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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『グッバイ、リチャード!』

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何かと話題の絶えないジョニー・デップが
余命半年を告げられた大学教授を演じる“悲喜劇”の快作。
洋画でこんなに笑ったのは久々なほど可笑しく、
そんでもってやっぱり物哀しく、
嫌味のない素敵な家族映画や友情映画としても楽しめる2018年の人間ドラマ作品だ。

サブ8

大学教授のリチャード(ジョニー・デップ)はある日「癌で余命180日です」と宣告される。
博学でエレガントで真面目な夫/父親として、
芸術家の妻と素直な娘との何不自由ない暮らしを送っていたはずのリチャードの人生は一変。
追い討ちを掛けるかのように妻と娘からの衝撃的な告白にも拍車をかけられ、
死を前に怖いもの無しになったリチャードは残りの人生を自分のために謳歌しようと決意する。

あけすけに物を言い、授業中に酒やマリファナを楽しむなど、
ルールや立場に縛られない新しい生き方はリチャードにこれまでにない喜びを与え、
人の目を気にも留めない破天荒な言動は次第に周囲にも影響を与えていく。
だがリチャードの“終わりの日”は確実に近づいていた。

以上は、オフィシャル・サイトに載っているストーリーをアレンジしたものである。

サブ3

アメリカ映画ならではの開放的な魅力を簡潔に凝縮したような作品だ。

いきなり余命宣告するオープニングが象徴するように、
もったいぶらずにストレート&シンプルな展開に引き込まれる。
数章に分けた構成も手伝って話の流れがわかりやすく、
適度にテンポも良くリズミカルで無駄を削ぎ落して91分にまとめ、
それでいて深刻な心情もべたつかずにしっかり描き出している。
ストイックなほど全体をシリアスに引き締めているからこそコメディ・テイストも際立つ。

自ら書いた脚本をジョニー・デップが気に入って出演に至ったウェイン・ロバーツが監督。
プロデューサーのグレッグ・シャピロは、
以前製作した『ハート・ロッカー』(2008年)や『デトロイト』(2017年)の何倍も、
ヘヴィなテーマをエンタテインメントに昇華させている感じだ。

サブ9

余命宣告された後の大学教授リチャードの“奇行”は、
ジョニー・デップの日常とまでは言わないまでも演技ではなく“素”でやっているかのように
生々しくリアルだ。
ヒトは極端な状況に陥ると絶望を突き抜けて自身も世間も笑い飛ばしたくなる。
“R15+なシーン”もいくつか出てくるが、
いずれもエグい“交わり”を簡潔に見せたことで観ている人の急所を直撃するスパイスだ。

「俺は裕福な中年白人だ」と自覚しているところが大学教授リチャードの強みにもなっている。
恵まれた環境の人間の不幸な物語は娯楽映画の王道だ。
大スターのジョニー・デップは実生活でも“裕福な中年白人”だから“怪演”のリアリティを高め、
小規模の映画ながらハリウッドの香りが漂う適度に華美で鮮やかな映像も、
日常は違うエンタテインメント映画としての作品の魅力を高めている。

サブ5

遠近を駆使しながらカメラも見せ方がストレートで人物にぐいぐい迫り、
人物の内面にまでぐいぐい迫っている。
躊躇しないカメラ・ワークは、
どれだけのパワーで俳優陣に向き合って新城を抉り出しているかの証しだ。
ある種のポップ感をを醸し出すのにも一役買っている。

笑えるのはセリフが見事だからでもある。
もちろん俳優すべてに中途半端でわざとらしい演技はなくて針が振り切れているから、
珍妙なようでナチュラルに感じさせるセリフも光る。
わかりやすい日本語字幕の言葉選びのセンスも特筆したい。
ドライで冷めているというより程良い緊張感の愛が滲む夫婦関係と親子関係も
絶妙に描き出している。

サブ2

家族だけでなくリチャードと大学関係者とのやり取りも見どころだ。
妻がらみで抜き差しならない上司との関係や生徒との愉快な関係もさることながら、
親友とのやり取りがこの映画をふくらませている。
ボケとツッコミみたいな調子で笑かしながら感動的でもある。

知らせてもらって2週間で亡くなったからこの映画のような時間はなかったが、
僕は2年前に癌で亡くした同学年の親友と“末期”に向き合った時のことを思い出した。
ジョニー・デップと同い年なだけに親友を失うことの痛みが深く身に染みた。

サブ7

身の回りのことの物語なのにスケールが大きく、
ある意味日常の物語なのに得体の知れないパワーが溢れかえっている。
こせこせした身内感がなくて開かれている映画なのは言うまでもないし、
押しつけがましいメッセージなんかなくても、
身近な人とのつながりの大切さをさりげなく伝えている。

相手がどんな立場の人でも“個”を尊重し、
いい感じの距離感をキープした関係性に色々と気づかされる。
なんてことのないエンタメ映画のようで、
クールな空気感にじわじわ覚醒されていく。

サブ6

映画『ドアーズ/まぼろしの世界』でナレーションを務めるなど
音楽関係との縁も深いジョニー・デップの主演作だけに、
挿入される音楽にも気遣いが成されている。
ストリングスの曲もポップな歌ものまでさりげなく映画に寄り添う。

終盤は静かなる加速度で研ぎ澄まされていく。
勝手気ままなラストも、なんかいい。

大スイセン。


★映画『グッバイ、リチャード!』
2018年/91分/R15+/アメリカ
出演:ジョニー・デップ、ローズマリー・デウィット、ダニー・ヒューストン、
ゾーイ・ドゥイッチ、オデッサ・ヤング、ロン・リビングストンほか。
原題:The Professor
8月21日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開。
https://goodbye-richard.jp/


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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