なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『Miss ZOMBIE』

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『弾丸ランナー』(96年)で脚本・監督デビューし、
ここ数年も『蟹工船』(2009年)や『うさぎドロップ』(2011年)などで話題になった、
64年和歌山県生まれのSABUの監督・脚本・原案の新作。
『幸福の鐘』(2002年)以来の完全オリジナル・ストーリー作品とのことだが、
女性ゾンビが主人公ということで多少ホラー映画の色合いも滲ませつつも流血ものではなく、
主演の小松彩夏が演じるゾンビをはじめとする登場“人物”たちの
デリケイトかつ生々しい心理を静かにかつ苛烈に描いたグレイトな作品だ。

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医者の寺本(手塚とおる)は妻・志津子(冨樫真)と息子・健一との三人でモダンな邸宅に住む。
ある日大きな荷物が送られてきて使用人の男二人が開封したところ檻の中には、
全身傷だらけのカラダでおびえた沙羅(小松彩夏)という名の一人の女性が。
肉を食料として与えない限り基本的に人間を襲うことはないペットとして送りつけられたゾンビだったが、
“取扱い説明書”とともに“万が一の時のための拳銃”が同梱されていた。
寺本家で沙羅をしばらく世話することにしたが、
能力的に単純作業しかできないためコンクリートが砕けた庭先を延々磨く仕事を割り振る。
四つん這いで尻を上げて作業を続ける扇情的な沙羅の姿で使用人の男たちの劣情の血がふくれあがる。
寺本も沙羅のエロティックな魅力に引き寄せられ、
子供たちから石を投げつけられ不良たちから肩を刺された彼女の治療にかこつけて接近。
さらに息子の健一は沙羅になついていく。
そんな流れの中で志津子は沙羅に親切な対応をしていただけに妻としても母親としても嫉妬がふくれあがり、
精神が決壊して追いつ追われつの終盤に突入する。

ネタバレを最小限にするため、
話の重要な節目のいくつかを割愛して大まかなストーリーの流れだけを書いておいた。

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脚本、映像、演技、音声、そのすべてが溶け合った映画でしかできない表現に殺られる。
終盤以外はほとんどがゆっくりと進行して全神経を覚醒される極北の表現であり、
陰鬱な映像美をはじめとするミニマリズムで『ニーチェの馬』も思わせるほどだ。
シンプルでわかりやすい展開でもこれほどまでのドラマがふくらむということである。
その要因のひとつが映像力。
ほとんどのシーンがモノクロなのだが、
心情を表すかのように場面によっては白が飛んだり黒でつぶれたりしたトーンの映像も使い、
ほぼ逆光で雲が動く空にカメラを向けた映像を話の展開時で入れているのも効果的だ。

出演者すべてのクールな熱演にもゾクゾクする。
やはりゾンビの沙羅を演じる小松彩夏の静謐な体当たりの演技は特筆すべきだ。
顔の表情を過剰に変えられずミニマルな動きしか許されないゾンビのキャラであるにもかかわらず、
いや制限された中であるからこそ自分のはらわたの中から自分の気持ちをゆっくりと紡ぎ出し、
粘膜質の感情表現にとろけて息を呑み身震いする。
慕われて愛されて潤いを増していく瞳が象徴するように穏やかな表情をたたえていく流れには
涙するしかない。
この映画で彼女のファンになるのはぼくだけではないだろう。
夫と息子をゾンビにさらわれた!と錯乱する志津子役の冨樫真の演技も迫真で、
裏切られた思いによって本作の鼓動を速めている。
映画の最終盤に冨樫真が発した慟哭と嗚咽が殺し合う声をぼくは一生忘れない。

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映像と溶け合った音声にも覚醒される。
セリフは必要最小限だからこそそのひとつひとつが必然だしハードボイルドな感情表現で進行するが、
ひとつひとつの声が空間に吸い込まれるように放たれて響く。
言葉の意味性に頼った説明的な作りにしてないところも映画ならではの可能性を突き進んでおり、
音の使い方も異様なほど強烈だ。
特に緊張感が高まるシーンでは、
いわゆるフィールド・レコーディングのように録られた音の音量を上げ、
登場人物の心理の表われであると同時に見る者の心理を追いつめるミニマル・ミュージックに仕立てた。
サイレントdeathアンビエント・ミュージックとも呼びたくなる研ぎ澄まされた空恐ろしい音声が、
グロテスクな愛にあふれ死の真心にあふれる意識の風景を浮き彫りにするのに一役買っている。

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沙羅が女性として“再起”していく過程があまりにも切ない。
おんなとしての情愛もさることながら、
帝王切開の痕が生々しい沙羅が“人間”としては成し得なかった母親としての慈愛は誰にも止められない。

沙羅が何をされても表情を変えないのは肉体的にも精神的にも痛みを感じないからか。
否、極限の痛みでカラダとココロがズタズタだからではないのか。
だが打ちつけられすぎて麻痺した感情や感覚もは限界を超えると再生して炸裂する。

免罪符を得るために正義で武装した独善者のエゴや
世間体を気にした道徳心で隠蔽した善人ヅラのエゴといった、
ヒトという種(しゅ)のエゴが世の中のあちらこちらで薄ら笑いを浮かべている。
笑顔もない沙羅はすべてのエゴを殺ぎ落としている。
だからこそ沙羅が終盤に産み堕として加速したエゴはまばゆいほど尊い。
でもそれを貫けなかった。
致命的な自己犠牲には見返りを求める計算高いやさしさなんてどこにもない。

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最初から最後まで目が離せない映画だが、
加速しながら二転三転して最終盤は全神経がスクリーンに吸い込まれる。
結末では死に体のヒューマニズムの心臓をブっ刺して息の根を止めて蘇生させる。

絆の時代に捧ぐ傑作である。


★映画『Miss ZOMBIE』
2013年/日本/約85分/シネスコサイズ
(c)2013 Miss ZOMBIE Film Committee all rights reserved.
9月14日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国ロードショー。
http://www.miss-zombie.com


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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