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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』

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ミック・ジャガーも『太陽の果てに青春を』(1970年)で演じた、
19世紀のオーストラリアの“反逆者”ネッド・ケリーが題材の劇映画。
ピーター・ケアリーの本『ケリー・ギャングの真実の歴史』が原作にした“新解釈”で迫り、
ジョン・ウォーターズ監督による“2020映画ベスト10”選出も納得の佳作だ。
出演はジョージ・マッケイ(『1917 命をかけた伝令』)が務めている。

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19世紀のオーストラリア。
貧しいアイルランド移民の家庭に育ったネッド・ケリー。
頼りにならない父の代わりに、幼い頃から、母と6人の姉弟妹を支えてきたが、
父の死後、生活のため母はネッドを山賊のハリー・パワーに売りとばす。
ネッドはハリーの共犯として10代にして逮捕・投獄されてしまう。

出所したネッドは、娼館で暮らす可憐なメアリーと恋に落ち、
家族の元に帰るが幸せも長くは続かない。
横暴なオニール巡査部長、警官のフィッツパトリックらは、
難癖をつけてはネッドや家族を投獄しようする。
貧しい者への横暴と家族や仲間への理不尽な扱いに憤り、
ネッドは弟らや仲間たちと共に“ケリー・ギャング”として立ち上がる。

以上は、オフィシャル・サイトに書かれたストーリーをアレンジしたものである。

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ネッドが自分の子どもに“お父さんの本当の姿”を伝える調子のナレーションを随所に挿入し、
エロチックな描写やヴァイオレントなシーンが盛り込まれているにもかかわらず、
落ち着いたトーンで進む。
重厚な味わいも醸し出されているが、
ファッションをはじめレトロな雰囲気に頼ることのない程良くモダンな映像も相まって、
アップデートされた一種の西部劇としても楽しめる。

だが、もちろん生々しい仕上がりだ。
終始、目が離せないし、息を呑みっぱなしである。
内容豊富なのによくぞ2時間強に収めたと言いたい編集センスで、
あなたもネッド・ケリーの目撃者となる。

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迫害と不正が絶えず卑怯な人間たちの裏切りの連続である。
次から次へと自分に襲い掛かってくる不条理に抗う波乱万丈の過酷な人生を描くだけに
ハードコアな内容だが、
いい意味で“エモ”のスパイスが効いているところがポイントだ。

強い英雄であるかもしれないが、
怒りだけでなく弱さや苦悩もていねいに描き出し、
人間味あふれるネッドの魅力を浮き彫りにしている。
戦闘シーンにじっくり時間を割いているのも、
極限状態の心理をていねいに綴っているからだ。

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いわゆる権力者との闘争だけでなく、
僕にとっては家族・・・いや親・・・もっと言えば母親との“闘争”の映画とも言える。

家族の生活のために売り飛ばされる子どもは今も世界中に無数存在し続けているわけだが、
結婚等も含めて性的な観点も多い女の子だけでなく、
仕事をするために男の子も使いに出される。
ドキュメンタリー番組などを観ると、
そういった子供たちのほとんどは親に対して複雑な感情を抱く。

やたらと男にもてる魅力を活かして母親は家族と一緒に生き延びてきたが、
日本なら小学校卒業かどうかの年齢でネッドを売り飛ばす。
しかも山賊に。
僕にはネッドのすべての行動が“鬼母”に対する愛憎に突き動かされているように映る。

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子ども時代は特にそうだが、
この映画のネッドは、
青年になってからもいわゆるマッチョ・イメージとは一線を隠すルックスとキャラだ。
だがストロングでなければ生き延びられない運命のレールに乗ってしまったネッドだけに、
タフになっていく。

ネッドは母親から言われていた。
「男になれ!」と。
だから弱音を吐けない。

心無い言葉での“精神的な虐待”を受け続けている子どもは、
意外と母親を憎み切れず、
夫婦仲が悪いと甘えられない。
特に長男は。

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ラストもこの映画らしく妥協無し。
最後のネッド・ケリーの言葉が最高の金言だ。

さりげなく映像と物語に寄り添う音楽もいい。

オススメ。


★映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』
2019年/オーストラリア=イギリス=フランス/英語/125分/ビスタサイズ/原題:True History of the Kelly Gang/PG-12
© PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019
監督・製作:ジャスティン・カーゼル『アサシン クリード』/脚本:ショーン・グラント『スノータウン』/原作:ピーター・ケアリー「ケリー・ギャングの真実の歴史」/製作:リズ・ワッツ『アニマル・キングダム』、ハル・ヴォーゲル『エンドゲーム』/撮影:アリ・ウェグナー『レディ・マクベス』/音楽:ジェド・カーゼル『ジュピターズ・ムーン』/編集:ニック・フェントン『アメリカン・アニマルズ』/プロダクションデザイン:カレン・マーフィ『アリー/スター誕生』
出演:ジョージ・マッケイ『1917 命をかけた伝令』/ニコラス・ホルト『マッドマックス 怒りのデスロード』/ラッセル・クロウ『グラディエーター』/チャーリー・ハナム『パピヨン』/エシー・デイヴィス『真珠の耳飾りの少女』/ショーン・キーナン『ドリフト』/アール・ケイヴ/トーマシン・マッケンジー『ジョジョ・ラビット』

6月18日(金)より渋谷ホワイトシネクイント、新宿シネマカリテほか全国順次公開
公式サイト:kellygangjp.com


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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