なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『無人地帯』

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『映画は生きものの記録である 土本典昭の仕事』(2007年)で知られる藤原敏史監督の作品。
英語のタイトルは『No Man’s Zone』である。
2011年3月11日以降の数ヶ月の間に、
福島県の浪江町、双葉町、大熊町、楢葉町、広野町、いわき市、飯館村などで撮影し、
翌年頭には海外の映画祭で上映されている。


まず津波による瓦礫の荒野を360°映し出していくオープニングで持っていかれる。
とかくドキュメンタリー映画は“事実”を追うことに熱心で視覚に訴えかけず頭デッカチにもなりがちだが、
これは大きなスクリーンで公開する必然性のある映画だ。
以降も車窓の光景をはじめとして詩的な映像力を特筆したい。
モダンなテイストにもなる“FUKUSHIMA”や“フクシマ”という表記ではなく、
生々しい歴史を感じさせる“福島”という漢字表記がふさわしい侘び寂びに覆われている。
単なる告発やレポートだけのドキュメンタリーではなく、
映像と音と言葉と“脚本”のすべてがブレンドした表現という映画の魅力を活かしている。

制作者からも出演者からもindividualityの意識が感じられ、
“FUKUSHIMA”という集団ではなく
福島県で暮らして一人一人の生活が見えてくる“個”の視点から描かれる。
もともと都会とはまったく違う人口密度とはいえ地震の影響で人々が避難し、
タイトルどおりの地を映し出していくから人間の姿はあまり出てこない。
でもこわされた光景を映し出していくだけでもなく“ふつうの景色”も映し出していき、
葛藤が静かに渦巻く淡い色合いのシンプルな映像力でゆっくりと進む。
そして福島県に住む“ふつうの人の生活”を映し出していきながら藤原監督が話を訊いていく。

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他の地の人はもちろんのこと福島県を長く離れていたと思しき人は含めず、
“ずっと福島県で生活してきた方々”に絞っているのがポイントだ。
農業を営む男性と
漁業を営む男性(共に妻子ありで30歳前後と思われる)。
家屋がほぼ崩壊した老夫婦。
もう少しで百歳になる母親と娘など。
10人弱の人に焦点を絞っているが、
暮らしの基盤の場で話を訊いているからこそ生きる源の生活が浮かび上がってくる。

手垢にまみれた“絆”なんてものはどこにもない。
今はまず子供を養わないといけないし、
親の面倒見ないといけない。
それが現実だ。
ゆったりとした語り口の中でみな今自分が成すべき責任を、
登場する方々はみんなカラダで感じ取っている。
まずは明日の生活なのである。

みなゆったりと静かに語る。
カラ元気の“前向きスピリット”の声がますます浮ついて聞こえるほど、
すべてリアルかつ正直な声である。
何かの団体の庇護もなく顔をさらしているから“匿名”でもなく、
覚悟を決めている方々だから。
まさしく地に足が着いているからみんな“ここ”に居る。
個人間でも政治の問題でも軋轢の源であるエゴを削ぎ落としている。
自意識なんてどこにもない。
次に進むための処世術であり肉体に貫く諦念に裏打ちされた“しょうがない”の観念に至る。
そしてそのうちの一人がつぶやいた、
「(こういう状況になって)困ったな・・・としか言いようがない」
という言葉に集約される。


レバノン生まれの女優アルシネ・カーンジャンの英語の朗読(≒ナレーション:日本語字幕付)が
随所に入る。
説明的になりすぎず普遍的に示唆を与える言葉の数々は日常生活の人間関係にも当てはまるが、
いわゆる反体制や反政府の類の主張とも距離を置いていることも伝わってくる。
主義主張問わず世間や集団の“大きな声”に押しつぶされて埋もれがちな
ふつうの人たちの声を救い出して息を吹き込んでいる映画なのだから、
当然だろう。
ふつうの庶民に話を訊いて炙り出すような方法論に関しては、
スペインのホセ・ルイス・ゲリン監督の映画『ゲスト』も思い出す。

こういう“取材”をしながら映画を作ることに対する内省と
震災後に尽力する諸関係者への感謝の気持ちや想像力も、
映画全体に感じられる。
福島県にずっと住んできている方々にじっくりと耳を傾けて、
一人一人にじっくりと時間を割いて落ち着いたトーンでじっくりと見せる作りにもそれは表れている。

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藤原監督は
「ある意味で、私はホラー映画にするのではなく、ゴースト映画として作りたかった」という。
“ghost”は“幽霊、亡霊、怨霊”という意味が一般的だが、
“魂、霊魂”の意味もある。
だからこそ何世代も続いた家屋や墓地もしっかり映し出している。
農業を営む男性と漁業を営む男性をはじめとして、
みな都会住まいではなく自然とともに息をしている方々というのも本作の肝だ。
精霊と生霊も見えてくるではないか。

かつて共演した際に灰野敬二の強烈な自意識をも上手にコントロールした
米国生まれの音楽家バール・フィリップスのサウンドも胸に染みる。
静謐なコントラバスの調べに歌心が滲み、
寡黙だからこそ雄弁なこの映画を象徴する。


★映画『無人地帯』
2012年/日本・フランス/HD/105分
2月1日(土)より東京・渋谷ユーロスペースにてロードショー。
同時期に同劇場で『福島の未来ー0.23μSv(マイクロシーベルト)』も上映される。
http://www.mujin-mirai.com/


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コメント

こんにちは。勉強不足で、映画に触れる行川さんを実はあまり知りませんでした。とても新鮮に読ませて頂きました。バール・フィリップスは大好きなミュージシャンです。真似まで到底及びませんが、↑私もやっと少しづつブログはじめました。笑

増田恵一さん、書き込みありがとうございます。
当時のメンバーのみなさんは好まない言い方でしょうが、“REALファミリー”の方々がそれぞれ別々の道で健在というのがREALらしくて、なんだかうれしいです。ぼくにとってREALは音楽と政治の関係性の面で最も影響を受けたバンドの一つですから。。
ぼくの方こそ増田さんがそういう好みがあったとは知らなかったです・・・・バール・フィリップスとデレク・ベイリーにCARCASSという並び・・・サイコーじゃないですか! いつか久々にお会いしましょう。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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