なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

太田裕美“まごころコンサート2013~まごころ39~”at Mt. RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE 10月25日

初恋


『レコード・コレクターズ』誌の初めて買ったレコードを明かす“ハジレコ”コーナーでカミングアウトしたように、
ぼくは80年頃まで太田裕美の熱心なファンだった。
ファンクラブの会員にもなっていたし70年代後半には朝霧高原バス・ツアーにも参加したほどだが、
ハードコアなどの極端な音楽と気持ちの上で“両立”が難しくなって7”シングルやLPは処分。
以来ほとんど気に留めずにいた。

ところが今年に入ってから少しずつ自分の中で“復活”してきた。
以前御飯食べながら太田裕美の話で盛り上がった関西拠点のシンガーソングライターのナガオクミさんが、
今春出した新作CD『スースーハー』を送っていただく際に添えられていた、
“太田裕美が好きな行川さんにぜひ聴いてもらいたいな”という言葉とそのCDで一気に再点火。
7”シングルとLPを次々と買い戻して聴き直して加速が止まらず久々にチケットぴあに並んだ。

今回のライヴは東京2デイズとはいえ共に318席の会場だから即ソールドアウトだったようである。
ぼくもギリギリでチケットを買えたクチで2階の指定席。
けど何ぶん小さな会場だし2階席でも前方の通路脇の席は1階の大半の席より見えてじっくり楽しめる。

処分せずに保存してある昔のコンサートのパンフレットやファンクラブの会報を見ればわかるはずだが、
たぶん裕美さんのコンサートを観るのは33年ぶり。
80年代後半はあまり表だった活動をしてなかったとはいえ、
コンサート・タイトルにもしてあるように裕美さんはレコード・デビュー39周年ちょうど間近の日。
なつかしむのは嫌いだが感慨深いものがあるのが正直なところだ。

結果、
死ぬまでにもう一度観ておこうと思って臨んだライヴだったけど、
死ぬまで裕美さんを観に行こうと思った。

12ページ

ピアノ弾き語り独演だった序盤以外はサポート・ミュージシャンとして、
岩井眞一(エレクリック・ギター、エレクトリック・ベース、“足鈴”、コーラス)と
河口修二(アコースティック・ギター、ハーモニカ、コーラス)が参加し、
必要最小限の音で原曲の輪郭をシンプルに綴り出していた。

裕美さんは過半数の曲でピアノを弾き語り、
数曲はヴォーカルに専念し、
数曲はアコースティック・ギターを弾きながら歌った。
それにしても裕美さんのヴォーカルである。
77年のアルバムのタイトルでもある“こけてぃっしゅ”そのものの歌声は健在だが、
たおやかな包容力が増している。
まっすぐだ。
とにかくまっすぐだ。
歌の内容以前に彼女のこのまっすぐな声を聴けただけでももう十分だったし目が覚めた。

一瞬一瞬一声一声を大切にする歌声は昔よりずっと生々しい。
彼女曰くこの晩は声のキーが高い曲が多かったという。
タイプはまったく違うがロブ・ハルフォード(JUDAS PRIEST)みたいに独特のハイ・トーンゆえに、
実際問題いつまでそういう声が出せるかわからない、
だから歌える間は(そういう曲)を歌っていきたい・・・というようなことをMCで言っていた。
ほんと覚悟を決めたかのような喉の震えだった。
おっとりした佇まいも変わってないが、
昔よりも深いちからを感じた。


セットリストにも驚いた。
新曲をやったわけではないが、
ベテラン特有の“懐メロ・コンサート”でもない。
今年はライヴが多かったようだが、
インターネット上でレポートされている方々の今年のライヴ・セットリストを調べていくと、
一般の方も集うイベントは別にして毎回かなり多彩な曲でステージを構成しているようだ。
いわゆる“ベスト・アルバム”“グレイテスト・ヒッツ”みたいのとはまったく違う我が道を進む選曲に、
自分にウソをつくことが一番失礼だと思うからこそファンに対して媚びない誠意を感じた。

今回は季節に合わせて“秋冬”がテーマだったようで、
台風が東京をニアミスした前後だったからでもないだろうが“雨”にまつわる曲も目立った。
中でもこの晩(MCで同じ演目でやると言っていたからたぶんこの翌日の26日も)は、
本人もMCで言っていたように特に渋い選曲。
曲を発表したばかりの時期にすらあまりやっていなかった曲もあるのではないかと思うほどで、
実際かなり久々にステージで披露した曲もあったようである。

太田裕美

予想だにしない展開にぼくは興奮した。
静かな曲だろうが彼女のヴァイブレイションが伝わってくるから否が応でも身体は動く。
どのアルバムからもまんべんなくというわけではないが、
初期から最近までほぼすべての時期の曲をフォロー。
『12ページの詩集』(76年)からは「一つの朝」「カーテン」「最後の一葉」、
『海が泣いている』(78年)からは
「スカーレットの毛布」「Nenne」「振り向けばイエスタデイ」の実質3連発でやってくれた。
18年ぶりに彼女の新作として買った当時ピンとこなかったCDのタイトル曲「魂のピリオド」もグッときた。
デビュー・シングルの「雨だれ」や「最後の一葉」はピアノで弾き語り、
今回の季節のテーマに沿った「九月の雨」と「さらばシベリア鉄道」はヴォーカルに専念してやった。
でもそういう有名なシングル曲は今年の他のライヴ以上に少なかった。
自分には他にも素敵な曲がたくさんあることを歌そのもので伝えていた。

要は守りに入ってないということである。
B面曲の「茶いろの鞄」はやっても2番目の大ヒット・シングルのA面曲「赤いハイヒール」はやらない。
彼女の代名詞と言える最大のヒット・シングル「木綿のハンカチーフ」すらやらない。
裕美さんには“太田裕美=「木綿のハンカチーフ」”というイメージが嫌だった時期があったようだが、
ぼくはこの晩「木綿のハンカチーフ」をやらなくてホッとした。
適度に張りつめた居心地のいい空気感を思えばヘタしたら全体の流れがぶちこわしになりかねないと思うし、
“お約束”から解き放たれた空気だったからである。


70年代に発表した曲のほとんどは裕美さんの作詞ではないが、
裕美さんが歌う“やさしさ”“愛”“青春”“まごころ”といった言葉はまぶしすぎるし、
今のぼくには重すぎる。
でも音楽を意識的に聴くようになった原点である彼女を30数年ぶりに観て、
ただの歌詞ではなく声から吹き込まれた現在進行形の命として響きわたる歌にインスパイアされていった。
本邦初公開というMCに続いて最後にやった2001年のCDのサブ・トラック「心のたからばこ」の歌詞に、
ずっと忘れていた大切なものを思い出した。
ジョーイ・ラモーン(RAMONES)の名言じゃないが、
さかのぼらないと前に進めない。

なごみの中にキラリと光る言葉が顔を覗かせるMCも含めて約100分18曲。
ノスタルジーでは終わらない裕美さんの意志に少なからず感動した。
裕美さんは昔からずっと攻めの人だ。
この晩ニュー・アルバムの制作も宣言した。
心して待ちたい。


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コメント

はじめまして。
いつも、ブログ拝見させてもらってます。
太田さん、いまでも頑張ってるみたいで…
木綿~もハイヒールもやらないとは、パンクですね
ぼくは、彼女のアルバムでは、背中あわせのランデブーのA面をよく聞いてました。
彼女は、このアルバムのボーカルは、いまひとつみたいなことを言ってましたが、全然イケてます。
また、コメさせて頂きます。
どうも、お邪魔いたしましたm(__)m

渡り鳥さん、書き込みありがとうございます。
ぼくが特に好きなのは『ELEGANCE』『海が泣いている』『FEELIN' SUMMER』の“夏三部作”です。
『背中あわせのランデブー』のA面・・・“吉田拓郎サイド”の方ですね。体調崩したとかで喉の調子が万全ではなかったようなことがどこかで書かれていたような・・・自分に厳しい人ですね。
またよろしくお願いします。

「スカーレットの毛布」「Nenne」「振り向けばイエスタデイ」の実質3連発,,,これはすごいですね。「スカーレット」は今だライブで聴いたことがないんです。以前本人にお会いしたときにライブで聴きたいってリクエストしたんですが、バックの味付けが難しいというような事を話されていたんです。いや、うらやましいです。

newsさん、書き込みありがとうございます。返信が遅れて申し訳ないです。
「スカーレットの毛布」「Nenne」「振り向けばイエスタデイ」の実質3連発は、『海が泣いている』が大好きなアルバムなのでうれしかったです。「Nenne」は、ドラムレスのシンプルな編成だからこそやりやすかったのかもしれません。本人が“ロック・ナイト”と言っていた数か月前のライヴでも披露したそうなので、またやるのではないかと。今後も決まりきったセットリストではなさそうなのでライヴが楽しみです。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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