なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

PANTERA『Far Beyond Driven(脳殺~20周年記念スペシャル・エディション~)』

PANTERA『Far Beyond Driven


米国テキサス出身のヘヴィ・メタル・バンドが94年にリリースした7作目で、
後期にあたるメジャー契約後3作目の2枚組でのリリース20周年記念リイシュー盤。
リマスタリングされた音が使われていて硬質なサウンドの輪郭が光るリリースだ。


90年代のメタルの在り方を提示した『Cowboys from Hell』(90年)や
ヘヴィ・メタルのみならずロックの歴史をも塗り替えた『Vulgar Display Of Power』(92年)の流れを突き詰め、
より音の硬度と強度を凝縮したモダン・ヘヴィネス・サウンドが汗臭さを超越して輝かしい響きを呈している。

PANTERAはヘヴィ・メタルの伝統をリスペクトしながら進化したバンドである。
ただし本作は
BLACK SABBATHの「Planet Caravan」の歌心あふれるカヴァー以外はメタル特有の情趣を削ぎ落とし、
ヘヴィ・メタルの伝統性から最もかけ離れたサウンドだからPANTERAとしては異色のアルバムだ。
即効性を求めるロック・ファンの方には
他のアルバムで聴けるPANTERAの男泣きの叙情性は余計なものなのかもしれないし、
スポーティな即効性が高いがゆえにドラマ性などの“手続き”抜き”で暴れるにも最適な音でもある。
この作品のみでPANTERAを語るのは彼らのヘヴィ・メタルへの臭いほどの愛を見過ごしかねないから危険だが、
ヘヴィ・メタルに馴染みが薄いロック・ファンの間でも斬新性ゆえに支持が厚く、
彼ら唯一の全米ナンバー1初登場アルバムにもなった。

曲によってはスラッシュ・メタルやデス・メタルやハードコア・パンクも一気飲み。
叙情性を極力排し、
非ヘヴィ・メタル・ルーツの当時のモダンなヘヴィ勢にも通じる金属的な音作りで、
たとえばPRONGやMINISTRYあたりともリンクするメカニカルなサウンド・テクスチャーだ。
アサヒビールのスーパードライみたいなまさに喉ごしスッキリの辛口そのまま。
ただしそこに初期から末期まで不変の沸騰するブルース汁が青筋を立てたグルーヴが貫き、
音の“たゆみ”が震える。

ヘヴィ・メタル・ヴォーカルを野蛮に塗り替えた
不遜アティテュードで震えるフィリップ・アンセルモのフルータルな喉も絶好調だ。
当時の日本盤CDにはPOISON IDEAの「The Badge」のカヴァーも追加されていたが、
それも納得のニヒリスティックな歌詞も正直で心臓を撃ち生き返らせる。

念のため書いておくと邦題は“悩殺”ではない。
『脳殺』である。
後々までずっとあちこちのメディアやインターネット上で“誤植”が続く造語だが、
ジャケットそのままの言葉とはいえこのアルバムの音にピッタリ。
日本のワーナー、
いや当時の日本盤の発売元だったイーストウエスト・ジャパンの人のセンスもグレイトだった。
原題を歪める邦題は大嫌いだが、
映画と同じく原題のカタカナ表記では及ばないニュアンスをくみとった邦題によって
人を引きつけるケースは後を絶たない。
日本盤の担当者の一種の“プロデュース力”で作品を日本仕様で紹介することもアリ!なのだ。


本作リリース直後の94年の5月にPANTERAは2度目の来日を果たす。
オープニング・アクトは日本では当時まだ知る人ぞ知る存在だったWHITE ZOMBIE。
ぼくは東京・中野サンプラザという今思えばPANTERAがやるのはかなり無謀なホールで観たが、
PANTERAは全席指定席の段差あり客席の大会場というシチュエーションを物ともせず、
フィリップ・アンセルモがステージから缶ビールではなく紙カップ(マグカップだったかも)入りのビールを
次々と客席に放り投げる。
よくぞ大物外タレ招請の老舗イベンターがその行為を許したと思うが、
アメリカンらしき人も多かった観客も座席を荒らすことなくイイ感じで自己コントロールし、
理想的な“無政府空間”が生まれていたことを思い出す。

ボーナスCDには、
その日本公演の直後と思しき94年のドニトンでの“モンスターズ・オブ・ロック・フェスティヴァル”での
ライヴの全曲が約43分9トラックで入っている。
“Far Beyond Bootleg”というそのCDに付いている副題どおりで、
プライヴェイトな音質ながらそこいらの海賊盤をはるかに超えているエナジーの膨張度。
肉と生の欲望が炸裂する本能のパフォーマンスである。
こういう音をなんでもかんでもマッチョ!と片付ける単細胞のインテリもいるが、
PANTERAは80年代後半以降のいわゆるニューヨーク・ハードコア系のタフガイとは似て非なるものだ。
心にも筋肉が宿っているだけで、
実は気弱に違いないフィル・アンセルモをはじめとして繊細さの裏返しだとわかる。


本作リリース時は
基本的におぼっちゃんのMETALLICAが迷走とセレブの準備を始めた頃で、
取って代わるようにPANTERAが本作の“原始力”でヘヴィ・メタル・シーンを染め上げ、
メタル横丁を土足ではみ出して前述のように多方面に影響を及ぼす。

個人的には十数年ぶりに聴き、
メタル以前にロックとして永久不滅の名盤だと再認識させられたリイシュー盤である。


★パンテラ『脳殺~20周年記念スペシャル・エディション~』(ワーナーミュージック・ジャパン WPCR-15641/2)2CD
ドリルでアナル・ファックしている本当のオリジナル・ジャケット(当時CDでは不許可)が表紙の
12ページのブックレット封入の三面デジパック仕様。
日本盤は、
94年に発売当時の日本盤のオリジナル・ライナー(伊藤政則執筆)と、
新たな英文ライナーの和訳と、
本編のオリジナル・ナンバーの曲の歌詞の和訳が載った16ページの別ブックレットも封入。


スポンサーサイト

コメント

私にとってはヘヴィ・メタルも案外いいじゃないか、とはじめて思わせたアルバムです。(ということは今までは違ったということですが)行川さんの文章を読んで、理由がわかりました。この時代のこの雰囲気、また進化した形で復活してもらいたいです。

増田恵一さん、書き込みありがとうございます。
こういう方面もよく聴くようになったのは増田さんと会わなくなってからです。ダレルの代わりにギターを弾くPANTERAの復活はありえないので、各メンバー個人個人がバリバリ続けてほしいですね。

確かに。そういえばザック・ワイルドが亡きダレルに捧げた、In This Riverという曲がありましたね。

Re: タイトルなし

増田恵一さん、書き込みありがとうございます。
その曲は知りませんでした。増田さんからザック・ワイルドの名が出てくるのも驚きです。

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://hardasarock.blog54.fc2.com/tb.php/1239-8d92c4ba

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (9)
HEAVY ROCK (243)
JOB/WORK (297)
映画 (264)
PUNK ROCK/HARDCORE (0)
METAL (45)
METAL/HARDCORE (48)
PUNK/HARDCORE (422)
EXTREME METAL (130)
UNDERGROUND? (100)
ALTERNATIVE ROCK/NEW WAVE (126)
FEMALE SINGER (43)
POPULAR MUSIC (28)
ROCK (84)
本 (9)

FC2カウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

FC2Ad

Template by たけやん