NASHVILLE PUSSY『Up The Dosage』
2014-03-06

米国南部ジョージア州出身のハード・ロックンロール・バンドが
『From Hell To Texas』(2009年)以来リリースした6作目。
今まで観たライヴのナンバー1とナンバー2がNASHVILLE PUSSYの2度目と1度目の来日公演ってぐらい、
新旧問わず世界中のバンドの中で別格中の別格のバンドの一つである。
というわけで超待望のアルバム、
まずは正座してスピーカーに向き合って聴く。
果たせるかな、楽器が一秒鳴っただけで勝負が決まった。
もう根っこから音の立ち上がりがそこいらのバンドとまったく違う。
またまたウルトラ・ヘヴィ・ローテーションである。
NASHVILLE PUSSYのオリジナル・アルバムは5年ぶりだが、
プレイン・カートライト(vo、g)は
ガレージ色が強いNINE POUND HAMMERと渋いKENTUCKY BRIDGEBURNERS、
妻のライダー・サイズ(g、vo他)はオフザケのDICK DELICIOUS and the TASTY TESTICLESもやっていた。
ベーシストがまた替わって、
元BLOODHOOKのボニー・ブイトラゴ(Bonnie Buitrago)が四代目として就いた。
やはり新ベーシストもヴォリュームたっぷりのオンナである。
NASHVILLE PUSSYのステージの伝統はオトコが真ん中でオンナが挟むポジショニングにある。
パワーもナニもかもオトコの“精”を搾り出すにはオンナが挟まなきゃダメなのだ。
というわけでますますパワーアップ。
ジェレミー・トンプソン(ds)の星座は不明だが、
ブレインとライダーという魚座蠍座強力タッグ夫婦の懐に魚座女ベーシストが新加入。
乾いた音の中に感情がドロドロ泳ぐ水の星座の色が濃くなって体液の潤いとコクが五割増しである。
AC/DCとMOTORHEADを足腰にブルースとパンクを血肉にしたハード・ロックンロールは
世の中に何が起ころうと揺らぐことはない。
変わる変わらないもヘッタクレもない
永遠に底が見えぬ底無し沼のディープ・グルーヴにヤられ続けるのだ。
どの曲もタイトルからして意味深だが、
曲が似ているわけではないとはいえ1曲目の「Everybody's Fault But Mine」という曲名は
LED ZEPPELINの曲「Nobody's Fault But Mine」(76年の『Presence』収録)に引っかけたのか。
LED ZEPPELINとBLACK SABBATHのロックンロール・チューンをヴァン・モリソンのTHEMの血で酔わせ、
加速させたような曲もやっとる。
新ベーシストのボニーもコーラスで歌っているようだが、
アニメのための短い曲「Takin' It Easy」では珍しくライダー・サイズがリード・ヴォーカルだ。
ライダーはこれまで以上に大活躍。
今までになくギター・ソロが長い曲(珍しくフェイドアウトで終わる)などギター弾きまくりだけでなく、
曲によってはマンドリンも演奏し、
適宜ニューオリンズのダシの効いたキーボードを挿入しているのも新しい試みだ。
NASHVILLE PUSSY結成時の27歳でバンドを始めた彼女の覚悟と気合いは
ギターからビンビンに伝わってくるが、
潤いの鍵盤楽器はそれが楽しく疾走しているのだ。
録音はNINE POUND HAMMERも手掛けたブライアン・プリトと元INFECTEDのマーク・ボーダーズ。
ボニーがアタック感の強い演奏をしているというのもあろうがベースの音が大きいバランスで、
ジェレミーのキック・ドラムの音も大きめだから
アルバム全体がダイナミックな仕上がりになっている。
全曲のソングライティングとアレンジを
SUPERSUCKERSのエディ・スパゲッティとやったというクレジットになっているのも興味深い。
NINE POUND HAMMERのアール・クリムが2曲でギター・ソロ、
ハンク・ウィリアムズ三世のアルバムによく参加しているアンディ・ギブソンが1曲でドブロ・ギターを弾いている。
カントリー・タッチの曲もいくつかやっている。
ブレインが不当逮捕されたときのことを歌った「Hooray For Cocaine, Hooray For Tennessee」は、
ジミー・ロジャーズの曲「T For Texas」から導き出されたカントリー・ロック調だ。
ブレインは悲劇的な歌詞の内容も含めて、
The Carter Family & Johnny Cash の「The Banks Of The Ohio」や
LOUVIN BROTHERSで知られる「Knoxville Girl」をベースにしたカントリー・ソングを書きたかったらしい。
“肝メン”ロックンローラーの希望の星のブレインは苦み走ったヴォーカルだからこそ逆に怖くて深い。
キリスト教だけじゃなく仏教もオモテナシしとる。
ほんと歌詞も深い。
これまで写真にしろ画にしろ必ずメンバーの姿を使っていてスリージー&ポップなデザインだったのに、
今回のアートワークは恐ろしくシンプルだ。
あまりその言葉を使いたがらないライダー・サイズも自覚しているように
いつもよりシリアスである。
といっても本編最後にて「Pussy's Not A Dirty Word」ってな曲もやっている。
といっても真面目にグルーヴィなサウンドで“論破”しているのであった。
また最近ロシアのPUSSY RIOTが話題になったばかりだが、
NASHVILLE PUSSYを忘れてもらっちゃこまるぜ!ってアルバムなのだ。
だって本質的なところで彼女たちより百万倍ラジカルなのだから。
文章の行間を読むように
音楽は行間を聴け。
ファッションだの音楽スタイルだの戦略だのだけオベンキョーして根っこに耳を傾けないのはもうやめようや。
前作リリースからNASHVILLE PUSSYにとって大切なミュージシャンがたくさん亡くなっている。
だがお世話になった方々の名前を挙げる“thanks list”とは別に、
本作で唯一“dedicated to~”で名前を書いたのはジェフ・ハンネマン(SLAYER)だけだ。
なぜかって?
SLAYERがロックンロールだから。
ジェフがロックンロールの同志だから。
ジェフ主導で作ったSLAYERの86年の『Reign In Blood』のアルバム・タイトルと曲名に引っかけたと思しき、
“Reign Eternal Angel”という言葉も添えられている。
ウソのないリアルなロックンロールがここにある。
アメリカの国家としてのモットーが“In God We Trust(我々は神を信じている[信用/信頼している])”なら、
NASHVILLE PUSSYは“In Lust We Trust”。
あらためて言おう。
本物に古いも新しいもない。

★NASHVILLE PUSSYの『Up The Dosage』(SPV SPV 260511 2LP)2LP+CD
↑のカタログ・ナンバーでぼくが買ったものは、
二つ折りジャケットで歌詞とクレジットが載ったインナーバッグ(紙レコード袋)が封入され、
レコードはクリアー・ビニールで重量盤と思われる。
LPもCDも共にボーナス・トラック2曲入りの計15曲入り。
いつになく地味なアルバム・カヴァーで、LPの内ジャケットはスタジオ内のメンバーの写真を並べたもの。
1枚のレコードに収めるとアナログ盤の限界でダイナミック・レンジが低くなってしまうからかLPは2枚組だ。
でも3回レコードをひっくり返して聴くというよりは一気に聴くようなアルバムの曲の流れになっていて、
CDの曲間もそれほど空いてなくてアルバム全体のテンポの良さも大切な作品だし、
LPの方の音質が飛び抜けている印象もないから(逆にCDの方が本作の特色の音の抜けの良さが際立つ)、
音の違いを楽しむある程度のマニアでなければ単体CD(ボーナス・トラック入りの方がオススメ)で問題ないと思う。
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