なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ジェリー・フィッシュ』

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『ガメラ・大怪獣空中決戦』(95年)、『デスノート前後編』(2006年)、『百年の時計』(2013年)などを手掛けた、
金子修介監督の女子高生二人の“純愛”を描いた映画。
“R18+指定”の映画だから“歯に衣を着せぬ”セックス・シーンも含まれているが、
80年代に日活ロマンポルノの現場で培った詩情漂うエロティシズムで持っていく佳作である。

原作は95年生まれの雛倉さりえが16歳のときに書いた処女作で、
新潮社主催の“女による女のためのR-18文学賞”の第11回の最終候補になった『ジェリー・フィッシュ』。
2008年の“ミスマガジン審査員特別賞受賞”を受賞して今回初めて主演女優になった大谷澪と、
21歳まで新体操選手として活躍し現在モデルとしても活動しながら本作で女優デビューした花井瑠美の、
蒼い愛にめまいを覚える。

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クラスの中で周りに交わらず休み時間はいつも一人の高校生・宮下夕紀(大谷澪)は、
クラゲの水槽の前で声を掛けられた長身の同級生の篠原叶子(花井瑠美)と友情を超えて親密になる。
制服のスカートの長さにキャラの違いが表れている二人。
けれど平々凡々な家庭で暮らす夕紀は優等生の反動とも思える性行動に走り、
一方で事情ありの家庭に育ち男性遍歴を隠し持ち“片付けられない症候群”の叶子(かなこ)も
クラスメイトの男子から告られてカラダを重ねる。
二人ともそんな日常を秘密にしながら高校の図書室や下校時のバス停留場などで唇を重ねる日々の中、
ある日叶子から家に呼ばれた夕紀。
たが散らかり放題の叶子の部屋で“クラゲみたいなゴム”を発見した夕紀は嫉妬の心が燃え上がる。

以上、ネタバレは最小限に抑えておく。

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原作を読んでないから映画でどう脚色されたかはなんとも言えないが、
シンプルなストーリーでまずイケる。
オードリー・ヘプバーンとシャーリー・マクレーン主演の映画『噂の二人』が
劇中の中で言及されているのも象徴的だ。
一般的には女子高生のレズビアンというネタだけでアウサイダーなのかもしれないが、
まっすぐな気持ちに胸がすくのである。
精神も肉体も二人の交わりが研ぎ澄まされている。
キスで性感を高めつつ、
“プラトニックな肉体関係”ならではの性愛の難しさや不一致もさりげなく描く。

一方で男とのセックス・シーンが“ひどい”。
やりたい盛りであせっているという情状酌量の余地を考慮しても男子高校生の汗だくの行為は、
見ている時にうっとうしいものでしかなかった。
だがそれは監督が意図したことに思える。
この映画を最後まで見ると、
なぜ男とのセックス・シーンが“滑稽”に見えるように描かれたかもわかる。

コントラストが激しい。
男がすべて子供に見え、
女がすべて大人に映る。

もちろん子供っぽい女性も世の中にはたくさん存在するわけだが、
なんにせよ子供っぽい大人は嫌いだ。
無邪気でいいなんてことはなくそんなもんただ単に無責任なだけだから。
もっとも父親役の竹中直人が何本もドクターペッパーを空けて“晩酌”する糖尿病予備軍の姿は
亡き自分の父親ともダブって御愛嬌だったが。

そんな中で冷めた佇まいの高校生を演じる二人は際立って凛と輝きゾクゾクしてくる。
それは徒党の中で粋がる強がりとも違う。
まったく色合いが違うようで、
ぼくには21才にして諦観を歌った三上寛すらイメージする。

性別関係なく高校生や二十代をメインに描く最近の日本映画を見ていて幼いと感じてしまうこともよくある。
それは最近の日本のバンドやミュージシャンや歌手を聴いてよく思うことでもある。
一般の人も含めて年代問わず内向きの意識が根づいてしまって世界が狭く浅いからではないか。
でもこの映画には甘えがない。
いい意味で大人だし、
同時に心は純粋な十代だ。
映像そのものが静かに張りつめている。

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ドキュメンタリーものに対しても大いに言えるし、
DVDでの家庭鑑賞を前提に制作している映画も多いのだろうが、
“これを映画館のスクリーンで見る必要があるのか?”と思うことも多い。
単に教材みたいな映画だったりストーリーを面白おかしく追っているだけだったりすると、
悪くはないんだけど家で見れば済む。

でも『ジェリー・フィッシュ』は、
見られる環境で生活している方であれば是非でかいスクリーンで味わっていただきたい映画なのだ。
結局、
音楽は鳴った瞬間に意識が伝わると同じく、
映画は見た瞬間に痺れないとダメなのだとつくづく思う。
能書き説明はオマケ、
作品の肝の匂いはジャンル問わず1秒で伝わる。

映画のタイトルの“ジェリー・フィッシュ”は漢字にすると“水母”の“クラゲ”の英訳だが、
“水の母”とは言い得て妙な深い漢字表現である。
水族館の水槽の中でたゆたうクラゲは女性器のように揺らめいて蠢いて誘うのだから、
まさに二人の“入口”にふさわしい。
ベンチで寄り添う二人を捉えるシンプルな角度のアングルと顔や脚などへのアップでの迫り方、
ナチュラルな光の使い方が奏功した色合いなど、
瑞々しい半熟の二人を描く艶めかしい映像美も特筆すべきである。

全裸にもなっているし肉体が交わるシーンも少なくないが、
高校の制服姿も含めて“ギリギリ”を狙ったカメラ・アイも素晴らしい。
前述のように意識的に下品に撮った部分もあると思われるが、
“愛の舌”を絡め合うシーンはすべてまばゆいほど品がある。
中途半端な描写で無駄に延々と交尾を見せつける映画には興ざめするが、
厳選して描いた本作のセックス・シーンはすべて必然性がありいずれも映画のキー・ポイントになっている。

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女優として経験を積んでないからこそ体当たりで覚悟を決めた演技がすがすがしい
大谷澪と花井瑠美が新しい世界を切り開こうとしている映画だが、
川田広樹(ガレッジセール)、
川村亮介、
奥菜恵、
秋本奈緒美、
竹中直人が、
彼氏や家族などの役で脇をビシッ!と固めてイイ味を出している。
このへんの人たちがあまりに俗っぽいからこそメインの二人がブルーに燦然と輝いている。

終盤のベッドシーンが切なすぎる。
“初めて結ばれようとする日”のためにゴミ屋敷みたいだった室内を綺麗に片づけたと思しき部屋で
“勝負下着”を付けた二人の交わりの結末は、
ぼかしているからこそリアルに淡すぎてとてもここでは書けない。
とにかく正統派アイドルの風貌から踏み外した刺激あふれる大谷澪のキワドイ演技に殺られる。
そしてそして長身のクール・ビューティの花井瑠美に惚れる。

試写会が終わった後ぼーっとしてろくすっぽ挨拶もせずに関係者の方々の前を通り過ぎ、
帰宅してからあわてて感想のメールを送ってしまった。
感覚のどこかを痺れさせるちからのある映画。
それこそ痺れクラゲ、
いや“ジェリー・フィッシュ”という言葉に響きにふさわしい
やわらかい透明感が映像と物語に貫かれている。
また見たい。


★映画『ジェリー・フィッシュ』
2013年/92分
8月31日(土)に東京・シネマート六本木ほか全国各地で公開。
大阪・シネマート心斎橋などでは9月以降に公開。
http://www.r18-jellyfish.com/sp/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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