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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『許された子どもたち』

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殺人を犯した少年と家族に対する“罪と罰”を問うような日本映画。
集団によるイジメも題材に含むとはいえ一人の少年と親を軸に、
加害者の立場中心に描いていく。
前作『ミスミソウ』(2018年)も衝撃的だった内藤瑛亮監督が、
再び世界に放つ問題作である。


とある地方都市。
中学一年生で不良少年グループのリーダー市川絆星(いちかわ・きら)は、
同級生の倉持樹(くらもち・いつき)を日常的にいじめていた。
いじめはエスカレートしていき、絆星は樹を殺してしまう。
警察に犯行を自供する絆星だったが、
息子の無罪を信じる母親の真理(まり)の説得によって否認に転じる。
そして少年審判は無罪に相当する「不処分」を決定する。
絆星は自由を得るが、決定に対し世間から激しいバッシングが巻き起こる。
そんな中、樹の家族は民事訴訟により、
絆星ら不良少年グループの罪を問うことを決意する。

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以上はオフィシャル・サイトに載っているあらすじだ。
実行現場が河原で被害者が中一ということで2015年の川崎市中1男子生徒殺害事件を思い出す。
でも殺しまでの時間が短くてあまりイジメがエスカレートしたようには見えず、
殺しも遊びの延長で当たり所が悪かった感じにも“業務上過失致死”にも見える。
でも、そういう“あっけなさ”“軽さ”が怖いとも言える。
他のイジメ側の少年たちを同調圧力みたいな調子で従っていたことを示唆するかのように、
ほとんどリーダーの絆星のみをクローズアップする。

131分あっても細かい説明をあまりせず、
適度に顔と心をカメラがクローズアップして人物たちの内面に迫る手法が今回も見事だ。
行動と表情で絆星の心象風景を丹念に追っていく。
主役を務めた上村侑のナチュラルな演技力も相まって、
とにかく何を考えているのかわからず得体の知れない絆星が終始不気味だ。
ちょっとませた素朴な子どもといった感じで僕には不良に見えない。
動機もヘッタクレもない。
何も考えてないように映るからこそまた怖い。

_上村侑【許された子どもたち】_convert_20200428114115

父と母との三人暮らしだが、
溺愛とまでは言わないまでも母親は周りを見てないヒステリックな“逃避”の人間だ。
殺しを疑われた子どもに対して
すべての親が「ヤってないよね!」と言い聞かせるわけではない。
中東でテロを起こした子どもの親が「罪をつぐなってこい」と言って送り出した話を僕は思い出す。
子どもに真正面から向き合っているがゆえのことである。

世間からバッシングを受けて家の外壁などは中傷の落書き等の嵐で家に居られなくなって
引っ越しを余儀なくされるも、
ネット社会は容赦せずにまたたくまに移住先が突き止められてまた引っ越しの準備。
ネット上で名前がさらされているから転校先では改名して授業を受ける主人公の絆星だが、
当然のごとく顔写真も出回っている。
そんな生活が続いて絆星は自暴自棄にもなるが、
すべてに対して冷めているようにも映る。
ある意味、大人だ。
たび重なるバッシングで鍛えられたのか目がすわった大人の佇まいになっていく。
そんな中で転校先でイジメられている同級生の少女との出会いが一つの転機になる。
絆星の中で眠っていた良心が目を覚まし始める。

サブ_1

(罪を認めなかった)加害者とその家族が
いかに大変な生活を送るかを描くことがメインにも思える映画だ。
誤解を恐れずに言えば状況によっては立場が入れ替わって加害者が“被害者”にも成り得て、
ある意味“アンチヒーロー”にも成り得るようにも見えてくる。

軽んじられているかのようにも映るほど被害者側にはあまり焦点が当たらない。
でもそれは結局世間は被害者やその家族などのことに対して実はあまり関心がなく、
加害者を叩くことにエンタテインメントを見出していることを示唆しているようにも見える。
あまり登場しないだけに映ったシーンの被害者側の様子が強烈だ。
加害者側ほどメチャクチャではないにしろ殺された子どもの両親の家の外壁なども、
“訴訟はお金目当て!”みたいな落書き等で荒らされている。
特に加害者側と場を共有する場面でのコントラストは、
被害者側の死ぬほどの痛みと傷みを炙り出す。


モヤモヤ感がたまらない。
あまり凝ってない音楽も相まってもさりげなく観る者を突き放す。
はっきりした結論を示してない映画にも思える。
でも僕には、
ラスト・シーンの“二人”の笑顔が無邪気なヒューマニズムに対する嘲笑にも見えた。


★映画『許された子どもたち』
2020年/日本/カラー/1.90:1/5.1ch/131分
©2020「許された子どもたち」製作委員会(PG12)
公開日が変更になりました。
5/9(土)からでなく、
6月1日(月)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー。
<大阪・テアトル梅田>、<京都・出町座>、<愛知・名古屋シネマスコーレ>、<兵庫・元町映画館>の
公開日も変更となりますが、
詳細が決まり次第あらためてオフィシャル・サイト等で告知するとのことだ。
http://www.yurusaretakodomotachi.com/


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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