なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『百年の時計』

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『デスノート』、『ばかもの』、『ゴジラ』『ガメラ』両シリーズで知られる金子修介が監督し、
木南晴夏とミッキー・カーチスが中心になり時代と世代と時間をまたがって織り成す人間ドラマ。
映画が始まってしばらくは“またよくある感動ものか”といった具合に冷めた気分で見ていたぼくも
静かなる活力にゆっくりと引き込まれていき、
終盤には涙があふれてきた。

“百年”の時を刻み続ける時計と
一昨年路線開業“百周年”を迎えた香川県の高松琴平電気鉄道(通称:ことでん)が鍵を握る映画だ。
制作中だけでなく完成後も、
舞台になった香川県で暮らす方々のヴォランティア多数の協力とバックアップで実務面が行なわれ、
ある意味DIY的な展開でも進んでいるという。

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香川県高松市の美術館学芸員の神高涼香(木南晴夏)は、
憧れの芸術家である地元出身の安藤行人(ミッキー・カーチス)の回顧展を担当することになった。
ただ数十年ぶりに故郷に戻ってきた行人に意気揚揚の涼香が新作制作を依頼するも、
老芸術家は創作意欲が薄れて回顧展にも消極的になる。
落胆しながらも執拗に説得する涼香に行人は琴平鉄道の車内で女性から昔もらった懐中時計を見せ、
「その“見知らぬ女性”がわかれば新しいアートが生まれるかもしれない」と語る行人の言葉に、
困惑しながらも涼香はその時計の持ち主を探っていく。
母が亡くなった一因にもなったという思いでなかなか許せなかった父(井上順)や、
幼馴染みのボーイフレンドである健治(鈴木裕樹)らの協力でその時計の秘密と持ち主がわかり、
悲恋を飲み込んで時空を超えるドラマチックなタイムスリップに突入していく。

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わかりやすい映画である。
主題歌がD-51の「めぐり逢い」というのもベタだが、
時代に流されずある意味恥ずかしいほど潔く針が振り切れた表現に間違いはない。
目が覚めるシャープな映像はないが、
まったりしたオーガニックな映像だからこそ彼の地の空気感を裸で伝える。
侘び寂びの効いた“ことでん”の電車をはじめとして、
おくゆかしい日本の佇まいにあふれている。
老芸術家の行人は多少エクセントリックだが、
ピュアな人間ばかりだ
それもまたそれぞれに稼いだお金で電車賃を払って“ことでん”乗って日常を営んできている、
素朴なふつうの人間の意識の流れをたたえたこの映画にふさわしい。
生活に根差したそれぞれの人生の終着駅、いや通過駅のような映画なのだ

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ストレートな映画をふくらませる一つは俳優陣のちから。
まっすぐな木南晴夏と
いかにもアーチストらしい社会性に欠けるワガママぶりがハマったミッキー・カーチスをはじめとして、
出演者すべてが生き生きしている。
中村ゆり、近江陽一郎、鈴木裕樹、水野久美、井上順といった主要人物に加え、
桜木健一、宍戸開、小林トシ江、浜田恵造(香川県知事)、大西秀人(高松市長)らも、
いい味を出している。

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普段は埋もれがちな地域に焦点を当てる視点は、
普段は埋もれがちな世界の国々に目を向ける意識に通じる。
内向きではないアグレッシヴな思考なのだ。
ミュージック・マガジン誌で日本のインディ・コーナーの連載を長年やらせていただいているから多少わかるが、
ローカルだからこそ持ち得るちからも体感できる映画である。

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このブログでも無意識のうちに鉄道絡みの映画を新旧内外問わずけっこう取り上げてきたが、
やっぱり鉄道には無限のロマンがある。
日常生活に密着した出会いと別れの舞台であり、
人々と人間ひとりひとりの歴史も運ぶ。
電車は自分の記憶を補う鏡だ。
たとえ“画面”を見る人が多い時代になろうが
電車の中が自分自身と向き合う空間でもあることに変わりはない。
レールや時間などの動かすことができない拘束の条件があるからこそ生まれる感覚を掘り下げていくと
色々な深い考察もできそうだ。

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脚本は敷居を低くしながら多少のひねりを加えて深い味わいを随所に刻み、
幾多の風雪に耐える“時間と記憶”というディープなテーマをゆっくりと浮き彫りにしていく。
電車と過ごした時間を取り戻すフラッシュバックのシーンで、
懐中時計が経験してきた日本のこの100年の歴史をたどる流れも格別だ。
太平洋戦争や終戦後の高度成長の時代を経て東日本大震災までの時間の中で
一人一人が悲劇も試練も幸福も入り混じった生活をしてきているレールの上で
悲恋がナチュラルに絡められている。

それにしてもこれほど“老カップル”の抱擁が美しい映画をぼくは見たことがない。
“これからの時間”と“これまでの時間”の結晶である。
「多くの人を巻き込みたい。それが人生の醍醐味」というミッキー・カーチスが吐く言葉も、
彼が演じる芸術家の人たちみならず無数の人間をインスパイアする。
内向き映画のようで日本だけでなく様々な国の人の心を揺さぶること必至の佳作である。


★映画『百年の時計』
2013年/日本/カラー/HD(16:9)DCP/5.1ch/105分
©さぬき地産映画製作委員会/真鍋康正 小松尭 大久保一彦 金子修介 金丸雄一
5月25日よりテアトル新宿にてロードショー!ほか全国順次公開
http://100watch.net


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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