映画『ディナー・イン・アメリカ』
2021-08-30

アメリカの片田舎で家族と平穏に暮らすパンク好きのダメダメな少女と、
イケイケのパンク・ヴォーカリストの偶然の出会いで生まれた奇想天外ラヴ・ストーリー。
アメリカ映画の面白いところを凝縮した“パンクなラヴコメ”と言い切りたい快作だ。

パティ(エミリー・スケッグス)は孤独で臆病、しかし根はパワフルな少女。
父と母と弟と暮らして過保護に育てられ、
したいこともできずに単調な毎日を送っている。
唯一、平凡な人生から逃避できる瞬間、それはパンク・ロックを聴くこと。
自分の部屋でパンク・ロックをラジカセで流しながら一人ノリノリでダンスしている。
パティの推しメンはパンク・バンドの“サイオプス”の覆面ヴォーカリストだ。
そんな彼女が、
ひょんなことから警察に追われる不審な男のサイモン(カイル・ガルナー)を
家にかくまうことになる。
古典的なパンク素行のサイモンの悪態に家族は顔をしかめるも、
山あり谷ありでパティとサイモンは相通じるものを感じていく。

パティのキャラが実にイイ。
GARLIC BOYSの名曲「ダンシングタンク」を思い出す少女である。
何から何までまったくイケてないしファッション・センスも論外だが、
純情な情熱は人一倍。
だから映画が進むにつれてどんどん輝いていく。
一般的なパンクとは正反対の体育会系の男たちにからかわれて落ち込むも、
屈しない。
つるむことなく周りに迎合しない“アウトサイダー”であり、
ヴィジュアルもひっくるめて我が道を行くところは、
まさにパンク。
だからバンドマンに憧れる少女の“アメリカン・ドリーム”に近づいていく。

監督・脚本・編集のアダム・レーマイヤーが、
撮影監督、編集、ドキュメンタリーカメラマンとして10年間ハリウッドで下積みを経験した、
というのが納得できる仕上がりだ。
バランス感が絶妙なのである。
観る人を置いてけぼりにしない適度なスピード感でドタバタ劇とは一線を画し、
登場人物の感情をさりげなく描き出している。
そのレーマイヤー監督は、
「(『ディナー・イン・アメリカ』は)
今の自分を形作った90年代のパンクシーンに捧げるラブレター」と語っている。
パンクがアメリカで初めて“市民権”を得るも、
その反動としてアンダーグラウンドではアンチ・メジャーな動きも活発だった
90年代のパンクのシリアスかつユーモラスな空気感も真空パックされている。

サイモンはそういう種々雑多な90年代パンクのハイブリッドみたいな男だ。
メジャー感のある雰囲気ながら、
フロントに立つバンドの“サイオプス”は音楽的にはハードコア・パンク寄りで、
サイモンの活動の進め方も商業主義を拒否している印象で妥協しない。
“普段のヴィジュア”ルはクールにキメてニヒルを気取っている。
“サイオプス”のサイモン以外のメンバーが不揃いなところにも、
スタイリッシュではなかった90年代のUSパンクの特徴がよく表れている。
長髪でパンク・バンドやるのが広まったのは90年代に入ってからなのだ。

近年は俳優としても活躍中のJESUS LIZARDのヴォーカルのデイヴィッド・ヨウが、
バンドのプロモーター役で出演しているのも嬉しい。
最後のライヴ・シーンに現れて警察を呼び、
中指をしゃぶって立てるポーズもさすがサマになっている。
オススメ。

★映画『ディナー・イン・アメリカ』
2020 年/アメリカ/英語/ 106 分/カラー/ 5.1ch /シネマスコープ/原題 Dinner in America /字幕翻訳:本庄由香里
監督・脚本・編集:アダム・レーマイヤー
プロデューサー:ベン・スティラー、ニッキー・ウェインストック、ロス・プットマン
エグゼクティブプロデューサー:ステファン・ブラウム、ショーン・オグレー
音楽:ジョン・スウィハート
撮影:ジャン=フィリップ ・ベルニエ
出演:カイル・ガルナー、エミリー・スケッグス、グリフィン・グラック、パット・ヒーリー、メアリー・リン・ライスカブ、リー・トンプソン、デイヴィッド・ヨウほか。
配給:ハーク
配給協力: EACH TIME
© 2020 Dinner in America, LLC. All Rights Reserved
9月24日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
公式 HP hark3.com/dinner
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