Lou Reed『New York』(デラックス・エディション)
2020-10-30

ルー・リードの人気作の一つである1989年リリース作の3CD+DVD+2LPでのリイシュー。
1972年のデビュー作から数えて15作目のオリジナル・アルバムだから、
コンスタントな創作/リリース活動をしていたことを再認識した。
個人的には発売後しばらく最も数多く聴いたアルバムであり、
ルーにしてはわかりやすすぎていつしか最も聴かなくなっていたアルバムだが、
深さを思い知るリイシューである。
打ち込み使ったりラップみたいなこともした前作『Mistrial』(1986年)の反動か、
VELVET UNDERGROUND時代も含めて最もストレートなロック・サウンドのアルバムだ。
フック十分のシンプルな曲オンリー。
ルーには“初心者不可”のアルバムも少なくないが、
リフがはっきりしているから、
ハード・ロック/ヘヴィ・メタルのファンの方も馴染みやすいと思う。
ある意味この作品で一区切りをつけてルーは90年代以降、
エレクトリック・ギター・インプロヴァイザーのアプローチをゆっくり進め、
さらに深遠な世界へと突入していくことになる。
ディスク1の本編は音圧上げすぎずのグレイトなリマスタリングが素晴らしい。
ヴォーカルと演奏のバランスの取れていて、
デリケイトなギターのニュアンスが伝わってくるし、
ルー史上最もストロング・スタイルのサウンドから色気が立ち昇ってもくる。
当時のニューヨーク・ハードコアと共振したかのように映る歌詞も特筆したい。
ディスク2は、
1989年の3~8月の数回分のライヴ音源で一つのコンサートのように編集構成。
むろん音質極上だ。
『New York』の全14曲がアルバムの曲順どおりに並べられているが、
『New York』よりも15分ほど長い約71分の尺になっているのも興味深い。
多少MCが入るとはいえ大きくアレンジを変えているわけではなく、
整然としたテイクをまとめて『New York』を“再現”した趣のCDである。
ドラムはアルバムで叩いたフレッド・マー(元VOIDOIDS)ではなく、
1990年の日本ツアーで叩いたモーリン・タッカー(元VELVET UNDERGROUND)でもなく、
ロバート・メディチが務めている。
ディスク3はアルバム・レコーディング前後のレア音源集。
オフィシャル・リリースでソロ作のこういうブツをほとんど披露してない人だけに貴重で、
曲の骨格がすっぴんのまま聞こえてきて感動的だ、
ラフ・ミックス等は音質極上だし、
制作過程のドキュメンタリー音源は生々しい。
90年代以降のルーのギター・プレイにつながるデリケイトなインストの「The Room」と、
1989年のライヴの「Sweet Jane」「Walk On The Wild Side」で締める。
DVDは約76分の1989年8月13日のライヴがメイン。
1990年にVHSとレーザー・ディスクで発売された『THE NEW YORK ALBUM』の映像だ。
こちらも『New York』の曲をアルバムどおりの曲順で14曲収め、
バンド・メンバーもディスク2と同じだが、
そのCDに入っている公演とは別のライヴである。
もちろん画質音質編集極上で彫りの深い仕上がり。
曲によっては椅子に腰かけてタバコをくゆらせながらプレイするルーはやっぱりクールである。
表情ひとつ変えずにエレクトリック・ギターを弾き語るルーに対し、
戦々恐々とした様子で演奏するバンド・メンバー3人の佇まいも見どころで、
馴れ合い無しの真剣勝負が楽しめる。
映像以外に、
アルバム全曲の24 Bit / 96 kHzのオーディオ・トラックと、
約26分のルーのインタヴュー(音声のみ)も入っている。
そして本編のLPはディスク1と同じリマスタリングの音が使われている。
計57分弱だから無理すれば1枚のLPに収まるポリュームだが、
それだと繊細さも迫力も激減の尺だから2枚組で贅沢にレコードの溝を使った効果ありありで、
死んだ音が目立つ最近製造されたLPの中でも出色の生々しい音の仕上がり。
180グラム重量盤の仕様も相まってサウンドの肉体感が伝わってくるのであった。
16ページのブックレット封入で、
ハード・カヴァー仕様のジャケットの印刷状態もたいへんよろしい丁寧な作りである。
やはり『New York』に入り込んだことがある方なら持っておきたいグレイト・リイシューだ。
★Lou Reed『New York』(SIRE/RHINO R2 628762/603497847556)3CD+DVD+2LP
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