なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『天国の門』(デジタル修復完全版)

メイン1


ニューヨーク出身のマイケル・チミノ監督による80年公開の大作映画。
制作費が膨れ上がったにもかかわらず興業的に失敗したため制作会社をつぶしたとされる作品だ。

オリジナル・ネガの大半を含む撮影素材が廃棄されてしまっていたそうだが、
今回はチミノ監督の下でカラー調整および映像/音声がデジタル修復された完全版での上映となる。
これぞ映画館で見るにふさわしい3時間36分の壮大な傑作である。

他2

お坊ちゃんお嬢さんが集っているセレブな最高学府の卒業式のオープニングから、
まもなく20年後に飛んで殺伐とした空気に突入。
以降は1890年代の米国中西部ワイオミング州が物語の舞台となり、
“先住民”を気取る開拓者の牧場主協会が移民の皆殺しを企てる。
農場を盗っ人から守るためという大義名分だが、
生活に困って牛泥棒を行なう者も多かった移民は
牧場主協会の面々から“アナーキスト”呼ばわりで無法者扱いされていた。
そんなおりに冒頭の大学出身者の保安官がゆっくりと立ち上がる。
“代金”として受け取った牛が盗まれたものだったがゆえに
恋人の売春婦が“処刑リスト”に入れられたということで保安官の動きは加速し、
牧場主協会と移民は“全面戦争”に突入する。

他1

根がアメリカンなストーリー展開ゆえに話はわかりやすいが、
いくつものドラマが盛り込まれており、
物語の奥行きと広がりも深くでかい。
ポリティカルとも言えるし米国の保守派を逆撫でするような映画でもあるが、
愛国ゆえの反逆映画とも読める。
“インディアン vs カウボーイ”の図式と違うとはいえ、
“西部劇の逆噴射”のような趣も感じられる。
映画中で“war”という言葉が使われているように国家間の争いじゃなかろうが“戦争映画”でもある。
シリアスなテーマを盛り込みつつ一種のエンタテインメントとしても仕上げられ、
いい意味で“嗚呼アメリカ映画!”と思わされるのだ。
いわゆる平和主義(pacifism)で団結しただけでは絶滅される人々の闘いは理想主義を殺す現実であり、
だからこそ痛みを感じる心に無数のリアリティの弾痕が撃ち込まれる生々しい作りである。

他6

男優も女優もとてもクールでチャーミングだ。
主人公である裕福な保安官のクリス・クリストファーソンと
牧場主たちに雇われたハングリーな殺し屋のクリストファー・ウォーケンとの間で起こる、
売春婦イザベル・ユペールをめぐる三角関係。
保安官の旧友でマッチョ気質の男たちの中で生き抜くために酒を手放さない気弱なジョン・ハートの人生。
友愛と恋愛、信頼と信義、そして非情。
生まれも置かれた環境も違う様々な人間の心情を炙り出し、
底知れぬ空漠の荒野を描き出している。

他3

そういう精神面も含めて何もかも広大な描写も時間の使い方も大地がでかいアメリカならでは。
会社をつぶすほど時間と金をかけることができたからなのは確かだが、
殺伐としたシーンを少なからず含むにもかかわらず
ゆったりした作りゆえに落ち着いた気持ちで見られて時間の長さを感じさせず、
合理性が見え隠れするせわしない構成の作品とは違って余裕を持って映画の世界に入り込める。
じわじわ動いていくゆっくりとした時間の流れは物語のリアリティを高め、
ギリギリの状況で動く登場人物のすべてが“覚悟”を決める時間にも思える。

一見不必要な“楽しいシーン”もすべてが必然だ。
すべてのシーンが有機的につながっている。
監督のエゴで不要なシーンが加えられたり蛇足のシーンが残されたままの映画も多いが、
命がけの人間ばかりの映画にふさわしくそんなもんはすべて切断されている。
時間のゆとりにあふれた映画にもかかわらず無駄なシーンが1秒もない緻密な作りゆえに、
ストイックで引き締まっているのだ。

サブ3

すべてのグレイトな映画がそうであるように音声に対しても意識的な作品だ。
火薬や車輪などかハジける音も映画の大河を成す大切な要因になっている。

音楽の比重もたいへん高い。
デイヴィッド・マンスフィールドが音楽を担当し、
映画の中のバンド演奏シーンでは、
VENTURESでギター/ベース/ヴォーカルをやってきたジェリー・マギー、
Huey Lewis and the NEWS結成当初からキーボードを弾いているショーン・ホッパー、
ソロ活動が盛んなTボーン・バーネットが登場。
ダンス・パーティで素晴らしい演奏を繰り広げる。

そういった“陽”の音楽とは別に、
同じく明るいトーンながらもニュアンスは“陰”な挿入曲も非常に興味深い。
たとえば序盤で「Battle Hymn(邦題:リパブリック賛歌[戦いの歌])」が流れる。
日本では「お玉じゃくしは蛙の子」という曲名で知られ、
ヨドバシカメラがCMで替え歌にした曲の原曲としても有名な米国の民謡ではある。
だがアメリカのそういう曲は戦闘的ではなくまったりしたトーンでいながらも
nationalism(≠愛国主義)を高める曲だけに、
ぼくはしょっぱなで殺られて気持ちが引き締められて以降ずっと緊張感が続いた。
その他の挿入曲も、
ほのぼのとしたムードの中で殺伐とした気分をゆっくりとあたためる本作にふさわしい音楽ばかり。
今のUSAと変わらぬ恐ろしさとあたたかさで善悪を超える人間味が溢れてきて、
すべてまとめて飲み込む音楽の使い方のセンスにぼくは背筋が凍った。
RED KRAYOLA WITH ART & LANGUAGEの『Five American Portraits』も思い出す。

他4

映画館のビッグなスクリーンに吸い込まれたくなる映像作品でもある。
ハッピーな物語ではないにもかかわらず、
広大な風景のシーンもプライベートの人物描写も光を絶妙に制御した淡い映像美に魅せられる。
ぼくは今回の修復版をシネマート六本木の最前列と吉祥寺バウスシアターの最後列で見させてもらったが、
映画館の前方ではシーンの中の砂塵や砂煙みたいに粒子が躍る様子と白と黒の独特の階調が楽しめ、
映画館の後方では穂彫りの深い映像美が味わえた。
人物の表情も豊かに映し出し、
イザベル・ユペールのコケティッシュな魅力が光る室内と野外での微笑ましくまったりしたラヴシーンも、
つかのまのダンス・シーンも楽しい見どころだ。

自動車が普及する前の時代だけに馬が大切な移動手段で、
颯爽と走る馬車も実に風雅だ。
人間が生きるために飼われて取引の材料にもされている牛もさりげない存在感である。

執拗に繰り広げられる後半の殺し合いのシーンは、
強烈な戦闘シーンを含む古今東西の映画の先鞭を着けた思えるほど緻密かつ壮絶だ。
武器が刃物の類ではなく銃火器だからあまりドロドロはしてないが、
“移民軍”はいわゆるローマ軍にならったDIYのプリミティヴな装備ゆえに土臭い。
単に撃ち殺されるだけでなく、
“こんな死に方もあるのか!”と気づかされるディテールにこだわった描写にも驚かされる。

サブ2


結末が不可解な映画ほど骨を震わせる。
結局は金持ちが勝者なのか。
虐げられて生き残った者は死を選ぶしかないのか。
誰が誰を責められるというのか。
闘いの中で人間の美しいところも醜いところもはらわた丸ごとゆっくりとぶちまける。
正邪なんて誰にもわからないってことをすべての登場人物たちが命がけで知らしめる。
確かなのは出てくる人間みんなウソがないこと。
USAだけの話じゃなく世界をあまねくファックする。

“映画を体感した・・・”といドップリ気分で気持ち良くうなだれながら映画館を後にできる。
見たら脳ミソと心臓に刻まれて一生忘れない作品になること必至だ。


★映画『天国の門 デジタル修復完全版』
原題:Heaven’s Gate/1980-2012年/アメリカ/英語/216分
10月5日(土)より、シネマート新宿、10月26日(土)よりシネマート心斎橋にて公開。
ほか全国順次ロードショー。
HEAVEN'S GATE ©2013 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
http://heavensgate2012.com/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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