なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『愛のあしあと』

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『美しいひと』『ジョルジュ・バタイユ ママン』で知られるフランスのクリストフ・オノレが監督を行ない、
母と娘それぞれの情愛と性愛をミュージカル・スタイルも交えて描いた2011年の映画。

フランスの貫録の女優カトリーヌ・ドヌーヴが主演で
実娘のキアラ・マストロヤンニが映画中でも娘になっている。
歌手ミシェル・デルペッシュと映画監督ミロス・フォアマンの出演も話題だ。
俳優と脚本と映像力とファッションと音楽がブレンドした映画ならではの醍醐味で魅せる作品である。

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1964年、1978年、1997年、1998年、2001年、2007年の6つの年のシーンでおおまかに構成されている。
高級靴屋で働く若き日のマドレーヌはひょんなことから身体を買われ、
副業として始めた“娼婦”の客になったチェコの青年医師ヤロミルにイッパツで恋に落ち、
まもなく結婚。
医師の地元のプラハに移住して娘のヴェラをもうけるも夫ヤロミルは浮気性で、
ソ連が侵攻した“プラハの悲劇”も重なってマドレーヌは娘を連れてパリに戻ってしばらくして再婚。
だがヤロミルとの縁はなかなか切れない。
一方で娘のヴェラも“この親にしてこの子あり”に育ち、
ボーイフレンドがいながらもライヴ・ハウスで知り合ったバンドのドラマーのヘンダーソンに一目惚れ。
ヘンダーソンはヴェラとたやすくセックスできない“事情”があったが、
同時多発テロのニューヨークでヴェラは“命懸け”で乗り越えようとする。
だがやがてマドレーヌは二つの悲劇に直面するのであった。

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ほとんどの人物が保守的な人からすれば鼻持ちならない人間に映るだろうが、
ほとんどの人物が非常識なようで普通の人間ですべて普遍的な人間模様に映る。
ほとんどの人物が“殺意”を抱くことなく発生した人間関係を受け入れながら生きていく。
映画中の「愛しているからその人の生き方をリスペクトする」といった類いの言葉で生きている。
不条理な最期を迎えた者もいる。

わかりやすいにもかかわらず入り組んだ脚本の妙味もさることながら、
単にストーリーを追わせるだけに留まらず
“母と娘の二股物語”という下世話な言葉が似合わない優雅な色合いの空気感が見事だ。
パリだけでなくプラハとロンドンとニューヨークも舞台にしたコスモポリタンな感覚に覆われ、
いくつもの時代を描いてテンポがいいから飽きさせずに2時間以上があっというま。
場面転換の速さとクールな切り口もポイントが高い。
「あなたへの愛なしでは生きられない♪」という歌詞が胡散臭さを超えて響き、
気恥ずかしいほどの愛の言葉とウィットで理想と現実のハーモニーが憎めないお国柄、
淡く鮮やかな映像力も相まって嗚呼フランス!と言いたくなるのだ。

“R15+相当”の映画だから“要ぼかし”のセックス・シーンも織り込まれているが、
邦画で最近目立つ無意味に長いやつでなく、
情事もポイントを押さえていい意味でクール&ドライ。
こっそりやるからセックスはいいものになるのであり、
こってりしているにもかかわらず「セックスだけが愛ではない」というセリフどおりなのである。

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カトリーヌ・ドヌーヴが主演した『シェルブールの雨傘』『昼顔』の他、
『女と男のいる舗道』『ブロンドの恋』『存在の耐えられない軽さ』などの映画への
オマージュのシーンも含まれているとのことで、
熱心な映画ファンの方々の心をくすぐる。
もちろん映画マニア以外の方もたっぷり楽しめる。

やはり演技が素晴らしい。
特に女優陣。
『シェルブールの雨傘』やポランスキーの『反撥』で脚光を浴びて以来、
フランスを代表する女優の一人であるカトリーヌ・ドヌーヴが主演で女王の風格を見せている。
『ゼロ時間の謎』『プレタポルテ』で知られるキアラ・マストロヤンニも実生活同様に娘になり切っている。
さらに最近だと『引き裂かれた女』で好演したリュディヴィーヌ・サニエも、
成熟してからはドヌーヴが演じる主役女性の小悪魔な若い頃をコケティッシュに演じているのだ。

ファッションもイイ目の保養である。
特に女性陣のシンプルでエレガンスなファッションはその手に興味が薄い人間をも引き付ける。
なにしろロジェ・ヴィヴィエのパンプスがきっかけで“愛のあしあと”の物語が始まり、
パンプスは最後までひそかなキーワードになっているのだ。

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必ずしもハッピーなストーリーではないしシリアスな話にもかかわらず、
どん底までは落ち込ませない。
フランスらしい優雅で個人主義で自由奔放な佇まいムーディで迫る“濃厚な愛”に押し倒されつつ
ポップと言えるほどの仕上がりなのは、
劇中で人物が歌う“ミュージカル・スタイル”も大きい。
デュエットも含めてフレンチ・ポップスやシャンソンなどが歌われ、
オリジナル曲以外にボ・ディドリーが書いた「Who Do You Love?」も歌われ、
いずれも歌詞が日本語字幕で表示されてありがたい。

さらに挿入される曲のセンスがまた非常にグレイトだ。
ナンシー・シナトラの「These Boots Are Made for Walkin'」のフランス語カヴァーである、
Eileen Goldsenの「Ces Bottes Sont Faites Pour Marcher」のオープニングからしてヤられる。
Anikaの「I go to sleep」(KINKSのレイ・デイヴィスが書いてペギー・リーらが歌ってきた曲)や、
FOALSの「Spanish Sahara」といった最近のアーティストのものもナイス。
そしてそして、
EVERYTHING BUT THE GIRLの「Missing」と
GISTの名曲「Love At First Sight」の2曲がまたたまらない。
もやもや感たんまりのエクスタシーに覆われたこの映画の本質を表している。

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映画だけでなく音楽も幼い表現によく出会って考えさせられる昨今だが、
大人の愛に包まれた大人の表現の映画。
静かに喝采したい。


★映画『愛のあしあと』
2011年/仏=英=チェコ/138分/フランス語(一部で英語)/カラー/シネマスコープ
6月29日(土)より新宿K’s cinemaにて2週間限定でフィルム上映。
7月5日(金)にDVD & ブルーレイ発売。
©Why Not Productions - France 2 Cinéma- Sixteen Films - Negativ
http://www.curiouscope.jp/ASHIATO/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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