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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『リトル・ジョー』

リトルジョー:メイン写真


人を幸せにしてくれる新種の植物“リトル・ジョー”が“主役”の問題作。
感染に敏感な今のご時世だからこその“ベスト・タイミング”での日本公開である。
1972年オーストリア生まれの女性ジェシカ・ハウスナーが監督し、
サイエンス“サイコ”スリラー映画でありながら人間ドラマでもある怪作、
いや快作だ。

リトルジョー:サブ5

バイオ企業の研究室に勤めるシングルマザーのアリス(エミリー・ビーチャム)は、
人を幸せにする真紅の美しい花の開発に成功する。
アリスは、自分の息子の名前にちなんで“リトル・ジョー”と名付けるが、
開発されたばかりのその花は成長するにつれて人々にある変化をもたらす。
アリスの息子、助手、同僚の周辺の様子がおかしくなっていく。
アリスはその原因が“リトル・ジョー”の花粉の影響かもしれないと疑い始める。

リトルジョー:サブ3

物語と映像と音声が妖しくブレンドして劇場を異空間に染め上げ、
映画ならではの醍醐味が堪能できる作品だ。

始まって数秒で観る者も“感染”し、
じわじわ、じわじわと、侵され、
きもちよく、きもちよく、息が詰まっていく。

リトルジョー:サブ2

静かに戦慄が走る音声にまずヤられる。
物音もさることながら、
ここぞというときに挿入される伊藤貞司の曲が強烈だ。
監督は自身が最も影響を受けた映画作家マヤ・デレンの映画で伊藤を知り、
ジョン・ゾーンのレーベルから出た『Watermill』の3曲がこの映画のための曲に思え、
映画のリズムやストーリーに大きく影響したという。

ミニマルな音でもアンビエント・ミュージックとは一線を画す曲だ。
現代音楽と言えそうながら尺八や琴、和太鼓も使い、
雅楽やチェンバー・ロックともニアミスする曲で、
ところによっては虫の鳴き声や耳鳴りの音のようにも聞こえる。
響きが神経に及ぼす影響をあらためて思い知らされる。

リトルジョー:サブ4

冷気漂う映画全体の映像の色合いもこの作品の“低温の快楽”を生み出している。
研究室で働く人たちの作業着の“薄緑”も植物カラーで効果的だが、
“リトル・ジョー”のメイン・カラーの“赤系”がこの映画全体を司る。
花粉とともに香りが漂ってきて
観ていると鼻がムズムズしてきて嗅覚まで“侵し”そうなほどの映像は、
ほんとスクリーンで観ているだけで“感染”しそうなほどの妖気を発している。
イチゴミルクみたいな色も含めて時にエロチックですらある。

騙りかけてくるような佇まいで息づく“リトル・ジョー”そのものの“妖花”としての魅力も
カメラはしっかり捉えている。
目が覚めるほど鮮烈な赤をたたえた美麗な“顔”で存在感をアピールする一方で、
ケシの花や食虫植物を思わせる不気味で妖艶な“表情”をたたえ、
動物と同じく植物も命が宿る生き物ということをあらためて思い知らされる。

リトルジョー:サブ6

光の使い方やカメラ・アングル、
テーブルなどの物の置き方、
会話のシーンにおける人物の距離の取り方など、
一つ一つの映像にこだわりを感じる。

エキセントリックな人物が一人もいないにもかかわらず、
登場する全員が異様に見える映し方も素晴らしい。
基本的には静かに進行する映画にもかかわらず目が離せず、
この映画ならではの場所を使った子どもたちの“ラヴシーン”など、
随所に自然な“ハプニング”を設けているのも見事だ。

リトルジョー:サブ1

“リトル・ジョー”は種を守るために“感染”してその人間の人格を変える。
“リトル・ジョー”は繁殖するために人間を支配する。
気分を高め、うつを防ぐ、“幸せの植物”とされる。
最初は“リトル・ジョー”が悪さをしているようにも映る。
でも“リトル・ジョー”は主人公のアリス親子をはじめとして人間関係を円滑にし、
精神的に自分自身を縛っているものから解き放っていく。

監督は遺伝子組み換えや植物栽培にインスピレーションを受け、
植物ウイルスがヒトウイルスに突然変異する可能性があるということなど
専門家の話も参考にして映画にリアリティを持たせている。
“感染”というと近年でいえばエボラ出血熱や新型コロナが頭をよぎる。
だが人類の歴史の中で必ずしもウイルス=病原菌/悪ではないわけだし、
“リトル・ジョー”に“感染”という言葉を使うのはふさわしくないかもしれない。
だがいくら幸せになるからといって人間の意思や意志をコントロールする怖さ、
それがこの映画の肝と言える。

リトルジョー:サブ7

<世界中が幸せになる花>という“リトル・ジョー”の宣伝コピーも、
あながちハッタリではないかもしれない。
だってこの映画、
この世のものとは思えないほど穏やかでやさしい空気に包まれているから。

必見。


★映画『リトル・ジョー』
2019年/105分/オーストリア・イギリス・ドイツ/英語
原題:Little Joe
出演:エミリー・ビーチャム、ベン・ウィショー、ケリー・フォックス、キット・コナー他
監督:ジェシカ・ハウスナー『ルルドの泉で』
© COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019
7月17日(金)アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国で順次ロードショー。
http://littlejoe.jp/


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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