なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『飢餓海峡』

飢餓海峡


水上勉の推理小説を基に内田吐夢が監督した1965年公開のまさに名作。
4月上旬から約1年間開催の
“第二回 新・午前十時の映画祭 デジタルで甦る永遠の名作”の一環として各地で上映される
(日程や上映劇場等の詳細は一番↓にリンクしたオフィシャル・サイト参照)。

レンタルDVDなどでも見ることができるのかもしれないが、
本作に宿る戦後まもない時期の様々な意味で飢餓だった昭和のリアリズムは映画館だからこそ体感し得る。
海峡の波と共にでかいスクリーンに飲み込まれるほどのダイナミズムと、
人間の感情のヒダを死ぬまで愛でる繊細さが空恐ろしいほどの生々しさで息を呑むばかりだ。

183分もの大作である。
だがすべてが人間のモザイクだから必然のシーンと映像である。
最近見る日本映画は監督のエゴと余計なお世話で無駄なシーンが多いと感じてならないが、
贅肉を削りに削って“命の核”の血と肉と骨のみが残されて震える凄まじい映画だ。
サスペンス仕立てでありながら人間の暗黒と悲恋を描いて
見ている人間をも死ぬまで追い込んでいく重厚な筆致の映像と物語は、
体裁ばかりで欺瞞の人間関係が形作る“愛と希望”に満ちた今の時代にはなお深々と心を撃ち打つ。
最初の東京オリンピックが開催されている時期に作られて終了後に上映されたというのも興味深い。
いたたまれない人間情念の濁流を高度成長でアゲアゲ気分の日本の高波に注ぎ込んで水を差すかの如き
当時の上映のタイミングからも、
この映画の制作陣の意気込みと気合を感じずにはいらない。

原作小説の題名をそのまま引用しただけではあるが、
はっきり言えば『飢餓海峡』という映画タイトルだけですべてが決まったようなものである。
今ここで細かい解釈をするのはやめておこう。
こめられた意味合いは映画を観れば伝わってくる。
映画の内容も含めてハードコアやデス・メタルやドゥーム・ロックの価値観と接点を持ちつつ、
そこいらのその手のバンドを一切寄せつけない日本ならではの究極の“生のフレーズ”である。

本州と北海道が青函連絡船で結ばれていた時代ならではの人間模様の渦潮。
昭和22年(1947年)と昭和32年(1957年)の青森と函館に加えて東京と京都府舞鶴を舞台に、
台風海難事故、強盗殺人放火、逃亡、恩義、出世、罪滅ぼし、不信を描き込む。
社会システム以上に人間そのものに死ぬほど向き合い、
業と非業の“飢餓海峡”が善悪の彼岸に波打つ。

特に昭和22年が舞台の前半の情景が生々しい。
船や列車などの交通機関も女郎屋や飲み屋などの家屋や屋内、
街頭に貼られているビラなどの当時の世相を映す言葉の数々など、
精巧な再現映像に目が離せない。
今回のデジタルシステム(DCP)効果も功を奏しているのであろう
粒子の適度の粗さで際立つモノクロならではの彫りの深さも目が覚めるほどで、
現世から意識が浮き立つようなシーンではプリミティヴな映像エフェクトも使われている。

目が覚めるほどの映像力を、
俳優一人一人のド迫力の演技がさらに映画を彫りの深いものにしている。
三國連太郎は犯罪をおかしつつ“変身”して篤志家になるも疑心暗鬼と自己保身がアダとなる。
左幸子はとろけるほどかわいい遊女を熱演してけなげすぎる“共犯者”として一生を捧げる。
伴淳三郎は“元祖はぐれ刑事純情派”で上記二人の葛藤を読み込む老練な味わいを当時から見せる。
高倉健は正義感が加速する若き刑事でやはり当時からコテコテで突っ走る。

かなりの予算がなければここまで作りこめないのは事実だろうが、
日本では映画でも音楽でも幼くて甘えた作品が目立つだけに覚醒される。
この映画はたとえ日本語がわからなかろうが英語等の字幕が付かなかろうが、
外国の方にも響く念がスクリーンから襲ってくる。
むろんストーリーなセリフも大切だが、
映像と音声だけでも人間の根っこ揺さぶって
トータルな表現としての映画ならではの醍醐味に満ち溢れている。

映画の中で静かなる磁場を作り出している冨田勲の音楽も特筆したい。


★映画『飢餓海峡』
1965年/183分/モノクロ
©東映
http://asa10.eiga.com/2014/cinema/418.html
http://asa10.eiga.com/


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コメント

飢餓海峡、良さそうですね。前から気になってるので、見てみたいと思います。
今日、今村昌平監督の復讐するは我にありを見たのですが、どら息子と色っぽい義理の娘に翻弄されまくる、三國さんの疲れ加減がブルースを感じさせて、良かったです

渇きさん、書き込みありがとうございます。
三國連太郎のブルースぶりはこの映画でも堪能できると思います・・・“デス・ブルース”って感じです。伴淳三郎もブルースかな。左幸子はエレジー。高倉健は酸いも甘いもまだ知らないハードコア・パンクって感じです。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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