なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『母の身終い』

『母の身終い』メイン


一種の自死で“身終い(みじまい)”することを選んだ余命いくばくもない母親と息子の話ではある。
だが単に愛する親を看取る子供の話ではない。
人生を下る同士の母親と息子との確執を通して、
深く静かに人間を見つめて重厚な余韻を残す誠実なフランス映画の佳作である。
ある意味、身近な問題の素材にもかかわらず、これほど彫りの深い映画になるのか・・・と感嘆した。
親子の軋みを超えて、
最期までどれだけおのれを殺ぎ落して研ぎ澄ますかのハードコアな映像作品なのだ。

『愛されるために、ここにいる』(2005年)で有名なステファヌ・ブリゼが監督・脚本。
息子のアラン役は『女と男の危機』(92年)などで演じてきたヴァンサン・ランドンで、
母イヴェットを演じるのは『人生は長く静かな河』(89年)などで知られるエレーヌ・ヴァンサンだ。
ロマン・ポランスキー監督夫人でもあるエマニュエル・セニエもいいアクセントで出演している。

『母の身終い』サブ1

48歳の男性アランは金に目がくらんで麻薬密売に手を出して服役し、
出所後は母親のイヴェットの家に身を寄せ始める。
だがアランが懲役して仕事も失い居候状態になっただけに、
二人の間で以前から続いていた折り合いの悪さに拍車が掛かる。
つまらないことで意地を張って仲たがいをして“冷戦状態”が続き、
やっと仕事を見つけたとはいえ天職のトラック運転手の仕事には就けず単純作業に従事するも、
すぐ辞めたことで母親に怒られたアランは暴言を吐いて家を出てしまう。
アランは母親が脳腫瘍で良くなることはないことは知っていたが、
フランスでは禁じられた医師の薬物処方による患者の自殺が刑法で認められている国である、
スイスの“自殺幇助協会”との契約書を発見する。

『母の身終い』サブ7

恐ろしくストイックな映画だ。
物語も映像も会話も非常にミニマルなテクスチャーで構成され、
ギリギリで成り立っている人間関係と命の糸みたいに全編静かに張り詰めている。
主要登場人物もほぼ4人。
とりわけ大半のシーンの舞台に立つ母親と息子の演技力が筆舌に尽くしがたい。
二人共あまり笑顔がない。
特に二人きりの空間では笑みがない。
序盤から終盤までそういう張り詰めた関係なのだが、
最期に向かってカウントダウンしていく間のお互いの微細な変容ぶりが見どころのひとつだ。

『母の身終い』サブ5

母と息子の過去をはじめとして過剰な説明が削ぎ落とされた映画である。
“余計なお世話”なセリフやシーンが目立つ最近の日本映画とは真逆だ。
本作の本質は人間のそういった“履歴”ではないし、
あくまでも向き合うべき個人との“現在進行形”の関係が大切ということである。

他の家族や親戚関係も登場しないが、
妻子が登場しないから息子は自分の家庭を持った経験がないと勝手にイメージできる。
そんな男が母親と軋轢というのもやるせない。
二人の仲が悪くなった原因もわからない。
そもそもそんなものは一つの要因ではなく積年の無数の鬱積だから言葉にはしにくいものだが、
ひっそりと和解したように見える後の会話も二人の間にはほとんどない。
すべてはこの映画を見る方々のイマジネーションを尊重している。
限られた映像とセリフから一人一人が自分自身と向き合って描き出し、
一人一人の人生のフィルターを通すことで無限の物語がふくらむ作りなのである。

『母の身終い』サブ6

ストレートだからこそ心臓を直撃する“自殺幇助協会”の人との強烈な会話から察するに
母親はハッピーな人生を送らなかったことが想像できる。
その一因と思われる亡き夫との関係も良好でなかったこともイメージできる。
そんな母親から「おとうさんそっくり!」となじられる息子は事実としても傷つくだろう。
息子が言う「批判しかしない!」親というのもめげるものだ。
国家も含めて他者の批判ばかりする行為からは自分の“恥部”の隠蔽と免罪符を得る底意地が見える。

でもこの母親はそんなのじゃない。
媚びを売り同情を買うための“不幸自慢”や“苦労自慢”もしない。
息子に何度も「ここは私の家!」と言うあたりに自立心が垣間見られ、
終始毅然としているからこそ声を上げて泣くレアなシーンが胸に迫る。
とにかく政治もヘッタクレもない日々の生活の中で内面を研ぎ澄ます気高き佇まいが光る。
食事のシーンが多いのは結局しあわせを体感できる大切な行動の一つであり食が生の源だからである。
掃除や洗濯なども含めて家事の光景をたくさん映し出して日常の営みの大切さをさりげなく描く。
そのことで“生を生きていることの実感”を浮かび上がらせている。
終始きっちりした身なりでそういった“仕事”をこなしていることも特筆したい。
なにしろ甘えがない。
おのれの最期までおのれを律して内面を磨く。
だからまばゆいほど美しいのだ。

『母の身終い』サブ3

ただの“親子の確執と愛のギリギリの修復”の話ではない。
人間関係すなわち人生の話でもある。
それを演出するのが、
二人の良き理解者で特に母親が心を開いている隣人男性の(オリヴィエ・ペリエ)と、
息子がボーリング場で知り合って関係を結ぶ女性(エレーヌ・ヴァンサン)。
特に後者は息子にとって束の間のオアシスと自分の情けなさを浮き彫りにする存在として、
この映画の人物の中で最も生き生きと描かれているのも興味深い。
息子の人生の切なさ、至らなさ、中途半端さ、たそがれの一ページを彩り、
この映画の中での唯一のバラ色シーンなのもやるせない。
“子はかすがい”ならぬ“犬はかすがい”という感じで母と息子の間をつなげる飼い犬の存在も大切だ。

『母の身終い』サブ2

音声も映像も“余白”を大切にした映画である。
必ずしも以心伝心が正しいわけではないし言うべきことは言うべきだが、
言い訳で塗り固めた言葉の連射はただただ醜いだけだ。
生活の音だけが流れる“沈黙”の時間の雄弁さにうならされる。

凛とした母親の意志をしっかり空気に刻み込んだ落ち着いたトーンの映像力には魅せられる。
映画は映像そのものが表現であり意識の流れであると再認識させられた。
やはり小津安二郎やロベール・ブレッソンの流れを感じさせる。
カメラの長回しの多用も重厚な趣に一役買っている。
食事のシーンでその効果が特に表れており、
いつもと同じ光景で毎日やること・・・でも日々違う・・・それがまぎれもなく“生”なのだ。

『母の身終い』サブ4

終盤、最後の日の息子との時間があっさりしているのも逆に重い。
そしてスイスの“看取りの家”での最期の時。
これ以上書くのは野暮ってものである。

誇りを持って生き、
誇りを持って死ぬ。

そんな母親の生き様を目の当たりにした息子は
そんな覚悟を決めたように映る。
たとえふしあわせな人生だろうと受け入れる。
そこからまた始める。


ニック・ケイヴ(元BIRTHDAY PARTY、Nick Cave and the BAD SEEDS~GRINDERMAN)と
ウォーレン・エリス(DIRTY THREE)、Nick Cave and the BAD SEEDS、GRINDERMAN)という
オーストラリア生まれの二人のアーティストが手掛けた静謐な音楽が、
静謐な磁場を作り上げて息を呑む空気感を醸し出しているのも特筆したい。
まさにグッド・ジョブ。
この映画にさらなる深い彫りを刻み込んでいる。


★映画『母の身終い』
2012年/フランス/カラー/108分/ビスタ/ドルビーデジタル
11月30日(土)よりシネスイッチ銀座、他全国順次ロードショー。
配給  ドマ/ミモザフィルムズ
© TS Productions - Arte France Cinema - F comme Films - 2012
http://www.hahanomijimai.com/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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