp/saitei2020/
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