なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『神さまがくれた娘』

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6歳程度の知能と心を併せ持つ父親と5歳の娘を描いた2011年のインド映画(原題は『God’s Own Child』)。
監督はCMディレクターとしてインドでは知られ、
2007年に『グリーダム』で監督デビューしたA.L.ヴィジャイである。

これまた家族ものの映画だからぼくには重いし、
いかにもの感動映画だろうと例によってしばらくは“ケッ!”ってな感じで見ていた。
けど二転三転どころか“四転”も“五転”もする後半に引き込まれ、
しまいには不覚にも泣いてしまった。

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同じようにしょうがいを持つ仲間とともにチョコレート工場で働くクリシュナ(ヴィクラム)は、
出産後まもなく妻が亡くなって娘のニラー(ベイビー・サーラー)と二人で暮らす。
周囲の助けを借りながらクリシュナはニラーを育てて5歳に成長した頃、
町の有力者である亡き妻の父親が二人の存在を知り、
クリシュナのような親では孫をまかせらないと決めつけてニラーに対してある行動に出る。
カオティックな精神状態になったクリシュナは弁護士に相談してある行動に出ることになる。

ネタバレを避けるだけにここで話の筋を明かすのは最低限に留めておく。

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ここ数年ぼくが見たインド映画は大半がイケイケアゲアゲで、
この映画も前半は「えーかげんにせい!」ってぐらいほとんどそういうノリである。
ジョークもくどいし、
クリシュナとニラーの父娘のハッピー・タイムも執拗に繰り広げられる。
余計としか思えないシーンが監督のエゴによっていくつも入っている映画が特に最近はすごく多く、
その大半は大きなお世話だったりする。
でも本作は一見いらないように思えるシーンをカットして引き締めたら味気ない映画になっただろう。

何しろゆるくて楽しい前半と加速度と緊張感が百割増しのハードな後半との落差で殺られるのである。
展開が“ずるい”。

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149分ヴォリュームたっぷりである。
面白い映画は複数の“ジャンル”が絡まってできあがっているものだが、
『神さまがくれた娘』は“何本もの映画”が詰まっている。
●ベタな親子愛
●ズッコケのコメディ
●アゲアゲなミュージカル
●シリアスな知的しょうがい者もの
●スリリングな裁判対決
といったところだ。
関係者の方の話によれば当初はもっと長かったらしいが、
要は過剰なまでに旺盛なサービス精神のたまものなのだ。

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種々雑多な人間の心理を明快に描く七転び八起きの脚本の面白みもさることながら、
俳優陣が全員モーレツである。
やはりエネルギッシュでとことん一直線で一生忘れない歩き方と身振りとしゃべり方で熱演の
主人公クリシュナ役のヴィクラムは別格だ。
役のタイプは違えど『ライフ・フィールズ・グッド』の主人公の男性と同じく全力投球である。
本気で父親を思慕する娘のニラー役のベイビー・サーラーも愛らしい。
けなげな表情と行動はクリシュナ役のヴィクラムを本物の父親として接して役に挑んでいる。
弁護士役のアヌシュカーをはじめとして、
女優陣は美貌とダイナミック・ボディで圧倒的するだけでなく気合も十二分である。

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大どんでん返しのラストに“こんなのありか・・・・!?”とぼくは混乱した。
実に罪深い脚本である。
知的しょうがいの母と娘の愛を描いた2007年の日本/中国合作映画『さくらんぼ 母ときた道』も思い出した。
その映画ほどではないが、
見終った直後、ぼくは、いたたまれなくなった。
でもしばらくして、クリシュナが終始ウルトラ・パワフルだからこそ涙を誘った。

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親のエゴは子供の人生を絞殺する。
子供の将来のことを考えない親だけでなく、
“子ども(たち)のため”という言葉もぼくには空虚に響く。
結局は自分のエゴを満たすための“正義の味方”でしかなかったりするから。
でもクリシュナのエゴは許されるとも思った。
見返りを求めないから。
だが最後にクリシュナは陽気なままキタキツネのようになった。
よくよく考えればそれも当然である。
クリシュナの行動はすべてが動物的本能なのだから。
損得も勝ち負けも無し。
邪心無き自己犠牲だ。

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まったく悪気がないにもかかわらず何かとうっとおしく思われるクリシュナ。
だが度を超えて一生懸命だからみんなが少しずつ味方になっていく、
その一人である女性弁護士の父親の「善人は苦難に遭うが最後には勝利する」という言葉も胸に響く。

言葉本来の意味だとちょっと違うのかもしれないかもしれないが、
あえてこの言葉を使わせていただく。
クリシュナは究極の馬鹿正直である。

大阪拠点のハードコア・パンク・バンドだったOUTOの名曲「正直者は馬鹿を見る」じゃないが、
正直者は馬鹿を見るのが古今東西老若男女問わず世の常。
だが正直者でも馬鹿を見ないと信じてみたくなる。
もう一度人間を信じてみたくもなる。

終わり方も実にナイス!だ。
尾を引きがちで“事後報告”などの説明過剰な日本映画に多いパターンとは違う。
想像にまかせる。
だからこそ深い余韻を残す。


★『神さまがくれた娘』
2011年/インド/149分/カラー/英題:God’s Own Child
2月15日(土)よりユーロスペース、シネマート六本木ほか、全国順次ロードショー
© AP International ALL Rights Reserved.
http://www.u-picc.com/kamisama/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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