なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

CARCASS『Surgical Steel』

Carcass_jk.jpg


英国の“パンク/ハードコア/エクストリーム・メタル・バンド”の17年ぶりの6作目である。

オリジナル・メンバーのビル・スティアー
(g、vo/元NAPALM DEATHFIREBIRDANGEL WITCHGENTLEMANS PISTOLS)、
ほぼオリジナル・メンバーのジェフ・ウォーカー(vo、b/元ELECTRO HIPPIES~BLACKSTAR、BRUJERIA)、
ドイツのHEAVEN SHALL BURNのライヴ・ドラマーをしているダン・ウィルディング(ds)
によるレコーディング。
オリジナル・ドラマーのケン・オーウェンはゲスト・ヴォーカルで参加している。
プロデューサーはセカンド以降のCARCASSのアルバムを手がけた緻密な録音技師コリン・リチャードソンで、
ミックスとマスタリングは90年代以降のモダンなメタルの音を作り出した一人のアンディ・スニープだ。

もたつき気味のケン・オーウェンのドラムこそがCARCASSの足腰だったことも確か。
だが違うからってそれがどうしたっていうんだ。
『Heartwork』(93年)リリース後の初来日公演を観たオールド・ファンの方がナマで体感されたように、
映像でも確認できるように、
ケンのドラムはアルバムとは少なからず違っていた。
レコーディングではプロデューサーのコリン・リチャードソンによって補正されていたわけで、
本作もアルバムにおけるケンのラフなニュアンスをくみとった歯切れのいいドラム仕上げになっている。

音楽的は、
サード『Necroticism – Descanting the Insalubrious』(91年)の複雑骨折の楽曲テクスチャーと
4作目『Heartwork』の研ぎ澄まされたスラッシーな音の間を滑走しつつ、
前作『Swansong』(96年)のブルージーな残滓をも消化した内容。
しかもギターの音を重ねて録音していようが(現在はセカンド・ギタリストが加入している模様)
トリオ編成でレコーディングしているから、
セカンドまでの“三角形”のギリギリのバランス感も味わえる。
92年のEP『Tools Of The Trade』をアップデートしたみたいなアートワークも、
簡潔にメタルを凝縮したことを示すJUDAS PRIESTの『British Steel』を意識したアルバム・タイトルも、
本作の肝を象徴していて申し分ない。
デジパック背面のバンド名表記には初期のゴア・グラインド時代のロゴも使われている。

メタルもパンクもハードコアもグラインドコアもへったくれもない。
ここで鳴るのは確信に満ちたロックである。
しかも真に“ピースフルなロック”である。
ジャケットの表裏に並べられた手術と解体のための刃物類で豚と牛と鳥をさばいた次には人間を・・・
とばかりに無数の感情のヒダをやさしく切り刻む。
まろやかなメロディック・パートが逆に恐ろしい。
崇高な光すら感じられる。

曲名は『Reek Of Putrefaction』(88年)と『Symphonies Of Sickness』(89年)と
『Necroticism – Descanting the Insalubrious』に通じる前期CARCASSの言語感覚で、
通常あまり使われない専門的な解剖学用語などが多いから辞書を引かないとわからない言葉が多い。
歌詞は以前の全アルバムを凝縮したようなニュアンスである。
ポリティカルなのは当たり前。
二項対立で済まさないのも当たり前。
屠殺したラヴ&ピースの死臭漂う中で、
『Swansong』のジャケットを担当したメンバーが在籍したCRASSをはじめとする
アナーコ・パンクの屍(carcass)を踏み越えていく。
D・O・Tの曲「72」が過激化したような内容の「A Congealed Clot Of Blood」をはじめとして、
憎しみと哀しみの二重奏がデリケイトな音のグルーヴに命を授けている。
身のまわりのことや国内の問題にしか関心がないエゴイストなリベラルとは違う甘えのない響きに殺られる。

サードまでと同じく今回はビルもバッキング/サイド・ヴォーカルをとっている。
もちろんリード・ヴォーカルはジェフで、
フォロワーを多数生んでいる硫酸どろどろの喉が吐く言葉は意味深長である。
三上寛の曲「おど」の“みんな 首つって 死ねばいい”ってな百万回の殺意を突き抜けて行くところまで行った
『Heartwork』や『Swansong』の頃のようなネガティヴ・フィーリングもキープ。
だがキテレツすぎる初期の言語センスの復活も復活してナンセンスなユーモアも滲む。
ユーモアと言えばJeff Walker und DIE FLUFFERS名義でジェフが2006年に出した
カントリー/ブルース・カヴァー・アルバム『Welcome To Carcass Cuntry』を思い出す。
この『Surgical Steel』のヴォーカルも“デス・ブルース”に聞こえるではないか。

邦題も日本盤ならではの面白さを再認識させられる。
ぼくは基本的に原題を尊重しているが、
映画を例にとるとわかりやすいように原題だと取っつきにくくなることも多い。
トイズファクトリーから発売されていた頃の担当ディレクターが付けていた邦題の感覚に準じ、
原題のニュアンスを大切にした邦題が付けられている。

というわけでバンドのメンバーはもとより制作関係者の愛が凝縮された一枚。
むろんヘヴィ・ローテーションである。


★カーカス『サージカル・スティール』(トゥルーパー・エンタテインメント QATE-10043)CD
日本盤は、
「A Wraith In The Apparatus」「Intensive Battery Brooding」の2曲を追加した約56分13曲入りで、
24ページのブックレットにはボーナス・トラックを含む歌詞が載っており、
それらの和訳も付いた三面デジパック仕様だ。


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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