なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ハナ~奇跡の46日間~』

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91年の4月に日本の千葉県で行なわれた第41回世界卓球選手権大会における実話を基に、
ひとつになって戦った韓国と北朝鮮の卓球選手たちの46日間を描いた映画。
日本が舞台の映画だから日本で撮ったように見える作りになっているが
本作がデビュー作のムン・ヒョンソンの監督でほとんどを韓国で撮影した作品である。
ハ・ジウォン(映画『TSUNAMI-ツナミ-』、ドラマ『シークレット・ガーデン』[共に2010年])と
ペ・ドゥナ(映画『空気人形』[2009年]、『クラウドアトラス』[2012年])の熱演も手伝い、
終盤にはぼくも熱い涙が湧いてきてしまった。

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韓国のヒョン・ジョンファ(ハ・ジウォン)と年上の北朝鮮のリ・プニ(ペ・ドゥナ)は宿命のライバル。
ジョンファは王者・中国の壁がなかなか破れない中、
91年の世界卓球選手権大会にはプニを含む“奇跡”の南北統一チームで参加することになった。

だが自由な気風の中で育ってリラックスした韓国の選手と
全体主義の監視下で育っていつでも張り詰めている北朝鮮の選手とでは
価値観や生活環境が違いすぎる。
ジョンファとプニをはじめとしてみんな親睦の場でもピリピリしまくる。
スポーツは国境を超える!と言うはたやすいが、
近親憎悪の念も強いこの両国だと簡単には事が進まない。
それでもゆっくりと交じり合ってチームらしくなって本番に臨み、
日本などと戦っていく。
だが病気で倒れる選出も現われ、
北朝鮮から派遣された“監視員”からは一般の感覚からすればありえない非情な命令も下される。

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スポーツにつきものの汗と涙のベタな感動ものの胡散臭さを鮮やかに超える
ジョンファとプニを演じた二人の女優が何しろグレイトだ。
前者は明るく勝気でひたむき、
後者はシニカルでクール・ビューティだが、
どちらも女性としても人間としても魅力に溢れていて目が奪われっぱなしなのだ。
人生を賭けて情熱を傾けて真剣に取り組んでいるひとは美しい。
アスリートは無意識のうちに肉体のパフォーマンスにもなるからさらに美しい。
向上心を絶やさずにおのれを磨いて“勝利”を目指すひとは、
“こんなもんでいいだろう”みたいな程々指向の人間の百万倍輝いている。
愛国心云々以前に金メダルを目指す精神的な必然性に突き動かされて困難を突破する、
そんな二人が見事に演じ切られている。

それぞれの“国(≠政府)”のキャラを象徴しているかのごとき対照的な二人は、
常に距離を置きながらも、
いや距離置いているからこそ“一点”ではなく相手の“全身”が見えてくる関係である。
真剣に向き合っているからこそ絶えることのない二人の間の緊張感は笑っちゃうほど“絶妙”で
見ている方も快感になってくる。
プライドや意地で牽制し続ける刺激的な融和は国同士の和解のヒントも示唆しているかのようだ。

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メインのその二人はシリアスな表情をあまり崩さないが、
他の俳優たちがユーモラスに支える。
といっても緊張の糸をゆるめない北朝鮮の人を演じる俳優たちはあえてほとんど能面で通したと思われ、
韓国側の役の人たちとははっきりと顔つきが違う。
ぼくにはわからなかったが、
北朝鮮の人の役を演じた俳優が北朝鮮のナマリで会話をしたというのも別のムードを醸し出した一因だろう。
声のトーンの違いは音楽と同じく意識がストレートに表れる。
なにしろ出演した全員が主人公と言えるほどキャラが立った人間ばかりだ。
韓流ならではのトゥー・マッチな盛り上げ方もまったくナチュラルだし、
韓流ならではのツッコミどころ一杯のズッコケ・シーンも盛り込まれている。
平穏に見えても常に死を覚悟せざるを得ない日々を笑い飛ばすしかない気概すら感じられるのだ。
コミカルな部分と背中合わせどころか映画の背骨になっている基本的なテーマは重厚で、
重苦しくもある。
序盤に出てくる「箸一本で殺せる」というセリフがジョークではなく本気だからこそ身が引き締まった。

とはいえスポーツ、
特に卓球という競技を扱っているからこその躍動感たっぷりなところもポイント高い。
“ピンポン”とも呼ばれるスポーツならではのハジけたスポーツの特質が映画全体を覆っている。
玉は軽いが狭いスペースで行なわれるからこそ他のスポーツ以上に俊敏さと緊張感を要求されるが、
そんな卓球のスピード感と同じテンポに貫かれている映画である。

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余計な手続きみたいなシーンや、もったいぶったシーンはほとんどなく、
映画全体の構成も贅肉を削ぎ落としたアスリートそのもの。
ベタベタしたセンチメンタリズムも極力排した核のみで加速するのだ。
なにしろ退屈な時間がまったくない。
シャープ&ドラマチックな脚本とストロング&オチャメな演技を、
“自己主張控えめ”な映像と音楽で見事に守り立てる。
適度にスローモーションを使った卓球の試合のシーンもまさに迫力満点。
全体的に情趣に富む淡い色合いの映像力も
じっくりと登場人物ひとりひとりの心を描き出すのに一役買っている。

一瞬に燃え上がったラヴ・ロマンスも描かれる。
だがジョンファとプニの関係と同じく政治的な状況が障害になって再会は約束できない。
通常の“別れ”の挨拶は「また会いましょう」みたいなものが一般的だが、
再会どころか連絡を取り合うことすらも難しい二国の人は(真の)“別れ際”にどういう言葉を言えばいいのか。
悩むシーンでまた泣けた。

いわゆる政治的な要素はほとんど表に出てこないが、
男性のみとはいえ韓国も北朝鮮も徴兵制度が設けられていることが示すように、
臨戦態勢で“対峙”する国が隣りにあるって日常生活の中に入り込んでいるから、
否応無しに政治が関わっている映画でもある。
“卓の中央のネットが軍事境界線(≒いわゆる38度線)”というふうに
卓球台を朝鮮半島にたとえて示すところも妙に生々しい。

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ノンフィクションのニュース映像の類はほとんど使われていないが、
最後に二人のその後の現実を映し出す。
この映画の舞台から22年間に二国の関係が進化したとも退化したとも言えない。
両国が24時間非常時で最前線であることに変わりはない。
北朝鮮のクレイジーな体制はこの映画からも伝わってくるし、
それが監督の誇張とは思えないのは、
一触即発のニュースが今もなお絶えないどころか断続的に軍事衝突が起こり続けている現実からもわかる。
映画を見ていても激昂せざるを得なかった。


英題は『As One』。
邦題に含まれる“ハナ”もハングル語で数字の“一つ”を意味するが、
原題は『KOREA』だ。
『KOREA』が韓国だけでなく北朝鮮を含む“朝鮮”そのものも意味する言葉だけに並々ならぬ覚悟を感じるし、
統一へのストレートな悲願が込められているように思えてならない。

“ひとつになる”という言葉はイージーに使われまくってウソ臭く吐き気がする。
全体主義的な恐怖感すら覚える。
でも引き裂かれて朝鮮戦争以降もおびただしい量の血を流し続ける朝鮮半島に
慣れ合いの“ひとつ”はありえない。
そもそももともとひとつだったのだから。
強制的に分断されて行き来もコンタクトも命がけで、
基本的に同じ民族にもかかわらず洗脳された人も含めて少なからぬ国民が憎しみ合う国同士だからこそ、
“ひとつ”という言葉がリアルに深々と響いてくる。
ぼくは“ひとつになる”という言葉がこの映画ほど胸に迫ってきたことはない。
「Korea is one.」というフレーズが重く響く。
卓球を通じて異国で統一されたのである。

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上映中の劇場内の感情濃度が増す底無し沼みたいな終盤に、
二人はゆっくりとひとつになる。
だが最後の試合が終わるまでなのが現実だ。
だが「これがlastではなくstart」と決意を新たにする。
そして二人は“おねえさんといもうと”になる。

爽やかな感動と重い現実。
苦い後味を残すからこそリアリティに富む佳作である。
オススメだ。


★映画『ハナ~奇跡の46日間~』
2012年/韓国/127分/ドルビーSRD/HD
4月20日(土)オーディトリウム渋谷ほか、全国順次公開。
http://hana46.jp/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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