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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『モガディシュ 脱出までの14日間』

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アフリカ・ソマリアの1991年の内戦に巻き込まれた韓国と北朝鮮の大使館員たちの“脱出劇”を
実話に基づいて描く2021年の映画。
ポリティカルなネタをある種のエンタテインメントを交えてわかりやすく組み込み、
韓国映画らしいダイナミックな仕上がりだ。


1990年、ソウル五輪で大成功を収め勢いづく韓国政府は国連への加盟を目指し、
多数の投票権を持つアフリカ諸国へのロビー活動に励んでいた。
ソマリアの首都モガディシュで韓国大使を務めるハン(キム・ユンソク)は、
現地政府の上層部に何とか取り入ろうとしている。

一方、韓国より20年も早くアフリカ諸国との外交を始めていた北朝鮮のリム大使(ホ・ジュノ)も
国連加盟のために奔走し、
両国間の妨害工作や情報操作はエスカレートしていく。

そんな中、ソマリアの現政権に不満を持つ反乱軍による内戦が激化。
暴徒に大使館を追われた北朝鮮のリム大使は、
絶対に相容れない韓国大使館に助けを求める決意をする。

サブ2

韓国と北朝鮮は、朝鮮戦争の“休戦協定”をかわしてはいるが、完全な“終戦”ではない。
形式上は今もなお“戦争状態”で、
北朝鮮にとって中国やロシアなどの強権同志国家以外は世界中が敵だから金正恩は挑発を続ける。
この当時から今も基本的に状況は変わってない。

そんな油断大敵一触即発の両者が、
疑心暗鬼の反目を繰り返しながら協力していくところがこの映画の見どころの一つ。
ソマリア駐在の“南”と“北”の大使館員が、
自分の家族らとともにモガディシュから脱出する様子がスリリングである。
イラン革命の時のアメリカ大使館人質事件(1979~1981年)ほどではないにしろ、
わりと最近だと昨年のアフガニスタンやロシア侵略後のウクライナに連なる
大使館員の“受難”の歴史の一断面だ。

サブ3

僕にとってはソマリアを舞台にしていることがこの映画のポイントだ。
アフリカ大陸の東端のソマリアは
ネット社会になった今でも一生懸命情報を捜さないと状況はわからない。
この映画の内戦の“流れ”で2000年代には
イスラム過激派勢力“アル・シャバブ(略称:シャバブ)”が生まれ、
容赦ない活動で国民を恐怖に陥れる。

あくまでも米国のシンクタンクの“評価”だが、
ソマリアはここ15年近く連続で“失敗国家(failed state)”ワースト・スリーに認定されている。
何年も真にアナーキーな政治状況とみなされている。

ジョン・ライドンが最近“転向”を表明したように、
政治レベルでのアナーキーは理想主義で現実問題とんでもないと言わざるを得ない。
真の無政府状態で暮らすソマリア国民の「治安をどうにかしてほしい」という何年も前に聞いた声が、
僕の鼓膜から永遠に離れない。

サブ1

基本的に韓国はソマリア国内の問題に関して“部外者”で“他人事”だからこそ、
クールな視点でソマリア“動乱”の一端がディテールにこだわってリアルに描かれている。

現在ソマリアは韓国政府から渡航禁止国家の一つに指定されているため、
この映画の舞台であるモガディシュでは撮影ができなかったという。
そのためスペインにも近くアジアっぽさも漂うアフリカ大陸北西部のモロッコで撮影を行ない、
しっかり当時のモガディシュをリサーチして生々しく“再現”している。

シリアやミャンマーやアフガニスタンなどと同じく
ソマリアも忘れられた地の一つになっている・・・というか、
それ以前の問題でほとんど状況が知られてない国と思われる。
プライベートの人間関係と同じく関心を持つことが大切だし、
様々な視点で物事を見ることの大切さもあらためて知る映画だ


★映画『モガディシュ 脱出までの14日間』
原題:모가디슈 ESCAPE FROM MOGADISHU/2021年/韓国/カラー/121分/シネスコ/5.1ch/字幕翻訳:根本理恵
監督:リュ・スンワン 
出演:キム・ユンソク、ホ・ジュノ、チョ・インソン、ク・ギョファン、キム・ソジン、チョン・マンシク
提供:カルチュア・エンタテインメント 配給:ツイン、 カルチュア・パブリッシャーズ  宣伝プロデュース:ブレイントラスト  
(c)2021 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS & FILMMAKERS R&K All Rights Reserved. 
7月1日(金)新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国ロードショー。
mogadishu-movie.com


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
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