なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『セデック・バレ』

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『海角七号/君想う、国境の南』(2008年)に引き続き、
ウェイ・ダーションが監督(+脚本)を手がけた強烈な台湾映画である。
“太陽旗”という第一部と“虹の橋”という第二部の二部構成でトータル4時間36分。
圧倒的なアクション・シーンのダイナミズムに支えられて感情の鼓動が震える人間ドラマの大作だ。


台湾中部の山岳地帯で虹を信仰しながら暮らす狩猟民族のセデック族を描いた映画だが、
1930年(昭和5年)に勃発した“霧社事件”がモチーフになっている。
霧社事件とは日本統治時代後期における台湾原住民の最大規模の抗日暴動事件だ。
台湾の霧社(現在の南投県仁愛郷)で行われていた学校の運動会などが襲われ、
日本人のみが狙われて約140人が殺害されるまでが本作の第一部。
4日後には日本の軍と警察による総攻撃が始まり、
蜂起したセデック族の人々が“地の利”を活かした山岳地帯で抗う戦(いくさ)以降の話が第二部だ。
多少脚色しながらも実在の人物のモーナ・ルダオを主人公にして史実を基づいた映画である。

主演は現地教会の牧師で部落の長でもあり映画初出演のリン・チンタイ。
木村祐一、安藤政信、河原さぶ、ビビアン・スーも出演している。

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戦場で死ぬのが男であり、
戦った男の首を狩ってこそ真の勇者という物語。
マッチョもヘッタクレもない。
そういう世界なのだ。
原始と蔑むことなかれ。
結局は食うか食われるかで生きるか死ぬかの世の中。
姿形を変えて地球上のあちこちで続いているし根が不実だらけの日本だって大差はない。
だから死者の数だけ見ている者の心の全身に傷が刻まれるほどリアルに映るのだ。
この映画の秘められたキー・ワードは様々な意味での“プリミティヴ”である。
必ずしも男性的な映画でもない。

気合いに満ちた伝統的な日本のハードコア・パンクと武闘派ニューヨーク・ハードコアと
デス・メタルとポリティカルなパンクの奇跡的な融合みたいな映画である。
すべてが血で血を洗う生存と自尊心と名誉のための戦い。
それもハンパない濃度だ。

勇猛果敢なのは成人男性だけではない。
子供たちも立ち上がって“武器”を手に取り、
公用語をセデック語から変えるべく日本語を教えた日本人教師に向かった後も大人たちと同等に戦う。
妥協無きエクストリームなシーンが容赦なく続出する。
血が噴く映画を見慣れている人間でも正視にたえないシーンもある。
首を狩ることが勇気ある行動だから首が飛ぶのは当たり前。
銃だけでなく刃物も多用するから血は絶えない。
誇張しているがゆえにコミカルにも映るホラー映画とは違ってすべてが生々しい。
かなり壮絶なシーンが頻出するからこの映画に臨むにはある種の覚悟が必要だが、
世界も世の中も結局その連続だ。

積もり積もった憎悪の逆噴射なのだろうが、
日本が行なった非道より台湾原住民セデックの方が百万倍は残虐に描かれている。
霧社事件に対する監督の捉え方がそういうことなのだろうと解釈したが、
台湾で大丈夫なのか?と心配してしまうほどで、
実際多くの評論家が暴力描写を非難しているという。
それでもこれだけハードコアな表現で仕上げたところに、
霧社事件だけでなく台湾と日本の関係に真正面から向き合う監督の誠意が感じられる。

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古今東西どんな局面でも単純に敵と味方を完全に分けることなんてできない。
単なる“台湾 vs 日本”の映画とは百万光年かけはなれている映画で、
支配/被支配の関係に変わりがないとしても両者が交流するシーンもある。
セデック出身で“日本人”として警察官になった兄弟の命がけの葛藤も描かれ、
そこには映画『二つの祖国で・日系陸軍情報部』に近いニュアンスも感じられる。
セデック族も一枚板ではなく集落ごとに分かれていて縄張りみたいなものもあったようで、
特に頭目の一人である主人公モーナは若い頃から時に不遜な態度で他の集落の人間とトラブルを起こし、
命も狙われ続けていた。
さらにセデックと日本人だけでなくこの映画には漢人も混ざっている。

長編の中に様々な人物のドラマを絡めながら話はふくらんでいき、
むろん様々な家族の結びつきも痛いほど描かれている。
政治的な映画ではない。
あくまでも“人間映画”である。

武士道にも似た“道義”がテーマとも思える。
狩猟民族のセデックにとって、
命綱(ライフライン)であり祖先が守ってきた狩り場は最も大切なものだし、
人間の普遍的な尊厳として見下されたくないというプライドも持っている。
“よそ者”にそれらが荒らされることに対しては命がけで抗い、
潔癖なる精神性は時として退路を断った二者択一を自分たちに突きつける。
戦闘続行か投降か。
戦死さもなくば自決か。
細かい事情等は違うにせよ太平洋戦争末期の沖縄の悲劇を思い出す“集団行為”もある。

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霧社事件の表面的な再現に留まらない示唆に富む映画だ。

セデック側が自嘲するなど各々セリフでそういう言葉を吐いて、
“文明 vs 野蛮”の図式で日本人とセデック族のコントラストが描かれる。
それは世界中の各地で起こり続けている衝突にもつながる。
毒ガス爆弾を使うところも含めて日本側の方法論や意識を見ていると、
ベトナム戦争をはじめとする第二次世界大戦以降の世界中の介入の歴史ともダブる。

狩猟民族ゆえに生きるために動物を殺すシーンも隠すことなく日常の行為の一部として描かれる。
狩りをして得た生き物や家畜を解体した肉をみんなで分け合って食べて生活する。
自分たちが住む土地の動植物と一種の“ハーモニー”を成しながら生きる原始共同体だが、
人間が“血の儀式”で殺されていく場面の合間に狩猟や食肉のシーンが日常の一コマとして挿入されると、
摂理を超えた生と死を実感して考えさせられる。
監督が意図したことではないだろうが、
ベクトルは違ってもCARCASSやCONFLICTの表現のように
人間と動物の両者の血と肉がダブって見える作りも興味深い。


脚本同様に強直豪腕ながらもデリケイトな味わいを内包した映像力は、
デカいスクリーンで見せる映画であることの必然性に満ちている。
すべてにおいて過剰で執拗。
戦闘場面をコンパクトに縮めるなんてことはしない。
これでもか!ってほど見せるのは戦いってものが一瞬で終わるものではないことを示すかのようだ。
飛行機や大砲といった当時の日本の“文明の利器”が活躍するシーンも映し出すが、
やはり大勢の人間が絡み合う緻密な描写の戦闘シーンが見どころだ。
ナチュラルな映像色が中心だが、
霧社事件という名称に引っかけたのか大量虐殺が霧の中で行われたように見える映像は寒々として恐ろしい。

音楽が随所に挿入される映画でもある。
スリリングなインストも使われているが、
延々続く虐殺シーンも含めて悲しみをたたえる旋律の民謡みたいな音楽が多用され、
歌詞が必ず日本語の字幕で表示されるところも特筆したい。
セディクたちが踊り歌うシーンも民俗音楽っぽく生の躍動感に満ちている。

もちろんスピリチュアルだ。

“虹の橋”を渡るセデックは言う。
「セデックは死んでも滅びはしない」
名言である。

死んでも滅びはしない。


★映画『セデック・バレ』
2011年/台湾/カラー/セデック語・日本語/第一部144分、第二部132分/シネマスコープHD
4月20日(土)から渋谷ユーロスペースと吉祥寺バウスシアターで公開。
以降、全国順次公開。
(C) Copyright 2011 Central Motion Picture Corporation & ARS Film Production ALL RIGHTS RESERVED.
http://www.u-picc.com/seediqbale/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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