なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

湯川潮音“濡れない音符ツアー 2014 11 years 11 places 『濡れない音符』 発売記念演奏会” 1月9日 at 横浜市開港記念会館

<注:ツアー中すべて同じ曲目でやるとは限らないが、最後にセットリストを載せたから“ネタバレ”注意>

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撮影:品田裕美


昨年11月にリリースした約3年ぶりのアルバム『濡れない音符』の発売記念ライヴ。
オリジナル作を発表する音楽活動の11周年を記念し、
ライヴ・ハウスとは違う独特の雰囲気が漂う場の11ヶ所を巡るツアーの初日でもある。
この日も赤レンガとステンドグラスに彩られた会場で湯川潮音にぴったりだ。


湯川(vocal, guitar, etc)のバックを務めたのは、
藤原真人(piano、accordion)、徳澤青弦(cello)、中島久美(violin)、武嶋聡(flute, sax, clarinet)、
菅沼雄太(percussion、“additional piano”)。

アコースティックな楽器のみで、
やはりクラシカルではあるしトラッド系のプログレ・テイストではある。
でも日本語の奥深さと響きの美しさを活かした和の滋味もたっぷりだし、
ここにロックを感じるのはぼくだけではないだろう。
打楽器をほとんど使ってない作品ゆえに菅沼だけは『濡れない音符』に不参加だったが、
ささやかな音ながらドラムも含む菅沼の演奏がアルバム・ヴァージョン以上の躍動感を吹き込んだ。
『濡れない音符』と同じくこの晩もピアノが鍵を握って一種のパーカッションの役割も演じ、
ライヴ全体がさりげないスピード感に包まれていた。

むろん湯川自身も終始ゆっくりと加速していた。
ここ数年のすべてを湯川はこの場に持ってきた。
すべてがメロディアスではある。
と同時に、
すべてがビート、
すべてが命のリズム、
すべてが湯川の“生”の鼓動だった。

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撮影:品田裕美

ステージで立っているのは曲によってアコースティック・ギターを手にして歌う湯川のみだ。
おっとりしたムードの人ではある。
ハンドマイクで歌う曲では足で軽やかにステップを刻んでポップな佇まいを見せつつ、
スタンディング・マイクを前にした曲ではまさにしっかりと地に足を着けた姿勢で前を見据えながら歌う。
何か起こるとコロッ!と変わって大勢に流されがちな世の中で、
その姿勢には何が起ころうと揺らぐことなく我流で進む湯川の心根がしっかりと表われていた。

赤と青を基調にした淡い色のシンプルな照明により
湯川らの影が大きく伸びた形でステージ後方に映し出されるライティングも、
影絵のような侘び寂びの味わい。
生きている陽炎である。
人前に立つ気合いを感じさせる湯川の服装はまさにステージ衣装だったが、
ウソの飾りは無し。
すっぴんの湯川の声がすべてだ。
高い音域の歌い手が陥りがちな様式美を突き抜け、
線が細めだろうが清楚では終わらぬ湯川の意思と意志に貫かれて凛然としていた。
いわば“ぶれない音符”である。

MCもたいへん簡潔だ。
カクテルの名を並べて『濡れない音符』に収めた曲「ニューヨーク」に表われているように
(といっても弱い酒はあまり飲まないらしい)
無類の酒好きならではのくだけたところもある湯川だが、
身内ウケでしかないダラダラしたおしゃべりや言い訳じみたメッセージや観客に媚びた慣れ合い話もない。
曲に対して説明を加えるとしても最小限。
湯川は歌を拘束しない。
すべては音楽に対する信頼と愛ゆえのことである。


合間に以前のアルバムの曲を挿入しつつ『濡れない音符』の全曲を披露。
本人は聴いたことがないと言っていたが、
太田裕美の「雨だれ」や「最後の一葉」を思い出すイントロの曲「60年後の灯台守」から始まる終盤では
多少曲を入れ替えつつも、
『濡れない音符』の流れに沿ったセットリストだった。

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撮影:品田裕美

序盤のMCで言っていたように、
この日は湯川にとって“なくても生きていけるものに捧げる”ライヴだった
湯川は自分の表現に対して免罪符を求めない。
正直、
だからこそ謙虚。
何より潔い。
そのすべてが集約されたのが、
この晩の本編最後の曲で『濡れない音符』の最後の曲でもある「その日わたしは」だ。

昨年のベスト・ソングであり、
この3年ほどの間に日本で生まれた曲の中で最も誠実な曲である。
音楽をやる人間だけでなく映画をやる人間と文章をやる人間などの表現をやる人間とその関係者の人間すべての
心臓を射抜く曲だ。
ミュージック・マガジンの昨年10月号掲載のインタヴュー記事における湯川の言葉も、
ぼくにとって彼女がロックであることを再認識させるものだった。

“なくても生きていけるもの”に対する湯川の覚悟が静かに迫ってきて、
息を呑んだ。
震えた。
それだけにとどまらず
目が潤んで泣けてきた。
そういうことは映画だとたまに体験するが、
半世紀近くライヴを観てきてそうなったのは初めてだ。

奇をてらうことはない。
そんなことしなくても裸で勝負できるから。
音楽にとって表現にとって何が大切か、
おくゆかしく大胆に殺られた一夜である。


湯川潮音
★湯川潮音『濡れない音符』(Pヴァイン PCD-18759)CD
レイアウトから紙質にまでこだわりが感じられる丁寧な作りの20ページのブックレットが封入され、
CD盤のデザインも素敵な紙ジャケット仕様。
子供ばんどやエンケンバンドなどのベーシストとして知られる人で悪い時は全然ホメないという父が、
今回はホメてくれたというアルバムだ。


<セットリスト>
M1 りゆう
M2 かかとを鳴らそ
M3 しずくのカーテン
M4 羽のように軽く
M5 ラストシーン
M6 ロンリー
M7 光の中の家
M8 にじみ
M9 ニューヨーク
M10 HARLEM
M11 60年後の灯台守
M12 笛吹きの少年
M13 砂の鳩
M14 その日わたしは
ENCORE
EN-1 渡り鳥の3つのトラッド
EN-2 風よ吹かないで


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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