なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『シンプル・シモン』

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85年スウェーデン生まれの新世代アンドレアス・エーマン監督が手掛けた初の長編劇映画で、
アスペルガー症候群の青年を主人公にした一種のラブコメ(ラブ+コメディ)映画。


まずアスペルガー症候群に関してオフィシャル・サイトから一部を引用させていただく。

“乳幼児期からみられる広汎性発達障害のひとつ。
言語や認知の発達に異常は認められないが、社会性が欠如し対人的なコミュニケーションがうまくとれず、
特定の興味や動作・習慣、儀式などへの執着が特徴的にあらわれる。
ある種の天才性はこの障害に関連するという指摘もある。”

サブ8

本作の主人公のシモンは、
指先一本でも肌に触れられることを極度に嫌がり、
自分が立てた予定を乱されることを極度に嫌がり、
自分の時間軸を崩されることや変化を嫌って融通が利かない。
四角四面の性格ゆえに真逆の丸い形状のモノに憧れる。
感情的なのも嫌う。
しゃべりはぶっきらぼうだ。

でも病気云々かは別として、
こういう要領の悪い“ぶきっちょな人”って、ちょっと広くまわりを見わたせばいるでしょ?

そんな自分のためにふられてしまった大好きな兄にカノジョを作る物語ではある。
げど笑いを通り越して背筋が伸びて異常なほどまっすぐな“ピュアっ子”のクールな奮闘劇で、
そういった流れのひとつひとつがお馬鹿&プリティなんである。
映画と切っても切れないファッションと音楽の彩り豊かなテイストも相まって、
オープニングのものの数秒で石頭やヒガミ屋をもしあわせにする。
もちろんハートと下半身を行き来する映画だからただただ楽しい映画なだけでは終わらず、
さりげなくちょっとした真理をいくつもほのめかし、
偶然と必然の人間関係の妙味に腰が砕けて顔がほころんで降参してしまう痛快作なのだ。

サブ4

物理とSFが大好きな男の子のシモンはアスペルガー症候群で、
気に入らないことがあると自室の半畳ほどの一角にこしらえたドラム缶改造の“個室ロケット”に立てこもる。
両親にもあきれられたそんなシモンと真正面から向き合うのは兄のサムだけだが、
困り果てた親は彼女と同棲している兄に一緒に住んでくれと頼んで弟思いの兄は快諾したが、
兄の恋人はセックス中の部屋に入ってくるなどのシモンの常識外の行動に耐えきれずに兄のカップルは破局。

兄サムの落ちこみによる生活の変化は親密な関係ゆえに影響が響いてきて自分の時間軸も乱れるシモンは、
データに基づく“科学的に正しい”恋人を兄のために探すことを決意する。
ほとんどナンパみたいに街頭などで次々と女性に声を掛けて、
犬は好き?食事の後の皿洗いは好き?映画の好みは?セックスのときに声は大きい?などなど、
いくつかの質問を浴びせて兄が望むタイプでと同じ嗜好の女性を探し求めるべく奔走。
だが“全問正解者”は、なかなか見つからず。
ひょんなことから逆転の発想へと至り、
シモンの勢いは誰にも止められず笑っちゃうほどのtoo muchな行動が加速するばかりであった。

サブ5

“病気”がひとつのモチーフにはなっているし、
偏見みたいなものをさりげなく取っ払いたい意識を含む映画かもしれないが、
そういったことを感じさせないオーガニックなポップ・テイストに覆われている。
こんなさりげない感覚は簡単には出せないと感動すら覚えるほどだ。
誤解を恐れずに言えば病気がポップに描かれる。
実際アスペルガー症候群の方がこの映画を見ると
“わかるわかる”という人と“描き方が大げさ”という人に分かれるようだが、
『シンプル・シモン』で描かれるアスペルガー症候群はあくまでも一例。
やっぱり人それぞれで一人一人みんな違って当たり前なのだから。
そして何より正直だし、
そして自分がやらかしたコトの責任は自分で取るってコトまでもいつのまにか描かれているのである。

サブ7

馬鹿馬鹿しさとシリアス風味のイイ感じのハーモニーがスウェーデン映画らしい。
お国柄というより北ヨーロッパ全体に言えることだが、
特にスウェーデン産は音楽も含めて北欧ならではのまったり加減が表現全体に光を放っている。
“ほどほどの価値観”が音楽にも映画にも表れているのだ。
対極の例を出すと国自体が基本DIYで適者生存弱肉強食自己責任のアメリカ合衆国とは対極で、
社会保障が行き届いた国家体制ならではとも言える。
余談だが逆の見方をするとノルウェーがブラック・メタルの量産国になったのもその反動に思える。

随所で使われている音楽のスウェーディッシュ・ポップスのおっとりしたリズムが映画のビートになり、
もう映画自体がスウェーディシュ・ポップだ。
もうなにしろ映像そのものがナチュラル・ポップだし、
映像の色調がポップ。
もちろん過剰な蛍光色の類いではなく、
暖色系のカラーを要所要所でさりげなく使っている。

映画に出てくるアイテムのひとつひとつがさりげなくポップな色合いだし、
インテリアもファッションも彩り豊かだ。
どぎつかったり下品だったりせずに鮮やかな色使いが見事で、
シモンがこだわりで身につける青と赤のコーディネイトも本作を象徴する。
青と赤は寒暖・・・心の天気模様であり、
あったかく微妙にひんやりした映像色だ。

ところどころで顔を出すSF映画の“ロマンのスパイス”も光り、
“ドラム缶の中の宇宙”にいる弟に兄が交信するときの言語の大半が英語なのは意味深だが、
他のシーンではほぼスウェーデン語オンリー。
その語感や響きもニュルリ!と鼓膜から忍び込んできて不思議な感覚がさらに脳内に広がって気持ちいい。

もうどこもかしこもスウェーデンの匂いでいっぱいの“ほっこり映画”なのである。

サブ6

映画の中で出てくるセリフを引用した本作の宣伝文句として
“磁石と同じ。正反対だから惹かれ合うんだ。”
というのがある。
言い得て妙だ。
たとえばぼくは、
同じA型魚座の人は興奮の意識と冷めた意識が通じ合って確かに一緒に居やすいのだが、
強気と弱気の引力関係がわかりすぎて退屈になったりするし鏡を見ているような嫌気もさす。
けど正反対の人は何が起こるかわからないドキドキ感と緊張感が時に疲れつつも気持ちよく、
たとえば水と火は熱湯になったり消火したりでの両極端がエキサイティングなのだ。

なんたってそもそもこういう映画みたいなポップ感がぼくには欠けすぎていて、
だからこそ『シンプル・シモン』に猛然と惹かれるのであった。

サブ1

主人公のシモンは融通が利かないスクエアな人物で笑顔がほとんどない。
でもずーっと無愛想なのにずーっとポップな佇まいっていうのは、
一種の“エゴ”が強烈であっても他人を陥れたり負かそうとしたりってのがないからだ。
愛おしいほどに愚直である。

他人のことなのに一生懸命で作為も体裁も知らないシモンみたいな人間がそばにいたら、
大きなお世話で多少うっとうしく思いつつも人生は変わる。
兄のリズムが狂うと自分のリズムも狂うから兄の生活を楽しいものにすべく起す行動ではあるし、
自分によくしてくれている恩義もあるのかもしれないが、
いやらしい“下心”はまったく感じさせない。
損得抜きで大好きなお兄ちゃんだからこそがんばる!っていうピュアっ子だ。
自己犠牲とまでいかなくても自分のために色々してくれた他人のために何ができる?
ぼくはジェラシーすら覚える。


“前代未聞の三角関係”のラストも美味しい。
「愛はソースと同じ、時間がかかる」というセリフもまぶしい。

これまたゴールデンウィーク以降のオススメの快作である。


★映画『シンプル・シモン』
2010年/スウェーデン/カラー/スウェーデン語/1時間26分/デジタル上映/DOLBY DIGITAL
5月3日(土)より、渋谷ユーロスペースにて公開後、全国順次公開。
© 2010 Naive AB, Sonet Film AB, Scenkonst Västernorrland AB, Dagsljus AB, Ljud & Bildmedia AB, All Rights Reserved.
配給・宣伝:フリッカポイカ
http://www.simon-movie.jp/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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